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第六章 王都テルフレイラ
これから
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「エレイン様、王太子殿下がお見えになっていますが、如何致しましょうか」
ドアのノックと共に、サラの声がした。
「入って頂いて。――アレクシス殿下、リィカさんをあちらのベッドに寝かせて頂いてよろしいでしょか」
エレインが示したのは部屋の端に置いてあるベッドだ。
「……別室ではないんですね」
寝室は別にあるものだというのがアレクの考えだったが。
「起きた時の事などを考えると、目の届くところで休んで頂いた方が良いのですよ」
そう言うものか、と思いながら、アレクは気を失ったリィカを抱えて、ベッドに寝かせる。
モルタナでしたように、前髪を掻き上げるように頭を撫でたら、リィカが少し笑った気がした。
あの時だったら、きっと喜んだだろう。でも、今はそれが苦しい。
(俺は、何もリィカにしてやれないのに)
どうして、リィカは自分に笑うんだろうか。
入室してきたウォルターに、アレクが軽く一礼する。
「……リィカ嬢は?」
「先ほど意識を取り戻し、今は気を失って寝ています」
「戻ったのか……!」
驚いたウォルターだが、その声には安堵も混ざっていた。
「いらっしゃらずとも、こちらから報告に伺いましたのに。国王陛下はよろしいのですか?」
エレインの、王太子に対しても変わらない淡々とした物言いに、ウォルターは疲れたように言った。
「ワズワースが来て引き取ってくれた。私が言うよりも父上には効くだろうさ。私は、これからビリエルと他二人の取り調べをするが、その前に一応エレインに確認を、と思ったのだが……」
言いにくそうに、暁斗やアレクの方を見る。
エレインがズバッと言った。
「リィカさんに男性経験はありませんよ。それを確認したかったのですね?」
「……あ、ああ……その、まあ……」
決まりが悪そうなウォルターだが、アレクたちの顔は赤い。
リィカがもし起きていたら、真っ赤になってうずくまっていただろうな、と思いつつ、泰基はエレインに質問した。
「そういう……経験とかって、なぜ分かるんですか?」
ブッ、と誰かが噴き出した。
「《診断》で分かるんです。女性同士でしか分かりませんが」
「なるほど」
女性同士でしか分からないとは、神の作った魔法の不思議なのだろう。それか、配慮というべきか。
それで納得することにした泰基だが、赤い顔をした他の四人に凝視された。
「タイキさん、なぜ平気でそういうことを聞くんだ!?」
「俺は結婚もして、子供もいるんだぞ。お前らと一緒にするな」
アレクの叫びに、泰基は平然と答えたが、
「ヤだ、父さん、そういうこと言わないでよぉ……」
暁斗には、半泣きで抗議された。
「これから、あの三人の取り調べですか?」
泰基がウォルターに向き直る。
「ええ、そうです。――取り調べの前に念のため確認をしておきたく……申し訳ありません」
「構いません。これまでも色々言われてきていますし、そう思われてもしょうがない部分もあると思っています。それよりも、ワズワースさんがあの三人と国王をリィカに必ず突き出すと約束してくれました。あなたは?」
泰基の鋭い視線に、ウォルターも居住まいを正す。
「もちろん、お約束します。怒っているのは私どもも同じですから」
「……分かりました。よろしくお願いします」
泰基は頭を下げた。
ドアのノックと共に、サラの声がした。
「入って頂いて。――アレクシス殿下、リィカさんをあちらのベッドに寝かせて頂いてよろしいでしょか」
エレインが示したのは部屋の端に置いてあるベッドだ。
「……別室ではないんですね」
寝室は別にあるものだというのがアレクの考えだったが。
「起きた時の事などを考えると、目の届くところで休んで頂いた方が良いのですよ」
そう言うものか、と思いながら、アレクは気を失ったリィカを抱えて、ベッドに寝かせる。
モルタナでしたように、前髪を掻き上げるように頭を撫でたら、リィカが少し笑った気がした。
あの時だったら、きっと喜んだだろう。でも、今はそれが苦しい。
(俺は、何もリィカにしてやれないのに)
どうして、リィカは自分に笑うんだろうか。
入室してきたウォルターに、アレクが軽く一礼する。
「……リィカ嬢は?」
「先ほど意識を取り戻し、今は気を失って寝ています」
「戻ったのか……!」
驚いたウォルターだが、その声には安堵も混ざっていた。
「いらっしゃらずとも、こちらから報告に伺いましたのに。国王陛下はよろしいのですか?」
エレインの、王太子に対しても変わらない淡々とした物言いに、ウォルターは疲れたように言った。
「ワズワースが来て引き取ってくれた。私が言うよりも父上には効くだろうさ。私は、これからビリエルと他二人の取り調べをするが、その前に一応エレインに確認を、と思ったのだが……」
言いにくそうに、暁斗やアレクの方を見る。
エレインがズバッと言った。
「リィカさんに男性経験はありませんよ。それを確認したかったのですね?」
「……あ、ああ……その、まあ……」
決まりが悪そうなウォルターだが、アレクたちの顔は赤い。
リィカがもし起きていたら、真っ赤になってうずくまっていただろうな、と思いつつ、泰基はエレインに質問した。
「そういう……経験とかって、なぜ分かるんですか?」
ブッ、と誰かが噴き出した。
「《診断》で分かるんです。女性同士でしか分かりませんが」
「なるほど」
女性同士でしか分からないとは、神の作った魔法の不思議なのだろう。それか、配慮というべきか。
それで納得することにした泰基だが、赤い顔をした他の四人に凝視された。
「タイキさん、なぜ平気でそういうことを聞くんだ!?」
「俺は結婚もして、子供もいるんだぞ。お前らと一緒にするな」
アレクの叫びに、泰基は平然と答えたが、
「ヤだ、父さん、そういうこと言わないでよぉ……」
暁斗には、半泣きで抗議された。
「これから、あの三人の取り調べですか?」
泰基がウォルターに向き直る。
「ええ、そうです。――取り調べの前に念のため確認をしておきたく……申し訳ありません」
「構いません。これまでも色々言われてきていますし、そう思われてもしょうがない部分もあると思っています。それよりも、ワズワースさんがあの三人と国王をリィカに必ず突き出すと約束してくれました。あなたは?」
泰基の鋭い視線に、ウォルターも居住まいを正す。
「もちろん、お約束します。怒っているのは私どもも同じですから」
「……分かりました。よろしくお願いします」
泰基は頭を下げた。
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