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第四章 モントルビアの王宮

VSカークス③

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「グワァァァァァァァァァァァァ!!」
カークスが大きく叫ぶ。
三つの口から出た炎が一つにまとまる。一つの口から出ていた炎とは比べものにならないほどの威力を宿し、一直線にリィカに向けて射出された。

リィカは呼吸を整える。右手を前に出す。
「《水蒸気爆発スチームバースト》!!」

カークスの炎とリィカの魔法が、ちょうど中央でぶつかった。


※ ※ ※


「スチーム……バースト……?」
何だその魔法は、とルイス公爵は考えて、すぐに思い至る。
「混成魔法か!?」
過去にたった二つ、発動に至った混成魔法。そのうちの一つが、そんな名前だった。

「…………ヒィ!?」
「…………な、なぜ、平民の小娘が、あんな魔法を……!」
王太子が悲鳴を上げる。
ベネット公爵の言葉に、ジェラードが冷たい視線を向け、その言葉も冷たかった。

「彼女が、凄腕の魔法使いだからじゃないですか?」
ジェラードも驚いてはいるが、調べた彼女の噂から納得もできてしまう。

「……へ、平民だぞ……」
「ふざけるな、縄をほどけ! 私は王太子だぞ! こんな所にいられるか! 私の身に何かあったら、貴様らどうしてくれる!?」

ベネット公爵の言葉を遮り、王太子が喚き出す。どうやらすさまじい魔法のぶつかり合いに恐怖したらしい、とルイス公爵は予想し、しかし一言告げただけだ。

「黙って見ていろ」
視線を、戦いの場に戻した。


※ ※ ※


「………………あ……」
暁斗が小さく呻く。

リィカの背中が見える。自分を守る、リィカの背中。優しい手をした、母親のようだと思った人の、背中。
夢の中の、母親の背中と被る。

暁斗の目から、涙が零れた。
体が動かない。
何もできない。ただ見ているだけ。
夢と同じだ。
ただただ、自分を守って死んでいく姿を、見ることしかできない。


「――暁斗!」
体がビクッとする。呼ばれて顔を向ける。
「…………とう……さん?」
どこか痛めたのだろうか。動きがぎこちない。

泰基はホッとした顔をして、しかし哀しそうな顔にすぐ変わる。
暁斗に抱き付くように密着して、魔法を唱えた。
「《上回復ハイヒール》」
痛みが癒えていく。

ようやく、暁斗は自分がカークスの炎を、正面からまともに受けたことを思い出した。
動かなかった体が、動くようになる。

「アキト! タイキさん!」
アレクたちが駆け付けてきた。

「…………倒したの?」
暁斗の、主語のない問いだが、アレクは理解したらしい。

「ああ、サイクロプスは倒した。……アキト、大丈夫か? ――泣いているぞ」
「……………え?」
手を持っていけば、確かに濡れていた。
「……………なんで?」
いや、何でなんて分かってる。自分を守る、リィカの背中が見えるからだ。

カークスの炎と、リィカの魔法。
中央でせめぎ合っていた。


「アキト、休んでいろ。後は俺たちがやる」
「三人とも待ってくれ。――暁斗、動けるな?」
アレクが身を翻し、それにバルとユーリが続こうとするのを、止めたのは泰基だった。
泰基は、厳しい目を暁斗に向ける。

「…………父さん?」
「泣くだけで動けないなら、この先戦っていくのは無理だ。魔王討伐の約束は俺が果たす。聖剣を俺に渡して、お前はアルカトルで待ってろ」
泰基は右手を差し出す。

暁斗は、その手を見る。自分に差し出された手じゃない。聖剣を受け取るための手だ。
リィカを見る。
今だ、魔法のせめぎ合いが続いている。
背中しか見えなくても分かる。リィカは、死ぬ気なんかない。せめぎ合いを、制するつもりでいる。

(母さんはどうだったんだろう? 死んでも守るなんて、そんなつもりなかったのかな?)
死んでしまったのはただの結果でしかないのだろうか。
そんな考えが頭に浮かんで、さらに泣きそうになる。

こぼれそうになる嗚咽を必死に押さえる。腕で乱暴に目元を拭う。
「――聖剣は、父さんにだって使えないよ。オレの剣だもん」
成功しているとも思えなかったが、せいぜい不敵に笑ってみせる。

立ち上がって、泰基を押しのけて、リィカの方に向かう。
わずかに苦笑の気配がした。


暁斗の後に、泰基も続く。
近づけば、リィカが軽く視線を向けてきたが、すぐに正面に戻す。

「――今から一気に炎を押し返すね。……ごめん、その後はよろしく」
リィカの表情が辛そうだった。
それに気付いて、泰基は頷いた。

「分かった」
むしろ、押し返すと言い切ったことに驚きだ。
もしかして、自分たちが戻るまで、わざとこの状態を保っていたのだろうか。

「リィカが押し返したらそのまま突っ込むぞ。壁が出現したら俺が破る。お前は、その後全力で攻撃すればいい」
暁斗は黙って頷いた。

どうやって壁を破るのか、なんていうのはどうでもいい。破ると言ったなら、きっと破れるんだろうから。

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