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第四章 モントルビアの王宮

魔族の男

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「アハハハハハハハハハハハ!」
突然、魔族の男が狂ったように笑い出した。

「やるねぇ。さすが、勇者のご一行? まさか気付かれてるなんて!」
またアハハハと笑い出す男に、アレクは喉に食い込むかと言うくらいに剣を突きつけた。

「答えてもらおうか。モルタナにいる理由。そして、あの魔物の卵とやらが何なのか」
「さあ。知らない。オレは頭悪いって言ったの、あんたでしょぉ? だから、もう一人に任せっきり」
突きつけられている剣など全く気にしていないようだ。身を前に乗り出してくる魔族の男に、逆にアレクが剣を引いてしまう。

「でも確か、この国は上にいるのが駄目人間だから、崩せんなら崩せって言われたっけ。ただ勇者が現れたから、実験の成果を見るついでに実力も見せてもらえ、って話だったな」
いきなりベラベラとしゃべり出した男に、逆に警戒が高まる。

「駄目人間とは、どういうことだ! 無礼だぞ!」
「我々は神に選ばれた存在だぞ! それを……」
高まる警戒を全く無視する、王太子とベネット公爵の言葉に、ルイス公爵は額を押さえる。

「黙らせろ」
騎士団員に指示を出せば、猿ぐつわをかまされた。
フガフガ言っているが、この二人に口出しされると話が進まない。

「アハハハ! 面白いねぇ、駄目人間の代表。人間って面倒だよねぇ。魔族は簡単だよ? 女をどうにかしたかったら、力でねじ伏せればいい。戦って勝てば言うことを聞かせられる。ね、簡単でしょ?」
「……………実験とは何だ?」
同意を求められたアレクだが、それには答えずに質問する。

魔族の男は、つまらなそうにした。
「……何だよ、同意してよぉ。寂しいじゃないか。実験の中身なんか、オレ知らないかんね」
「では、この国を、如何にして崩すつもりだった?」
近づいてきて質問をしたのは、ルイス公爵だった。

アレクが警告する。
「公爵、相手は魔族です。何をするか分かりません。もっと離れて下さい」
「……それもそうですね」
警告を受けて素直に後ろに下がる。その上で、ルイス公爵は魔族を見据えた。

「えぇ? 話をするんなら、もっと近寄ろうよ。そんな離れてちゃ、話できないよぉ?」
「別に話は求めていない。質問に答えろ」
冷淡にルイス公爵が返す。

「冷たいなぁ。でも、どうやってって言われてもなぁ。もう一人がやたらと慎重でさぁ。色々調べてからだって言って、詳しく調べてたみたいだよ?」
魔族の男が腕を組む。
アレクの剣に当たるが、まるで気にしない。痛がる様子も怪我をした様子もない。

「そうしたら、国の上部に駄目じゃない人間がいる。国を崩す前に、まずそいつとそいつの息子を殺してからだ、なんて話をしてたら勇者が来ちゃったんだよねぇ。だから、何にもしてないんじゃない?」
ルイス公爵が目を細める。息を呑んだのはジェラードか。

否定しても意味がない。駄目じゃない人間、とは間違いなく自分たちのことだろう。
気付かぬ間に魔族に命を狙われていた、と聞かされて、恐怖が沸いてくる。
無意識に後方に下がる。

「その、もう一人とやらはどこへ行った?」
「知らなぁい。サイクロプスが倒れた時点で、勇者たちに捕まったら嫌だぁ、って行っちゃった。――ああ、もしかして、オレが今その立場?」
相変わらずアハハと笑って、内容の割に悲壮感はゼロだ。

「………さっきから色々情報をしゃべってくれているが、何を考えている?」
「……………………へ?」
魔族の男は、意表を突かれたような顔をする。
首を横に曲げる。

それを見て、アレクは悟った。
「正真正銘の馬鹿なわけか」
何も考えず、自分の知っている事をしゃべっただけなんだろう。
馬鹿ってひどいなぁ、とつぶやく魔族を見ながら、後方に声をかける。

「――ルイス公爵、他に聞きたいことは?」
「生かして捕らえる事はできないか?」
すぐに返事がある。アレクの返答は否定だ。

「できるかもしれませんが、お勧めはしません。どんな能力があるのか、俺たちも分かっていない。人間用の拘束具が、絶対に効果があるとは言えません」
捕らえたつもりでも拘束が全く効果がなく、自由に暴れられてしまえば、この国で対処などできない。ルイス公爵は、そう判断を下す。

「なになに、オレのこと殺すの? ムリだと思うよぉ? 解放した方がいいと思うけどなぁ」
馬鹿にしている風はない。当たり前に当たり前の事を言っている。魔族の口調は、そういう口調だ。

だが、ルイス公爵はそこは触れず、質問を続けた。
「王太子らと接触して、何を企んだ?」
「実験の成果を見るって言わなかったっけ? それと勇者たちの力試し。駄目人間って簡単に言うこと聞くから、面白かったなぁ。脅したら女の子言うこと聞くんじゃないの、って言ったら、その気になるし」
視線がリィカに向く。口元は笑っているが、その目は意外と真剣だった。

「人間にしちゃ魔力多いからさぁ、興味あったんだよねぇ。混成魔法まで使うなんて、予想以上だよ、あんた。駄目人間が何したってムダだね。
 多分、あんたジャダーカ様に目を付けられるよ? 今からもっと魔法の腕磨いとけばぁ? 気に入られれば、生き延びられるかもよ?」

「……ジャダーカ?」
「うん。魔王様の配下、四天王の一人だよぉ。すっごい魔法の使い手でねぇ。……っとと、内情はしゃべるなって言われてたんだっけ。失敗失敗。確かにオレって馬鹿だなぁ。えぇっと、こういう場合は……そっか、皆殺しにしちゃえば問題解決だね」

あまりにも軽く言われて、誰もが一瞬理解をし損ねた。
ほとんど反射的に突き出したアレクの剣は、簡単に弾き飛ばされた。
魔族の男の魔力が高まる。

「泰基!」
「タイキさん!」
「《結界バリア》!」
悲鳴のようなリィカとユーリの叫びと同時に、泰基が唱えた《結界バリア》が魔族の男と六人を包む。

「《灼熱の業火フレイムヘル》!」
その瞬間、魔族の男は炎の上級魔法を放った。
街中というのを全く考慮されず放たれた魔法は、ギリギリ《結界バリア》で防がれる。

しかし、魔物と対戦したときよりもかなり狭い《結界バリア》の空間。その中で上級魔法が放たれたせいで、逃げ場がない。
「《濁流マディストリーム》!」
「《結界バリア》!」

リィカとユーリの対応も早かった。
リィカの魔法で炎は消えて、さらに味方も巻き込みそうだったが、ユーリの《結界バリア》で守られる。

「へえぇ。女の子だけじゃなくて、男の方もいい反応だねぇ。でも、光一つしか使えないんでしょお? それじゃジャダーカ様は興味持たないだろうなぁ」
のんきに魔族の男がつぶやく。

アレクが一気に距離を詰めた。剣が輝く。
「んーと、剣技、だっけ? それだとオレは倒せない……」
「【冠鷹飛鉤閃かんようひくうせん】!」
風の、突きの剣技を放った。
倒せないなど分かっている。それでも。

――やり方など分からない。
ただ、尖れと思った。細く、鋭くなれ、と。
そうしたら、その通りに切っ先が変わった。
細く鋭く尖った切っ先は、その魔族の男の体を貫いた。

「……………あ……れ……?」
なんで。
そう言いたげな顔をして、魔族の男は事切れた。
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