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第五章 デトナ王国までの旅路

初級魔法の可能性

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「何でこんなに、魔物を引き連れてきたんだ?」
アレクがぼやく。
確認できる魔物の中で、Cランクがライノセラス一体とタイガー二体。
他、Dランクが多数。初めての魔物も多いが、いちいち個別認識していられない。


「リィカとユーリは、馬車から離れた場所の魔物を倒してくれ。魔石とか肉とか気にしなくていい。他の皆は俺と一緒に馬車に近い魔物を倒すぞ」

「気にしなくていいなら、僕一人で十分ですよ。リィカは、前衛組のフォローに回して下さい」
「分かった、頼んだ」

アレクは無駄な問答をせず、そのまま頷いた。
ユーリはその場に立ち止まり、他の五人が駆け出していく。

魔石や肉を気にしなければ、多数の魔物に対しては、上級魔法がこの上なく有効だ。
「《光の雨ライト・シャワー》!」
爆発を伴う魔法では、馬車にも影響を与えてしまう可能性がある。だから使った魔法は、上級魔法にしては静かな魔法だ。

それでも威力は抜群だ。空から降り注ぐ光の雨が、後方の魔物を全滅させるのに時間は掛からなかった。



馬車に一番近い魔物は、Cランクの魔物三体だ。
馬車を、馬を追い掛けて、三体とも爆走状態だ。正面からの相手は難しい。

「《石柱ストーンピラー》!」
リィカが魔法を唱えた。
土の初級魔法。最近では、浴槽を作るのに唱えている魔法だ。

この状況で風呂はいらないぞ、というツッコミが男性陣の頭をよぎるくらいには、浴槽を作るための魔法という認識になってしまっている。
無論、風呂など作るはずもない。

できたのは、高さ五十センチほどの石柱。それが、魔物三体の足下に突如出現。避けきれなかった魔物たちが、そのままぶつかって転がった。
後ろから来た魔物も止まることができずに、そのまま転がった魔物に激突している。

「うわぁ、なんかすごい」
暁斗が感心とも呆れともつかない声を上げるが、他の三人は呆然として黙ったままだ。

「転んだだけだから、早く倒しちゃって」
リィカの声で、我に返った。

転がっている魔物にトドメを刺しながら、バルがつぶやいた。
「……初級魔法、すげぇな。レイズクルスらに見せてやりてぇ」

上級魔法を使っていればそれで良いと言う魔法師団長と、魔法師団を思い浮かべる。
あいつらが見たら、どういう感想を抱くのだろうか。

「何も変わらない気がするけどな。一体も魔物を倒していないじゃないか、とか言いそうだ」
「……確かに言いそうだな」
アレクの言葉に、バルは渋い顔で同意する。

「一体も倒せてなくても、すごく助かるのに」
「それに価値があるとは思っていないんだ。あくまでも、倒すのは自分たちじゃないと気が済まないんだろう」

暁斗は、モントルビアで見た魔法師団の練習風景を思い出す。上級魔法の練習に意味がないとは言わない。暁斗だって、大魔法を撃って派手に敵を殲滅させるのを、カッコいいと思う気持ちもある。

「――でも、魔法ってそうじゃないと思う」
暁斗のつぶやきを、泰基が拾った。

「そうだな。ただ使うんじゃなくて工夫して使う事で、それが初級魔法でも色々な可能性があるんだろうな」
アレクもバルも頷いた。叶うならば、あの魔法師団員たちにも、それを分かって欲しいと思った。


※ ※ ※


魔物が全部倒れ、追い掛けられていた馬車が止まる。
馬に乗っていた四人が、下に降りる。
馬車から出てきた人物を見て、アレクが目を見開いた。

「……カトレナ姫? デトナ王国の?」
「はい、アレクシス殿下。ご無沙汰しております」
スカートの裾を掴んで、カトレナは優雅に一礼した。
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