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第三章 魔道具を作ろう

アベルの本名

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カセットコンロを使って、ユーリが楽しそうに料理をしている。
今日は、野宿だ。
順調にいけば、明日日暮れ前にモルタナに到着する。


リィカが暁斗の頭を撫でた後、馬車の中は何とも言えない雰囲気だった。
サルマは何かを聞きたそうにしていたし、不機嫌度が最高に高かったアレクは、決まりの悪そうな顔をしていた。

暁斗は、撫でられていた時とはまた別の意味で恥ずかしくなったらしく、御者台に行ってくる、と外に逃げ出した。
リィカは、何事もなかったかのように、サルマに風の手紙エア・レターについて、質問を始めていた。


※ ※ ※


ユーリの、こだわりすぎて失敗した感のある料理を食べつつ、オリーが暁斗に聞いた。

「魔道具、どうなった? 魔法のバッグ、できそう?」
「オレにはムリそうって分かったから、リィカにお願いした」
「なあんだ。そうなんだ」

そのやり取りに、あの場面を見ていた面々が、何とも複雑な顔をする。
その様子に、外にいたバルと、魔道具に集中していて全く見ていなかったユーリが、訝しげな顔をするが、誰も説明する人はいない。

「魔法のバッグって、過去の勇者様が作ったって言われてるんですよね?」
当事者の一人だが、全く気にしていないリィカだ。

聞かれたオリーが楽しそうな顔をする。
「そうだよ。時間と空間を操ったと言われる、ユニーク魔法使いの勇者様だね」

「それを、四属性や光属性で再現ってできるんですか?」
「さあ?」

何とも適当な返答である。
聞いたリィカは、不満そうだ。

「勇者って、四属性じゃなくて、そのユニーク魔法使う人、多いの?」
暁斗が口を挟んでくる。
ユニーク魔法、自分だけの魔法というのは、かなり興味があった。

「どうなんだろうね。剣技を作り上げたっていう勇者様は、四属性だろうけど」
オリーが、首をかしげつつも、説明する。

「そもそも、勇者の話って、本当に少ないんだよ。町や村で伝わっている話も、本当に勇者かどうか分からないし」

何せ、勇者一行が、自分たちは勇者だと看板を掲げている訳ではないのだ。

例えば、魔物に襲われた街や村があったとして、そこに高ランクの冒険者が駆け付けて、魔物を倒して街や村を救えば、そこに住む人々にとっては彼らが勇者となる。
だから、各地にある勇者の伝説は、真偽のほどが分からないのだ。

逆に、勇者は、魔王を倒すためにとにかく前進していくから、そういった伝説が残りにくい。

時間と空間を操るという勇者が知られているのは、魔族に滅ぼされそうになった国を救ったから、という理由が大きい。
それだって、戦いの中で詳細を残せず、残っているのは概要だけだ。

「勇者を召喚してるアルカトル王国だったら、色々記録が残ってるかなぁって期待したけど、ほとんどないんだよね」

アルカトル王国は、二代前の勇者、アベルがジャーマル王国を滅ぼして建てた国だ。
多分、ジャーマル王国時代の資料を引き継いでいないんだろう、とオリーは残念そうにため息をついた。

そもそも、ジャーマル王国できちんと記録に残していなかったから、引き継ぐ物もなかった、というのが、実際の所だ。それを知っているアレクだが、沈黙を保つ。

「せめてさ、そのアベルとか、先代の勇者とかの事だけでも知れるかな、と思ったのに。アベルは、勇者時代より王としての記録ばっかりだし、先代の勇者についても、ほとんど語られてる事ないし。
 アベルが書いたって言う記録だけでも見てみたかったんだけどなぁ」

「……記録?」
「そうなんだよ。王立図書館にあるらしいんだ。でも、聞いてみたら、古すぎて形を保つのが精一杯。ちょっとでも触ったら崩れそうだから、厳重に保管されて、誰も見れないと言われて、諦めるしかなかったんだよね」

暁斗の疑問に答えて落ち込むオリーに、アレクとバル、ユーリは顔には出さずに、苦笑する。
(原本を写した奴なら、閲覧できるけど)
三人が心の中でそう思っていたことなど、オリーは知るよしもない。


リィカは、早くアベルの話題、終わってくれないかな、と思う。
笑いそうになってしまう。

実は、アルカライズ学園の教科書に、毎日の記録とやらの表紙、そして中の一部を抜粋したものが、載っているので、それはリィカも見ている。

ちなみに、表紙に書かれていた文字は、こうだ。
『日記帳 安部悟』

ダスティン先生が『安部悟』を示して、
「これが、勇者様の国の文字で、アベルと読むらしいぞ」
と大真面目に言った時には、必死で笑うのを我慢した。

どこがアベルだ。どっからどう読んでも「あべ さとる」だろう。
アベルという名前も、ただ本名をもじっただけだと分かってしまう。


さらに言えば、中を一部抜粋したという文章も、書かれているのは日本語だ。お世辞にも日記と言える物じゃない。あれは、ただの愚痴だ。

日本語を解読しようと研究している人たちがいる、という話も授業で教わったが、絶対にやめた方がいいと思う。
伝わっているアベルのイメージが、ガタ落ちする。

「ユニーク魔法って、勇者しか使えないの?」
暁斗の声に、リィカがハッとする。
どうやら、アベルの話題からずらしてくれたらしい。

それに答えたのは、アレクだ。
「そんなことないぞ。この世界でも、ユニーク魔法と言われる魔法を使う人は、時々現れる。現に、今も知られているユニーク魔法使いがいるしな」

「そうなの?」
「ああ、ボクも知ってる。ルバドール帝国の王子様でしょ」

ルバドール帝国は、北の大帝国だ。
今まで、魔王軍の侵攻を抑えてきたのが、このルバドール帝国だ。
それより以北の国は滅ぼされても、この帝国は滅ぼされたことがない。

ルバドール帝国が抑えてくれるからこそ、勇者も魔王軍の侵攻を気にする事なく、魔王を倒しに行けると言っても、過言ではないくらいだ。

「ユニーク魔法って、微妙なのも多いんだ。ルバドールの王子の魔法はちゃんと強いらしいが、実際の所、何の役に立つのか分からない魔法だったり、使える魔法でも本人の魔力量が低かったりで、使い道がない場合も多いらしい」

だから、本当はユニーク魔法の使い手は、もっとたくさんいるんじゃないか、とも言われている。

そう説明を締めくくるアレクの言葉を、リィカはただ静かに聞いていた。
(ホントにそうだよね)
目を瞑って、母の姿を思い出した。
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