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第二章 旅の始まりと、初めての戦闘
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アレクが暁斗と一緒に部屋に戻ると、一斉に注目された。
怯むのを感じつつも、暁斗は頭を下げる。
「ひどいこと言って、ごめんなさい。――もう大丈夫だから」
暁斗をジッと見て、泰基は少しホッとする。
落ち着いているように見えた。
今気になるのは、うつむいたままの、顔色の悪いリィカだ。
※ ※ ※
問題は、暁斗のことだけではない。他にも山積みだ。
と言うことで、話は他に移っていった。
「問題一、何故魔族があそこにいたのか。問題二、剣で切れない体が一体何なのか、問題三、無詠唱で魔法を使った、ですかね」
「……は? ……無詠唱?」
「問題四、もあるぞ。あの村がどういう状態になってたか、まったく確認してねぇ」
「確かに。すぐに、川に落ちた二人を追い掛け始めましたからね」
「無視するな。無詠唱って何だよ?」
少しムッときてアレクが聞き返す。分かってないのは自分だけだ。
「順番に話していきますよ、アレク」
まず、問題一。
これは、ポールが言っていた。
『ニンゲンは、オレっちたちが真っ正面からしか攻めてこない、と信じてるんだからさ』
信じるも何も、今までがそうだったんだから、普通そう思うだろう。
「問題は、魔族たちが入り込んでいるのがあそこだけという保証はない、と言うことだ」
アレクが苛立たしげに言った。
あの村(エブラ村という)は、モントルビア王国の最南端、アルカトル王国に近い村だ。
そんな所にまで入り込んでいたのだから、アルカトル王国にも入り込んでいる可能性が無視できない。
「アルカトル王国に戻るわけには行きませんから、モントルビアの王宮に行って話をして、各国に連絡を取ってもらうしかないでしょうね。アルカトルの大使もいますから、そこから国に連絡をしてもらえるはずです」
ユーリの言葉に、アレクがため息をついた。
「……行きたくないんだよ、あそこ」
「気持ちは分かりますけど、他に方法がありません」
重苦しい雰囲気を醸し出しているアレクに、暁斗が話しかけた。
「なんかあるの、そこ?」
「……あそこの国王から側近から、レイズクルスみたいな奴ばかりだと思ってくれ」
かの魔法師団長の名前に、暁斗の表情が引き攣った。
「うわぁ、それはやだ」
「だろ? 俺も一応は王子として対応はされるだろうが、俺の母親は子爵家出身だからな。下級貴族出の王子だと馬鹿にしてくるんだ。何回こいつら斬ってやろうと思ったか」
物騒なアレクの言葉に、暁斗は顔を引き攣らせたまま、思い出しつつ言う。
「アレクのお母さん、側室だって言ってたっけ」
「ああ。アルカトルじゃ父上も王妃様も目を光らせていたから、そういうことを言う奴はいなかったが、他国じゃそうはいかない」
だが、こうなってしまっては行かないわけにはいかない。
しょうがない、とアレクは続ける。
「次はモントルビアの王都、モルタナに向かうぞ。ただ王宮には俺一人で行く。アルカトルみたいに何か言われても、正直フォローできる保証が何もないから」
街で待っていてくれ、と言われて、一も二もなく頷いたのは、リィカと暁斗だ。泰基も、少し悩みつつも頷いた。
一方、バルとユーリは、納得できない表情をしている。
「おれも行くぞ? 別にフォローはいらねぇから」
「僕も行きますよ。あの王宮に一人は、さすがに辛いですよ」
二人の言葉にアレクがホッとしたような表情をしたが、口から出たのは、憎まれ口だった。
「来たいんなら勝手に来い。何を言われても、俺は知らないからな」
だが、付き合いの長い二人は気にしない。
「そんなこと言って、泣きべそかいても知らねぇぞ」
「侯爵と伯爵ですからね。子爵よりは上なんですよ。僕たちの方が待遇いいかもしれませんよ」
「…………………………すいませんでした。どうかいっしょに来て下さい」
あっさり撃沈したアレクに、笑いが起こった。
「結局魔族は何が目的で潜り込んでいるのかは、分からないんだよな?」
笑いが収まった頃に、泰基が質問をする。
アレクとバルが顔を見合わせた。答えたのは、アレクだ。
「そうだな。目的は不明。内側から荒らそうとしている、というのが、真っ先に思い浮かぶな。あるいは、あの村を調べれば何か分かったのかもしれないが、今さらだしな。その辺りも含めて、モントルビアに言うしかないが……」
面倒そうなアレクの言葉を、バルが継いだ。
「何で調べなかった、と文句を言われそうだな。調べてこいと言われるか? 下手すりゃ、アルカトル王国に責任問題として追求する可能性もあるか?」
「……さすがに、国際問題にはしないだろう」
魔王討伐の旅をする勇者一行は、別にアルカトル王国に所属しているわけではない。
旅の途中で不測の事態など、いくらでも起こる。
それで問題が起こったからと言って、いちいち目くじらを立てられても困るし、どこの国も変に文句を言って、勇者一行の足を止めることこそを嫌がる。
早く魔王を倒してくれ、というのが誰もの願いだ。
だから大丈夫なはず、とアレクは思うが、それでも言い切れない辺りに、アレクのモントルビアへの不信感がよく分かる。
「問題四も解決でいいよな。問題二は……ポールは固かったが、パールもか?」
「ああ。普通に剣を振るっただけじゃ、全く傷つかなかった」
泰基が、戦った時を思い出しつつ、言葉を続ける。
「【青鮫剣破】は、片手で簡単に受け止められた。傷一つ付いてなかったな。【鯨波鬨声破】は躱された。その後は、バルがエンチャントを使えと言うから、そっちで対処したら剣が通った」
「【隼一閃】も、ポールに簡単に片手で受け止められたな」
「おれたちが着いたとき、パール、脇腹を負傷していたよな。あれはリィカか?」
聞かれたリィカは、頷いた。
顔色は、だいぶ良くなっている。
「《火炎光線》を使ったの。――わたしは、固い、とか特に何も感じなかった」
うーん、と一同悩む。
「……少なくとも、魔法は普通に通じる?」
「今のところは、そうなるな。だけど、剣技を躱したというのも気になる。ダメージを受けないなら、躱す必要はないだろう?」
また一同が考え始めたところで、泰基が手を叩いた。
「話はここまでだ。情報が少なすぎるから、これ以上話をしたところで、結論は出ない。今後魔族に遭遇したら、色々な手を試してみるしかないだろ。……それでどうだ、アレク」
「ああ、そうだな。だけどタイキさん、別に俺に確認しなくていいぞ」
しかし泰基は不思議そうに、
「でも、リーダーはお前だろ。お前に確認しなくてどうするんだ」
「……俺ってリーダーだったのか? 普通、勇者がリーダーをするものだろう?」
視線を向けられた暁斗は、とんでもない、と手を振る。
「オレ、ムリだから。アレク、よろしく」
あっさり言われて、ジロッと暁斗を睨むが、諦めたように息を一つついた。
「……あとは、問題三だが……、無詠唱ってあれか? リィカたちがやってる奴」
「最初、パールが暁斗たちに《炎の槍》を使ったでしょ? あれも無詠唱だった。その後、何回も無詠唱で魔法を使ってた」
アレクに、リィカが説明する。
「おれも、パールに《火柱》で攻撃された。躱せなくて、まともに食らっちまった」
バルも、言葉を続ける。
「ポールは、魔法を使ってなかったよな?」
アレクがバルに確認するように聞けば、バルも頷いた。
「使えないのか、使う前におれたちが倒したのかは分かんねぇけどな。――で、無詠唱って、どう対処すればいいんだ?」
「唱え終わる前に攻撃されれば、発動できない。わたしも、何度もパールに阻止されて、《火炎光線》を使うのが大変だった」
「……分かりやすくて結構だが」
「距離を開けられると、キツいな」
バルとアレクの表情は苦々しい。
詠唱するならいくらでも近づけるが、魔法名を唱えるだけなら余程近づいていないと、その間に攻撃するのはかなり骨だ。
「二人とも、やっぱり無詠唱は無理か?」
泰基の質問に、二人が頷く。
「何回やっても、まったくピンとこない」
「どれだけイメージしても、全然駄目だ」
このメンバーで、アレクとバルは無詠唱を使えない。
それができれば状況は違うのだろうが、現状二人とも、その糸口すら掴めていなかった。
「……エンチャントだけでも、無詠唱でできるようになりてぇな」
「そうだな。剣技がどれだけ役に立つか分からない以上、エンチャントに頼るしかないからな」
これまで剣技を磨いてきただけに、それが役に立たないというのは、あまり嬉しい状況じゃない。
とはいっても、現状ではどうすることもできないのは確かだ。
「ポール・パールとの戦いじゃ、全員バラバラになってしまったが、できるだけそれは避けよう。このメンバーで力を合わせて戦えれば、できることが格段に増える。それで、いいか?」
リィカが手を上げた。
「……基本的にはそれでいいんだけど。これから先、近接戦闘にまったく対処できないとキツい気がするの。だから、剣を教えて欲しい」
リィカの言葉に、皆が唖然とした表情を浮かべた。
怯むのを感じつつも、暁斗は頭を下げる。
「ひどいこと言って、ごめんなさい。――もう大丈夫だから」
暁斗をジッと見て、泰基は少しホッとする。
落ち着いているように見えた。
今気になるのは、うつむいたままの、顔色の悪いリィカだ。
※ ※ ※
問題は、暁斗のことだけではない。他にも山積みだ。
と言うことで、話は他に移っていった。
「問題一、何故魔族があそこにいたのか。問題二、剣で切れない体が一体何なのか、問題三、無詠唱で魔法を使った、ですかね」
「……は? ……無詠唱?」
「問題四、もあるぞ。あの村がどういう状態になってたか、まったく確認してねぇ」
「確かに。すぐに、川に落ちた二人を追い掛け始めましたからね」
「無視するな。無詠唱って何だよ?」
少しムッときてアレクが聞き返す。分かってないのは自分だけだ。
「順番に話していきますよ、アレク」
まず、問題一。
これは、ポールが言っていた。
『ニンゲンは、オレっちたちが真っ正面からしか攻めてこない、と信じてるんだからさ』
信じるも何も、今までがそうだったんだから、普通そう思うだろう。
「問題は、魔族たちが入り込んでいるのがあそこだけという保証はない、と言うことだ」
アレクが苛立たしげに言った。
あの村(エブラ村という)は、モントルビア王国の最南端、アルカトル王国に近い村だ。
そんな所にまで入り込んでいたのだから、アルカトル王国にも入り込んでいる可能性が無視できない。
「アルカトル王国に戻るわけには行きませんから、モントルビアの王宮に行って話をして、各国に連絡を取ってもらうしかないでしょうね。アルカトルの大使もいますから、そこから国に連絡をしてもらえるはずです」
ユーリの言葉に、アレクがため息をついた。
「……行きたくないんだよ、あそこ」
「気持ちは分かりますけど、他に方法がありません」
重苦しい雰囲気を醸し出しているアレクに、暁斗が話しかけた。
「なんかあるの、そこ?」
「……あそこの国王から側近から、レイズクルスみたいな奴ばかりだと思ってくれ」
かの魔法師団長の名前に、暁斗の表情が引き攣った。
「うわぁ、それはやだ」
「だろ? 俺も一応は王子として対応はされるだろうが、俺の母親は子爵家出身だからな。下級貴族出の王子だと馬鹿にしてくるんだ。何回こいつら斬ってやろうと思ったか」
物騒なアレクの言葉に、暁斗は顔を引き攣らせたまま、思い出しつつ言う。
「アレクのお母さん、側室だって言ってたっけ」
「ああ。アルカトルじゃ父上も王妃様も目を光らせていたから、そういうことを言う奴はいなかったが、他国じゃそうはいかない」
だが、こうなってしまっては行かないわけにはいかない。
しょうがない、とアレクは続ける。
「次はモントルビアの王都、モルタナに向かうぞ。ただ王宮には俺一人で行く。アルカトルみたいに何か言われても、正直フォローできる保証が何もないから」
街で待っていてくれ、と言われて、一も二もなく頷いたのは、リィカと暁斗だ。泰基も、少し悩みつつも頷いた。
一方、バルとユーリは、納得できない表情をしている。
「おれも行くぞ? 別にフォローはいらねぇから」
「僕も行きますよ。あの王宮に一人は、さすがに辛いですよ」
二人の言葉にアレクがホッとしたような表情をしたが、口から出たのは、憎まれ口だった。
「来たいんなら勝手に来い。何を言われても、俺は知らないからな」
だが、付き合いの長い二人は気にしない。
「そんなこと言って、泣きべそかいても知らねぇぞ」
「侯爵と伯爵ですからね。子爵よりは上なんですよ。僕たちの方が待遇いいかもしれませんよ」
「…………………………すいませんでした。どうかいっしょに来て下さい」
あっさり撃沈したアレクに、笑いが起こった。
「結局魔族は何が目的で潜り込んでいるのかは、分からないんだよな?」
笑いが収まった頃に、泰基が質問をする。
アレクとバルが顔を見合わせた。答えたのは、アレクだ。
「そうだな。目的は不明。内側から荒らそうとしている、というのが、真っ先に思い浮かぶな。あるいは、あの村を調べれば何か分かったのかもしれないが、今さらだしな。その辺りも含めて、モントルビアに言うしかないが……」
面倒そうなアレクの言葉を、バルが継いだ。
「何で調べなかった、と文句を言われそうだな。調べてこいと言われるか? 下手すりゃ、アルカトル王国に責任問題として追求する可能性もあるか?」
「……さすがに、国際問題にはしないだろう」
魔王討伐の旅をする勇者一行は、別にアルカトル王国に所属しているわけではない。
旅の途中で不測の事態など、いくらでも起こる。
それで問題が起こったからと言って、いちいち目くじらを立てられても困るし、どこの国も変に文句を言って、勇者一行の足を止めることこそを嫌がる。
早く魔王を倒してくれ、というのが誰もの願いだ。
だから大丈夫なはず、とアレクは思うが、それでも言い切れない辺りに、アレクのモントルビアへの不信感がよく分かる。
「問題四も解決でいいよな。問題二は……ポールは固かったが、パールもか?」
「ああ。普通に剣を振るっただけじゃ、全く傷つかなかった」
泰基が、戦った時を思い出しつつ、言葉を続ける。
「【青鮫剣破】は、片手で簡単に受け止められた。傷一つ付いてなかったな。【鯨波鬨声破】は躱された。その後は、バルがエンチャントを使えと言うから、そっちで対処したら剣が通った」
「【隼一閃】も、ポールに簡単に片手で受け止められたな」
「おれたちが着いたとき、パール、脇腹を負傷していたよな。あれはリィカか?」
聞かれたリィカは、頷いた。
顔色は、だいぶ良くなっている。
「《火炎光線》を使ったの。――わたしは、固い、とか特に何も感じなかった」
うーん、と一同悩む。
「……少なくとも、魔法は普通に通じる?」
「今のところは、そうなるな。だけど、剣技を躱したというのも気になる。ダメージを受けないなら、躱す必要はないだろう?」
また一同が考え始めたところで、泰基が手を叩いた。
「話はここまでだ。情報が少なすぎるから、これ以上話をしたところで、結論は出ない。今後魔族に遭遇したら、色々な手を試してみるしかないだろ。……それでどうだ、アレク」
「ああ、そうだな。だけどタイキさん、別に俺に確認しなくていいぞ」
しかし泰基は不思議そうに、
「でも、リーダーはお前だろ。お前に確認しなくてどうするんだ」
「……俺ってリーダーだったのか? 普通、勇者がリーダーをするものだろう?」
視線を向けられた暁斗は、とんでもない、と手を振る。
「オレ、ムリだから。アレク、よろしく」
あっさり言われて、ジロッと暁斗を睨むが、諦めたように息を一つついた。
「……あとは、問題三だが……、無詠唱ってあれか? リィカたちがやってる奴」
「最初、パールが暁斗たちに《炎の槍》を使ったでしょ? あれも無詠唱だった。その後、何回も無詠唱で魔法を使ってた」
アレクに、リィカが説明する。
「おれも、パールに《火柱》で攻撃された。躱せなくて、まともに食らっちまった」
バルも、言葉を続ける。
「ポールは、魔法を使ってなかったよな?」
アレクがバルに確認するように聞けば、バルも頷いた。
「使えないのか、使う前におれたちが倒したのかは分かんねぇけどな。――で、無詠唱って、どう対処すればいいんだ?」
「唱え終わる前に攻撃されれば、発動できない。わたしも、何度もパールに阻止されて、《火炎光線》を使うのが大変だった」
「……分かりやすくて結構だが」
「距離を開けられると、キツいな」
バルとアレクの表情は苦々しい。
詠唱するならいくらでも近づけるが、魔法名を唱えるだけなら余程近づいていないと、その間に攻撃するのはかなり骨だ。
「二人とも、やっぱり無詠唱は無理か?」
泰基の質問に、二人が頷く。
「何回やっても、まったくピンとこない」
「どれだけイメージしても、全然駄目だ」
このメンバーで、アレクとバルは無詠唱を使えない。
それができれば状況は違うのだろうが、現状二人とも、その糸口すら掴めていなかった。
「……エンチャントだけでも、無詠唱でできるようになりてぇな」
「そうだな。剣技がどれだけ役に立つか分からない以上、エンチャントに頼るしかないからな」
これまで剣技を磨いてきただけに、それが役に立たないというのは、あまり嬉しい状況じゃない。
とはいっても、現状ではどうすることもできないのは確かだ。
「ポール・パールとの戦いじゃ、全員バラバラになってしまったが、できるだけそれは避けよう。このメンバーで力を合わせて戦えれば、できることが格段に増える。それで、いいか?」
リィカが手を上げた。
「……基本的にはそれでいいんだけど。これから先、近接戦闘にまったく対処できないとキツい気がするの。だから、剣を教えて欲しい」
リィカの言葉に、皆が唖然とした表情を浮かべた。
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