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第三章 魔道具を作ろう
オーロックス
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ブンブンと、剣を振る音がなる。
「よし、このくらいにしておくか」
泰基の声で、リィカとユーリが、剣を振るのをやめた。
「「つかれた」」
二人は、地面に座り込んだ。
※ ※ ※
旅の再開から五日目。
休憩時間を利用して、リィカとユーリは剣の練習を始めていた。
まだまだ、二人とも剣の重さに慣れていない。
「そう簡単にできるようにはならないさ。あまり疲れすぎない程度にやっていくぞ」
教えている泰基は、むしろやり過ぎないように注意していた。
旅をしているのだ。体力を使いすぎても困る。
「《回復》」
リィカが魔法を唱えて、ユーリの回復をする。
ユーリの方が効果は高いが、練習も兼ねて、リィカが回復するようにしていた。
「……だいぶ慣れましたね、リィカ」
ユーリが感心したように言った。
使えるようになったのを見せてもらったのは昨日だが、その時よりも明らかに今日の方が良くなっている。
「そう言ってもらえると、うれしいな」
リィカは少しはにかんで答えた。
「あと覚えていない支援魔法は、強化魔法ですが……」
ユーリの言葉に、リィカは難しそうな顔をした。
「強化魔法って、ユーリ、使ったことある?」
「……ないですね」
ユーリの顔も険しい。
強化魔法には、力をアップするものと、速さをアップさせるものがある。
無論、その効果がないはずもないのだが。
「……使いどころが難しいんですよね」
その一言に尽きる。
基本的に、強化魔法は前衛で戦っている人に掛ける魔法だ。
しかし、どのタイミングで掛ければいいのかが分からない。
前衛も、いきなり力や速さがアップすれば戸惑うだろう。その戸惑いが、致命的な隙を産みかねない。
アレクやバルと付き合いの長いユーリも、一度も強化魔法を二人に掛けたことがなかった。
じゃあ前衛組はどう思っているんだ、と視線を向けてみるが、首をかしげている。
「どうしても強化が必要だったら、剣技の発動前の状態を維持すればいいしな」
「現状、強化して欲しいと思うことはねぇな。それよりは、防御してもらったり、攻撃してもらった方がよほど良い」
アレクとバルの返答に、ユーリも腕を組む。
強化を必要とするほどの相手と戦っていないというのも、あるのかもしれない。
「それでも、何かの時のために、使えるようにはなってて欲しいんですよね。使わないのと、使えないのとでは、全然違いますから」
「……うん。がんばる」
ユーリの言葉に、返答するリィカは、暗い顔だ。
完全に支援魔法への苦手意識が染みついてしまっている。
「覚えたら、混成魔法でも何でも、好きなことをして良いですから」
「うん。がんばる」
さっきと同じ返事だが、その顔にはやる気がみなぎっている。
そんなリィカを見て、アレクの口元が綻ぶ。
(ちゃっかりしているな)
でも、自分のやりたいことに一生懸命になれるのは、みんな同じかもしれない。
その時、ふと視線を感じる。
自分じゃない、リィカに向けられた視線。
(……タイキさん?)
アレクは、どこか哀しげにリィカを見ている泰基に、困惑した。
※ ※ ※
十一日目。
ようやく、王都モルタナまで続く主要街道に出た。
到着まで、あと六日程度。
その前に、いくつか街もあるから、宿に泊まれる事もあるだろう。
「……あとは、魔族がいないことを祈るだけだな」
小さくつぶやいたアレクだが、その内容は重い。
どこまで魔族が入り込んでいるのか、全く想像がつかないのだ。
主要街道沿いの街を魔族に潰されていたとしたら、自分たちのように旅をしている人間はもちろん、国家にとっても経済面や安全面での問題が大きくなる。
暁斗は、周りをキョロキョロした後、立ち止まって目を瞑る。
「うーん……。けはい……けはい……、うーん……」
何やら怪しげな暁斗だが、決してふざけているわけではない。
アレクやバルが、気配で敵や味方の位置を察知できると聞いて、暁斗もやり出したのだ。
とはいっても、今のところできている感覚は全くない。
「人間だとそんなに気配強くないからな。Dランク以上の魔物になってくると、大分読みやすいと思うんだが」
「うーん……」
アレクの言葉に、暁斗は唸るだけだ。
そうホイホイとDランク以上の魔物が出てくるはずもない。
ここまで遭遇したのは、Eランクだけだ。
――と、考えていた暁斗が、不意に体をビクッとさせた。
何かに気付いたかのように、街道の先に視線を向ける。
それと同時に、アレクとバルも「ああ」と声を上げた。
「気配、読めてんじゃねぇか、アキト」
「……え、これやっぱりそう?」
「ああ、魔物だな。とはいっても、俺たちも初めての魔物だな。何の魔物か分からない。それと、その魔物から逃げている人間がいる。多分、馬車か何かに乗っているが、それを追い掛けていく魔物となると、足が速い系の魔物か」
「ええ!? 大変じゃん、それ! 助けなくていいの!?」
慌てる暁斗に、アレクは少し笑うと、顎をくいっと動かした。
「よく気配を読め、アキト。こっちに向かってきているんだ。もうすぐ姿が見える。――皆も気をつけろよ、初めての魔物だ!」
「…………あ!」
アレクが全員に注意を促し、暁斗はその気配に気付いて、体をそっちに向ける。
右手で聖剣を抜き放った。
アレクとバルも剣を抜き、最初に見えたのは、爆走する馬車だった。
すると、御者の男が前にいる六人に気付いたんだろう、声を上げる。
「早く逃げて! 危ない! オーロックスだ! 追われてるんだ!」
警告してくれる人は、むしろ親切だ。
中には出会った人に押しつけてしまえ、と何も言わずに通り過ぎる人も多い。
「俺たちが倒すから逃げろ!」
アレクが怒鳴り返す。
そして、魔物の姿が見えた。
「……牛の魔物化した奴?」
暁斗がつぶやくが、アレクとバルは首を横に振る。
「いや、オーロックスっていうのは、魔王が生み出した魔物だ。頭に角が二本生えているだろう? 牛の魔物化は、あんな角はない」
「ああいう突進してくる魔物を、正面から止めんのは無理だ。躱すのもありだが、そうすっとあのままあの馬車を追い掛けそうだからな。だから、こういうときは……」
言葉を切ったバルは、ユーリに視線を向ける。
頷いたユーリは、魔法を唱えた。
すでに、オーロックスはすぐ近くまで来ている。
「《結界》!」
ユーリの放った《結界》が、オーロックスの眼前で作られる。
止まれなかったオーロックスは、そのまま《結界》に激突する。
「で、こうして動きが止まった隙に、倒しゃあ良い」
バルが剣を振るうと、あっさりとオーロックスを倒した。
その様子に、暁斗はやや拍子抜けしたようだった。
「……あれ、なんか、かんたん」
「ユーリの《結界》が強固だから使える手でもあるがな。あれだけ突進の威力があったら、下手な《結界》じゃ、あっさり壊されて終わりだ」
「他に攻撃対象がいなければ、こっちが躱しても、また攻撃しようとUターンしてくるんだ。そこで動きが遅くなるから、その隙に攻撃できる。猪とか、突進系の魔物は結構いるから、覚えておくと便利だぞ」
バル、アレクと交互に解説していく。
オーロックスはDランクの魔物だ。
初見ではあっても、苦戦する相手ではなかった。
「……うっわぁ。君たち、すっごいねぇ。オーロックスをこんな簡単に……」
先ほどオーロックスに追われていた馬車が戻ってきて、声をかけてきた。
「戻ってきたのか? 律儀だな」
アレクが少しばかり驚いて、言葉を返した。
警告もそうだが、その先を気にしてくれる人も、なかなかいない。
だが、御者の男は、困ったように鼻の頭をかいた。
「いやぁ、だって、ボクらモルタナに行きたいんだよ。それなのに、あんなのに追い掛けられて、逆走する羽目になっちゃって」
そういうことか、とアレクが納得する。
だったら、戻ってくるしかないだろう。
「――でさ、君たちは六人? どこに向かってるの?」
どこか期待したような目をしているその御者に、アレクは何となくこの後の展開を予測した。
「……モルタナだ」
「やった! ねえ、馬車に乗せてあげるからさ。モルタナまで護衛してよ」
それはアレクが予測した、全くその通りの展開だった。
「よし、このくらいにしておくか」
泰基の声で、リィカとユーリが、剣を振るのをやめた。
「「つかれた」」
二人は、地面に座り込んだ。
※ ※ ※
旅の再開から五日目。
休憩時間を利用して、リィカとユーリは剣の練習を始めていた。
まだまだ、二人とも剣の重さに慣れていない。
「そう簡単にできるようにはならないさ。あまり疲れすぎない程度にやっていくぞ」
教えている泰基は、むしろやり過ぎないように注意していた。
旅をしているのだ。体力を使いすぎても困る。
「《回復》」
リィカが魔法を唱えて、ユーリの回復をする。
ユーリの方が効果は高いが、練習も兼ねて、リィカが回復するようにしていた。
「……だいぶ慣れましたね、リィカ」
ユーリが感心したように言った。
使えるようになったのを見せてもらったのは昨日だが、その時よりも明らかに今日の方が良くなっている。
「そう言ってもらえると、うれしいな」
リィカは少しはにかんで答えた。
「あと覚えていない支援魔法は、強化魔法ですが……」
ユーリの言葉に、リィカは難しそうな顔をした。
「強化魔法って、ユーリ、使ったことある?」
「……ないですね」
ユーリの顔も険しい。
強化魔法には、力をアップするものと、速さをアップさせるものがある。
無論、その効果がないはずもないのだが。
「……使いどころが難しいんですよね」
その一言に尽きる。
基本的に、強化魔法は前衛で戦っている人に掛ける魔法だ。
しかし、どのタイミングで掛ければいいのかが分からない。
前衛も、いきなり力や速さがアップすれば戸惑うだろう。その戸惑いが、致命的な隙を産みかねない。
アレクやバルと付き合いの長いユーリも、一度も強化魔法を二人に掛けたことがなかった。
じゃあ前衛組はどう思っているんだ、と視線を向けてみるが、首をかしげている。
「どうしても強化が必要だったら、剣技の発動前の状態を維持すればいいしな」
「現状、強化して欲しいと思うことはねぇな。それよりは、防御してもらったり、攻撃してもらった方がよほど良い」
アレクとバルの返答に、ユーリも腕を組む。
強化を必要とするほどの相手と戦っていないというのも、あるのかもしれない。
「それでも、何かの時のために、使えるようにはなってて欲しいんですよね。使わないのと、使えないのとでは、全然違いますから」
「……うん。がんばる」
ユーリの言葉に、返答するリィカは、暗い顔だ。
完全に支援魔法への苦手意識が染みついてしまっている。
「覚えたら、混成魔法でも何でも、好きなことをして良いですから」
「うん。がんばる」
さっきと同じ返事だが、その顔にはやる気がみなぎっている。
そんなリィカを見て、アレクの口元が綻ぶ。
(ちゃっかりしているな)
でも、自分のやりたいことに一生懸命になれるのは、みんな同じかもしれない。
その時、ふと視線を感じる。
自分じゃない、リィカに向けられた視線。
(……タイキさん?)
アレクは、どこか哀しげにリィカを見ている泰基に、困惑した。
※ ※ ※
十一日目。
ようやく、王都モルタナまで続く主要街道に出た。
到着まで、あと六日程度。
その前に、いくつか街もあるから、宿に泊まれる事もあるだろう。
「……あとは、魔族がいないことを祈るだけだな」
小さくつぶやいたアレクだが、その内容は重い。
どこまで魔族が入り込んでいるのか、全く想像がつかないのだ。
主要街道沿いの街を魔族に潰されていたとしたら、自分たちのように旅をしている人間はもちろん、国家にとっても経済面や安全面での問題が大きくなる。
暁斗は、周りをキョロキョロした後、立ち止まって目を瞑る。
「うーん……。けはい……けはい……、うーん……」
何やら怪しげな暁斗だが、決してふざけているわけではない。
アレクやバルが、気配で敵や味方の位置を察知できると聞いて、暁斗もやり出したのだ。
とはいっても、今のところできている感覚は全くない。
「人間だとそんなに気配強くないからな。Dランク以上の魔物になってくると、大分読みやすいと思うんだが」
「うーん……」
アレクの言葉に、暁斗は唸るだけだ。
そうホイホイとDランク以上の魔物が出てくるはずもない。
ここまで遭遇したのは、Eランクだけだ。
――と、考えていた暁斗が、不意に体をビクッとさせた。
何かに気付いたかのように、街道の先に視線を向ける。
それと同時に、アレクとバルも「ああ」と声を上げた。
「気配、読めてんじゃねぇか、アキト」
「……え、これやっぱりそう?」
「ああ、魔物だな。とはいっても、俺たちも初めての魔物だな。何の魔物か分からない。それと、その魔物から逃げている人間がいる。多分、馬車か何かに乗っているが、それを追い掛けていく魔物となると、足が速い系の魔物か」
「ええ!? 大変じゃん、それ! 助けなくていいの!?」
慌てる暁斗に、アレクは少し笑うと、顎をくいっと動かした。
「よく気配を読め、アキト。こっちに向かってきているんだ。もうすぐ姿が見える。――皆も気をつけろよ、初めての魔物だ!」
「…………あ!」
アレクが全員に注意を促し、暁斗はその気配に気付いて、体をそっちに向ける。
右手で聖剣を抜き放った。
アレクとバルも剣を抜き、最初に見えたのは、爆走する馬車だった。
すると、御者の男が前にいる六人に気付いたんだろう、声を上げる。
「早く逃げて! 危ない! オーロックスだ! 追われてるんだ!」
警告してくれる人は、むしろ親切だ。
中には出会った人に押しつけてしまえ、と何も言わずに通り過ぎる人も多い。
「俺たちが倒すから逃げろ!」
アレクが怒鳴り返す。
そして、魔物の姿が見えた。
「……牛の魔物化した奴?」
暁斗がつぶやくが、アレクとバルは首を横に振る。
「いや、オーロックスっていうのは、魔王が生み出した魔物だ。頭に角が二本生えているだろう? 牛の魔物化は、あんな角はない」
「ああいう突進してくる魔物を、正面から止めんのは無理だ。躱すのもありだが、そうすっとあのままあの馬車を追い掛けそうだからな。だから、こういうときは……」
言葉を切ったバルは、ユーリに視線を向ける。
頷いたユーリは、魔法を唱えた。
すでに、オーロックスはすぐ近くまで来ている。
「《結界》!」
ユーリの放った《結界》が、オーロックスの眼前で作られる。
止まれなかったオーロックスは、そのまま《結界》に激突する。
「で、こうして動きが止まった隙に、倒しゃあ良い」
バルが剣を振るうと、あっさりとオーロックスを倒した。
その様子に、暁斗はやや拍子抜けしたようだった。
「……あれ、なんか、かんたん」
「ユーリの《結界》が強固だから使える手でもあるがな。あれだけ突進の威力があったら、下手な《結界》じゃ、あっさり壊されて終わりだ」
「他に攻撃対象がいなければ、こっちが躱しても、また攻撃しようとUターンしてくるんだ。そこで動きが遅くなるから、その隙に攻撃できる。猪とか、突進系の魔物は結構いるから、覚えておくと便利だぞ」
バル、アレクと交互に解説していく。
オーロックスはDランクの魔物だ。
初見ではあっても、苦戦する相手ではなかった。
「……うっわぁ。君たち、すっごいねぇ。オーロックスをこんな簡単に……」
先ほどオーロックスに追われていた馬車が戻ってきて、声をかけてきた。
「戻ってきたのか? 律儀だな」
アレクが少しばかり驚いて、言葉を返した。
警告もそうだが、その先を気にしてくれる人も、なかなかいない。
だが、御者の男は、困ったように鼻の頭をかいた。
「いやぁ、だって、ボクらモルタナに行きたいんだよ。それなのに、あんなのに追い掛けられて、逆走する羽目になっちゃって」
そういうことか、とアレクが納得する。
だったら、戻ってくるしかないだろう。
「――でさ、君たちは六人? どこに向かってるの?」
どこか期待したような目をしているその御者に、アレクは何となくこの後の展開を予測した。
「……モルタナだ」
「やった! ねえ、馬車に乗せてあげるからさ。モルタナまで護衛してよ」
それはアレクが予測した、全くその通りの展開だった。
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