転生ヒロインと人魔大戦物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~

田尾風香

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第四章 モントルビアの王宮

VSサイクロプス③

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「《強化・力ピュー・フォルテ》」
効果が切れるからと、もう一度ユーリが強化魔法を唱え、バルにかける。

最初に使った強化魔法は、通常の強化魔法を広範囲に、近くにいる味方全員に掛けることのできる魔法。
そして、今回は通常の強化魔法だ。ひとまずバルにだけかけた。


アレクは、サイクロプスの攻撃を躱し、あるいはいなす。
さすがに、バルのようにまともに攻撃を受けられる自信はない。
それに、強化魔法の効果も切れかかっている。

バルが近づいてきたのが分かり、振り返りもせずに声をかける。
「大丈夫か?」
「ああ。心配すんな。――ユーリが強化魔法掛けるとよ。あんまり動かれてっと狙いが定まんねぇから、少しジッとしてろだと」

バルが親指でクイッと示したのは、ユーリだ。目が合う。
バルがサイクロプスの攻撃を引き受けてくれたので、いったんアレクは立ち止まる。

すぐに魔法がかかったのが分かり、軽く手を上げてからバルに合流する。
「それで、どうする?」
「切断した左腕はそのままだ。だから、右腕を切断すれば棍棒も使えねぇ」
「――分かった」

アレクの決断は早い。細かいことは聞かず、そのままサイクロプスの右側へ回っていく。
バルは、サイクロプスの正面に立つ。
サイクロプスが、大きく棍棒を上に振り上げた。

その瞬間。
「《輪光リング・ライト》!」
先ほど左腕を切断したユーリの魔法が、発動する。

「ガァァァァァァァァァァ!」
再び棍棒に光が帯びる。《輪光リング・ライト》を棍棒で叩き潰し、そのままバルに振り下ろされる。

だが、バルの口元に、不敵な笑みが形作られた。
「真っ向勝負といこうぜ! ――【獅子斬釘撃ししざんていげき】!」
棍棒と剣がぶつかるタイミングに合わせて、バルは土の剣技を炸裂させ……、爆発が起きた。

「――どわぁぁぁぁ!」
「ガァァァァァァァ!?」
バルが跳ね飛ばされる。
サイクロプスは、その場で右手と膝を地面に付けていた。

それを見てユーリが動く。
「《結界バリア》!」
狙いは地面についた右手。動かせないように《結界バリア》で囲い込む。

「――ガァッ!?」
手首から下を《結界バリア》で囲まれて、サイクロプスががむしゃらに手を動かすが、
結界バリア》は壊れない。

「今です!」
「【冠鷹飛鉤閃かんようひくうせん】!」
ユーリが叫ぶのと、アレクが剣技を放つのは同時だった。

風の、突き技の剣技。
それがサイクロプスの右腕に命中。その腕を切断した。



「よし! ………………?」
思わずユーリが拳を握った所で、すぐに異変に気付く。

「アレク! 離れてください!」
「ガァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」
サイクロプスの全身に、光が帯びる。
魔力が今までになく全身にあふれているのが、ユーリには分かった。

「――何だ!?」
アレクが距離を取りつつ、つぶやいている。
跳ね飛ばされたバルは、何とか上半身を起こした所だ。

三人のいる場所はバラバラだ。ユーリは《結界バリア》をと考えるが、同時に三ヶ所、張ることなどできるのか。
「いえ、不可能なんか絶対にありません!」
自らを鼓舞するように言う。

「《バリ》……」
しかし、唱えかけて止まった。

「…………ガ………ア………?」
サイクロプスの動きが止まった。あふれていた魔力が、急速に抜けていく。
「……………ガ……ガ……?」
何が起こったのか分からない。そんな表情のまま、サイクロプスの体は、足下から崩れていった。

「…………え?」
「…………は?」
「…………なんだ?」

意味が分からないのは、アレクたちも一緒だった。
もはや元の形すら留めていないサイクロプスを呆然と見ていた。



「グワァァァァァァァァァァァァ!!」
叫び声にハッとする。
カークスはまだ健在だ。

「――まだ戦えるか?」
「待ってください。バルは《回復ヒール》を……」
ユーリは慌てて言った。
バルは、サイクロプスと二度も正面からぶつかって、飛ばされている。だから、バルだけでも回復をと思ったが、バルの返事は素っ気ない。

「いらねぇ。動けっから大丈夫だ」
「――あ、ちょっと! ……もう!」
さっさと駆け出すバルとそれを追うアレクに、ユーリは手を伸ばすが、諦めて後を追った。


※ ※ ※


「あれ? サイクロプス、どうなっちゃったの?」
戦いを見ていたフードを被った男が、もう一人の男に問いかける。

「……大きなダメージと、限界を超えて魔力を使おうとしたせいで、体が保たなかった。それだけだ」
「どういうこと? オレ頭良くないんだからさぁ。分かりやすく言ってよ」
しかし、もう一人の男はそれに答えず、立ち上がる。

「行くぞ。もう少し離れる」
「なんで? ここ、よく見えていいのに」
「こちらから見えるということは、向こうからも見えるということだ。魔物を倒し終えた奴らに、捕まりたくないだろう?」
「大丈夫じゃない? ここだって十分距離あるよ?」
もう一人の男は、フンと鼻を鳴らす。

「――勝手にしろ。俺は行く」
「はーい。勝手にしまーす」
動く様子を見せない男をジッと見て、もう一人の男は、その場から離れていった。
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