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第六章 王都テルフレイラ
目覚めて
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「貴様も来年は十五か。来年は夜伽をしてもらおうか」
いつもイヤらしい目つきで見てくる男爵に、ある時言われた。
怖くてどうしようもなくて震えていたら、母が抱きしめてくれた。
「大丈夫、そんな事させないから。忘れてしまいなさい」
何回も母にそう言われて、本当に忘れてしまったのだ。心の奥に恐怖だけ残したまま。
※ ※ ※
話し声がして、リィカの意識は覚醒する。
見覚えがない場所だ。
「お目覚めですか、リィカさん」
見知らぬ女性に声をかけられた。キョトンとすると、女性がわずかに笑った。
「私はエレインと申します。状況は、覚えておいでですか?」
「……状況?」
周りを見る。
自分を心配そうに見ている視線に気付く。アレクや泰基たち、旅の仲間。
この国の王太子殿下。もう一人、老人がいるが誰か分からない。
記憶を思い起こす。
すぐに思い出した。
自分の体を抱きしめる。アレクたちの視線から逃れたくて、背中を向ける。
知らず、呼吸が早くなる。
「大丈夫、落ち着いて。ゆっくり息を吐いて」
背中に手が置かれて、優しくさすられた。その手が、エレインと名乗った女性の手だと気付く。
言われた通りにゆっくり息を吐いていると、呼吸と共に気持ちも落ち着いてきた。
「……ありがとうございます」
小さく礼を言えば、エレインは困ったように笑った。
エレインが説明するからと言って、男性陣を外に追いやった。
相手は、ライト侯爵家の子息と、取り巻きの子爵家の子息の二人。リィカの腕を押さえていた方がイーデン、もう一人がハミルというらしい。
この三人に襲われている所を、ダリアとカリスタの二人が見つけてくれた。そして助けてくれたのが、この場にいた老人のワズワースであること。
早く発見ができたから、本当の意味では犯されていないこと。
自我がなくなった自分が、アレクの言葉で正気に戻ったことなどが説明された。
「……どんな事を言っていたんですか?」
自我がない、と言われた時の事はまったく覚えていない。何を言われて正気に戻ったのか、まるで想像がつかない。
「それは本人に聞いて頂戴。正気に戻った直後のことは、覚えてる?」
はぐらかされてしまったが、続けられた質問に一瞬ためらって頷く。
「……みんな、知ってるんですね。心配かけちゃったな」
「心配していたのは確かだけれど、人のことより、あなたは自分の心配をしなさい」
「自分の心配……?」
何のことだろう、と考えて、一つの可能性に行き着く。想像しただけで体が震えた。
「あの、貴族の人たちが、また来るかもしれない……?」
「それはないから、安心しなさい。王太子殿下やワズワース様がそれをさせないわ」
首を傾げる。それが大丈夫なのであれば、後は何を心配していいのか分からない。
「問題は、あなたがそれを想像しただけで震えてしまうことよ。怖いのでしょう?」
その言葉に、手に力が入る。
「…………怖い、です」
言葉が漏れる。
かつて、モルタナで王太子と相対したときも怖かった。でも、今はそれ以上だ。思い出して、体が震える。
「リィカさん、助けを求めていいのよ。助けて欲しい人は、いない?」
「……助け?」
どういうことだろうか。その意味を考える。
モルタナでは、アレクが側にいてくれた。自分の我が儘に付き合って、一晩側に付いていてくれた。安心できた。
『一人で抱え込むな。怖いって言え。泣いていいから』
先ほどのアレクの言葉を思い出した。
怖いって言っていいんだろうか。
泣いていいんだろうか。
アレクなら受け止めてくれるのかもしれない。
これまでに何度もアレクに抱き締められた。決してリィカ自身が望んだわけではないが、それでもまともに抵抗しなかったのは確かだ。
他の男に触られたのに、それでもアレクは自分に手を伸ばしてくれた。
アレクに側にいて欲しい。
それなのに。
「…………………」
自分の体を抱き締める。
――何かが、引っかかった。
いつもイヤらしい目つきで見てくる男爵に、ある時言われた。
怖くてどうしようもなくて震えていたら、母が抱きしめてくれた。
「大丈夫、そんな事させないから。忘れてしまいなさい」
何回も母にそう言われて、本当に忘れてしまったのだ。心の奥に恐怖だけ残したまま。
※ ※ ※
話し声がして、リィカの意識は覚醒する。
見覚えがない場所だ。
「お目覚めですか、リィカさん」
見知らぬ女性に声をかけられた。キョトンとすると、女性がわずかに笑った。
「私はエレインと申します。状況は、覚えておいでですか?」
「……状況?」
周りを見る。
自分を心配そうに見ている視線に気付く。アレクや泰基たち、旅の仲間。
この国の王太子殿下。もう一人、老人がいるが誰か分からない。
記憶を思い起こす。
すぐに思い出した。
自分の体を抱きしめる。アレクたちの視線から逃れたくて、背中を向ける。
知らず、呼吸が早くなる。
「大丈夫、落ち着いて。ゆっくり息を吐いて」
背中に手が置かれて、優しくさすられた。その手が、エレインと名乗った女性の手だと気付く。
言われた通りにゆっくり息を吐いていると、呼吸と共に気持ちも落ち着いてきた。
「……ありがとうございます」
小さく礼を言えば、エレインは困ったように笑った。
エレインが説明するからと言って、男性陣を外に追いやった。
相手は、ライト侯爵家の子息と、取り巻きの子爵家の子息の二人。リィカの腕を押さえていた方がイーデン、もう一人がハミルというらしい。
この三人に襲われている所を、ダリアとカリスタの二人が見つけてくれた。そして助けてくれたのが、この場にいた老人のワズワースであること。
早く発見ができたから、本当の意味では犯されていないこと。
自我がなくなった自分が、アレクの言葉で正気に戻ったことなどが説明された。
「……どんな事を言っていたんですか?」
自我がない、と言われた時の事はまったく覚えていない。何を言われて正気に戻ったのか、まるで想像がつかない。
「それは本人に聞いて頂戴。正気に戻った直後のことは、覚えてる?」
はぐらかされてしまったが、続けられた質問に一瞬ためらって頷く。
「……みんな、知ってるんですね。心配かけちゃったな」
「心配していたのは確かだけれど、人のことより、あなたは自分の心配をしなさい」
「自分の心配……?」
何のことだろう、と考えて、一つの可能性に行き着く。想像しただけで体が震えた。
「あの、貴族の人たちが、また来るかもしれない……?」
「それはないから、安心しなさい。王太子殿下やワズワース様がそれをさせないわ」
首を傾げる。それが大丈夫なのであれば、後は何を心配していいのか分からない。
「問題は、あなたがそれを想像しただけで震えてしまうことよ。怖いのでしょう?」
その言葉に、手に力が入る。
「…………怖い、です」
言葉が漏れる。
かつて、モルタナで王太子と相対したときも怖かった。でも、今はそれ以上だ。思い出して、体が震える。
「リィカさん、助けを求めていいのよ。助けて欲しい人は、いない?」
「……助け?」
どういうことだろうか。その意味を考える。
モルタナでは、アレクが側にいてくれた。自分の我が儘に付き合って、一晩側に付いていてくれた。安心できた。
『一人で抱え込むな。怖いって言え。泣いていいから』
先ほどのアレクの言葉を思い出した。
怖いって言っていいんだろうか。
泣いていいんだろうか。
アレクなら受け止めてくれるのかもしれない。
これまでに何度もアレクに抱き締められた。決してリィカ自身が望んだわけではないが、それでもまともに抵抗しなかったのは確かだ。
他の男に触られたのに、それでもアレクは自分に手を伸ばしてくれた。
アレクに側にいて欲しい。
それなのに。
「…………………」
自分の体を抱き締める。
――何かが、引っかかった。
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