153 / 637
第五章 デトナ王国までの旅路
小声の会話×2
しおりを挟む
歩き始めた一行の中で、アレクは異様に機嫌が良かった。
一方で、リィカは不機嫌だ。
泰基に声をかけられた。
「(嫌なら嫌だと言えばいいだろうに)」
前置きも何もないが、泰基が何を言いたいのかは分かる。
リィカは思い返してみる。
同じ事をサルマにも言われたし、アレク自身にも言われた。それをさらに泰基にも言われてしまった。
「(……嫌じゃないの。ものすごく困るけど)」
アレクに言った言葉と同じ事を泰基に返せば、泰基は少し目を見開いた。
「(……なによ?)」
「(いいや。俺が凪沙にプロポーズしたときの凪沙の返事、覚えてるか?)」
「(……は?)」
唐突すぎでしょ、と思いながら、凪沙の記憶を思い返してみた。
プロポーズされたのは、大学三年の始まりの頃だ。
大学を卒業したら、結婚してほしいと言われた。
その時、果たしてなんと答えたのか。
『わたし、就職したいの。結婚が嫌なわけじゃないけど、すぐは困る』
確か、そう答えた。それなのに、結局卒業と同時に結婚してるけど。
って、いやいや。
嫌じゃないけど困る、という部分だけ取り上げれば、確かに似た言葉だけど、状況が全然違う。
「(同じにしないでよ)」
文句を言うが、泰基には笑われた。
「(嫌じゃないんだろ? 同じじゃないか。凪沙は、嫌なものは嫌だと言っていた。お前だってそうじゃないか)」
確かに、いつだったか泰基は嫌だと言った。王太子なんか、絶対にごめんだ。
しかし、嫌じゃないと好きとの間には、深い溝があると思う。
前を歩くアレクの姿を見る。
自分の気持ちが分からない。
嫌じゃないのは確かだ。もっと正確に言えば、何をされても結局アレクの側が一番安心できてしまう。安心できるから、嫌だとはどうしても言えない。
このままでは、いつか本人が言ったように、アレクの行動はどんどんエスカレートしていくだろう。
(どうしたら、いいのかな)
考えたところで答えが出るものでもないけれど。
泰基は、ぼんやりとアレクを見ているリィカに苦笑していた。
凪沙は、嫌じゃないものに関しては、最終的には受け入れてしまっていた。
だから、きっとリィカも嫌じゃないなら、このままアレクに捕まるしかないだろう。
その未来が、想像できてしまった。
一方、ご機嫌のアレクは、後ろでリィカと泰基が話をしているのに気付き、少しムッとなりかけたところで、頭をガツンと叩かれた。
「った……! 何をするんだ、バル!」
叩いてきた張本人は、真剣な顔をしていて、アレクも自ずと気が引き締まる。
「(……お前が何をどうしようと、基本的には味方でいるつもりだがな。やり過ぎて嫌われても知らねぇぞ)」
しかし、その内容はアレクには意味が分からなかった。眉をひそめると、バルに冷たい目で見られる。
「(リィカのことだ。最近、ちょっとばかし行き過ぎだろ?)」
ああ、と口の中だけでつぶやく。理解した。
確かに、場所を選ばず、周りに誰がいようと関係なしに、リィカに迫っている自覚はある。
「(気にしないで、見ない振りをしていろ。何も問題ないさ)」
「(……本当に、どうなっても知らねぇぞ)」
バルの言葉に、割の本気の心配が混じっているのを感じる。それが分かっても、アレクは大丈夫だと言える自信はあった。あれだけ色々やっているのに、結局碌な抵抗をしないのだから。
一方で、リィカは不機嫌だ。
泰基に声をかけられた。
「(嫌なら嫌だと言えばいいだろうに)」
前置きも何もないが、泰基が何を言いたいのかは分かる。
リィカは思い返してみる。
同じ事をサルマにも言われたし、アレク自身にも言われた。それをさらに泰基にも言われてしまった。
「(……嫌じゃないの。ものすごく困るけど)」
アレクに言った言葉と同じ事を泰基に返せば、泰基は少し目を見開いた。
「(……なによ?)」
「(いいや。俺が凪沙にプロポーズしたときの凪沙の返事、覚えてるか?)」
「(……は?)」
唐突すぎでしょ、と思いながら、凪沙の記憶を思い返してみた。
プロポーズされたのは、大学三年の始まりの頃だ。
大学を卒業したら、結婚してほしいと言われた。
その時、果たしてなんと答えたのか。
『わたし、就職したいの。結婚が嫌なわけじゃないけど、すぐは困る』
確か、そう答えた。それなのに、結局卒業と同時に結婚してるけど。
って、いやいや。
嫌じゃないけど困る、という部分だけ取り上げれば、確かに似た言葉だけど、状況が全然違う。
「(同じにしないでよ)」
文句を言うが、泰基には笑われた。
「(嫌じゃないんだろ? 同じじゃないか。凪沙は、嫌なものは嫌だと言っていた。お前だってそうじゃないか)」
確かに、いつだったか泰基は嫌だと言った。王太子なんか、絶対にごめんだ。
しかし、嫌じゃないと好きとの間には、深い溝があると思う。
前を歩くアレクの姿を見る。
自分の気持ちが分からない。
嫌じゃないのは確かだ。もっと正確に言えば、何をされても結局アレクの側が一番安心できてしまう。安心できるから、嫌だとはどうしても言えない。
このままでは、いつか本人が言ったように、アレクの行動はどんどんエスカレートしていくだろう。
(どうしたら、いいのかな)
考えたところで答えが出るものでもないけれど。
泰基は、ぼんやりとアレクを見ているリィカに苦笑していた。
凪沙は、嫌じゃないものに関しては、最終的には受け入れてしまっていた。
だから、きっとリィカも嫌じゃないなら、このままアレクに捕まるしかないだろう。
その未来が、想像できてしまった。
一方、ご機嫌のアレクは、後ろでリィカと泰基が話をしているのに気付き、少しムッとなりかけたところで、頭をガツンと叩かれた。
「った……! 何をするんだ、バル!」
叩いてきた張本人は、真剣な顔をしていて、アレクも自ずと気が引き締まる。
「(……お前が何をどうしようと、基本的には味方でいるつもりだがな。やり過ぎて嫌われても知らねぇぞ)」
しかし、その内容はアレクには意味が分からなかった。眉をひそめると、バルに冷たい目で見られる。
「(リィカのことだ。最近、ちょっとばかし行き過ぎだろ?)」
ああ、と口の中だけでつぶやく。理解した。
確かに、場所を選ばず、周りに誰がいようと関係なしに、リィカに迫っている自覚はある。
「(気にしないで、見ない振りをしていろ。何も問題ないさ)」
「(……本当に、どうなっても知らねぇぞ)」
バルの言葉に、割の本気の心配が混じっているのを感じる。それが分かっても、アレクは大丈夫だと言える自信はあった。あれだけ色々やっているのに、結局碌な抵抗をしないのだから。
0
お気に入りに追加
78
あなたにおすすめの小説

転生した体のスペックがチート
モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。
目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい
このサイトでは10話まで投稿しています。
続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。
アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。
両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。
両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。
テッドには、妹が3人いる。
両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。

妹が聖女の再来と呼ばれているようです
田尾風香
ファンタジー
ダンジョンのある辺境の地で回復術士として働いていたけど、父に呼び戻されてモンテリーノ学校に入学した。そこには、私の婚約者であるファルター殿下と、腹違いの妹であるピーアがいたんだけど。
「マレン・メクレンブルク! 貴様とは婚約破棄する!」
どうやらファルター殿下は、"低能"と呼ばれている私じゃなく、"聖女の再来"とまで呼ばれるくらいに成績の良い妹と婚約したいらしい。
それは別に構わない。国王陛下の裁定で無事に婚約破棄が成った直後、私に婚約を申し込んできたのは、辺境の地で一緒だったハインリヒ様だった。
戸惑う日々を送る私を余所に、事件が起こる。――学校に、ダンジョンが出現したのだった。
更新は不定期です。

城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?
甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。
友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。
マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に……
そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり……
武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語
スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?
山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。
2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。
異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。
唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

知らない異世界を生き抜く方法
明日葉
ファンタジー
異世界転生、とか、異世界召喚、とか。そんなジャンルの小説や漫画は好きで読んでいたけれど。よく元ネタになるようなゲームはやったことがない。
なんの情報もない異世界で、当然自分の立ち位置もわからなければ立ち回りもわからない。
そんな状況で生き抜く方法は?

蒼き英雄(旧)
雨宮結城
ファンタジー
ダンジョンにいるモンスター達と戦う剣士達、その剣士達の中の一人、アスタ。
この少年は、毎日親友であるフェイという少年と互いが互いを強くさせる為、強くなる為に、日々特訓と言う名の戦いをしている。
そんな中、ダンジョンへの調査が始まる。
いつもと変わらない調査だったが、そんな中、思わぬ事態が待ち受けていた!
そして、その出来事をきっかけに、世界を巻き込む大騒動へと発展していく!

凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる