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第二章 旅の始まりと、初めての戦闘

ボーイズトーク

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「んで、アレク」
「リィカと何があったんですか?」
夜、ベッドに横になったアレクに、バルとユーリが問い詰めた。


アレクに指先にキスをされて真っ赤になったリィカは、そのまま部屋を飛び出した。

そんなリィカを呆然と見送り、何もなかったような顔をしているアレクに、問いたげな視線が集まったのだが……、

「何で二人なの? オレも街の中見たいし、一緒に行きたい」
という、何も分かっていない勇者様の発言に気を削がれ、すっかり問い詰めるタイミングを逃した。

暁斗は、バルとユーリが一緒に出かけようと言ったら、それであっさり納得した。


部屋は、三人部屋が二つだ。
一つは、アレク・バル・ユーリが使い、もう一つは、リィカ・暁斗・泰基が使っている。

それを知った時のアレクは、ひどく不機嫌そうな顔をしたが、「個室がねぇんだよ」というバルの言葉と、「衝立はありますから」というユーリのフォローに、渋々諦めた。


リィカは、流石に食事時には顔を見せたが、明らかにアレクを避けようとして、しかし気にせず隣の席を確保したアレクの方を、できるだけ見ないようにしていた。

考えてみれば、結構長い時間、二人きりだったのだ。
ほとんどがアレクは寝ていたが、起きていた時間もあったはず。

前々から、アレクがリィカを意識していたことに気付いていた二人としては、ここは問い詰めないわけにはいかなかった。


バルとユーリの問いに、アレクは「んー」と言うだけだ。

「リィカのあの反応、単に恥ずかしくなっただけじゃねぇ。ちゃんと意味分かっての反応だろ?」

「平民出身のリィカが、その意味を知っているはずありませんよね。誰かが教えない限りは」

バルとユーリは、尋問さながらに問い詰めるが、アレクは口を開かない。
だが、容赦するつもりはなかった。

「しかし、いつからだ? 意識はしていても、まったく自覚してる風はなかったよな。リィカと話すアキトやタイキさんを、よく睨んではいたが」

「明らかに変わったのは、旅立ち前のパーティーじゃないですか? 名前を呼ばせようとしたときのアレ、無自覚だったら絶対にやらないでしょう」

「ああ、確かにな」

アレクは、内心で呻いた。
何も言っていないのに、なぜか全部見透かされている。
そんなアレクにお構いなしに、さらに話が続く。

「リィカから相談されたことあるんですよ。アレクと話しているとよく不機嫌になるんだけど、どうしたらいいのか、と。気にするなと言っておいたんですけどね」

アレクの我慢は、ここまでだった。
「何で、リィカがお前に相談するんだよ!?」

ガバッと跳ね起きて叫べば、二人がしてやったりとばかりに笑った。
やばい、と思って、また横になってふて寝を決め込もうとしたが、遅かった。

「ほれ、いいからサッサと吐け」

「王太子殿下一筋のアレクに、好きな女性ができたんです。喜ばしいじゃないですか」

「ああもう、うるさい! 大体、お前らはどうなんだよ!? 気が付いたら婚約者なんか作って、それを俺に一言もなく! 俺が知ったの、父上と兄上に教えられてだぞ? 何で知らないんだ、と言われても、俺の方が聞きたいっての!」

しかし、それで参る二人ではなかった。
「今は、おれたちの話はいいんだよ」

「というか、好きな女性、という言葉は否定しないんですね。いや、良かったです」

ぐ、と呻いたアレクは、枕に顔を埋めた。
「…………………ああ、もう。何でお前らに話さないといけないんだよ」

「言ったじゃないですか。王太子殿下のことしか考えていないアレクが、心配だったんですよ」
「どこが心配だ!? 面白がっているだけだろう!」
結局また跳ね起きて、アレクは叫んだ。

「それに、言う羽目になったの、ユーリのせいだからな! まったく意識されていないの、分かっていたのに……」
そこまで言って、しまったという顔をして、口を覆う。

「……疲れているから、もう寝るな」
ずっと寝ていて体力が落ちているから、とかもっともらしいことを言って横になるが、すでに遅い。

「そこまで言って、逃げんな」
「僕のせいってどういうことですか。気になるじゃないですか」

ニヤニヤ笑っているバルと、ニコニコ笑っているユーリを横目に睨み付ける。
しかし、顔を上げる勇気は持てず、枕に顔を埋めて、ボソボソと言った。

「……ユーリ、言っていただろ。《回復ヒール》の練習をしているときに。回復の力が外に漏れているから、体を密着させれば回復効果があるかも、って」

「……え、ああ。確かに言いましたけど……、もしかして密着されて、それだけで告白しちゃったんですか? あれ、でも、《回復ヒール》も使えるようになったんですよね?」

確かにリィカからそう聞いた。
一度使って見せてもらおうと思いながらも、ここまでその機会がなかった。

「最初から使えたわけじゃない。使えるようになったのは、俺が目を覚まして、落ち着いてからだ。川から上がって、まだ出血が治まってなかった時は、パニックになっていて、それどころじゃなかったみたいだ。だから……」

ためらったが、話さないとこいつらも納得しないだろう。
聞いて後悔しろ、と思いながら、アレクは続きを口にした。

「ユーリに言われた言葉を思い出して、そして、ずぶ濡れでもあったから、あいつ、服を脱いで下着姿になってたんだよ。その状態で、俺に抱き付いて《回復ヒール》をしていた。
 で、俺が目を覚ました後も、服を着るのなんか後回しだ、って下着姿で、俺の世話をしようとするから……」

「……すいません。分かりましたので、もういいです」
話の途中で遮ってきたユーリは、顔を手で覆っている。

「うるさい。話せって言ったのは、お前らだろ。それで、言ったんだよ。好きな女の子にそんな格好されていると変な気持ちになるから、服を着てくれってな。――これで満足か?」
最後はもう自棄である。

「……えーと、なんかすいません」
「……あー、うん、まあ、なかなか大変だったな」

ユーリは顔を手で覆ったまま、バルは完全にそっぽを向いている。
二人とも、微妙に耳が赤い。

「……言っとくが、想像したら殺すからな」
アレクの低い声に、冗談じゃない響きがある。

ユーリの身体が、一瞬ビクッと跳ね上がったのを見て、アレクが睨む。
バルは何も反応を見せなかったが、ボソッと言った。

「親父に言われたな。……一度くらい着替えとかノゾキしてみろって」
「ほお? どういうことだ?」
「待て、アレク。おれじゃねぇ。親父が言ったんだ!」
「で、それを実践しようと?」
「しねぇよ! 命がいくつあっても足りねぇだろうが!」
「……まあまあ、二人とも落ち着いて……」


そんなくだらない会話で、夜も更けていく。
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