158 / 629
第五章 デトナ王国までの旅路
初級魔法の可能性
しおりを挟む
「何でこんなに、魔物を引き連れてきたんだ?」
アレクがぼやく。
確認できる魔物の中で、Cランクが犀一体と虎二体。
他、Dランクが多数。初めての魔物も多いが、いちいち個別認識していられない。
「リィカとユーリは、馬車から離れた場所の魔物を倒してくれ。魔石とか肉とか気にしなくていい。他の皆は俺と一緒に馬車に近い魔物を倒すぞ」
「気にしなくていいなら、僕一人で十分ですよ。リィカは、前衛組のフォローに回して下さい」
「分かった、頼んだ」
アレクは無駄な問答をせず、そのまま頷いた。
ユーリはその場に立ち止まり、他の五人が駆け出していく。
魔石や肉を気にしなければ、多数の魔物に対しては、上級魔法がこの上なく有効だ。
「《光の雨》!」
爆発を伴う魔法では、馬車にも影響を与えてしまう可能性がある。だから使った魔法は、上級魔法にしては静かな魔法だ。
それでも威力は抜群だ。空から降り注ぐ光の雨が、後方の魔物を全滅させるのに時間は掛からなかった。
馬車に一番近い魔物は、Cランクの魔物三体だ。
馬車を、馬を追い掛けて、三体とも爆走状態だ。正面からの相手は難しい。
「《石柱》!」
リィカが魔法を唱えた。
土の初級魔法。最近では、浴槽を作るのに唱えている魔法だ。
この状況で風呂はいらないぞ、というツッコミが男性陣の頭をよぎるくらいには、浴槽を作るための魔法という認識になってしまっている。
無論、風呂など作るはずもない。
できたのは、高さ五十センチほどの石柱。それが、魔物三体の足下に突如出現。避けきれなかった魔物たちが、そのままぶつかって転がった。
後ろから来た魔物も止まることができずに、そのまま転がった魔物に激突している。
「うわぁ、なんかすごい」
暁斗が感心とも呆れともつかない声を上げるが、他の三人は呆然として黙ったままだ。
「転んだだけだから、早く倒しちゃって」
リィカの声で、我に返った。
転がっている魔物にトドメを刺しながら、バルがつぶやいた。
「……初級魔法、すげぇな。レイズクルスらに見せてやりてぇ」
上級魔法を使っていればそれで良いと言う魔法師団長と、魔法師団を思い浮かべる。
あいつらが見たら、どういう感想を抱くのだろうか。
「何も変わらない気がするけどな。一体も魔物を倒していないじゃないか、とか言いそうだ」
「……確かに言いそうだな」
アレクの言葉に、バルは渋い顔で同意する。
「一体も倒せてなくても、すごく助かるのに」
「それに価値があるとは思っていないんだ。あくまでも、倒すのは自分たちじゃないと気が済まないんだろう」
暁斗は、モントルビアで見た魔法師団の練習風景を思い出す。上級魔法の練習に意味がないとは言わない。暁斗だって、大魔法を撃って派手に敵を殲滅させるのを、カッコいいと思う気持ちもある。
「――でも、魔法ってそうじゃないと思う」
暁斗のつぶやきを、泰基が拾った。
「そうだな。ただ使うんじゃなくて工夫して使う事で、それが初級魔法でも色々な可能性があるんだろうな」
アレクもバルも頷いた。叶うならば、あの魔法師団員たちにも、それを分かって欲しいと思った。
※ ※ ※
魔物が全部倒れ、追い掛けられていた馬車が止まる。
馬に乗っていた四人が、下に降りる。
馬車から出てきた人物を見て、アレクが目を見開いた。
「……カトレナ姫? デトナ王国の?」
「はい、アレクシス殿下。ご無沙汰しております」
スカートの裾を掴んで、カトレナは優雅に一礼した。
アレクがぼやく。
確認できる魔物の中で、Cランクが犀一体と虎二体。
他、Dランクが多数。初めての魔物も多いが、いちいち個別認識していられない。
「リィカとユーリは、馬車から離れた場所の魔物を倒してくれ。魔石とか肉とか気にしなくていい。他の皆は俺と一緒に馬車に近い魔物を倒すぞ」
「気にしなくていいなら、僕一人で十分ですよ。リィカは、前衛組のフォローに回して下さい」
「分かった、頼んだ」
アレクは無駄な問答をせず、そのまま頷いた。
ユーリはその場に立ち止まり、他の五人が駆け出していく。
魔石や肉を気にしなければ、多数の魔物に対しては、上級魔法がこの上なく有効だ。
「《光の雨》!」
爆発を伴う魔法では、馬車にも影響を与えてしまう可能性がある。だから使った魔法は、上級魔法にしては静かな魔法だ。
それでも威力は抜群だ。空から降り注ぐ光の雨が、後方の魔物を全滅させるのに時間は掛からなかった。
馬車に一番近い魔物は、Cランクの魔物三体だ。
馬車を、馬を追い掛けて、三体とも爆走状態だ。正面からの相手は難しい。
「《石柱》!」
リィカが魔法を唱えた。
土の初級魔法。最近では、浴槽を作るのに唱えている魔法だ。
この状況で風呂はいらないぞ、というツッコミが男性陣の頭をよぎるくらいには、浴槽を作るための魔法という認識になってしまっている。
無論、風呂など作るはずもない。
できたのは、高さ五十センチほどの石柱。それが、魔物三体の足下に突如出現。避けきれなかった魔物たちが、そのままぶつかって転がった。
後ろから来た魔物も止まることができずに、そのまま転がった魔物に激突している。
「うわぁ、なんかすごい」
暁斗が感心とも呆れともつかない声を上げるが、他の三人は呆然として黙ったままだ。
「転んだだけだから、早く倒しちゃって」
リィカの声で、我に返った。
転がっている魔物にトドメを刺しながら、バルがつぶやいた。
「……初級魔法、すげぇな。レイズクルスらに見せてやりてぇ」
上級魔法を使っていればそれで良いと言う魔法師団長と、魔法師団を思い浮かべる。
あいつらが見たら、どういう感想を抱くのだろうか。
「何も変わらない気がするけどな。一体も魔物を倒していないじゃないか、とか言いそうだ」
「……確かに言いそうだな」
アレクの言葉に、バルは渋い顔で同意する。
「一体も倒せてなくても、すごく助かるのに」
「それに価値があるとは思っていないんだ。あくまでも、倒すのは自分たちじゃないと気が済まないんだろう」
暁斗は、モントルビアで見た魔法師団の練習風景を思い出す。上級魔法の練習に意味がないとは言わない。暁斗だって、大魔法を撃って派手に敵を殲滅させるのを、カッコいいと思う気持ちもある。
「――でも、魔法ってそうじゃないと思う」
暁斗のつぶやきを、泰基が拾った。
「そうだな。ただ使うんじゃなくて工夫して使う事で、それが初級魔法でも色々な可能性があるんだろうな」
アレクもバルも頷いた。叶うならば、あの魔法師団員たちにも、それを分かって欲しいと思った。
※ ※ ※
魔物が全部倒れ、追い掛けられていた馬車が止まる。
馬に乗っていた四人が、下に降りる。
馬車から出てきた人物を見て、アレクが目を見開いた。
「……カトレナ姫? デトナ王国の?」
「はい、アレクシス殿下。ご無沙汰しております」
スカートの裾を掴んで、カトレナは優雅に一礼した。
0
お気に入りに追加
71
あなたにおすすめの小説
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
だって私、悪役令嬢なんですもの(笑)
みなせ
ファンタジー
転生先は、ゲーム由来の異世界。
ヒロインの意地悪な姉役だったわ。
でも、私、お約束のチートを手に入れましたの。
ヒロインの邪魔をせず、
とっとと舞台から退場……の筈だったのに……
なかなか家から離れられないし、
せっかくのチートを使いたいのに、
使う暇も無い。
これどうしたらいいのかしら?
【書籍化進行中、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる