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間章
アルカトル王国~追憶―アークバルトー~
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覚えているでしょうか?
アレクのお兄さん、アークバルト視点の話になります。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
〔アークバルト〕
仕事を手伝うために、父王の執務室にいた。
その時届けられたのが、モントルビア王国にいるアルカトルの大使、マルティン伯爵からの早馬で届けられた手紙。
それを一読した父上は、側近であるヴィート公爵に言った。
「緊急の会議を開く。集まるよう声をかけてくれ」
父上から手紙を渡されて、私も読む。
そこには、魔族がモントルビアの最南端の村に入り込んでいたという、アレクからの報告が記されていた。
※ ※ ※
私は、アークバルト・フォン・アルカトル。
この国の第一王子で、王太子でもある。
そして、アレク……アレクシスは私の一週間だけ年下の弟だ。
普通、王族の子供は小さな頃から、貴族の子供達と交流を持つらしい。特に王太子となる者は、そこで人を見る目を養い、自分の側近となるものを選ぶこともある。
しかし、自分たちにはそういった機会はなく、二人で一緒にいるのが常だった。
理由は分かりすぎるくらいに分かる。
自分が病弱で、すぐに寝込んでしまうからだ。
交流の機会を設けたところで、自分が参加できるか分からない。第一王子の私を差し置いて、第二王子のアレクの方が貴族の子息達との繋がりができてしまう。
父上達は、それを配慮したのだろう。
アレクに対して申し訳ないと思っていたのに、私に婚約者ができた。
アレクに私しかいないのは私のせいなのに、私にはアレク以外の繋がりができてしまった。
事件が起きたのは、私が12歳の時だった。
食事をしたら、突然息ができなくなった。毒味役の泣きそうな顔が見えて、意識を失った。
次に目を覚ましたら父上がいて、毒味役が私に毒を盛ったことを教えられた。
「――アレクは、元気ですか?」
まず私が思ったのはそのことだった。あの子は大丈夫だったのかと。
そうしたら、父上に呆れた顔をされた。
「少しは自分のことを心配しろ。アレクは何ともない。とはいっても、何かあっては困るから、部屋に閉じ込めて厳重警戒態勢だがな」
「……大人しくしてるといいですね」
私は笑って、父上に頼み事をした。
「――失礼します」
兵士が、拘束された男を連れて入ってくる。毒味役と話をしたい、と父上に頼んだら、渋られたが結局は許可をくれた。
私は毒味役を見て、問いかけた。
「なぜお前は私を殺さなかった?」
「……………!!」
目を見開いて驚きの様子を見せるが、毒味役は口を開かない。
「身体の弱い私を殺すための毒など、簡単に手に入るだろう。私がこうして助かっているということは、お前がその程度の毒しか盛らなかった証拠だ」
「……………」
「殺すつもりがないなら、毒なんか盛らない方がいい。――なぜだ?」
「……………殺せませんでした。だから、渡された毒とは違う毒を盛りました」
「なぜ?」
毒味役の目が揺れているのが分かる。
「……………なぜアーク様では駄目なのでしょう。なぜアレクシス殿下なのですか? アーク様が普段からどれだけ勉学に励んでいるのかも知らず、ただ病弱だという理由だけで……。……申し訳、ありません」
「そうか」
それだけで十分だった。戦争急進派と何らかの繋がりがあったのか。
兵士達に連れて行かれる毒味役を見送った。
毒味だけではなく、色々気を遣ってくれていた。――もうこれからはいないのか。
飲みやすいスープが出された。
匂いからして、私の好物だと分かる。それなのに、なぜか怖い。
「……ゴフッ……!」
意を決して口に入れたが、そのまま吐き出した。
「……殿下……!?」
神官長が慌てて駆け寄ってくるのを制して、もう一度口に含む。しかし結果は変わらなかった。
「参ったな、これは。――飲み込めない」
つぶやいた私の声は、我ながら情けなかった。
婚約者のレーナニアが面会に訪れると聞いて、私はアレクに会いたいと言ってみた。
婚約者が駄目なわけではないが、会うならアレクの方が良かった。
しかし、父上に睨まれた。
今回の事件は、急進派の仕業だ。
急進派とアレクの接触を許せば、アレクが気付かないうちに王位継承争いの旗頭にされてしまう可能性もある。
だから今回の真犯人を見つけて捕らえるまでは、アレクは隔離される。
――分かってはいても、会いたい。一人は怖かった。
レーナニアとの面会は、形式的なものになるはずだった。
少なくとも私はそう思っていたのに、彼女の思わぬ心に触れた。
傷だらけの手。身体に痛みがあるのか、庇うような歩き方。それらを一切表に出さずに、自分が用意した、と差し出されたマンダリン。
私のことだけを考えて用意してくれたマンダリンは、飲み込むことに何の躊躇いもなかった。
――一人は怖い。彼女は、一緒にいてくれるのだろうか。
未だ部屋に隔離されているアレクのことを思うと少し胸は痛んだが、それでも彼女が差し出してくれた手を握らずにはいられなかった。
レーナが毎日マンダリンを持ってきてくれるようになった。
料理も頑張ってくれているらしいが、「まだ食べられるものが作れません」と落ち込んでいた。
おかしいと思ったのは、一週間が過ぎた時。
犯人が逮捕されて、アレクの隔離も解かれたはずなのに、会いに来ない。
その前までは毎日来ていたのだ。だから、すぐに来ると思っていたのに。
気になってアレクに会いに行こうとしたら、父上に呼ばれた。聞かされた話に愕然とした。
「どうして、アレクのせいなんですか!!」
自分のせいで私に毒が盛られたと、自分がいなければ良かった、と言ったという。そして、私に会えないと言ったという。
「あいつは何もしてないじゃないですか!!」
父上に怒ってもどうしようもないとは思っても、言わずにはいられなかった。
「……すまないな」
しかし、父上は私に謝った。
「……私から会いに行っていいですよね」
ポツリとつぶやいた言葉に、
「……突き放されるかも知れないぞ」
父上にはそう言われたけれど、会いたかった。
会いに行って、敬語で話された。兄上と呼ばれた。
私に対して敬意を示すことで、自分は王位に興味はないと示そうとしているのだ、とは思ったが、それ以上に距離を置かれてさみしかった。
次の日、あいつの姿が城から消えた。
夜には戻ってきたが、説教しに行ったという父上と母上が、ただ落ち込んでいた。
それからほとんど毎日のように、昼間、アレクが城からいなくなる。
大丈夫なのか、危険な目にあっていないのか。
夜、アレクが帰ってきた、と報告を受けるまで、気が気ではなかった。
父上には放っておけと言われた。何か知っているなら教えて欲しいと言っても、大丈夫の一点張りだった。
それから半年が過ぎた。
アレクは相変わらず、いなくなる。
レーナは、料理が上手になってきた。
相変わらず、レーナ以外の手が入った料理は食べられないが、普通にレーナの手料理を食べられることが楽しみにもなっている。
レーナが魔力病で倒れてしまった時は大変だった。
レーナのことも心配だったが、自分も、魔道具ができるまで全く食べられなかったでは、レーナに心配をかける。
頑張ってスープは飲んだが、吐きそうだった。
やはり、食事はレーナが作ってくれたものが一番おいしい。
そうレーナの兄のクラウスに言ったら、
「あれのどこが上手なんだよ。ちっともおいしくないぞ」
と言われた。
絶品とはいかなくても、普通においしいだろうと言ったら、変な目で見てきた。――失礼な奴だ。
そんなある日。
ハワード公爵……父上の従兄弟に当たる方が逮捕された、との極秘情報を聞かされた。
さすがに驚いて、確認に父上のところへ向かって聞かされた真実に驚愕した。
「……暗殺者……? しかも三人も……? アレクが捕まえた……?」
ハワード公爵が、私に暗殺者を差し向けていた、という話をされた。
いちいち疑問形になるのは、勘弁して欲しい。
それくらい驚いた。
「………………私は何も聞いていないのですが?」
「言ってないからな」
あっさり言う父上に、恨みがましく視線を向ける。
「……なぜ教えて頂けなかったのでしょうか?」
「言ったところで、お前に何ができるわけでもない。それで体調を崩されても困るし、気にしすぎて変な行動を取られても面倒だ。――何か気付くようだったら言おうとは思ったが、全く気付いていなかっただろう?」
全くもってその通りではあるが、面白くない。
父上の笑顔が腹立たしい。
「アレクが知っていたのは、なぜですか?」
父上の笑顔が崩れて困った顔になった。
「一人目の暗殺者を、アレクが真っ先に気付いて対処した。あいつが暗殺者を捕らえたから、何も知らせないという方法を取れなくなった。そうしたら、騎士団長が今後もアレクに対処させろと言い出して、アレクもそれを望んだから、儂の反対する余地がなくなってしまったのだ……」
「急に落ち込まないで下さいよ……」
後半、元気のなくなった声に思わず突っ込む。
――しかし、暗殺者を捕らえたのか。前から剣の腕を褒められていたのは知っていたが、そこまで強くなっているのか。
そう思ったら、自分のことのように嬉しくなった。
「急にニマニマするな。気持ち悪い」
今度は父上から突っ込まれることになった。
「――だが、これでもう、戦争急進派が動くことはない」
その言葉に、ハッとする。
父上は、私の頭をポンポン撫でた。
「アレクも自分の手で捕まえたからだろうな、すっきりした顔をしていた。会いに行ってやれ、アーク。きっとアレクも喜ぶ。ただ……」
そこで父上が何とも言えない表情をする。
「アレクを大切にするのはいいが、レーナニアのことも忘れるなよ」
首をかしげる。
「………? はい、それはもちろん、当たり前ですが?」
「……だったらいい」
最後は、父上が何を言いたいのか分からなかった。
早速行こうと決めて、向かった剣の訓練場。
そこで見たのは、
「――俺の勝ちだ、バル!」
「この野郎! もう一戦するぞ、アレク!」
「アレクもバルも待って下さい! 先に回復しますから!」
アレクと一緒にいるのは、騎士団長の息子のバルムート、神官長の息子のユーリッヒ。顔と名前くらいは知っているが……、その三人が仲良く言い合っている光景だった。
「………………は……?」
呆然と見ていると、ヒューズ副団長に声を掛けられた。
「殿下がいらっしゃるのは珍しいですね。どうされたんですか?」
「……いや、あれは……」
分かっているだろうに、わざとらしく私の見ている所に視線を持って行く。
「――ああ、アレクシス殿下方ですね。ここ最近、仲良いんですよ。言葉遣いは物申したい所ですが、アレクシス殿下が望んだ事らしく、訓練場ではいつもあんな感じです」
――仲が良い?
――アレクが望んだ?
――私以外の人と、楽しくしているのか?
そこまで考えて、自分がはっきり嫉妬していることに気付いた。
自分のせいで、アレクが同年代の人と交流を持てないことに罪悪感を抱いていたのに、いざ交流しているのを目の当たりにしたら、すごく悔しい。
だから、
「アレク!!」
副団長を置いて、アレクに声を掛ける。
「――兄上!?」
驚いたようにこっちを見て、駆け寄って来てくれるアレクに、優越感を感じる。
小さい頃とは違う。いつまでも一緒にはいられない。
――でももう少しだけ、私だけのアレクでいて欲しかった。
※ ※ ※
多分、覚悟はしていた。
アレクが、あの騎士団長に勝った、と聞いた時から。
だから、アレクが勇者とともに魔王討伐の旅に出ると聞いた時も、心に重りは感じても、取り乱す事はしなくて済んだ。
旅立つ前日、アレクからもらった剣を握りしめる。
アレクが戦っているように、私にも私の戦う場がある。
アレクのお兄さん、アークバルト視点の話になります。
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〔アークバルト〕
仕事を手伝うために、父王の執務室にいた。
その時届けられたのが、モントルビア王国にいるアルカトルの大使、マルティン伯爵からの早馬で届けられた手紙。
それを一読した父上は、側近であるヴィート公爵に言った。
「緊急の会議を開く。集まるよう声をかけてくれ」
父上から手紙を渡されて、私も読む。
そこには、魔族がモントルビアの最南端の村に入り込んでいたという、アレクからの報告が記されていた。
※ ※ ※
私は、アークバルト・フォン・アルカトル。
この国の第一王子で、王太子でもある。
そして、アレク……アレクシスは私の一週間だけ年下の弟だ。
普通、王族の子供は小さな頃から、貴族の子供達と交流を持つらしい。特に王太子となる者は、そこで人を見る目を養い、自分の側近となるものを選ぶこともある。
しかし、自分たちにはそういった機会はなく、二人で一緒にいるのが常だった。
理由は分かりすぎるくらいに分かる。
自分が病弱で、すぐに寝込んでしまうからだ。
交流の機会を設けたところで、自分が参加できるか分からない。第一王子の私を差し置いて、第二王子のアレクの方が貴族の子息達との繋がりができてしまう。
父上達は、それを配慮したのだろう。
アレクに対して申し訳ないと思っていたのに、私に婚約者ができた。
アレクに私しかいないのは私のせいなのに、私にはアレク以外の繋がりができてしまった。
事件が起きたのは、私が12歳の時だった。
食事をしたら、突然息ができなくなった。毒味役の泣きそうな顔が見えて、意識を失った。
次に目を覚ましたら父上がいて、毒味役が私に毒を盛ったことを教えられた。
「――アレクは、元気ですか?」
まず私が思ったのはそのことだった。あの子は大丈夫だったのかと。
そうしたら、父上に呆れた顔をされた。
「少しは自分のことを心配しろ。アレクは何ともない。とはいっても、何かあっては困るから、部屋に閉じ込めて厳重警戒態勢だがな」
「……大人しくしてるといいですね」
私は笑って、父上に頼み事をした。
「――失礼します」
兵士が、拘束された男を連れて入ってくる。毒味役と話をしたい、と父上に頼んだら、渋られたが結局は許可をくれた。
私は毒味役を見て、問いかけた。
「なぜお前は私を殺さなかった?」
「……………!!」
目を見開いて驚きの様子を見せるが、毒味役は口を開かない。
「身体の弱い私を殺すための毒など、簡単に手に入るだろう。私がこうして助かっているということは、お前がその程度の毒しか盛らなかった証拠だ」
「……………」
「殺すつもりがないなら、毒なんか盛らない方がいい。――なぜだ?」
「……………殺せませんでした。だから、渡された毒とは違う毒を盛りました」
「なぜ?」
毒味役の目が揺れているのが分かる。
「……………なぜアーク様では駄目なのでしょう。なぜアレクシス殿下なのですか? アーク様が普段からどれだけ勉学に励んでいるのかも知らず、ただ病弱だという理由だけで……。……申し訳、ありません」
「そうか」
それだけで十分だった。戦争急進派と何らかの繋がりがあったのか。
兵士達に連れて行かれる毒味役を見送った。
毒味だけではなく、色々気を遣ってくれていた。――もうこれからはいないのか。
飲みやすいスープが出された。
匂いからして、私の好物だと分かる。それなのに、なぜか怖い。
「……ゴフッ……!」
意を決して口に入れたが、そのまま吐き出した。
「……殿下……!?」
神官長が慌てて駆け寄ってくるのを制して、もう一度口に含む。しかし結果は変わらなかった。
「参ったな、これは。――飲み込めない」
つぶやいた私の声は、我ながら情けなかった。
婚約者のレーナニアが面会に訪れると聞いて、私はアレクに会いたいと言ってみた。
婚約者が駄目なわけではないが、会うならアレクの方が良かった。
しかし、父上に睨まれた。
今回の事件は、急進派の仕業だ。
急進派とアレクの接触を許せば、アレクが気付かないうちに王位継承争いの旗頭にされてしまう可能性もある。
だから今回の真犯人を見つけて捕らえるまでは、アレクは隔離される。
――分かってはいても、会いたい。一人は怖かった。
レーナニアとの面会は、形式的なものになるはずだった。
少なくとも私はそう思っていたのに、彼女の思わぬ心に触れた。
傷だらけの手。身体に痛みがあるのか、庇うような歩き方。それらを一切表に出さずに、自分が用意した、と差し出されたマンダリン。
私のことだけを考えて用意してくれたマンダリンは、飲み込むことに何の躊躇いもなかった。
――一人は怖い。彼女は、一緒にいてくれるのだろうか。
未だ部屋に隔離されているアレクのことを思うと少し胸は痛んだが、それでも彼女が差し出してくれた手を握らずにはいられなかった。
レーナが毎日マンダリンを持ってきてくれるようになった。
料理も頑張ってくれているらしいが、「まだ食べられるものが作れません」と落ち込んでいた。
おかしいと思ったのは、一週間が過ぎた時。
犯人が逮捕されて、アレクの隔離も解かれたはずなのに、会いに来ない。
その前までは毎日来ていたのだ。だから、すぐに来ると思っていたのに。
気になってアレクに会いに行こうとしたら、父上に呼ばれた。聞かされた話に愕然とした。
「どうして、アレクのせいなんですか!!」
自分のせいで私に毒が盛られたと、自分がいなければ良かった、と言ったという。そして、私に会えないと言ったという。
「あいつは何もしてないじゃないですか!!」
父上に怒ってもどうしようもないとは思っても、言わずにはいられなかった。
「……すまないな」
しかし、父上は私に謝った。
「……私から会いに行っていいですよね」
ポツリとつぶやいた言葉に、
「……突き放されるかも知れないぞ」
父上にはそう言われたけれど、会いたかった。
会いに行って、敬語で話された。兄上と呼ばれた。
私に対して敬意を示すことで、自分は王位に興味はないと示そうとしているのだ、とは思ったが、それ以上に距離を置かれてさみしかった。
次の日、あいつの姿が城から消えた。
夜には戻ってきたが、説教しに行ったという父上と母上が、ただ落ち込んでいた。
それからほとんど毎日のように、昼間、アレクが城からいなくなる。
大丈夫なのか、危険な目にあっていないのか。
夜、アレクが帰ってきた、と報告を受けるまで、気が気ではなかった。
父上には放っておけと言われた。何か知っているなら教えて欲しいと言っても、大丈夫の一点張りだった。
それから半年が過ぎた。
アレクは相変わらず、いなくなる。
レーナは、料理が上手になってきた。
相変わらず、レーナ以外の手が入った料理は食べられないが、普通にレーナの手料理を食べられることが楽しみにもなっている。
レーナが魔力病で倒れてしまった時は大変だった。
レーナのことも心配だったが、自分も、魔道具ができるまで全く食べられなかったでは、レーナに心配をかける。
頑張ってスープは飲んだが、吐きそうだった。
やはり、食事はレーナが作ってくれたものが一番おいしい。
そうレーナの兄のクラウスに言ったら、
「あれのどこが上手なんだよ。ちっともおいしくないぞ」
と言われた。
絶品とはいかなくても、普通においしいだろうと言ったら、変な目で見てきた。――失礼な奴だ。
そんなある日。
ハワード公爵……父上の従兄弟に当たる方が逮捕された、との極秘情報を聞かされた。
さすがに驚いて、確認に父上のところへ向かって聞かされた真実に驚愕した。
「……暗殺者……? しかも三人も……? アレクが捕まえた……?」
ハワード公爵が、私に暗殺者を差し向けていた、という話をされた。
いちいち疑問形になるのは、勘弁して欲しい。
それくらい驚いた。
「………………私は何も聞いていないのですが?」
「言ってないからな」
あっさり言う父上に、恨みがましく視線を向ける。
「……なぜ教えて頂けなかったのでしょうか?」
「言ったところで、お前に何ができるわけでもない。それで体調を崩されても困るし、気にしすぎて変な行動を取られても面倒だ。――何か気付くようだったら言おうとは思ったが、全く気付いていなかっただろう?」
全くもってその通りではあるが、面白くない。
父上の笑顔が腹立たしい。
「アレクが知っていたのは、なぜですか?」
父上の笑顔が崩れて困った顔になった。
「一人目の暗殺者を、アレクが真っ先に気付いて対処した。あいつが暗殺者を捕らえたから、何も知らせないという方法を取れなくなった。そうしたら、騎士団長が今後もアレクに対処させろと言い出して、アレクもそれを望んだから、儂の反対する余地がなくなってしまったのだ……」
「急に落ち込まないで下さいよ……」
後半、元気のなくなった声に思わず突っ込む。
――しかし、暗殺者を捕らえたのか。前から剣の腕を褒められていたのは知っていたが、そこまで強くなっているのか。
そう思ったら、自分のことのように嬉しくなった。
「急にニマニマするな。気持ち悪い」
今度は父上から突っ込まれることになった。
「――だが、これでもう、戦争急進派が動くことはない」
その言葉に、ハッとする。
父上は、私の頭をポンポン撫でた。
「アレクも自分の手で捕まえたからだろうな、すっきりした顔をしていた。会いに行ってやれ、アーク。きっとアレクも喜ぶ。ただ……」
そこで父上が何とも言えない表情をする。
「アレクを大切にするのはいいが、レーナニアのことも忘れるなよ」
首をかしげる。
「………? はい、それはもちろん、当たり前ですが?」
「……だったらいい」
最後は、父上が何を言いたいのか分からなかった。
早速行こうと決めて、向かった剣の訓練場。
そこで見たのは、
「――俺の勝ちだ、バル!」
「この野郎! もう一戦するぞ、アレク!」
「アレクもバルも待って下さい! 先に回復しますから!」
アレクと一緒にいるのは、騎士団長の息子のバルムート、神官長の息子のユーリッヒ。顔と名前くらいは知っているが……、その三人が仲良く言い合っている光景だった。
「………………は……?」
呆然と見ていると、ヒューズ副団長に声を掛けられた。
「殿下がいらっしゃるのは珍しいですね。どうされたんですか?」
「……いや、あれは……」
分かっているだろうに、わざとらしく私の見ている所に視線を持って行く。
「――ああ、アレクシス殿下方ですね。ここ最近、仲良いんですよ。言葉遣いは物申したい所ですが、アレクシス殿下が望んだ事らしく、訓練場ではいつもあんな感じです」
――仲が良い?
――アレクが望んだ?
――私以外の人と、楽しくしているのか?
そこまで考えて、自分がはっきり嫉妬していることに気付いた。
自分のせいで、アレクが同年代の人と交流を持てないことに罪悪感を抱いていたのに、いざ交流しているのを目の当たりにしたら、すごく悔しい。
だから、
「アレク!!」
副団長を置いて、アレクに声を掛ける。
「――兄上!?」
驚いたようにこっちを見て、駆け寄って来てくれるアレクに、優越感を感じる。
小さい頃とは違う。いつまでも一緒にはいられない。
――でももう少しだけ、私だけのアレクでいて欲しかった。
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多分、覚悟はしていた。
アレクが、あの騎士団長に勝った、と聞いた時から。
だから、アレクが勇者とともに魔王討伐の旅に出ると聞いた時も、心に重りは感じても、取り乱す事はしなくて済んだ。
旅立つ前日、アレクからもらった剣を握りしめる。
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彼女の目的地は祖国のランドール王国であり、またその命を狙ったのもランドールの手の者であることを悟ったショウ。
いつの間にか彼は聖女の護衛をさせられることになり、それについて思うこともあったが、祖国の現状について気になることもあり、再び祖国ランドールの地に足を踏み入れることを決意した。
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