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第四章 モントルビアの王宮
謁見②
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「……ふむ。その方は?」
「バルムート・フォン・ミラーと申します。父は、アルカトル王国、騎士団長の任に付いております」
「おお! ミラー騎士団長殿のご子息か。これは心強い。かの団長殿には、幾度か魔物の退治を手伝って頂いたことがある」
アレクに対していた時とは一転して、国王は笑顔を浮かべる。
「騎士団長殿のご子息の言とあらば、聞かねばなるまい。――して、何かな?」
「先ほどアレクシス殿下の仰った件です。私も魔族と遭遇、交戦し、それを討っております。
伝承にある、細く尖った長い耳を持ち、髪も肌も白い色をした化け物、そのままの姿でございましたし、自らが魔族であると認める発言もしておりました。魔族が入り込んでいることに間違いはございません」
一礼するバルを見つつ、国王は顎を撫でる。
「ふむ、そうか。そこまで言うのであれば、間違いはないのであろうが……。しかし、北の三国が堕ちたばかりというのも確かであるぞ? なぜ魔族がいる?」
「私からも発言よろしいでしょうか」
今度は、ユーリが口を開く。
国王に視線を向けられて、一礼する。
「アルカトル王国の神官長、テオフィルス・フォン・シュタインが一子、ユーリッヒと申します」
国王の目がわずかに見開く。
「ほお。シュタイン神官長殿のご子息か。騎士団長殿のご子息に加え、神官長殿のご子息まで旅に同道しているとは。アルカトルの国王陛下も、随分と貴重な人材を出したものだ」
「それだけの大事にございますれば」
「うむ。それは違いないな。して、何かな?」
「交戦した魔族の発言です。人間は、自分たちが真っ正面からしか攻めてこないと信じている、そんな事はあり得ないのに、とこちらを愚弄した発言をしておりました」
実際は、「そんな事はあり得ない」とは言っていなかったが、そこは分かりやすくするための方便だ。
国王が顔をしかめた。
「つまりは、正面から攻める他にも、潜伏工作などもしてくるということか? 何と厄介な。
――では、その旨、各国の大使に伝える事としよう。それでよろしいかな?」
「はい。お願い致します」
流れでそのままユーリが会話を続ける。
国王が、何かを思いついたというように、手を叩く。
「アルカトルの大使には、そなたら自身が話をすれば良い。しかし、他国の大使から何かしら疑問が出る可能性は非常に高い。今日、明日くらいは、我が国に留まって頂きたいが、よろしいかな?」
ユーリは、思わず顔をしかめそうになって、何とか表情を保つ。
よろしいかよろしくないかで聞かれれば、はっきり言ってよろしくない。
とは言っても、国王の言いたいことも分からないでもない。
だが、これに対しての返答はアレクからするべきだろう、と思い、視線を向ける。
アレクは、苦しそうな表情を浮かべている。
「――本日、留まることはお約束いたします。しかし、ゆっくりしていられる状況でないのも確かです。できれば、明日朝には発ちたい」
今日は、まだ早い時間だ。疑問・質問があるにしても、今日一日あれば十分なはず。
そんな気持ちを込めてアレクは言ってみるが、国王に受け流された。
「では、その辺りはまた明日話をすると致そう。それぞれに部屋を用意しよう。それと、食事がまだとの事だったな。食事の後に、大使の元へ向かうと良い」
アレクは、黙って頭を下げるしか、できなかった。
「一つ、要望を出させてもらっていいでしょうか」
泰基が口を開いた。
「部屋ですが、我々五人を一部屋にして頂きたい」
周囲がざわつき、アレクとバル、ユーリが驚いて泰基を見る。
「勇者様、大変申し訳ないが、それはできかねます。勇者様は至高のお方です。それを、いかに旅に同道している者とは言え、同室にするなど……」
国王は言いながら、その視線はアレクに向いている。
それに気付いて、泰基はアレクの想像以上の立場の悪さに同情したくなる。
「構いません。今後の旅の予定なども話し合いをしたい。同室の方が、都合がいいのです」
泰基に譲る気がないのに、国王も気付いたのだろう。
「承知致した」
そう言って、周りに指示を行う。
その様子を見ながら、泰基は思う。
(勇者という立場であれば、ある程度のごり押しが可能か?)
アレクが対応するよりは、もしかしたらいいかもしれない。
※ ※ ※
牢屋に入れられたリィカは、壁にもたれて座り込んでいた。
後ろに回された手が痛い。
けれど、殴られた腹部と首の後ろの痛みは、徐々に治まっている。
左手を握る。
その中指には、泰基にもらった自動回復の魔道具がはめられている。
間違いなく、これの効果だろう。
今、唯一リィカが持っているものだった。
アレクに買ってもらった剣はない。
アレクにもらった魔石で作った魔道具も、暁斗と一緒に作った魔道具も、自分で作った風の手紙も、フロイドからもらった魔方陣の写しも、全部取り上げられた背負い袋に入っていた。
そして、それには、旅の前に母からもらった小石も入っていて……。
そこまで思い出して。
リィカは、体を小さく丸める。
――知らないよりは知っていた方がいい。
母はそう言った。
そうかもしれない。でも、知りたくなかった、とも思ってしまう。
「こわいよ」
声には出さず、口の中だけでつぶやく。
この先、自分はどうなってしまうんだろう。
「バルムート・フォン・ミラーと申します。父は、アルカトル王国、騎士団長の任に付いております」
「おお! ミラー騎士団長殿のご子息か。これは心強い。かの団長殿には、幾度か魔物の退治を手伝って頂いたことがある」
アレクに対していた時とは一転して、国王は笑顔を浮かべる。
「騎士団長殿のご子息の言とあらば、聞かねばなるまい。――して、何かな?」
「先ほどアレクシス殿下の仰った件です。私も魔族と遭遇、交戦し、それを討っております。
伝承にある、細く尖った長い耳を持ち、髪も肌も白い色をした化け物、そのままの姿でございましたし、自らが魔族であると認める発言もしておりました。魔族が入り込んでいることに間違いはございません」
一礼するバルを見つつ、国王は顎を撫でる。
「ふむ、そうか。そこまで言うのであれば、間違いはないのであろうが……。しかし、北の三国が堕ちたばかりというのも確かであるぞ? なぜ魔族がいる?」
「私からも発言よろしいでしょうか」
今度は、ユーリが口を開く。
国王に視線を向けられて、一礼する。
「アルカトル王国の神官長、テオフィルス・フォン・シュタインが一子、ユーリッヒと申します」
国王の目がわずかに見開く。
「ほお。シュタイン神官長殿のご子息か。騎士団長殿のご子息に加え、神官長殿のご子息まで旅に同道しているとは。アルカトルの国王陛下も、随分と貴重な人材を出したものだ」
「それだけの大事にございますれば」
「うむ。それは違いないな。して、何かな?」
「交戦した魔族の発言です。人間は、自分たちが真っ正面からしか攻めてこないと信じている、そんな事はあり得ないのに、とこちらを愚弄した発言をしておりました」
実際は、「そんな事はあり得ない」とは言っていなかったが、そこは分かりやすくするための方便だ。
国王が顔をしかめた。
「つまりは、正面から攻める他にも、潜伏工作などもしてくるということか? 何と厄介な。
――では、その旨、各国の大使に伝える事としよう。それでよろしいかな?」
「はい。お願い致します」
流れでそのままユーリが会話を続ける。
国王が、何かを思いついたというように、手を叩く。
「アルカトルの大使には、そなたら自身が話をすれば良い。しかし、他国の大使から何かしら疑問が出る可能性は非常に高い。今日、明日くらいは、我が国に留まって頂きたいが、よろしいかな?」
ユーリは、思わず顔をしかめそうになって、何とか表情を保つ。
よろしいかよろしくないかで聞かれれば、はっきり言ってよろしくない。
とは言っても、国王の言いたいことも分からないでもない。
だが、これに対しての返答はアレクからするべきだろう、と思い、視線を向ける。
アレクは、苦しそうな表情を浮かべている。
「――本日、留まることはお約束いたします。しかし、ゆっくりしていられる状況でないのも確かです。できれば、明日朝には発ちたい」
今日は、まだ早い時間だ。疑問・質問があるにしても、今日一日あれば十分なはず。
そんな気持ちを込めてアレクは言ってみるが、国王に受け流された。
「では、その辺りはまた明日話をすると致そう。それぞれに部屋を用意しよう。それと、食事がまだとの事だったな。食事の後に、大使の元へ向かうと良い」
アレクは、黙って頭を下げるしか、できなかった。
「一つ、要望を出させてもらっていいでしょうか」
泰基が口を開いた。
「部屋ですが、我々五人を一部屋にして頂きたい」
周囲がざわつき、アレクとバル、ユーリが驚いて泰基を見る。
「勇者様、大変申し訳ないが、それはできかねます。勇者様は至高のお方です。それを、いかに旅に同道している者とは言え、同室にするなど……」
国王は言いながら、その視線はアレクに向いている。
それに気付いて、泰基はアレクの想像以上の立場の悪さに同情したくなる。
「構いません。今後の旅の予定なども話し合いをしたい。同室の方が、都合がいいのです」
泰基に譲る気がないのに、国王も気付いたのだろう。
「承知致した」
そう言って、周りに指示を行う。
その様子を見ながら、泰基は思う。
(勇者という立場であれば、ある程度のごり押しが可能か?)
アレクが対応するよりは、もしかしたらいいかもしれない。
※ ※ ※
牢屋に入れられたリィカは、壁にもたれて座り込んでいた。
後ろに回された手が痛い。
けれど、殴られた腹部と首の後ろの痛みは、徐々に治まっている。
左手を握る。
その中指には、泰基にもらった自動回復の魔道具がはめられている。
間違いなく、これの効果だろう。
今、唯一リィカが持っているものだった。
アレクに買ってもらった剣はない。
アレクにもらった魔石で作った魔道具も、暁斗と一緒に作った魔道具も、自分で作った風の手紙も、フロイドからもらった魔方陣の写しも、全部取り上げられた背負い袋に入っていた。
そして、それには、旅の前に母からもらった小石も入っていて……。
そこまで思い出して。
リィカは、体を小さく丸める。
――知らないよりは知っていた方がいい。
母はそう言った。
そうかもしれない。でも、知りたくなかった、とも思ってしまう。
「こわいよ」
声には出さず、口の中だけでつぶやく。
この先、自分はどうなってしまうんだろう。
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