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第四章 モントルビアの王宮

発見

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暁斗が外に出た、という報告に立ち上がったのは、アレクたちも一緒だった。

「何をやっているんだ……!」
アレクが小さく毒づいて集中する。
暁斗の気配はすぐに見つかった。
何かに向かって、一直線に走っている。
それは……。

「「――リィカ!?」」
考えるよりも先に呼んだ名前は、バルと見事に声がそろった。

アレクが駆け出す。
状況が読めずに困惑している泰基とユーリに、バルが指示を出した。

「タイキさんは、アレクに付いて行ってくれ! リィカがいる! アキトもそこに向かってる! ユーリはおれと一緒に来い!」
「――分かった」

泰基は短く返事をして、走り出した。
詳しい事はいい。リィカがいるのなら、そこに行くだけだ。


※ ※ ※


ベネット公爵は、混乱していた。

勇者がなかなか厄介だった。
酒を飲まない、と言っていた事はもちろん知っていた。
しかし、出した。

どうせ分からない、と思ったのもある。
そして、酔った所に女を送り込めば、簡単に既成事実を作れるだろうとも考えた。

勇者が手を出してしまえば、後はそれをネタに旅に連れて行くように言うだけだ。勇者一行に自らの手の内の者がいれば、いくらでも勇者一行を操ることができるだろう。
そう考えていたのに、簡単に崩れ去った。

そしてさらに、勇者一行がこの場からいなくなった。
リィカとは、例の小娘の名前のはず。
アレがいるのは敷地の外れだ。何がどうして、いることがばれたのかが分からない。

あの小娘は、今夜、王太子殿下が犯して遊ぶ予定の娘なのだ。
ここにきて、なくすわけにはいかない。

「勇者様方をお止めしろ! 屋敷に連れ戻すのだ!」
ヒステリックに、ベネット公爵は叫んだ。


※ ※ ※


小屋の中、リィカは壁に寄りかかりながら、今後の対策を考えていた。
どうやって、王太子から逃げ切るか。
みんなと合流するか。

しかし、考えようとしても、思考がまとまらない。
気が付けば、ボーッとしている。意識が飛んでしまう。
眠れていないことが原因か。食事が取れていないことが原因か。
焦りがあるだけで、その先へ思考が進んでいかなかった。

ドンドン

強く扉が叩かれて、リィカはビクッとする。
(王太子たちが、来たの?)
しかし、聞こえた声は懐かしく、そして意外だった。

「リィカ! ここにいるの!?」
「……暁斗?」

ポツリとつぶやく。
カタン、と閂の外れる音がする。扉が開いた。
「見つけた! リィカ……!」
そこにいたのは、泣き出しそうな顔をした暁斗だった。


※ ※ ※


「バル、僕たちは行かないんですか!?」
「行くさ。でも、リィカを見つけられたんだ。ここに留まる理由もねぇだろ。全員の荷物を持って、リィカと一緒に出てこうぜ」
「……僕も、荷物持ちなんですね」
ユーリはがっくり肩を落とした。

バルが、アレクと暁斗の。ユーリが泰基の荷物を持ったが、外へ向かう通路はこの屋敷の兵士が塞いでしまった。
「窓から行こうぜ」
簡単にバルが言うが、ユーリは目をむいた。

「待って下さい! ここ、三階ですよ!?」
「大丈夫だろ」
「僕をあなたと一緒にしないで下さいよ!」
「じゃあどうすんだよ。あの兵士ども、吹っ飛ばすか?」

別にそれならそれでもいい、とあっさり言われて、ユーリは首を横に振る。
暴力的なことは、しないほうがいい。

「――ああ、あの手がありますね」
ユーリは窓を開けて、魔法を唱えた。

「《結界バリア》」
すると、窓の下に透明の階段が現れて、それが地面にまで続いている。

「これでよし、と。行きましょう」
ユーリが、窓から《結界《バリア》》で作った階段に乗る。
それに続きながら、バルがぼやいた。

「おい、何だこれ」
「何と言われましても、《結界バリア》ですけど」
「こんな形の《結界バリア》があるか!?」
「そんなの、イメージでどうにでもなります」
バルがため息をついた。

「最近、薄々感じちゃいたが……、お前の魔法、リィカの非常識に近づいてるよな」
「失礼ですよ、それは! 僕のは至って常識の範囲内じゃないですか!」
バルは、どこが常識だよ、と心の中だけで反論した。


地面に降りて上を見れば、異変に気付いたらしい兵士が窓から出ようとしていた。
それを見たユーリが、少し笑って《結界バリア》を消し去った。
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