転生ヒロインと人魔大戦物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~

田尾風香

文字の大きさ
上 下
138 / 637
第四章 モントルビアの王宮

しおりを挟む
他に誰もいなくなると、体に回された手と、口を塞ぐ手に力が入った。
「リィカに一つだけ教えておく。こうして男の腕の中にいるときに、他の男の名前を言うのはやめた方がいい。男を不機嫌にさせるだけだからな」

不機嫌だと言うことを示すように、アレクの声は低い。
だが、クスッと笑うのが聞こえて、口元の手が外される。

「俺にこういうことをされるのが嫌なら、きちんとそう言え。何だったら、魔法を使っても構わない。そうしたら手は出さない。でも、このままリィカが碌な抵抗をしなかったら、俺はどこまでも調子に乗るからな」

体に回されていた腕も外された。
解放されると、リィカは少しアレクと距離を開けるように動いたが、そこで止まった。
手を伸ばそうとしなくても、簡単に届く距離だ。

「……まだ、よく分かんなくて。いやだ、というよりも、困るっていう方が正解なの」
うつむきながら、ポツポツとリィカは言葉を紡ぐ。
「王太子が、すごく怖くて。でも、アレクに抱きしめられてたら何だか安心できた。守ってもらうつもりなんてなかったのに、あの安心感を思い出しちゃうと、何が何でも抵抗したいとまで思えないんだ」

そこまで言って口を閉じる。
アレクの反応を待つが、何もないので顔を上げると、顔を赤くしているアレクがいた。

「……アレク?」
「あー、うん。……その安心感って、俺だけか?」
「……そんなの分かんない。他の人にされたことないもの」
「ないのか。あったらあったで嫌だが、正直意外だな。でも、それならいい。これからも俺だけだ。リィカが抵抗しないなら俺の行為も激しくなるだろうから、覚悟しておけよ。――そう考えると、あまり俺に安心しすぎるのも考えものかもな?」
「…………はい?」

アレクの物騒な言葉と笑みに、引き気味になるリィカを、アレクは肩を掴んで引き寄せる。
そのまま、リィカの首筋に唇を寄せた。

「アレク!?」
「動くなよ」
リィカの逃げようとしていた体の動きが止まった。


※ ※ ※


(本当に、抵抗しないんだな)
アレクは思う。

そもそも自分が腰を抱いても、リィカは少し文句を言っただけで後は大人しくしているから、つい調子に乗ったのだ。

自分が言うのも何だが、果たしてリィカはこれでいいのか。あの王太子は論外としても、気をつけていないと、簡単に悪い男に捕まってしまいそうだ。
そう考えると、自分も悪い男の一人か、と苦笑しつつも、リィカの首筋に口付けた。


※ ※ ※


リィカは、チクリ、と首筋に痛みを感じた。
初めての痛み。でも、覚えがある痛みだ。

「――――――!」
慌ててアレクから離れる。手で押さえる。多分、顔は真っ赤になっている。
覚えがあるのは、凪沙の記憶があるからだ。

「何をされたかは分かるのか。それはそれで面白いような、つまらないような」
リィカが開けた距離を、あっさりアレクが詰める。
押さえた手を、簡単に剥がされた。

「初めてやったけど、綺麗にキスマークつくんだな。授業で教わったときは、小さい痣で何が変わるのかと思ったものだが、想像以上に嬉しくてしょうがない」

授業ってなに? と頭の片隅で疑問に思うが、それ以上に混乱していて言葉が出ない。
「これからもよろしくな、リィカ」
トドメに、指先にキスをされた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ
ファンタジー
【虐殺者《スレイヤー》】の汚名を着せられた王国戦士エリクと、 【才姫《プリンセス》】と帝国内で謳われる公爵令嬢アリア。 互いに理由は違いながらも国から追われた先で出会い、 戦士エリクはアリアの護衛として雇われる事となった。 そして安寧の地を求めて二人で旅を繰り広げる。 暴走気味の前向き美少女アリアに振り回される戦士エリクと、 不器用で愚直なエリクに呆れながらも付き合う元公爵令嬢アリア。 凸凹コンビが織り成し紡ぐ異世界を巡るファンタジー作品です。

妹が聖女の再来と呼ばれているようです

田尾風香
ファンタジー
ダンジョンのある辺境の地で回復術士として働いていたけど、父に呼び戻されてモンテリーノ学校に入学した。そこには、私の婚約者であるファルター殿下と、腹違いの妹であるピーアがいたんだけど。 「マレン・メクレンブルク! 貴様とは婚約破棄する!」  どうやらファルター殿下は、"低能"と呼ばれている私じゃなく、"聖女の再来"とまで呼ばれるくらいに成績の良い妹と婚約したいらしい。 それは別に構わない。国王陛下の裁定で無事に婚約破棄が成った直後、私に婚約を申し込んできたのは、辺境の地で一緒だったハインリヒ様だった。 戸惑う日々を送る私を余所に、事件が起こる。――学校に、ダンジョンが出現したのだった。 更新は不定期です。

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

知らない異世界を生き抜く方法

明日葉
ファンタジー
異世界転生、とか、異世界召喚、とか。そんなジャンルの小説や漫画は好きで読んでいたけれど。よく元ネタになるようなゲームはやったことがない。 なんの情報もない異世界で、当然自分の立ち位置もわからなければ立ち回りもわからない。 そんな状況で生き抜く方法は?

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

黒豚辺境伯令息の婚約者

ツノゼミ
ファンタジー
デイビッド・デュロックは自他ともに認める醜男。 ついたあだ名は“黒豚”で、王都中の貴族子女に嫌われていた。 そんな彼がある日しぶしぶ参加した夜会にて、王族の理不尽な断崖劇に巻き込まれ、ひとりの令嬢と婚約することになってしまう。 始めは同情から保護するだけのつもりが、いつの間にか令嬢にも慕われ始め… ゆるゆるなファンタジー設定のお話を書きました。 誤字脱字お許しください。

処理中です...