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第四章 モントルビアの王宮

ルイス公爵VS国王

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戦いが終わり、一行は結局またルイス公爵の屋敷に戻ってきていた。
暁斗、泰基、バルの三人はダメージを受けているし、リィカは魔力が空になった。
すぐに旅立てる状態ではなかった。


水蒸気爆発スチームバースト》後も、少しは魔力を残していたリィカだったが、魔族との戦いで上級魔法を使ったことで、魔力が尽きた。
立っていられず地面に座り込んだ。

「僕たちみたいに魔力の多い人は、魔力が空になると力が入らなくなるとは聞いたことありますが……」
ユーリが首を傾げる。完全に魔力が空になった事がないので、実際にその状態を見たのは初めてだ。

「つまり、今リィカは力が入らなくて、立つこともできないってことか?」
アレクはなぜか楽しそうだ。近づいてくるアレクに、リィカは嫌な予感がしても、動くことができない。
そして、あっさり横抱きに抱えられた。

「――アレク!! 少し休めば、魔力なんて回復するから! アレクだって疲れてるでしょ!」
「心配するな。俺はほとんどダメージを受けていない。リィカ一人抱えても大したことない」
そのやり取りを笑顔で見ていたルイス公爵が、今夜一晩泊まるように勧め、一行がそれを受け入れた形だ。



リビングに通される。
リィカはソファに下ろされると、大きく息を吐いた。
だが、自然にアレクが隣に座り、体を支えるように腰に手を回されて、硬直する。

「……アレク、わたしは衰弱しているわけじゃないの。魔力が切れただけ。もう自分で動けるから」
「そうか」
短い返事をしただけで、手を離してくれる様子はない。

(本当に嫌なら、そう言えばいいんだけど)
少し前、サルマと交わした会話を思い出す。サルマに似たような事を言われた。
けれど、拒否する言葉が出てこない。諦めつつも受け入れてしまっている。

アレクが好きかどうかは分からない。しかし、アレクに心配されて守られるのも悪くないかも、と思っていることに気付いていた。


※ ※ ※


ルイス公爵は、屋敷でのんびりはできなかった。
捕らえた王太子とベネット公爵の対応がある。
ジェラードは現場に残した。被害自体は少ないとは言っても、貴族街にあれだけ大きな魔物が現れたのだ。混乱しないわけがなかった。

屋敷内の使用人の人数は、決して多くない。
忙しいだろうに、主人の自分が屋敷にいられず、勇者たちの対応を使用人たちにお願いすることに、申し訳なさも立つ。が、使用人のトップである執事はあっさり言った。

「全く手が掛かりませんから、問題ありません。むしろ、もう少し用事を言いつけて頂いた方が、やりがいがあっていいのですが」
「………そうか」
困った顔をしたルイス公爵が返せたのは、その一言だけだった。



王宮へ向かったルイス公爵は、王太子とベネット公爵を、貴族用の牢に入れる。
王太子は離せ、出せとうるさい。
ベネット公爵は、「なぜ平民が……」と呪詛のように繰り返している。

国王の下へと向かうが、妙に城内が静かだ。誰とも行き会わない。
疑問に思いつつも、国王の私室まで行けば、さすがに兵士が二人立っていた。

国王の護衛だけあって、ルイス公爵はあまりいい感情を持たれていない。それを知りつつも、城内の状況について確認する。そうしたら、隠そうともしない呆れた視線を向けられた。

「ご存じないのですか? 貴族街に魔物が現れたそうです。それで、安全な場所に避難しているんですよ。国王陛下も寝室に籠もられています。城内でも奥まった安全な場所ですから」
ルイス公爵は、あんぐり口を開けた。
呆れたのはこっちだ、と思う。

「現れたのは貴族街だ。城内じゃない。避難させるべきは街の人々だ。その指示を出すべき人間が、真っ先に避難してどうする?」
ルイス公爵の語尾に被るように、私室の扉がバタンと開いた。

「お主ら、やはり私は城内からも出る! 街中の魔物など放置……」
言いかけた国王の言葉が止まる。正面にいるルイス公爵を見て、その形相が歪んだ。
「……フェルドランド!! なぜ、貴様がここにいる!?」
「国王陛下には、ご機嫌麗しく」

麗しくなどないだろうが、わざとらしく頭を下げて挨拶を述べる。
国王は実の兄ではあるが、しばらく兄と呼んでいない。名前で呼ばれるのも、実に久しぶりだった。

「ええい! 貴様に用などない。下がれ! 私は忙しい!」
「魔物を放置して、逃げるおつもりで?」
「私が移動すれば、そこに人が集まる! そこが新しい王都だ!」
集まるわけがないだろう、と思うが、口には出さない。出したところで意味はないからだ。

「Bランクの魔物が、二体現れたそうですね。無論、私も存じておりますよ」
「――Bランク!?」
「――二体だと!?」

反応したのは兵士二人だ。国王は目を大きく見開いて、口をパクパクさせるだけ。
ルイス公爵は口の端を上げる。国王のこの顔を見られたのだから、良しとしよう。

「おや、ご存じなかったのですか? ですが、ご安心を。二体とも勇者様ご一行によって倒されておりますよ。私は目の前で彼らの戦いを見ましたが、凄まじかったですよ。特に、平民出身という魔法使いの少女。混成魔法まで使ったのですから、驚きです」
「…………は?」
なおも呆けたままの国王に、ルイス公爵は意地悪く笑いかけて、本題を切り出した。

「そのBランクの魔物が街中に現れた原因が、王太子殿下とベネット公爵です。目撃証言がありました。目こぼしできる事案ではございませんので、捕らえて牢に入れてあります。詳細をお話し致しますので、このままお時間頂戴致しますね?」

この国王のことだ。下手すれば、無罪放免にしかねない。
現場に残ったジェラードに、できるだけ目撃証言を集めておけ、と伝えてある。おそらく、いくらでも出てくるだろう。

場所が貴族街だというのも、ある意味幸運だった。貴族たちからの不満も出るだろう。
その上で、国王の下す判決がどのようなものになるのか。

(その結果次第では、私ももう遠慮はしない)
ルイス公爵は、覚悟を決めていた。
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