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第三章 魔道具を作ろう
モルタナ到着
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食事を終えた後、リィカがお風呂に入ろうと言い出した。
手には、作り終えたお湯を出す魔道具が握られていた。
「浴槽は、どうするんだ?」
というアレクの質問に、リィカは得意げに笑う。
「見ててね。――《石柱》」
普段であれば、唱えなくても使える初級魔法だが、違う使い方をするので、魔法名を唱える。
普通であれば、高さ二メートルほどの高さがある石の柱ができる。
しかし、できたのは、高さ六十センチ、幅一メートル四方ほど、そして、中に入れるようにくりぬいてある。まさに石でできた浴槽だった。
もちろん、周りから見られないように、浴槽はテントの中に設置する。
テントの地面に接触する部分は、外すこともできるから、床が水浸しになることもない。
「よし、できた!」
得意満面な笑みを浮かべたリィカは、そのままサルマとフェイを誘って、テントの中に入っていく。
サルマは、流石というべきか、言うのを忘れなかった。
「誰か一人でも覗いたら、連帯責任だからね」
閉められたテントの外で、男たちは、何となく顔を見合わせていた。
一方、男性陣が入る段になって、アレクが心の狭いところを発揮した。
「魔石を提供したのは俺だぞ? 何でお前らまで入るんだよ!?」
「いいじゃないですか、別に」
「オレだって入りたい」
「けちくせぇ事言うな」
結局、止めることなどできず、全員が入った。
※ ※ ※
翌日、馬車の中で。
風の手紙を作ったリィカだったが、サルマと一緒に、落ち込んでいた。
「駄目だったね」
「ダメでしたね」
魔力というのは、一人一人、波長とか性質とか、色々違いがあるらしい。
詳しい事は、まだまだ研究段階らしいが、一人として同じ魔力はない、と言われている。
だから、作った人間が違うのならば、もしかしてと思ったのだが、やはりダメだった。
個別認識する方法を見つけないと、先に進めない。
だが、それとは別に、収穫もあった。
風の手紙に付与する魔法が、風と風だと言われた。
二回に分けて、風魔法を付与する。
混成魔法でも、もしかしたらできるんじゃないかと思ったのだ。
違う系統の魔法ではなく、同系統の魔法を組み合わせた、新しい魔法が。
※ ※ ※
「なんか、人が多いね」
昼食の休憩をしていて、暁斗がそんな感想を漏らしたが、全員が頷いた。
街道を移動している人、周りで休憩している人、それぞれ昨日までより明らかに人数が増えている。
「モルタナが近いからだろうね。街道にDランクの魔物が出るようになったから、旅を諦める人が増える。みんな街に向かってるんだよ。モルタナに入るのに、並んでなければいいけど」
オリーが不安そうにそうこぼしたが、夕方、モルタナの門前に到着したリィカたちが見たのは、その不安が見事に的中した状況だった。
できている長い行列に、オリーは顔をしかめていた。
もうすぐ日没だというのに、長すぎる。
「これ、暗くなるまでに全員入れなかったら、どうなるんだ?」
聞くアレクの顔も、しかめられている。
普通、暗くなった時点で門は閉められる。こういう場合どうなるかまで、アレクは知らなかった。
「残念だけど、日没時点で門は閉められる。並んだ人は、その場で一夜を明かすんだ」
「門の近くで野宿して、朝一で門に並ぶっていうのは……」
「別にいいけど、並ぶのは、明日朝時点での最後尾になる。夜のうちに、さらに列は長くなるだろうから、ボクらも並ぶしかないよ」
アレクが嫌そうな顔をしたが、文句は言えない。
大勢が列に並ぶから、当然スペースはとれない。
テントを張るのも無理だ。
お風呂に入れたら入りたい、と言っていたが、諦めるしかなさそうだった。
そして翌朝。
ガヤガヤしていて、あまり眠れた気分がしない。
ゆっくり食事を作れる感じでもないので、簡単な保存食を食べただけだ。
街に入って、どこかで朝食を食べようと決めて、順番が回ってきたときには、そこそこ陽も昇っていた。
街に入り、改めて、オリー、サルマ、フェイの三人と別れを交わす。
「魔法のバッグの魔道具が出来上がったら、教えてね」
リィカに詰め寄るオリーに、アレクがゲンコツをかます。
「あははは。でも、もし次に会うことがあった時に、新しい魔道具ができてたら教えてよ」
笑ってサルマが言って、フェイが頭を下げる。
馬車で去っていく三人を見送った。
「じゃあ、どこかで食事を……」
アレクが言いかけた時、声が掛かった。
「そこにいらっしゃるのはアレクシス殿下ですかな。お探ししましたぞ」
その言葉に、アレクの顔が引き攣る。バルもユーリも、ゲッ、と言いたげな顔をした。
(――しまった)
モルタナに入るときには、身分証明が必要になる。
その証明は、アレクの父、つまりはアルカトルの国王が出してくれたものだ。
無論、これ以上ないくらいの身分証明なのだが、その分目立つ。
上の立場の者への報告がいってもおかしくない。
自分たち三人だけで城へ向かう、という当初の予定が、果たしてこの状況でできるのか。
豪奢な馬車から出てきた男を見る。
このモントルビア王国の国王の側近の男だ。
ディック・フォン・ベネット公爵。
自らの血筋を誇り、アレクの母親が子爵家出身であることをあからさまに揶揄し、見下してくる人物の筆頭だった。
手には、作り終えたお湯を出す魔道具が握られていた。
「浴槽は、どうするんだ?」
というアレクの質問に、リィカは得意げに笑う。
「見ててね。――《石柱》」
普段であれば、唱えなくても使える初級魔法だが、違う使い方をするので、魔法名を唱える。
普通であれば、高さ二メートルほどの高さがある石の柱ができる。
しかし、できたのは、高さ六十センチ、幅一メートル四方ほど、そして、中に入れるようにくりぬいてある。まさに石でできた浴槽だった。
もちろん、周りから見られないように、浴槽はテントの中に設置する。
テントの地面に接触する部分は、外すこともできるから、床が水浸しになることもない。
「よし、できた!」
得意満面な笑みを浮かべたリィカは、そのままサルマとフェイを誘って、テントの中に入っていく。
サルマは、流石というべきか、言うのを忘れなかった。
「誰か一人でも覗いたら、連帯責任だからね」
閉められたテントの外で、男たちは、何となく顔を見合わせていた。
一方、男性陣が入る段になって、アレクが心の狭いところを発揮した。
「魔石を提供したのは俺だぞ? 何でお前らまで入るんだよ!?」
「いいじゃないですか、別に」
「オレだって入りたい」
「けちくせぇ事言うな」
結局、止めることなどできず、全員が入った。
※ ※ ※
翌日、馬車の中で。
風の手紙を作ったリィカだったが、サルマと一緒に、落ち込んでいた。
「駄目だったね」
「ダメでしたね」
魔力というのは、一人一人、波長とか性質とか、色々違いがあるらしい。
詳しい事は、まだまだ研究段階らしいが、一人として同じ魔力はない、と言われている。
だから、作った人間が違うのならば、もしかしてと思ったのだが、やはりダメだった。
個別認識する方法を見つけないと、先に進めない。
だが、それとは別に、収穫もあった。
風の手紙に付与する魔法が、風と風だと言われた。
二回に分けて、風魔法を付与する。
混成魔法でも、もしかしたらできるんじゃないかと思ったのだ。
違う系統の魔法ではなく、同系統の魔法を組み合わせた、新しい魔法が。
※ ※ ※
「なんか、人が多いね」
昼食の休憩をしていて、暁斗がそんな感想を漏らしたが、全員が頷いた。
街道を移動している人、周りで休憩している人、それぞれ昨日までより明らかに人数が増えている。
「モルタナが近いからだろうね。街道にDランクの魔物が出るようになったから、旅を諦める人が増える。みんな街に向かってるんだよ。モルタナに入るのに、並んでなければいいけど」
オリーが不安そうにそうこぼしたが、夕方、モルタナの門前に到着したリィカたちが見たのは、その不安が見事に的中した状況だった。
できている長い行列に、オリーは顔をしかめていた。
もうすぐ日没だというのに、長すぎる。
「これ、暗くなるまでに全員入れなかったら、どうなるんだ?」
聞くアレクの顔も、しかめられている。
普通、暗くなった時点で門は閉められる。こういう場合どうなるかまで、アレクは知らなかった。
「残念だけど、日没時点で門は閉められる。並んだ人は、その場で一夜を明かすんだ」
「門の近くで野宿して、朝一で門に並ぶっていうのは……」
「別にいいけど、並ぶのは、明日朝時点での最後尾になる。夜のうちに、さらに列は長くなるだろうから、ボクらも並ぶしかないよ」
アレクが嫌そうな顔をしたが、文句は言えない。
大勢が列に並ぶから、当然スペースはとれない。
テントを張るのも無理だ。
お風呂に入れたら入りたい、と言っていたが、諦めるしかなさそうだった。
そして翌朝。
ガヤガヤしていて、あまり眠れた気分がしない。
ゆっくり食事を作れる感じでもないので、簡単な保存食を食べただけだ。
街に入って、どこかで朝食を食べようと決めて、順番が回ってきたときには、そこそこ陽も昇っていた。
街に入り、改めて、オリー、サルマ、フェイの三人と別れを交わす。
「魔法のバッグの魔道具が出来上がったら、教えてね」
リィカに詰め寄るオリーに、アレクがゲンコツをかます。
「あははは。でも、もし次に会うことがあった時に、新しい魔道具ができてたら教えてよ」
笑ってサルマが言って、フェイが頭を下げる。
馬車で去っていく三人を見送った。
「じゃあ、どこかで食事を……」
アレクが言いかけた時、声が掛かった。
「そこにいらっしゃるのはアレクシス殿下ですかな。お探ししましたぞ」
その言葉に、アレクの顔が引き攣る。バルもユーリも、ゲッ、と言いたげな顔をした。
(――しまった)
モルタナに入るときには、身分証明が必要になる。
その証明は、アレクの父、つまりはアルカトルの国王が出してくれたものだ。
無論、これ以上ないくらいの身分証明なのだが、その分目立つ。
上の立場の者への報告がいってもおかしくない。
自分たち三人だけで城へ向かう、という当初の予定が、果たしてこの状況でできるのか。
豪奢な馬車から出てきた男を見る。
このモントルビア王国の国王の側近の男だ。
ディック・フォン・ベネット公爵。
自らの血筋を誇り、アレクの母親が子爵家出身であることをあからさまに揶揄し、見下してくる人物の筆頭だった。
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