上 下
190 / 629
第六章 王都テルフレイラ

VSサイクロプス、カークス②

しおりを挟む
話の最初は、暁斗のバトルの続きが入ります。次いで前話のリィカ、アレク、泰基のバトルの続きです。
---------------------------------------


暁斗は、息を吸って吐く。
気持ちを落ち着かせる。
これから少しの間は、勝つことではなく、固い体の理由を探るための時間だ。


魔力の流れを見る。
できるようになっておいて、本当に良かった。

狙うのは、魔力の流れが乱れて薄くなっている部分だ。

「――【隼一閃しゅんいっせん】!」

狙いを定めて、剣技を放つ。
普通なら効かない。余裕で防がれるだろう。

だが、ヘイストの顔に焦りが浮かんだ。
「…………!!」

かわされる。しかし、もう一度。

「【隼一閃しゅんいっせん】!」

同じ剣技を放つ。
左腕に命中し……その腕を切断した。

「あああああ!」
ヘイストが、腕を押さえて悲鳴をあげた。


※ ※ ※


近づくアレクに、サイクロプスがこん棒を振り下ろした。
それを余裕で避けて、右腕を切り付けた。

「ぐ……が……」
サイクロプスが小さく呻く。

(このまま勝負を決めてやる)
剣に魔力を纏わせ、剣技の発動に入る。

「――ぐがああっ!」
サイクロプスがこん棒を横から振り回してきた。

「――ちっ!」
舌打ちしつつ、間一髪避けたが、サイクロプスの一つ目が血走る。
こん棒を無茶苦茶に振り回し始めた。

(……これじゃあ、攻撃できない!)
歯噛みしつつ、かわすことに専念する。

サイクロプスが息切れするのを待つしかないか。
そうアレクが思った瞬間。

「《風防御ウインディ・シールド》!」

リィカが魔法を唱えた。
風の檻が現れる。そこに攻撃したサイクロプスに檻が絡まる。

「がああああ!?」
絡まってなお暴れたせいで、サイクロプスの全身に風の檻が絡まり、サイクロプスが身動きできなくなった。

「アレク、今だよ!」
「……あ、ああ」

アレクは、目の前の光景にため息をついた。
魔法に突っ込みたい気持ちでいっぱいだが、諦めた方がいい気もする。

「よし!」
気を取り直す。気合いを入れた。


『無詠唱も魔力付与も、突き詰めればイメージをどれだけできるかだから』
以前、リィカにそう言われた。
それから何度練習しても、一度も成功していない。

(――尖れ! 鋭くなれ!)
ただひたすらに念じた。

体から剣に何かが流れていく感じがして、驚きに動きを止めそうになる。
しかし、それも一瞬ですぐに意識を戻す。

「【冠鷹飛鉤閃かんようひくうせん】!」
剣技を発動させた。

その先が、細く鋭く尖る。
サイクロプスの腹に吸い込まれるように突き刺さり、大きな穴を空けた。


※ ※ ※


カークスの前に立った泰基は、体が震えた。
モルタナでカークスに体を鷲掴みにされ、感じた死の恐怖。

泰基は暁斗が戦っているのを目の端で捉える。
暁斗は魔族と一対一で戦っている。こんな所で自分が負けるわけにいかなかった。


カークスが炎を吐いた。
三つの首がただ同時に撃つだけの炎だ。

「《水塊アクアブロック》!」
水の中級魔法を炎にぶつける。
相殺した。


(――よし、やれる)
モルタナで戦ったほどの強さは感じない。

「ぐわあああ!」
カークスが怒ったように吠える。

再び炎を吐く。
泰基はまた《水塊アクアブロック》で相殺しようとして……かわす方を選んだ。


カークスは、炎を吐き続けていた。
泰基がかわしても、すぐ追いかけてくる。

水塊アクアブロック》は一発限りの魔法だ。連続では防げない。
どう対抗すべきか思い付かずにいると、リィカの声がした。

「《火防御フレイム・シールド》!」

現れた炎の壁がカークスの炎を受け止めて、膨張していく。
膨れ上がった炎の壁が、カークスを巻き込んで爆発した。

「後はよろしく!」
リィカを見れば、アレクの方に視線を向けていた。

(――別にいいけどな)
さっき水の防御を見たばかりだ。そして今度は火の防御。

視界の端に、アレクを守る風の檻が見えた。
(あれは、もしかして風の防御か?)

いちいち驚くのも疲れてきた。きっとこの先も次々に魔法を編み出していくんだろう。


爆発が収まる。カークスの顔は一つは焼けただれている。
上半身も、大火傷を追っていた。

「《水の付与アクア・エンチャント》!」

この間は、水のエンチャントに水の剣技を重ねた。
自分の使える魔法は、水と光。

普通は、こんな属性を持つ人はいない。その二つを合わせることはできるのか、試すにはいい機会だ。
光の魔力を剣に纏わせた。


剣技は昔の勇者が作り出したもの。
作り出された剣技は、火・水・風・土の四属性のみだ。

だが、光属性を使う神官にも、剣を使う者はいる。
四属性の剣技を参考に、光の剣技はこの世界の人たちによって編み出された。


水の魔力が、内側から輝く。
幻想的とも言える美しさ。
鋭い水のエンチャントが、さらに鋭さを増す。


「【光輝突撃剣こうきとつげきけん!】

光の、突き技の剣技。
放たれたそれは、大火傷を負った腹を貫いた。


サイクロプスとカークス、倒れたのはほとんど同時だった。



アレクと泰基は、物問いたげにリィカを見る。
見られたリィカは首を傾げるだけだ。

「……あの風の檻、一体何だ?」
「炎の壁もだな」

アレクがため息交じりに質問すれば、泰基は諦め半分で口にした。
二人の様子に、リィカはますます不思議そうだ。

「別になにってこともないよ? 水と水の混成魔法ができるんだから、他の属性ができてもおかしくないでしょ?」

「…………………………」
無言で考え込んでしまったアレクを余所に、泰基は予想通りの返答に考えることをやめた。

正直、リィカがチート化しているなと思うが、リィカ自身の努力がないわけでもない。


魔道具作成。
Cランクの魔石での作成は、難易度が高い。より精密な魔力操作が必要になる。暁斗への魔道具を作りながら、泰基はそれをしみじみ感じていた。

リィカはBランクの魔石でも作っている。魔道具の作成が、そのまま魔法の練習にもなっているのだ。

(自分のやりたいことをやっているだけで、練習にもなるっていいよな)
そんな事を思いながら、深く考えずに思ったことをそのまま言った。

「……後は土の防御か」
水・火・風ときたのだから、後は土だけだ。そう思ったのだが、リィカの返答はいささか驚きだった。

「多分土の防御は無理」
「――何でだ?」
魔法に関して、無理という言葉が出るのは予想外だ。

「土の防御って、ようするに《防御シールド》なんだよね。混成魔法にしようとしても、結局は《防御シールド》になっちゃうと思う」
その理屈は分からなくはないが、なぜリィカはそう思ったのか。

(――混成魔法って、どうやったら使えるんだろうな?)
今さらの疑問が浮かぶ。

二つの魔法を同時に使う、という説明は受けたことはある。しかし、もっと踏み込んで考えると、不明点も多い。

リィカはすべて無詠唱で発動させているが、過去に混成魔法を編み出したという人も無詠唱を使えたのか。
唱える魔法の名前は、どう決めているのか。


気にはなるが、今気にするべきはそこではない。
結界に捕らわれた三人はまだ戦っている。

「……暁斗、どうなってる?」
泰基は恐る恐る問い掛ける。
一度目を離してしまったら、今度は見るのが怖くなった。

「がんばってるよ。お父さん、しっかり見て応援してあげないと」
「――分かってる」

リィカの笑みを含んだ声に絞り出すように答えて、暁斗に目を向ける。


「【隼一閃しゅんいっせん】!」
ちょうど剣技を放った所だった。

(――何を!?)
身を乗り出した。

「何やっている!? 剣技は……っ?」
アレクも同時に叫んで、途中で途切れた。顔に疑問が浮かぶ。
相手がこれ以上ないくらいに、慌ててかわしたからだ。

さらに、もう一度同じ剣技を暁斗が放ち、かわせなかった相手の左腕が吹き飛んだ。

「…………剣技が、効いた?」
アレクが呆然と呟いた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

だって私、悪役令嬢なんですもの(笑)

みなせ
ファンタジー
転生先は、ゲーム由来の異世界。 ヒロインの意地悪な姉役だったわ。 でも、私、お約束のチートを手に入れましたの。 ヒロインの邪魔をせず、 とっとと舞台から退場……の筈だったのに…… なかなか家から離れられないし、 せっかくのチートを使いたいのに、 使う暇も無い。 これどうしたらいいのかしら?

お爺様の贈り物

豆狸
ファンタジー
お爺様、素晴らしい贈り物を本当にありがとうございました。

【書籍化進行中、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

悪役令嬢にざまぁされた王子のその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。 その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。 そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。 マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。 人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。

処理中です...