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第二章 旅の始まりと、初めての戦闘
リィカか凪沙か
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「実際の所、生後数ヶ月の事なんか覚えていないだろう。あいつが見ている夢は、周りから色々話を聞かされてできた、あいつ自身の想像の産物なんだろうと思う」
泰基は語る。
「ただ、その夢にすっかり参ってる。母親なんか嫌いだと、自分に言い聞かせることで、何とか落ち着いてる。何もなければ、いずれ時間が解決してくれる事を祈るしかなかったんだが……」
「リィカとアレクの行動が、思い切り刺激しちまったわけか」
バルが言葉を引き継ぐと、泰基は苦笑しつつ頷いた。
「二人が悪いわけじゃ、全然ないんだけどな。これから戦っていけば、庇って庇われて、なんていうのは当たり前に出てくるだろう。そう思えば、こんな早い段階で、あいつの問題が表面化したのは、まだ良かったのかとも思うけどな」
泰基がフォローするように言ったのは、リィカの顔色がどんどん悪くなっていくのを見たからだ。
もしも、本当にリィカが凪沙の転生した姿だとすれば、この話は辛いはずだ。
(俺の方から気付いているというべきか……? でも、たぶん間違いないとは思っても、絶対に間違いないとまでは言い切れないんだよな)
もしも万が一間違っていたらどうしようか、と考えてしまうと、なかなかそれ以上踏み込めない。
「すいません。確認なのですが、……その、魔族が人と変わらないように見える、と言うのとは、まったく別の問題ですよね?」
手を上げて発言するユーリに、泰基は頷いた。
「確かにそうだが、それは割り切るしかないさ。そのために、あいつにも相手をさせたわけだしな。――実際、あんな固い身体の人間とかいないだろうし、そう考えると、割り切るのも難しくない」
「……そうですか。最後、魔王のトドメだけはお願いするしかありませんが、他は僕たちだけで戦うという方法もあるか、とは考えていたんですが」
泰基は目を丸くして、しかしすぐに笑った。
「気持ちはありがたいよ。ただ、それをすると、暁斗が庇われっぱなしになるからな。そっちの方が問題だ」
ユーリが悄然とうつむき、アレクが口を開いた。
「……タイキさん、俺は謝らないからな。俺は悪いことをしたとは思っていない」
「ああ、分かってる」
頷く泰基に、アレクは一瞬悩んだが、それでも言葉を続けた。
「こんな事を言うべきじゃないかもしれないが……。大切な人を守るために、命をかけることの何が悪い。俺は、自分が命を捨てて、それで大切な人を守れるんなら、喜んでその道を選ぶ」
「おい! アレク!!」
バルが慌ててアレクを止めようとするが、それを制したのは泰基だった。
「そうやって助けられた方は、辛いぞ?」
「他に方法は探す。でも、それしかないと思えば躊躇わない。命をかければ助けられたかもしれないのに、躊躇って助けられなかったら、そっちが辛い」
泰基は意表を突かれた顔をした。
「……そっち側の心理もあるのか」
「助けられて最初は辛くても、それこそ時間が解決してくれるだろうし、周りに支えられてもっと早くに立ち直ってくれるかもしれない。そう思えば、そんなに命をかけることも気にならない」
「気にしろ、お前は」
「まったくですよ。……少しは落ち着いたかと思ったんですけど、全然駄目ですか、あなたは」
アレクの言葉に、バルとユーリが突っ込みを入れて、大きく息を吐く。
「「これだから、目を離せない」」
異口同音に二人の言葉が重なって、泰基は目をパチパチさせ、アレクは憮然とした表情を浮かべる。
「……何がだよ」
「そういう考えを、普通にしちまう所だよ」
横目でギロッと睨んで、バルは泰基に向き直る。
「まあ何だ、アレクの言ったことは忘れてくれ。こいつも色々あって、今は落ち着いた……はずだから、とりあえずはいい。――アキトをどうするか、だが……」
腕を組んで考え込むバルに、アレクは簡単に言った。
「どうするも何も、自分で解決するしかないんだよ。――アキトの所に行ってくる。付いてくるなよ」
「……はあ!?」
「何をするんですか、アレク!?」
手をヒラヒラ振りながら出て行くアレクを唖然と見送って、バルとユーリは顔を見合わせた。
「大丈夫ですかね?」
「いや、さすがに……、いやでも、タイキさんに言ったような事を言ったら、アキト、キツいよな?」
不安そうにしている二人を見て、しかし、泰基は笑った。
「いいさ。行ってくれるんなら、お願いする。――アレクは、自分で解決したんだな」
聞かれて、またバルとユーリは顔を合わせる。
「ええ、まあ。解決はしたんですけど」
「あの言葉を聞くと、不安になるけどな。解決はしたはずだ。――本当に、本気であいつが命を捨てて助けたとして……王太子殿下が立ち直れるのか?」
「気をつけないと、あっという間に後を追いそうですけどね……。レーナニア様がいらっしゃるから、大丈夫だと思ってるんじゃないですか?」
二人のやり取りに、泰基が首をかしげる。
「……王太子殿下? って、アレクの兄の、だよな?」
「ああ。あいつが命を捨てても助けたい対象だよ。王太子殿下が一時期、命の危機があってな。なんもできねぇばかりか、自分のせいで危険な目に合わせた、って、落ち込みがひどかった」
「……別に、アレクが責任を感じることは、何もなかったんでしょうけどね」
当時を思い出して、ユーリがため息をつく。
本当にあの頃のアレクはひどかった。よく元気になったと思う。
「王太子殿下がいなければ、アレクも無駄に命を捨てようとか考えないと思ってたんですけど……。正直、ああやってリィカを助けたことが、意外すぎました」
そこまで言って、ユーリは、リィカが全然言葉を発していないことに気付く。
バルも、泰基も、リィカを見て、……顔が真っ青になっているリィカに気付いた。
(あの程度のフォローじゃ、足りなかったか)
泰基は悩みながらも、必死に言葉を探す。が、上手い言葉など見つからない。
「……リィカ、そんなに気にしなくていいから」
「……ごめんなさい、泰基。わたしの、せいで……」
頭を下げるリィカを見て、泰基は考える。
(わたしのせい……ね)
その“わたし”の中に、凪沙も入っているんだろうか。
「アレクは謝らなかっただろ。リィカだって、悪いことをしたと思ってないなら、謝罪はいらない。守ってもらって、こっちがお礼を言わなきゃいけないんだ。ただ、一方的に守ろうとするのは、今後は必要ないから、それだけは覚えておいて欲しい」
リィカが黙って頷くのを、泰基はジッと見ていた。
泰基は語る。
「ただ、その夢にすっかり参ってる。母親なんか嫌いだと、自分に言い聞かせることで、何とか落ち着いてる。何もなければ、いずれ時間が解決してくれる事を祈るしかなかったんだが……」
「リィカとアレクの行動が、思い切り刺激しちまったわけか」
バルが言葉を引き継ぐと、泰基は苦笑しつつ頷いた。
「二人が悪いわけじゃ、全然ないんだけどな。これから戦っていけば、庇って庇われて、なんていうのは当たり前に出てくるだろう。そう思えば、こんな早い段階で、あいつの問題が表面化したのは、まだ良かったのかとも思うけどな」
泰基がフォローするように言ったのは、リィカの顔色がどんどん悪くなっていくのを見たからだ。
もしも、本当にリィカが凪沙の転生した姿だとすれば、この話は辛いはずだ。
(俺の方から気付いているというべきか……? でも、たぶん間違いないとは思っても、絶対に間違いないとまでは言い切れないんだよな)
もしも万が一間違っていたらどうしようか、と考えてしまうと、なかなかそれ以上踏み込めない。
「すいません。確認なのですが、……その、魔族が人と変わらないように見える、と言うのとは、まったく別の問題ですよね?」
手を上げて発言するユーリに、泰基は頷いた。
「確かにそうだが、それは割り切るしかないさ。そのために、あいつにも相手をさせたわけだしな。――実際、あんな固い身体の人間とかいないだろうし、そう考えると、割り切るのも難しくない」
「……そうですか。最後、魔王のトドメだけはお願いするしかありませんが、他は僕たちだけで戦うという方法もあるか、とは考えていたんですが」
泰基は目を丸くして、しかしすぐに笑った。
「気持ちはありがたいよ。ただ、それをすると、暁斗が庇われっぱなしになるからな。そっちの方が問題だ」
ユーリが悄然とうつむき、アレクが口を開いた。
「……タイキさん、俺は謝らないからな。俺は悪いことをしたとは思っていない」
「ああ、分かってる」
頷く泰基に、アレクは一瞬悩んだが、それでも言葉を続けた。
「こんな事を言うべきじゃないかもしれないが……。大切な人を守るために、命をかけることの何が悪い。俺は、自分が命を捨てて、それで大切な人を守れるんなら、喜んでその道を選ぶ」
「おい! アレク!!」
バルが慌ててアレクを止めようとするが、それを制したのは泰基だった。
「そうやって助けられた方は、辛いぞ?」
「他に方法は探す。でも、それしかないと思えば躊躇わない。命をかければ助けられたかもしれないのに、躊躇って助けられなかったら、そっちが辛い」
泰基は意表を突かれた顔をした。
「……そっち側の心理もあるのか」
「助けられて最初は辛くても、それこそ時間が解決してくれるだろうし、周りに支えられてもっと早くに立ち直ってくれるかもしれない。そう思えば、そんなに命をかけることも気にならない」
「気にしろ、お前は」
「まったくですよ。……少しは落ち着いたかと思ったんですけど、全然駄目ですか、あなたは」
アレクの言葉に、バルとユーリが突っ込みを入れて、大きく息を吐く。
「「これだから、目を離せない」」
異口同音に二人の言葉が重なって、泰基は目をパチパチさせ、アレクは憮然とした表情を浮かべる。
「……何がだよ」
「そういう考えを、普通にしちまう所だよ」
横目でギロッと睨んで、バルは泰基に向き直る。
「まあ何だ、アレクの言ったことは忘れてくれ。こいつも色々あって、今は落ち着いた……はずだから、とりあえずはいい。――アキトをどうするか、だが……」
腕を組んで考え込むバルに、アレクは簡単に言った。
「どうするも何も、自分で解決するしかないんだよ。――アキトの所に行ってくる。付いてくるなよ」
「……はあ!?」
「何をするんですか、アレク!?」
手をヒラヒラ振りながら出て行くアレクを唖然と見送って、バルとユーリは顔を見合わせた。
「大丈夫ですかね?」
「いや、さすがに……、いやでも、タイキさんに言ったような事を言ったら、アキト、キツいよな?」
不安そうにしている二人を見て、しかし、泰基は笑った。
「いいさ。行ってくれるんなら、お願いする。――アレクは、自分で解決したんだな」
聞かれて、またバルとユーリは顔を合わせる。
「ええ、まあ。解決はしたんですけど」
「あの言葉を聞くと、不安になるけどな。解決はしたはずだ。――本当に、本気であいつが命を捨てて助けたとして……王太子殿下が立ち直れるのか?」
「気をつけないと、あっという間に後を追いそうですけどね……。レーナニア様がいらっしゃるから、大丈夫だと思ってるんじゃないですか?」
二人のやり取りに、泰基が首をかしげる。
「……王太子殿下? って、アレクの兄の、だよな?」
「ああ。あいつが命を捨てても助けたい対象だよ。王太子殿下が一時期、命の危機があってな。なんもできねぇばかりか、自分のせいで危険な目に合わせた、って、落ち込みがひどかった」
「……別に、アレクが責任を感じることは、何もなかったんでしょうけどね」
当時を思い出して、ユーリがため息をつく。
本当にあの頃のアレクはひどかった。よく元気になったと思う。
「王太子殿下がいなければ、アレクも無駄に命を捨てようとか考えないと思ってたんですけど……。正直、ああやってリィカを助けたことが、意外すぎました」
そこまで言って、ユーリは、リィカが全然言葉を発していないことに気付く。
バルも、泰基も、リィカを見て、……顔が真っ青になっているリィカに気付いた。
(あの程度のフォローじゃ、足りなかったか)
泰基は悩みながらも、必死に言葉を探す。が、上手い言葉など見つからない。
「……リィカ、そんなに気にしなくていいから」
「……ごめんなさい、泰基。わたしの、せいで……」
頭を下げるリィカを見て、泰基は考える。
(わたしのせい……ね)
その“わたし”の中に、凪沙も入っているんだろうか。
「アレクは謝らなかっただろ。リィカだって、悪いことをしたと思ってないなら、謝罪はいらない。守ってもらって、こっちがお礼を言わなきゃいけないんだ。ただ、一方的に守ろうとするのは、今後は必要ないから、それだけは覚えておいて欲しい」
リィカが黙って頷くのを、泰基はジッと見ていた。
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