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第五章 デトナ王国までの旅路
デトナ王国の現状
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※デトナ王国
これから、主人公たち一行が向かう国の名前です。
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「…………魔族じゃとっ!?」
デトナ王国の国王、マルマデューク・フォン・デトナの声は、ほとんど悲鳴だった。
モントルビア王国からもたらされた報告は、マルマデューク国王の精神を限界に追いやった。
震える国王の代わりに、王太子のウォルターが口を開く。
「フードを被れば、人と変わらない、か。……騎士団長、確か魔物の群れの中にフードを被った人間が何人かいる、という報告があったな」
「はい。確認されているのは三名です」
「――終わりじゃ! もうこの国は終わりじゃ!!」
「まだです、父上。まだ王都は落ちていません」
初老の国王の叫びに、王太子ウォルター・フォン・デトナはいい加減にしろと叫びたかった。
国王は、これまで過不足なく国を治めてきた。
しかし、魔王誕生と同時に、一気に精神が不安定に陥った。すぐに弱気になる。ちょっとしたことでも、悪い方へと考える。
そして、事態は現在、最悪へと向かっていた。
突如出現した魔物の群れがデトナ王国の街や村を襲い、滅ぼされた。助けられる人は助けたが、どれだけの人が魔物にやられてしまったか、想像も付かない。
その魔物の群れが、王都テルフレイラに押し寄せている。
何とか押さえ込んでいるが、いつ破られてもおかしくなかった。
問題の一つが国王だった。
決定権を持つ国王なのに、決定を下せない。だったら、王太子が全権を寄越せと言っても、それも頷かない。
なまじ、それまでしっかり国を治めていた国王だっただけに、周囲も油断していた。すぐに元に戻るだろう、と思ってしまった。
対応が、完全に後手に回ってしまっていた。
「魔物も厄介だが、そのフードを被った三名が魔族だとしたら、それも厄介だ。だとすれば……」
「じゃから、もう終わりなのじゃ!」
王太子の言葉を遮って、なおも国王が叫ぶ。その場の皆の顔が曇る中、王太子は机を思い切り叩きつけた。
「父上、いい加減にして下さい! 私にすべて任せて下さい! 決してこの国は終わりません!」
机を殴りつけた音に悲鳴を上げた国王は、ついに泣きそうになった。
「……勝手にせい。儂は寝室に籠もる。何でこんな事になったんじゃ……」
涙声でそれだけ言って国王が退室すると、部屋のあちこちからため息が上がった。
そんな空気に活を入れるように、王太子が手を叩く。
「これからのすべては、私が責任を取る。この状況を何としても打開しなくてはならない。皆、意見を上げてくれ」
だが、周りは不安そうな空気しかない。
この国には、かのアルカトル王国の騎士団長のような、人外と言われるような強さを持つ者はいない。良くも悪くも、皆凡庸なのだ。
王都に押し寄せる大量の魔物と、魔族らしい存在に対応できる策など、何も思い浮かばない。
だが、それを素直に言う事もできずにいる中、一人の少女が手を上げた。
「お父様、よろしいでしょうか?」
王太子の娘、カトレナだ。本来なら軍議の場に、王族といえど女性が出ることなどないが、こんな事態に男も女もないと、カトレナは強引に入り込んでいた。
「モントルビアの王都に、勇者様のご一行がいらっしゃるのは間違いないのでしょう? この状況を、我が国の軍ではどうすることもできません。ここは勇者様に助けを求めるべきではございませんか?」
まさに皆が言いにくいところをズバッと突いた。王女の言葉に、その場の全員が複雑そうな顔をする。
王太子が娘に厳しい目を向けた。
「カトレナ、勇者様のご一行に頼るのは最後の手段だ。まずは我が国でできることを考えねばならない。我が国には騎士団や魔法師団の戦力が残っているのだ。それらを……」
「無駄でしょう、そんな事。お父様にだってお分かりのはずです」
言葉の途中で、カトレナは一刀両断した。その言葉に容赦はない。
「もっと早い段階であればともかく、すでに魔物の数は百や二百ではききません。どうやって我が国の軍が対応できるのですか? せいぜいできて時間稼ぎでしょう?」
王太子にもそれは分かっている。
もっと早い段階で父王に動いてもらえず、やっと自分が全権を入れても、事態はすでに軍の能力を超えてしまっている。
王太子は周りを見渡す。誰も何も発言しない。
「――カトレナ、お前はアレクシス殿とお会いしたことはあったな?」
「は、はい。ございますが?」
「勇者様のご一行は、徒歩で旅をしているそうだからな。お前、馬車でご一行を迎えに行け」
「――えっ?」
カトレナが目を見開く。
周囲の者たちから、驚きの声が上がる。
「お前が言い出したんだ。勇者様のご一行と合流し、事情を説明して助力を乞え。それまで時間稼ぎはしていてやる。――騎士団長、魔法師団長、悪いが二名ずつカトレナの護衛を出してくれ」
カトレナの表情が、決意に満ちたものになる。
アレクシスは勇者の一行にいるのだ。会えば分かる。
「かしこまりました。必ず勇者様方をお連れします。それまでは絶対に堪えて下さい」
「お前も気をつけろ。街道にCランクの魔物が出ることもあるそうだからな。それとテオドア、お前もカトレナと一緒に行け」
「「ええっ!?」」
カトレナの驚きの声と、一言も発することのなかったカトレナの弟、王太子の長男であるテオドアの声が重なった。
これから、主人公たち一行が向かう国の名前です。
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「…………魔族じゃとっ!?」
デトナ王国の国王、マルマデューク・フォン・デトナの声は、ほとんど悲鳴だった。
モントルビア王国からもたらされた報告は、マルマデューク国王の精神を限界に追いやった。
震える国王の代わりに、王太子のウォルターが口を開く。
「フードを被れば、人と変わらない、か。……騎士団長、確か魔物の群れの中にフードを被った人間が何人かいる、という報告があったな」
「はい。確認されているのは三名です」
「――終わりじゃ! もうこの国は終わりじゃ!!」
「まだです、父上。まだ王都は落ちていません」
初老の国王の叫びに、王太子ウォルター・フォン・デトナはいい加減にしろと叫びたかった。
国王は、これまで過不足なく国を治めてきた。
しかし、魔王誕生と同時に、一気に精神が不安定に陥った。すぐに弱気になる。ちょっとしたことでも、悪い方へと考える。
そして、事態は現在、最悪へと向かっていた。
突如出現した魔物の群れがデトナ王国の街や村を襲い、滅ぼされた。助けられる人は助けたが、どれだけの人が魔物にやられてしまったか、想像も付かない。
その魔物の群れが、王都テルフレイラに押し寄せている。
何とか押さえ込んでいるが、いつ破られてもおかしくなかった。
問題の一つが国王だった。
決定権を持つ国王なのに、決定を下せない。だったら、王太子が全権を寄越せと言っても、それも頷かない。
なまじ、それまでしっかり国を治めていた国王だっただけに、周囲も油断していた。すぐに元に戻るだろう、と思ってしまった。
対応が、完全に後手に回ってしまっていた。
「魔物も厄介だが、そのフードを被った三名が魔族だとしたら、それも厄介だ。だとすれば……」
「じゃから、もう終わりなのじゃ!」
王太子の言葉を遮って、なおも国王が叫ぶ。その場の皆の顔が曇る中、王太子は机を思い切り叩きつけた。
「父上、いい加減にして下さい! 私にすべて任せて下さい! 決してこの国は終わりません!」
机を殴りつけた音に悲鳴を上げた国王は、ついに泣きそうになった。
「……勝手にせい。儂は寝室に籠もる。何でこんな事になったんじゃ……」
涙声でそれだけ言って国王が退室すると、部屋のあちこちからため息が上がった。
そんな空気に活を入れるように、王太子が手を叩く。
「これからのすべては、私が責任を取る。この状況を何としても打開しなくてはならない。皆、意見を上げてくれ」
だが、周りは不安そうな空気しかない。
この国には、かのアルカトル王国の騎士団長のような、人外と言われるような強さを持つ者はいない。良くも悪くも、皆凡庸なのだ。
王都に押し寄せる大量の魔物と、魔族らしい存在に対応できる策など、何も思い浮かばない。
だが、それを素直に言う事もできずにいる中、一人の少女が手を上げた。
「お父様、よろしいでしょうか?」
王太子の娘、カトレナだ。本来なら軍議の場に、王族といえど女性が出ることなどないが、こんな事態に男も女もないと、カトレナは強引に入り込んでいた。
「モントルビアの王都に、勇者様のご一行がいらっしゃるのは間違いないのでしょう? この状況を、我が国の軍ではどうすることもできません。ここは勇者様に助けを求めるべきではございませんか?」
まさに皆が言いにくいところをズバッと突いた。王女の言葉に、その場の全員が複雑そうな顔をする。
王太子が娘に厳しい目を向けた。
「カトレナ、勇者様のご一行に頼るのは最後の手段だ。まずは我が国でできることを考えねばならない。我が国には騎士団や魔法師団の戦力が残っているのだ。それらを……」
「無駄でしょう、そんな事。お父様にだってお分かりのはずです」
言葉の途中で、カトレナは一刀両断した。その言葉に容赦はない。
「もっと早い段階であればともかく、すでに魔物の数は百や二百ではききません。どうやって我が国の軍が対応できるのですか? せいぜいできて時間稼ぎでしょう?」
王太子にもそれは分かっている。
もっと早い段階で父王に動いてもらえず、やっと自分が全権を入れても、事態はすでに軍の能力を超えてしまっている。
王太子は周りを見渡す。誰も何も発言しない。
「――カトレナ、お前はアレクシス殿とお会いしたことはあったな?」
「は、はい。ございますが?」
「勇者様のご一行は、徒歩で旅をしているそうだからな。お前、馬車でご一行を迎えに行け」
「――えっ?」
カトレナが目を見開く。
周囲の者たちから、驚きの声が上がる。
「お前が言い出したんだ。勇者様のご一行と合流し、事情を説明して助力を乞え。それまで時間稼ぎはしていてやる。――騎士団長、魔法師団長、悪いが二名ずつカトレナの護衛を出してくれ」
カトレナの表情が、決意に満ちたものになる。
アレクシスは勇者の一行にいるのだ。会えば分かる。
「かしこまりました。必ず勇者様方をお連れします。それまでは絶対に堪えて下さい」
「お前も気をつけろ。街道にCランクの魔物が出ることもあるそうだからな。それとテオドア、お前もカトレナと一緒に行け」
「「ええっ!?」」
カトレナの驚きの声と、一言も発することのなかったカトレナの弟、王太子の長男であるテオドアの声が重なった。
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