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第三章 魔道具を作ろう

自動回復の魔道具

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「泰基、魔道具どう? できそう?」
泰基が魔石とにらめっこをしていたら、リィカが声をかけてきた。

「リィカはいいのか?」
「うん、できた。次、風の手紙エア・レターに挑戦するんだけど、その前に気分転換というか……。泰基が魔石を睨んでるから」

笑いを堪えているような表情は、凪沙と似ている。
リィカと凪沙を比べるのをやめようと思っても、なかなか泰基はそれができなかった。

「……具体的にどうしていいか、分からないんだよな」
素直に考えていることを漏らせば、リィカの表情が真剣になる。
こんな所も、似ている。

「えっと……自動で回復する魔道具、だっけ?」
うーん、と考えて、そこで何かを思い付いた顔をした。

「自動っていうか、要するに、怪我をしたのを察知して、回復を始めるって事だよね?」
「ああ、そういうことになるな。……察知ってそうか。《診断ディアグノーゼ》か!」
光明が見えた。


※ ※ ※


「うー、頭痛い」
御者台に出ている暁斗は、頭を抑えた。
頑張って気配をよんで、大体自信がついた。
それはいいのだが、今度はよみすぎて頭がパンクしそうだ。

「何でもかんでも気配をよんでいたら、そうなって当たり前だ。いいから中に戻っていろ」
呆れたアレクに言われて、すごすごと馬車の中に戻った暁斗が見たのは、話をしているリィカと泰基。
そして、泰基がリィカに何かを渡すところだった。

「……父さん?」
暁斗が戸惑ったのは、泰基の目が、どこか嬉しそうに見えたからだろうか。

「もう御者台はいいのか」
自分を見る父は、普段と変わらない。
気のせいだっただろうか。

「うん。大体気配よめるようになったよ。……よみすぎて頭痛くなっちゃって、アレクに戻れって言われちゃった」
「……お前は、程々、という言葉を勉強する必要があるな」
「そのくらい、知ってるし!」

頬を膨らませて怒った暁斗だが、すぐに表情を戻す。
さっき見た光景が気になった。

「……ねえ、父さん、さっきリィカに何かあげてなかった?」
泰基の様子に変わりはない。落ち着いたまま、答えが返ってきた。

「ん、ああ。自動回復の魔道具ができたんだよ」
「やっぱり、わたしじゃなくて、暁斗にあげた方がいいんじゃない?」

言いながら、リィカが見せてくれた手の平に乗ったものは、指輪だった。
それを見た暁斗は、心臓がドクンとなった気がした。

「父さん、すごい。できたんだ。でも、なんで指輪なの?」

「Eランクの魔石じゃ、サイズの問題で指輪が限界。それに、できたのはリィカのアドバイスのおかげだしな。アレクあたりの無茶を減らすのに、リィカが持ってた方がいいと思ったんだよ」

「……うん。オレもそう思う。リィカが持ってて」
アレクだけじゃなく、リィカ自身が無茶したときも、効果を発揮する。
そう考えれば、リィカが持つことに不満はない。

「コツを掴んだからな。暁斗にもいいのを作ってやるから、楽しみにしてろ」
父の言葉に、暁斗は泰基を見る。
いつも通りの父だった。

「いいのって何? 魔法のバッグ?」
「お前はそれしか知らないのか。大体、お前が作るんだろ」
「……だって」

サルマに不器用だと言われた。
父やリィカみたいに、上手くいかない。
そこまで考えて、気が付けばリィカの腕を掴んでいた。

「……きゃっ!? どうしたの、暁斗」
「リィカ、オレに魔道具作り教えて!」

最初に、自分が魔法を使えるようになったのは、リィカが教えてくれたからだ。
だったらまた教えてもらったら、できるようになるかもしれない。


(おいおい。アキトも、タイキさんまで)
魔道具作り中は、バルは何もできることがないので、それぞれの様子を何となく眺めている。

ユーリは、作る方に集中しているのか、気付いている様子はない。
昨日みたいに、魔石を灰にしていないので、少しは学んだようだ。

問題は、あっちだ。
泰基が作った魔道具がリィカの手に渡った。それも、指輪というアクセサリーだ。
それだけで、アレクが不機嫌になるのが分かる。

それなのに、暁斗まで魔道具作りというアレクには手の出せない分野で、リィカに近づいている。
暁斗に下心はない。それは確かだ。
泰基は、よく分からない。時々、リィカを見る目に不思議な感じが交ざる。
というか、年齢など考えて、泰基に対して、こんな事を考えるなど、想定外だ。

バルは、アレクを応援している。
やっとアレクが見つけた、兄以上になってくれるかもしれない存在リィカを、逃がして欲しくない。
だから、本音を言ってしまえば、勇者親子に、あまりリィカに近づいて欲しくないのだが。

(そんな事、言えるはずもないしな)
できるだけの協力はするから、サッサとリィカを捕まえろ、とアレクに心の中だけで語りかけた。

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