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第四章 モントルビアの王宮
学園の期末期テスト
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一通りリィカが話を終えると、ルイス公爵は、ふむ、と言ってそのまま黙った。
リィカは、最初兵士に後ろ手に拘束され、ずっとそのままだと言った時、コッソリ暁斗の反応を確認した。しかし、何も気付いてなさそうだと安心した。
暁斗にねだられて頭を撫でて上げたあの行為が、実は痛くて辛かった、とは知って欲しくない。
しかし、代わりにそれを見ていたアレクと泰基の表情が変わったのが分かる。
暁斗には言わないで、という想いを込めて視線を送ってみたが、どうなるか。
「話してくれて感謝する。本当に辛い思いをさせてしまった。すまない。王太子たちの罪は必ず明らかにしてみせる」
ルイス公爵は頭をさげ、しかしそれにリィカが反応する前に、さらに言葉を紡ぐ。
「牢番も兵士も、手慣れている感じだ。かなりの頻度であの牢屋を使っているんだろうな」
ルイス公爵は考えをまとめるように、腕を組んで誰ともなしにつぶやく。
リィカは、恐る恐る問いかけた。
「……あの、王太子ってどうしていますか?」
王太子からしたら、衰弱させて準備万端。これから本番と言うときに、横から浚われたのだ。何かしらの報復があっても、おかしくない。
「イライラはしているね。ただ、いつものことだから気にしなくていい。何かやらかさないように監視はしているけれど、今のところ何もない。さすがに、これ以上勇者一行に手を出すことはないと思うよ」
そうであることを願いたい、と思う。
リィカは、手を握りしめた。
※ ※ ※
ルイス公爵が席を立ち、六人だけの場になる。
「――リィカは、一人で何とかするつもりだったんだな」
やりきれないようにつぶやくアレクに、リィカは笑う。
「みんなが知ってるなんて思わなかったもの。魔法が封じられることさえ防げば、何とかできるかなぁ、って」
実際には、想像以上に体が動かないから不安になっていたが、そこは言わない。
「……どうやって、みんなは知ったの?」
そこも疑問と言えば疑問だ。
アレクが、リィカにマルティン伯爵のことを説明する。
「そうだったんだ……。動けるようになったら、一度お礼に伺いたいな」
「どっちにしても、出立前には挨拶したいからな。その時一緒にお礼をしよう」
コクン、と頷いた。
※ ※ ※
順調にリィカは回復した。
泰基が「若いっていいな」とつぶやき、笑いを誘った。
次の日には、普通に動けるようになる。
そうなると、リィカはジッとしていられない。次の日に出発することを決めた。
ちなみに、リィカの荷物はルイス公爵が取り戻してくれた。
中身が全部無事、というか、お風呂の魔道具が無事であることに一同が喜んだのは、言うまでもない。
マルティン伯爵のところへも挨拶に伺った。
リィカが頭を深く下げてお礼を伝えると、マルティン伯爵は微笑ましそうに笑って、無事を喜んでくれた。
「学園で、魔法の実技試験で一位を取ったそうだね。でも勉強も頑張っていたようだから、そこだけは旅に出たことが少し残念かな」
リィカは首をすくめた。
「……頑張ってないです。筆記試験は、下から数えた方が早い順位でした」
「君は学園入学時、読み書きができなかったんだろう? だから中間期の筆記テストは最下位だった。それが、期末期には一気に順位を押し上げたんだ。見事だよ」
「……ありがとうございます。詳しいんですね」
「私の性だね。学園の平民クラスに入る子は、その辺の貴族よりよほど優秀だ。だから、情報は集めているんだよ」
リィカに穏やかに笑ったマルティン伯爵だが、アレクに意味ありげに視線を向ける。
「ところで、アレク様は筆記試験はいかがでした?」
「……知らん。興味もない」
ふいっと視線を逸らす。マルティン伯爵は、わざとらしくため息をついた。
「まったく。真面目にやればできると思うのですがね。期末期のアレク様の筆記試験の結果ですが、リィカ嬢の一つ下の順位だったのですよ。少し前まで読み書きのできなかった方に負けたのです。旅が終わりましたら、きっちり勉強なさいませ」
アレクが衝撃を受けた顔でリィカを見ると、リィカが頷いた。
「……ほんとに知らなかったの?」
「……だから、興味なかったと言っただろう」
当時、リィカの名前くらいはアレクだって知っていた。興味があって結果を気にしていれば気付いたはずだ。
興味あるなしというよりも、どうせ結果は悪いのだから、あえて気にしないようにしていた、というべきか。
アレクはガックリと肩を落とした。
リィカは、最初兵士に後ろ手に拘束され、ずっとそのままだと言った時、コッソリ暁斗の反応を確認した。しかし、何も気付いてなさそうだと安心した。
暁斗にねだられて頭を撫でて上げたあの行為が、実は痛くて辛かった、とは知って欲しくない。
しかし、代わりにそれを見ていたアレクと泰基の表情が変わったのが分かる。
暁斗には言わないで、という想いを込めて視線を送ってみたが、どうなるか。
「話してくれて感謝する。本当に辛い思いをさせてしまった。すまない。王太子たちの罪は必ず明らかにしてみせる」
ルイス公爵は頭をさげ、しかしそれにリィカが反応する前に、さらに言葉を紡ぐ。
「牢番も兵士も、手慣れている感じだ。かなりの頻度であの牢屋を使っているんだろうな」
ルイス公爵は考えをまとめるように、腕を組んで誰ともなしにつぶやく。
リィカは、恐る恐る問いかけた。
「……あの、王太子ってどうしていますか?」
王太子からしたら、衰弱させて準備万端。これから本番と言うときに、横から浚われたのだ。何かしらの報復があっても、おかしくない。
「イライラはしているね。ただ、いつものことだから気にしなくていい。何かやらかさないように監視はしているけれど、今のところ何もない。さすがに、これ以上勇者一行に手を出すことはないと思うよ」
そうであることを願いたい、と思う。
リィカは、手を握りしめた。
※ ※ ※
ルイス公爵が席を立ち、六人だけの場になる。
「――リィカは、一人で何とかするつもりだったんだな」
やりきれないようにつぶやくアレクに、リィカは笑う。
「みんなが知ってるなんて思わなかったもの。魔法が封じられることさえ防げば、何とかできるかなぁ、って」
実際には、想像以上に体が動かないから不安になっていたが、そこは言わない。
「……どうやって、みんなは知ったの?」
そこも疑問と言えば疑問だ。
アレクが、リィカにマルティン伯爵のことを説明する。
「そうだったんだ……。動けるようになったら、一度お礼に伺いたいな」
「どっちにしても、出立前には挨拶したいからな。その時一緒にお礼をしよう」
コクン、と頷いた。
※ ※ ※
順調にリィカは回復した。
泰基が「若いっていいな」とつぶやき、笑いを誘った。
次の日には、普通に動けるようになる。
そうなると、リィカはジッとしていられない。次の日に出発することを決めた。
ちなみに、リィカの荷物はルイス公爵が取り戻してくれた。
中身が全部無事、というか、お風呂の魔道具が無事であることに一同が喜んだのは、言うまでもない。
マルティン伯爵のところへも挨拶に伺った。
リィカが頭を深く下げてお礼を伝えると、マルティン伯爵は微笑ましそうに笑って、無事を喜んでくれた。
「学園で、魔法の実技試験で一位を取ったそうだね。でも勉強も頑張っていたようだから、そこだけは旅に出たことが少し残念かな」
リィカは首をすくめた。
「……頑張ってないです。筆記試験は、下から数えた方が早い順位でした」
「君は学園入学時、読み書きができなかったんだろう? だから中間期の筆記テストは最下位だった。それが、期末期には一気に順位を押し上げたんだ。見事だよ」
「……ありがとうございます。詳しいんですね」
「私の性だね。学園の平民クラスに入る子は、その辺の貴族よりよほど優秀だ。だから、情報は集めているんだよ」
リィカに穏やかに笑ったマルティン伯爵だが、アレクに意味ありげに視線を向ける。
「ところで、アレク様は筆記試験はいかがでした?」
「……知らん。興味もない」
ふいっと視線を逸らす。マルティン伯爵は、わざとらしくため息をついた。
「まったく。真面目にやればできると思うのですがね。期末期のアレク様の筆記試験の結果ですが、リィカ嬢の一つ下の順位だったのですよ。少し前まで読み書きのできなかった方に負けたのです。旅が終わりましたら、きっちり勉強なさいませ」
アレクが衝撃を受けた顔でリィカを見ると、リィカが頷いた。
「……ほんとに知らなかったの?」
「……だから、興味なかったと言っただろう」
当時、リィカの名前くらいはアレクだって知っていた。興味があって結果を気にしていれば気付いたはずだ。
興味あるなしというよりも、どうせ結果は悪いのだから、あえて気にしないようにしていた、というべきか。
アレクはガックリと肩を落とした。
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