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第四章 モントルビアの王宮
痕
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他に誰もいなくなると、体に回された手と、口を塞ぐ手に力が入った。
「リィカに一つだけ教えておく。こうして男の腕の中にいるときに、他の男の名前を言うのはやめた方がいい。男を不機嫌にさせるだけだからな」
不機嫌だと言うことを示すように、アレクの声は低い。
だが、クスッと笑うのが聞こえて、口元の手が外される。
「俺にこういうことをされるのが嫌なら、きちんとそう言え。何だったら、魔法を使っても構わない。そうしたら手は出さない。でも、このままリィカが碌な抵抗をしなかったら、俺はどこまでも調子に乗るからな」
体に回されていた腕も外された。
解放されると、リィカは少しアレクと距離を開けるように動いたが、そこで止まった。
手を伸ばそうとしなくても、簡単に届く距離だ。
「……まだ、よく分かんなくて。いやだ、というよりも、困るっていう方が正解なの」
うつむきながら、ポツポツとリィカは言葉を紡ぐ。
「王太子が、すごく怖くて。でも、アレクに抱きしめられてたら何だか安心できた。守ってもらうつもりなんてなかったのに、あの安心感を思い出しちゃうと、何が何でも抵抗したいとまで思えないんだ」
そこまで言って口を閉じる。
アレクの反応を待つが、何もないので顔を上げると、顔を赤くしているアレクがいた。
「……アレク?」
「あー、うん。……その安心感って、俺だけか?」
「……そんなの分かんない。他の人にされたことないもの」
「ないのか。あったらあったで嫌だが、正直意外だな。でも、それならいい。これからも俺だけだ。リィカが抵抗しないなら俺の行為も激しくなるだろうから、覚悟しておけよ。――そう考えると、あまり俺に安心しすぎるのも考えものかもな?」
「…………はい?」
アレクの物騒な言葉と笑みに、引き気味になるリィカを、アレクは肩を掴んで引き寄せる。
そのまま、リィカの首筋に唇を寄せた。
「アレク!?」
「動くなよ」
リィカの逃げようとしていた体の動きが止まった。
※ ※ ※
(本当に、抵抗しないんだな)
アレクは思う。
そもそも自分が腰を抱いても、リィカは少し文句を言っただけで後は大人しくしているから、つい調子に乗ったのだ。
自分が言うのも何だが、果たしてリィカはこれでいいのか。あの王太子は論外としても、気をつけていないと、簡単に悪い男に捕まってしまいそうだ。
そう考えると、自分も悪い男の一人か、と苦笑しつつも、リィカの首筋に口付けた。
※ ※ ※
リィカは、チクリ、と首筋に痛みを感じた。
初めての痛み。でも、覚えがある痛みだ。
「――――――!」
慌ててアレクから離れる。手で押さえる。多分、顔は真っ赤になっている。
覚えがあるのは、凪沙の記憶があるからだ。
「何をされたかは分かるのか。それはそれで面白いような、つまらないような」
リィカが開けた距離を、あっさりアレクが詰める。
押さえた手を、簡単に剥がされた。
「初めてやったけど、綺麗に痕つくんだな。授業で教わったときは、小さい痣で何が変わるのかと思ったものだが、想像以上に嬉しくてしょうがない」
授業ってなに? と頭の片隅で疑問に思うが、それ以上に混乱していて言葉が出ない。
「これからもよろしくな、リィカ」
トドメに、指先にキスをされた。
「リィカに一つだけ教えておく。こうして男の腕の中にいるときに、他の男の名前を言うのはやめた方がいい。男を不機嫌にさせるだけだからな」
不機嫌だと言うことを示すように、アレクの声は低い。
だが、クスッと笑うのが聞こえて、口元の手が外される。
「俺にこういうことをされるのが嫌なら、きちんとそう言え。何だったら、魔法を使っても構わない。そうしたら手は出さない。でも、このままリィカが碌な抵抗をしなかったら、俺はどこまでも調子に乗るからな」
体に回されていた腕も外された。
解放されると、リィカは少しアレクと距離を開けるように動いたが、そこで止まった。
手を伸ばそうとしなくても、簡単に届く距離だ。
「……まだ、よく分かんなくて。いやだ、というよりも、困るっていう方が正解なの」
うつむきながら、ポツポツとリィカは言葉を紡ぐ。
「王太子が、すごく怖くて。でも、アレクに抱きしめられてたら何だか安心できた。守ってもらうつもりなんてなかったのに、あの安心感を思い出しちゃうと、何が何でも抵抗したいとまで思えないんだ」
そこまで言って口を閉じる。
アレクの反応を待つが、何もないので顔を上げると、顔を赤くしているアレクがいた。
「……アレク?」
「あー、うん。……その安心感って、俺だけか?」
「……そんなの分かんない。他の人にされたことないもの」
「ないのか。あったらあったで嫌だが、正直意外だな。でも、それならいい。これからも俺だけだ。リィカが抵抗しないなら俺の行為も激しくなるだろうから、覚悟しておけよ。――そう考えると、あまり俺に安心しすぎるのも考えものかもな?」
「…………はい?」
アレクの物騒な言葉と笑みに、引き気味になるリィカを、アレクは肩を掴んで引き寄せる。
そのまま、リィカの首筋に唇を寄せた。
「アレク!?」
「動くなよ」
リィカの逃げようとしていた体の動きが止まった。
※ ※ ※
(本当に、抵抗しないんだな)
アレクは思う。
そもそも自分が腰を抱いても、リィカは少し文句を言っただけで後は大人しくしているから、つい調子に乗ったのだ。
自分が言うのも何だが、果たしてリィカはこれでいいのか。あの王太子は論外としても、気をつけていないと、簡単に悪い男に捕まってしまいそうだ。
そう考えると、自分も悪い男の一人か、と苦笑しつつも、リィカの首筋に口付けた。
※ ※ ※
リィカは、チクリ、と首筋に痛みを感じた。
初めての痛み。でも、覚えがある痛みだ。
「――――――!」
慌ててアレクから離れる。手で押さえる。多分、顔は真っ赤になっている。
覚えがあるのは、凪沙の記憶があるからだ。
「何をされたかは分かるのか。それはそれで面白いような、つまらないような」
リィカが開けた距離を、あっさりアレクが詰める。
押さえた手を、簡単に剥がされた。
「初めてやったけど、綺麗に痕つくんだな。授業で教わったときは、小さい痣で何が変わるのかと思ったものだが、想像以上に嬉しくてしょうがない」
授業ってなに? と頭の片隅で疑問に思うが、それ以上に混乱していて言葉が出ない。
「これからもよろしくな、リィカ」
トドメに、指先にキスをされた。
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