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第六章 王都テルフレイラ
国王とビリエル
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「平民が軍議に参加しとったんじゃぞ? それを出てけと言って、何が悪いんじゃ!」
「悪いに決まってる。魔物が倒されたことは知っとったんだろう。勇者様と一緒にいれば、彼女が誰かなど分かるじゃろうに」
国王に対し、ワズワースは敬語すら使わずに言い返す。
ウォルターから引き取った国王だが、全く反省した様子は見られない。
「勇者様の一行であろうと、関係ないわい。そもそも王宮に入ることすら遠慮するべきであろうに、ウォルターは何を考えておる」
国王は、この調子である。
こんな馬鹿だっただろうか、とワズワースは思わずにはいられない。
「もしリィカ嬢が王宮に入らなければ、勇者様が入ることもなかったじゃろうな。お仲間は身分関係なく対等な立場であるからな。あからさまに誰かを贔屓したり、蔑んだりすれば、それは反感を買うだけじゃよ」
「……対等? 平民が勇者様とか? 王子や残り二人の貴族もか?」
あり得ない、とその顔に書いてある。
それを見て、ワズワースはこれ以上分からせるのは無理だと判断した。必要最低限だけ突きつける。
「お前が納得しようとしまいと、どっちでもいいわい。ただ、お前の発言の結果、彼女に決して消えぬ傷が付いた。今、勇者様方は彼女の側から離れぬじゃろうな。逃げた魔族三体が今攻めてきたとして、彼らは果たして動いて下さると思うか?」
国王の顔から血の気が引く。
少しは事態を理解したか、と思いつつ続ける。
「彼女を傷つけたような奴が国王をやっておるこの国など、どうなろうと知った事じゃなかろうさ。魔族を倒さねばならないから力を貸して下さっているだけで、彼らにこの国を救う理由などないのじゃよ」
「ま、待て! 魔族とは、どういうことじゃ!? 倒したのではないのか!?」
そこからか。
何も知らずに軍議の場に入っていったのか。
ワズワースは、たまらずため息をついた。
※ ※ ※
「だから、平民をどうしようとおれ様の勝手だろうが!」
ビリエルが騎士達に怒鳴っているのが聞こえ、ウォルターがため息をついた。
「さっさと出せ! 下民どもが!」
「残念だが、出すわけにはいかない」
ウォルターが口を出すと、騎士達が敬礼する。
「――王太子殿下!?」
ビリエルの顔が喜色に染まる。
「殿下、この者どもが私を牢に閉じ込めたのです。早く私を出して、この者たちに厳罰を与えて下さい」
どうやら、先ほどのウォルターの言葉をまるで聞いていなかったらしい。
「貴様を牢から出すわけにはいかない。強姦罪の主犯だからな」
もう一度、誤解の余地もないようにしっかり伝える。
ビリエルは呆けた顔をして、その顔が何かを理解したようになる。
「もしかして、勇者が怒っているのですか? 毎晩遊んでいるでしょうに、少し手を出されたくらいで怒るとは、勇者もずいぶんと心が狭い」
今度はウォルターが呆ける番だった。意味が理解できない。
周囲にいる騎士に疑問の視線を送ってみたが、騎士も首を傾げるだけだ。
「であれば、しょうがない。勇者には謝罪しましょう。その上で、あの平民の女を一晩貸してもらえるように交渉します。勇者には、別の、もっと高貴な女を宛がうと言えば納得するでしょう」
ビリエルは一人で納得したように頷いて、ウォルターに視線を向ける。
「王太子殿下、勇者への謝罪は致しましょう。それで、私の罪とやらは消えるはず。ここから出して下さい」
「出せるか!!」
ウォルターは、ようやく意味を理解した。
ビリエルの頭の中では、勇者達が毎晩のように彼女を抱いている事が、確定事項となっているらしい。
これでは、エレインから聞いたことを伝えたところで無意味だろう。
「彼女は、素晴らしい魔法使いだぞ。それを分かっているのか」
「そんな噂は聞きましたが、平民でしょう? 愚民どもが見間違えたのでしょう。王太子殿下がそんな噂を真に受けるのはどうかと思いますが」
リィカを愚弄したせいか、ウォルターへの暴言とも取れる発言のせいか、騎士達の顔に怒りが浮かぶ。
(やっぱりか)
あの場を見ていないものには分からないのだろう。彼女を一目見て、凄腕の魔法使いと判断できる者はいない。そのくらいにギャップがある。
「……面倒だから、あの炎の竜巻の前に放り出すか」
それが一番手っ取り早い気がする。そうすれば、この男も認識を改めるだろう。
最もその頃には消し炭になっているかもしれないが、ビリエルには弟がいる。いなくなっても、問題ないだろう。
「賛成致します」
「そうと決まれば、今からでも」
物騒なウォルターの言葉に、周りの騎士達は咎めることなく頷いていた。
「悪いに決まってる。魔物が倒されたことは知っとったんだろう。勇者様と一緒にいれば、彼女が誰かなど分かるじゃろうに」
国王に対し、ワズワースは敬語すら使わずに言い返す。
ウォルターから引き取った国王だが、全く反省した様子は見られない。
「勇者様の一行であろうと、関係ないわい。そもそも王宮に入ることすら遠慮するべきであろうに、ウォルターは何を考えておる」
国王は、この調子である。
こんな馬鹿だっただろうか、とワズワースは思わずにはいられない。
「もしリィカ嬢が王宮に入らなければ、勇者様が入ることもなかったじゃろうな。お仲間は身分関係なく対等な立場であるからな。あからさまに誰かを贔屓したり、蔑んだりすれば、それは反感を買うだけじゃよ」
「……対等? 平民が勇者様とか? 王子や残り二人の貴族もか?」
あり得ない、とその顔に書いてある。
それを見て、ワズワースはこれ以上分からせるのは無理だと判断した。必要最低限だけ突きつける。
「お前が納得しようとしまいと、どっちでもいいわい。ただ、お前の発言の結果、彼女に決して消えぬ傷が付いた。今、勇者様方は彼女の側から離れぬじゃろうな。逃げた魔族三体が今攻めてきたとして、彼らは果たして動いて下さると思うか?」
国王の顔から血の気が引く。
少しは事態を理解したか、と思いつつ続ける。
「彼女を傷つけたような奴が国王をやっておるこの国など、どうなろうと知った事じゃなかろうさ。魔族を倒さねばならないから力を貸して下さっているだけで、彼らにこの国を救う理由などないのじゃよ」
「ま、待て! 魔族とは、どういうことじゃ!? 倒したのではないのか!?」
そこからか。
何も知らずに軍議の場に入っていったのか。
ワズワースは、たまらずため息をついた。
※ ※ ※
「だから、平民をどうしようとおれ様の勝手だろうが!」
ビリエルが騎士達に怒鳴っているのが聞こえ、ウォルターがため息をついた。
「さっさと出せ! 下民どもが!」
「残念だが、出すわけにはいかない」
ウォルターが口を出すと、騎士達が敬礼する。
「――王太子殿下!?」
ビリエルの顔が喜色に染まる。
「殿下、この者どもが私を牢に閉じ込めたのです。早く私を出して、この者たちに厳罰を与えて下さい」
どうやら、先ほどのウォルターの言葉をまるで聞いていなかったらしい。
「貴様を牢から出すわけにはいかない。強姦罪の主犯だからな」
もう一度、誤解の余地もないようにしっかり伝える。
ビリエルは呆けた顔をして、その顔が何かを理解したようになる。
「もしかして、勇者が怒っているのですか? 毎晩遊んでいるでしょうに、少し手を出されたくらいで怒るとは、勇者もずいぶんと心が狭い」
今度はウォルターが呆ける番だった。意味が理解できない。
周囲にいる騎士に疑問の視線を送ってみたが、騎士も首を傾げるだけだ。
「であれば、しょうがない。勇者には謝罪しましょう。その上で、あの平民の女を一晩貸してもらえるように交渉します。勇者には、別の、もっと高貴な女を宛がうと言えば納得するでしょう」
ビリエルは一人で納得したように頷いて、ウォルターに視線を向ける。
「王太子殿下、勇者への謝罪は致しましょう。それで、私の罪とやらは消えるはず。ここから出して下さい」
「出せるか!!」
ウォルターは、ようやく意味を理解した。
ビリエルの頭の中では、勇者達が毎晩のように彼女を抱いている事が、確定事項となっているらしい。
これでは、エレインから聞いたことを伝えたところで無意味だろう。
「彼女は、素晴らしい魔法使いだぞ。それを分かっているのか」
「そんな噂は聞きましたが、平民でしょう? 愚民どもが見間違えたのでしょう。王太子殿下がそんな噂を真に受けるのはどうかと思いますが」
リィカを愚弄したせいか、ウォルターへの暴言とも取れる発言のせいか、騎士達の顔に怒りが浮かぶ。
(やっぱりか)
あの場を見ていないものには分からないのだろう。彼女を一目見て、凄腕の魔法使いと判断できる者はいない。そのくらいにギャップがある。
「……面倒だから、あの炎の竜巻の前に放り出すか」
それが一番手っ取り早い気がする。そうすれば、この男も認識を改めるだろう。
最もその頃には消し炭になっているかもしれないが、ビリエルには弟がいる。いなくなっても、問題ないだろう。
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