転生ヒロインと人魔大戦物語 ～召喚された勇者は前世の夫と息子でした～

第三章 魔道具を作ろう

VSオーク

豚の顔を持つ魔物。
二本足で立っているが、その足は太く短いため、速さはない。

その代わりに、皮膚は分厚いから剣は通りにくい。
口から生えている牙と、細長い腕からの攻撃力は高いから要注意。


魔物についての勉強はしてきた、というアレクがそんな知識を披露する。
「ついでに、肉が旨いらしいから、倒すとき注意すること」
そんな注釈を最後につけたアレクに、全員が苦笑。いや……、

「そんな倒し方とか気にしてないで、ちゃんと倒してよ！？」
オリーが半ばパニックになって叫んでいた。

そんな叫んでいると余計に注意を引くだろ、とアレクが考えていたら、その通りになった。
現れたオークのうち、数匹が馬車に向かって走り出す。

「――ひえっ……！」
それを見たオリーが頭を縮めるが、逃げだそうとしないのは、いっそ見事だ。


「リィカは、俺と一緒に馬車を守るぞ。皆は、他のオークを頼む！」
アレクの指示に従い、二つに分かれる。

オークは、全部で10匹ほど。
うち、馬車に向かってきたのは、三匹だ。


「《水鉄砲アクアガン》！」
最初は、リィカの魔法だ。
水の中級魔法が、オークの首の付け根辺りに命中。そのまま後ろに倒れる。

「――あれ、倒しちゃった？」
「見た目は怖いが、Ｄランクだからな。リィカの中級魔法をまともに食らったら、そりゃあ倒れるだろ」

アレクは笑いながら言って、自分は一気にオークとの距離を詰める。
剣技を使ってもいいが、まずは普通に剣を振るう。

二匹が一度にアレクに攻撃を仕掛ける。が、
「――ブギャッ！」
うち一匹が、悲鳴を上げてのけぞる。
リィカの《風球ウインドボール》だ。

アレクは、もう一匹のオークの首を目掛けて剣を振るい……、半ばまで剣で切り裂いた。
倒れるオークに目を向けることなく、もう一体のオークを目に捕らえる。
リィカの魔法を食らったせいだろう、敵意がリィカに向いていた。

「お前の相手は、俺だ」
アレクは一言言って、剣技を発動させるつもりで、剣に魔力を纏わせる。
しかし、剣技は発動させず、そのままの状態で剣を振るった。

先ほどは半ばまでしか割けなかったオークの首が、九割方切り裂かれた。
倒れるオークを見て、アレクが頷いた。

「魔力を纏わせるだけでも、剣の威力が増すな。エンチャントほどじゃないが、これで凌ぐ方法は使えそうだ」
「お疲れ様。アレク」
「ああ。フォロー助かった」

あっさりオークを倒して、会話をしているアレクとリィカを見て、オリーは呆然としていた。


アレクが、ついでとばかりに、リィカの手を取って指先にキスすれば、リィカの顔が赤くなる。
「……だ……だから！　じゃなくて！　みんなは……」

何かを言おうとして、ふとまだみんなは戦っているはずだと、リィカが視線を向ければ、ちょうど最後の一体を倒した所だった。

「終わりだな。解体しよう」
アレクが何もなかったかのように、リィカの肩に手を置いて、一言言った。


護衛の依頼を受けているのだから、本来であれば、解体などせずに出発するべきだが、その辺りは交渉である。

彼らから、六人分の食事を用意するのは難しいと言われた。
そのため、途中で出てきた魔物はすべてアレクたちの物。解体する時間ももらうと言って、了承を得ていた。


「……なんか、すっごい子たちだねぇ」
サルマが馬車から出てくる。

「本当だよ。オーク十匹を簡単に倒しちゃうんだから」
「ゴブリン一匹倒すのに、十回も剣技を使ったアンタとは、大違いだね」
「十回じゃなくて、九回！　間違えないで！」
サルマの言葉を、細かく訂正したオリーは、ぼやいた。

「あれほどの実力者に対して、ほとんど無報酬で護衛をしてもらうって、冒険者ギルドに知られたら怒られそう……」
「冒険者じゃないみたいだよ？　登録してないから、ただの旅人だって」

「……そうなんだ。ますます、何者だろうなぁ」
勇者伝説が大好きなオリーだが、それが勇者様ご一行であるとは、まったく思い至らなかった。