転生ヒロインと人魔大戦物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~

田尾風香

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第四章 モントルビアの王宮

久しぶりの会話

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部屋の準備ができたと案内される。
ついでに、食事も部屋に運んでもらえるように頼む。
食事を運んできた使用人たちが、部屋に待機しようとするので、出て行ってもらう。
部屋に誰もいなくなった所で、ようやくアレクたちは気を緩めた。


「……タイキさん、助かった」
アレクはソファにもたれかかって、グッタリしていた。
心なしか、顔色も良くない。

泰基は、そんなアレクを気遣わしげに見る。
「勇者の名前なら、ある程度無理は利かせられるかと思ったんだ。あの綱渡りのような謁見が今後も続くんじゃ辛い。とにかく話をしないと、と思って押し込んでみた」

「ああ。いきなりで驚いたが、確かにこっちの方がいい。それぞれ別室にされたんじゃ、満足に話ができたかどうかも、分かんねぇからな」
バルが泰基に頷き、アレクを見る。

「大丈夫か? とりあえず食うぞ」
「…………そうだな」

元気なく言って、体を起こすと、アレクは食事に手を伸ばす。
そして、うつむいている暁斗に声をかけた。

「アキト、悪かった。――嫌な思い、させてしまったな」
「ううん、そんな、いいよ。……オレこそ、何も役に立てなくて、ゴメン」
暁斗は慌てて首を横に振る。しかし、またすぐにうつむいた。

「……リィカ、大丈夫かな」
さすがに暁斗も分かった。
アレクでさえ、あれだけ見下されていたのだ。平民のリィカが来ていれば、あんなものじゃ済まなかっただろう。

アレクも、苦しそうな顔をする。
「リィカに会ったら、謝るさ。……許してもらえなくても、しょうがない」
「大丈夫だ、リィカだって分かってる。城になんて行きたくないから良かった、とか言って、それで終わるさ」

落ち込むアレクに、泰基は明るく声をかける。
間違いなく、そうなるだろうと泰基は思っている。


「それより確認しておきたい。アルカトルの大使はどんな人だ?」
話をする時間がずっと続くとも限らない。
早めに必要事項の確認はしておきたかった。

そんな泰基の気持ちが分かったのか、各自が表情を引き締める。
「大使は、マルティン伯爵、という人だ。……会いたくないな」
アレクがポソッとつけた最後の一言に、泰基と暁斗の表情が固くなるが、バルとユーリは呆れた顔をした。

「何言ってんだ。人格者として知られている人だろ」
「確か、王太子殿下とアレクの小さい頃、教育係をしていた人じゃなかったですか?」
「……だから会いたくないんだよ。絶対に、二言目には小言がくる」
「真面目に勉強しなかったからじゃないですか」
「……うるさいなぁ」

そのやり取りに、泰基はホッとする。
それなら、おそらく大使は大丈夫だろう。

「提案なんだが、その大使が信用できるなら、リィカの保護を頼めないだろうか」
泰基が提案すると、全員が驚いた顔をした。

「……おそらくだが、明日の出発もあの調子じゃ難しい。理由は知らないが、どうにかして引き留めようとしている様子がある。それでも強引に出発する、という方法も使えなくもないだろうが、諍いを起こさずに済むなら、その方がいいだろ?」

「……引き留めようとしている?」
アレクが訝しげに繰り返す。
皆が不思議そうな顔をしていて、泰基は言葉を探す。

「……魔族のことを話す前、アレクが一刻も早く北に向かうと言った時の反応が、曖昧だったというか。普通なら、即同意する所だろう?
 魔族のことを話した後に、ここに留まれと言った時の国王の顔が、良い口実を見つけた、みたいな顔をしていた、というのもある」

「言われて見れば、確かに僕も違和感を覚えましたね」
「そうだな。一瞬、疑問に感じたのは確かだ」
ユーリとバルはそう言うが、アレクは首をかしげるばかりだ。

「……そうだったか?」
「アレクは、国王とのやり取りで精一杯だっただろ。しょうがない。
 で、話を戻すが、もし明日も出発できないとなると、さすがにリィカも不安になるだろうし、俺たちとしても気がかりだ。だから、信頼できるところにいてもらえるなら、その方がいいと思ったんだが、どうだ?」

提案はするが、泰基自身がその大使を知っているわけではない。
だから、知っていそうな三人に最終的な判断は任せるしかない。

「……タイキさんの中では、明日も出発できない事は、確定か?」
アレクに聞かれ、頷く。

「ああ。おそらく無理だろうな。上手くあの国王を言いくるめられれば別だが、俺もそこまで自信ないし、アレクも無理だろ。それこそ力尽くで出て行くくらいしか、手段が思い浮かばない」
泰基は腕を組む。

「気になるのは、引き留めたがる目的がなんなのかが分からない、という所だな」
おそらく碌な内容じゃないだろうな、と思うだけに、気が滅入る。

「……分かった。マルティン伯爵に頼んでみよう。小言はうるさいが、信頼はできる」
アレクが頷く。

――そのリィカが、城の地下牢に入れられている事は、彼らは知りようもなかった。


「もう一つ、聞いておきたい。この国に、お前たちが信用できて、なおかつ接触可能な人物は、誰かいないのか?」
泰基の質問に、アレクは一瞬躊躇ってから頷く。

「いる。――が、あっちの立場もこの国じゃ微妙な所だ。正論を言っては睨まれているらしいからな」
そんな立場だから、おそらく自分たちとの接触を好まれないし、接触したところで、誰かがずっと張り付いているかもしれない。
接触するとしたら、裏でコッソリでないと、無理。

そこまでアレクは言って、相手の名前を口にした。
「現国王陛下の弟殿下で、ルイス公爵家に婿に入った、フェルドランド・フォン・ルイス公爵。そして、その嫡男のジェラードだ。この人たちなら、信用できる」
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