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第四章 モントルビアの王宮
ベネット公爵
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(よりによって、こいつか)
アレクは舌打ちしたいのを押さえる。
ここは、王都の中で一般街と呼ばれている、平民が多く住む場所だ。
貴族のプライドの高い奴が、こんな所にまで出張ってくるとは思わなかった。
バルとユーリに視線を送る。
二人が頷いたのを確認して、さらに泰基に視線を送る。
訳は分からないだろうが、こういう場面では暁斗は役に立たない。
自分たち三人は、まだ大丈夫だ。
勇者である二人も大丈夫。
この場で一番の問題は、平民のリィカだ。
平民を人とも思っていないこいつが、リィカに目を付けるのだけは避けなければならなかった。
(頼むからアキト。口出ししないでくれよ)
心の中だけで語りかける。
アレクにとって苦手な相手だ。
暁斗が感情のままに何かを言っても、フォローできる自信はない。
少しでも不利な状況になれば、自分では太刀打ちできない。
息を吐く。
男に向き直った。
「久しぶりだ、ベネット公爵」
「ええ。お久しぶりでございます、アレクシス殿下。ところで、殿下はなぜこのような所に? すぐに王宮へいらっしゃると思っておりましたのに」
いつになく、アレクの声は固い。
ベネット公爵は、言葉遣いこそ丁寧だが、どこかアレクを蔑んでいるように感じられる。
「……食事が済んでなかったからな。腹を空かせた状態では行けない。食べてから行くつもりだった」
実際には、食事をして、宿を取って、そこで気分を落ち着かせて、気合いを入れて……、と色々覚悟を決めてから行くつもりだったが、そこまでは言えない。
「おやおや、殿下。まさか、勇者様にこんな場所で食事をさせるおつもりだったと? せめて貴族街までご案内するべきでしょうに。いくら殿下が側室腹とはいえ、その程度の事もお分かりにならないとは……」
嘆かわしい、と首を左右に振る。完全に見下した口調だった。
暁斗が怒りの表情を浮かべ、何かを言おうとして、しかし泰基が止める。
止められてさらに暁斗が怒ったのも分かったが、アレクは軽く息を吐く。
泰基が分かってくれているのが、幸いだった。
「それもそうだな。食事を済ませたら、勇者様も含めて五人で伺う。そうボードウィン国王陛下にお伝えしてくれ」
こんな所で遭遇してしまっては、勇者二人に街で待っていてもらうのは無理だ。
逆に、平民であるリィカは、一人でも街に残っていてもらった方がいい。王宮になど連れて行けるはずもない。
連れて行けば、アルカトルの王宮でレイズクルスに言われた以上の事を言われて、悪意に晒される。
人数から外してしまってリィカの反応が気になるが、目を向けたくなるのを全力で我慢する。
代わりに暁斗が何かを言いかけて、また泰基が止めているのが見えた。
「いえ、殿下。それには及びませんよ。お食事であれば、王宮でご用意させて頂きますとも。このままお越し下さいませ」
「……旅装束なんだがな」
行きたくなくて、少しでも時間をおきたくて、悪あがきをしてみたが無駄だった。
「構いません。勇者様と旅をされているというのに、それを咎めるのは違うでしょう。そのままでどうぞ」
「……分かった」
ここまでか。だが目的は達成できた。
後は、リィカを見ない振り、いない振りをして、馬車に乗り込めばいい。王宮から戻ったら、謝ろう。
そう決めて、ほんの一瞬、リィカを視界に捕らえる。
リィカが自分たちと距離を置いているのが見えて、少しホッとする。
しかし……。
「アレクシス殿下、勇者様をご紹介頂きたいのですが?」
ベネット公爵の声に、意識を戻す。
頷いて、暁斗と泰基を紹介し、ベネット公爵を二人に紹介する。
暁斗は何かを言いたそうにしているが、口は噤んでくれていた。
ベネット公爵に言われるままに、公爵の乗ってきた馬車に乗り込む。
もう一度、一瞬だけリィカを見る。
リィカは、自分たちを見ていなかった。
見ていたのはこの馬車だ。顔が真っ青になっていた。
アレクは舌打ちしたいのを押さえる。
ここは、王都の中で一般街と呼ばれている、平民が多く住む場所だ。
貴族のプライドの高い奴が、こんな所にまで出張ってくるとは思わなかった。
バルとユーリに視線を送る。
二人が頷いたのを確認して、さらに泰基に視線を送る。
訳は分からないだろうが、こういう場面では暁斗は役に立たない。
自分たち三人は、まだ大丈夫だ。
勇者である二人も大丈夫。
この場で一番の問題は、平民のリィカだ。
平民を人とも思っていないこいつが、リィカに目を付けるのだけは避けなければならなかった。
(頼むからアキト。口出ししないでくれよ)
心の中だけで語りかける。
アレクにとって苦手な相手だ。
暁斗が感情のままに何かを言っても、フォローできる自信はない。
少しでも不利な状況になれば、自分では太刀打ちできない。
息を吐く。
男に向き直った。
「久しぶりだ、ベネット公爵」
「ええ。お久しぶりでございます、アレクシス殿下。ところで、殿下はなぜこのような所に? すぐに王宮へいらっしゃると思っておりましたのに」
いつになく、アレクの声は固い。
ベネット公爵は、言葉遣いこそ丁寧だが、どこかアレクを蔑んでいるように感じられる。
「……食事が済んでなかったからな。腹を空かせた状態では行けない。食べてから行くつもりだった」
実際には、食事をして、宿を取って、そこで気分を落ち着かせて、気合いを入れて……、と色々覚悟を決めてから行くつもりだったが、そこまでは言えない。
「おやおや、殿下。まさか、勇者様にこんな場所で食事をさせるおつもりだったと? せめて貴族街までご案内するべきでしょうに。いくら殿下が側室腹とはいえ、その程度の事もお分かりにならないとは……」
嘆かわしい、と首を左右に振る。完全に見下した口調だった。
暁斗が怒りの表情を浮かべ、何かを言おうとして、しかし泰基が止める。
止められてさらに暁斗が怒ったのも分かったが、アレクは軽く息を吐く。
泰基が分かってくれているのが、幸いだった。
「それもそうだな。食事を済ませたら、勇者様も含めて五人で伺う。そうボードウィン国王陛下にお伝えしてくれ」
こんな所で遭遇してしまっては、勇者二人に街で待っていてもらうのは無理だ。
逆に、平民であるリィカは、一人でも街に残っていてもらった方がいい。王宮になど連れて行けるはずもない。
連れて行けば、アルカトルの王宮でレイズクルスに言われた以上の事を言われて、悪意に晒される。
人数から外してしまってリィカの反応が気になるが、目を向けたくなるのを全力で我慢する。
代わりに暁斗が何かを言いかけて、また泰基が止めているのが見えた。
「いえ、殿下。それには及びませんよ。お食事であれば、王宮でご用意させて頂きますとも。このままお越し下さいませ」
「……旅装束なんだがな」
行きたくなくて、少しでも時間をおきたくて、悪あがきをしてみたが無駄だった。
「構いません。勇者様と旅をされているというのに、それを咎めるのは違うでしょう。そのままでどうぞ」
「……分かった」
ここまでか。だが目的は達成できた。
後は、リィカを見ない振り、いない振りをして、馬車に乗り込めばいい。王宮から戻ったら、謝ろう。
そう決めて、ほんの一瞬、リィカを視界に捕らえる。
リィカが自分たちと距離を置いているのが見えて、少しホッとする。
しかし……。
「アレクシス殿下、勇者様をご紹介頂きたいのですが?」
ベネット公爵の声に、意識を戻す。
頷いて、暁斗と泰基を紹介し、ベネット公爵を二人に紹介する。
暁斗は何かを言いたそうにしているが、口は噤んでくれていた。
ベネット公爵に言われるままに、公爵の乗ってきた馬車に乗り込む。
もう一度、一瞬だけリィカを見る。
リィカは、自分たちを見ていなかった。
見ていたのはこの馬車だ。顔が真っ青になっていた。
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