転生ヒロインと人魔大戦物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~

田尾風香

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間章

アルカトル王国~会議紛糾~

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〔アークバルト〕


「魔族が、モントルビアの村に入り込んでいた!?」
会議は驚愕から始まった。

「馬鹿な! そんな事はこれまでの歴史で、一度もなかったはず! 陛下、アレクシス殿下の見間違い、勘違いという可能性はありませんか?」
その発言は、魔法師団長のレイズクルス公爵だ。

勇者の教育係から外された直後は大人しくしていたが、今は元に戻ってしまっている。
挙げ句に、今の言葉は、明らかにアレクを蔑む雰囲気があった。
しかも、多少なりともレイズクルス公爵に同意する声が上がるのだから、困る。

「レイズクルス、勇者様方は直接二体の魔族と対峙して倒しているのだ。それを見間違い、勘違いはないだろう」
父上が厳しい目をしていた。

それに、父上は口にしないだろうが、アレクがあのモントルビアの王宮にわざわざ行ったのだ。側室の子だと蔑まれるあの王宮に。それだけの大事だと、判断したということだ。

「フードなどを被って、長い耳と白い髪や肌を隠してしまえば、人とそう変わらなく見えるらしい。それを踏まえた上で、皆には魔族の痕跡がないかを調べてもらう」
父上の言葉に、一人手を上げた者がいた。
ミラー騎士団長だ。

「巡回に回っている兵士から、一つ違和感があると言われている街があります。何がとは言えないが今までと何かが違う、という曖昧なものですが。――陛下、俺がそこに行って調べてきていいですかね?」
「――普通であれば、駄目だと言いたいところだが」

父上の言葉に、騎士団長は少し驚きを見せた。
というか、私も驚いた。騎士団長は何かあったときの切り札だ。そうそう王都から離せるものではない。

「言ってみるもんですね。行ってきていいんですか?」
「――アレクシスからお主への伝言だ。魔族の体は硬い。普通に剣を振るっても剣技も弾かれた。エンチャントでの対処を勧める、だそうだ」
父上の、返答になっていない唐突な言葉。

だが、その言葉に会議の場がざわめいた。
「体が硬い?」
「剣も、剣技も弾かれる、とは一体……?」
聞こえる声に私も同意だ。
アレクが魔族と対峙したときの感想なのだろうが、それにしても剣も剣技も効かないとは、想像もできない。

騎士団長も険しい顔をした。しかし、口から出たのは全く違う質問だった。
「陛下。それは、俺宛ですか? 騎士団宛てではなく?」
「確かに、お主宛になっている」
「……つまりアレクの奴は、魔族の相手は俺にしかできないと判断したわけですか」
「あまり考えたくはないが、そうであろうな」

再度、場がざわついた。
騎士団長にしか相手ができない相手ということは、騎士団員がどれだけ集まったとしても、相手はできないと同じ意味だ。

「なるほど。それじゃあ、俺が行くしかないですね。了解。できるだけ早く戻ってきますよ」
騎士団長の口調は、全く今までと変わらない。
相当な強敵であるはずなのに。

「レイズクルス師団長、何人か魔法師団員も連れて行きたいが、いいですかね?」
「ふ……ふざけるな! そのような曖昧な情報に、私の精鋭を出せると……」
「んじゃあいいや。副師団長の方はどうだ?」

騎士団長は、レイズクルス公爵の言葉をあっさりと切ってのける。最初から、文句を言われると分かっていたかのようだ。
代わりに、副師団長であるライアン伯爵に声をかけている。
人数だったり、属性だったり、具体的な確認をしている。

「騎士団長、ライアン副師団長。すまぬが神官は出せん。回復は、水魔法でどうにかしてほしい」
今、怪我人がとても多い。
魔物の数が増えているだけではなく、ランクの高い魔物も増えてきた。
神官は、その治療で限界だった。



次の日には、騎士団長が出発するというので、私はそれに立ち会った。
「――気をつけて行ってきてくれ」
騎士団長がニヤッと笑う。

「ずいぶん不安そうな顔してんな、アーク。心配すんな。――それよりも、今日は学園に行く日じゃねぇのか?」
からかうように言われた。

この情勢下でも、アルカライズ学園は普通に授業を行っている。
父上や先生方の、学生はいつでもきちんと勉強しろ、という方針があるからだ。だから、今までは私も王太子としてよりも学生としての身分を重要視してきた。
けれど、今は王太子の方を優先させたい。

「父上の許可は頂いているし、お前たちが出発したら学園に行く」
「そうか」
騎士団長は、最後までニヤッとした不適な笑みを浮かべ続けていた。
ライアン副師団長も一礼して、騎士団長に続いていく。


そして十日後、戻ってきた騎士団長は大怪我を負っていた。
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