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第四章 モントルビアの王宮

アルカトルの大使①

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アレクたちは、アルカトルの大使の元へと向かっていた。

馬車を出すと言われたが、断った。
歩いても五分程度で着くのだ。なぜ馬車がいる。

それでも食い下がってこようとするのを泰基が改めて断って、相手も引き下がった。


「……本当にアレクの立場、弱いな」
歩きつつ泰基がこぼせば、アレクが落ち込んだ。
「……全くだよな。バルとかユーリとかの方が、よっぽどいい」

謁見の間での出来事を思い返して、アレクはしみじみ思う。
自分が言ったことは、見間違いの一言で笑い飛ばした国王たちが、バルたちの言葉は信じたのだから。

「おれじゃなくて、親父の名前がでけぇだけだ」
「僕もですよ。父様が、このモントルビアでも色々尽力したことがあるらしいですから、名前を出しただけです。――父の名前をひけらかすの、好きじゃないですけど、ああいう相手には効果抜群でしたね」
だから気にするな、と慰める。

「オレは、アレク、すごいと思う。苦手だって言ってるのにすごい。――すごく頭いいなあって思ってたのに、真面目に勉強してなかったとか、ちょっと驚いた」
暁斗の言葉に、アレクは少し目を見開いた。

「……俺は頭悪いぞ。何がどうして、頭いいなんて評価になる」
「だって魔物のこととか教えてくれるし、難しい言葉遣いもできるし。国のこととか色々詳しいし」
「……最低限必要なことは、兄上にたたき込まれたからな。兄上に勉強するぞと言われると、拒否できなかった」

すると、ユーリがクスクスと笑い出す。
「そうやって、王太子殿下がアレクに勉強を教える方向に話を持っていったのが、今からお会いする方だそうですよ。――ほら、到着です」

大きな屋敷がある。門の前には執事服に身を包んだ男性が立っていた。


アレクたちの姿を見て、その男性……老人といってもいい年齢の人は、深く一礼した。
「久しぶりだ。確か……チャド、だったよな?」
アレクが声を掛けると、その男性、チャドは、顔のしわを深くして笑みを浮かべる。

「はい。覚えていて頂けたとは、光栄でございます。お久しぶりでございます、アレクシス殿下。すっかりご立派になられましたな。やんちゃが過ぎて、我が主を困らせていたあの頃が懐かしい」

「………………………余計なことは言うな。というか、忘れろ。マルティン伯爵はいらっしゃるか?」

「ええ、無論にございます。殿下がいらっしゃるのを、楽しみにしておりますよ。それから、殿下が我が主に、いらっしゃる、という言葉は使うものではありません。いるか、でよろしゅうございますよ」

「……………………………」
ふて腐れたアレクをチャドは笑って、でも、その目は孫を見るかのように優しい目で見て、改めて一礼した。

「このような場所で長話をしていては、主に怒られてしまいますな。――皆様方、どうぞ中へ。ご案内致します」
こうして一行は、アルカトルの大使の館へ入っていった。


※ ※ ※


チャドに案内されて、中を歩く。
たどり着いた先、ソファに座っていた男性が立ち上がる。
そろそろ老人に差し掛かろうか、という年齢の男性が、そこにいた。

「……久しぶりだな。マルティン伯爵」
「ええ、アレク様。お久しゅうございます」
男性は、穏やかな笑みを浮かべていた。


「勇者様には、お初にお目に掛かります。レジナルド・フォン・マルティンと申します。お見知りおき下さいませ」

挨拶をした後、アレクが黙りこくってしまったので、男性は席を勧めた後、そのまま他のメンバーに向き直って、挨拶を始めた。
泰基と暁斗もそれぞれ挨拶をする。

「バルムート殿と、ユーリッヒ殿も、お久しぶりでございます」
「お久しぶりです」
バルとユーリとも挨拶を交わし終えると、今度はチャドを示す。

「先ほど、皆様方をお迎えしたこの者は、チャドと言います。私の側近として、色々と頼りにしておる者です」
「改めまして、ご挨拶申し上げます。チャドと申します。よろしくお願い申し上げます」
こうして一通り挨拶を済ませると、マルティン伯爵がアレクに向き直った。

「それで、アレク様はいかがなさいましたか? 本来でしたら、アレク様が勇者様方の紹介をせねばならぬ所ですよ」
「……分かっている。分かっているが、ただ、少し……」
アレクは唇を噛みしめる。

「……ただ少し、年を取ったな、と思ったら、口を開けなくなった」
マルティン伯爵がその顔に少し驚きを浮かべ、すぐに穏やかに笑う。

「おやおや、それは困ったものですね。アレク様が成長なされば、当然私とて年を取りますよ」
「……だから、分かっている」
ふて腐れたように言い捨てるアレクを、優しい目で見る。

「昔を思い出して感傷に浸るのは、年寄りの特権ですよ。若い方は、前を、未来を、向いていなさい」
そして、さて、と話を切り出した。

「アレク様は、モントルビアの王宮に来れば、ご自分が大変な思いをすると分かっていたはずです。それでもこちらにいらっしゃった理由を、お伺い致しましょう」
マルティンは、あくまでも、アレクに優しく労るように、本題に入っていった。
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