転生ヒロインと人魔大戦物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~

田尾風香

文字の大きさ
上 下
46 / 637
第二章 旅の始まりと、初めての戦闘

旅の始まり(後)

しおりを挟む
次の日、国境であるクバント川を越えて、モントルビア王国に入っていた。

しばらく、川沿いに北上していくのだが、周りは木々が多い。
そのせいで、今襲ってきている洗熊ラクーンの対応が、少し面倒だった。

普通に地面から攻撃してくるのもいれば、木登りをして、上から攻撃をしてくるのもいる。
ランクはEランクだが、面倒くさい状況が出来上がっていた。


泰基と暁斗が背中合わせに戦っている。
二人にとって、この上下から来る攻撃に対応するのは結構キツい。
リィカとユーリも魔法で援護に入っていた。

一方で、アレクとバルは、まだまだ余裕だ。
そう時間を掛けず、倒しきることに成功した。

「父さん、大丈夫?」
暁斗が心配そうに父に問いかける。

少し旅に慣れてきた、というか、このままじゃ埒があかないと考えた泰基は、自分で自分に《回復ヒール》をかけて剣の練習を行うようになった。

元々、暁斗と同じく、日本で剣道をやっていた泰基だ。基礎はしっかりできているし、やり出せば勘を取り戻すのも早かった。

「タイキさん、後衛でも良いと思うんですけど。回復魔法も使えるわけですし」
そう言ったのはユーリだ。

回復だけではなく、攻撃魔法も中級魔法は完全に扱えるようになっている。
わざわざ前にでなくても、とユーリは思う。

「せっかくできるのに、やらないのはもったいないだろ。正直、後衛は三人もいらないだろうし」
リィカとユーリは剣を使えない。完全な後衛だ。
だったら、状況に応じて前衛もできる自分がいてもいいんじゃないか、と泰基は考えていた。

「あえていうなら、リィカが回復魔法を覚えてくれると良いんだけどな」
「……う……。がんばります……」

泰基の言葉に、リィカの声は小さかった。
毎日のように練習しているが、なかなか上手くいかない。

「……ちょっと思ったんだけど、リィカ、俺の《回復ヒール》使うときの魔力の動き、見てみるか? それが分かれば、もしかしたら使えるかも」

「あ、そうだね。そしたらできるかも。お願いしていい?」
ふと思い付いて泰基がそう提案すれば、リィカが食い付いた。

「おーい、良いから解体しろよ」
アレクから声が飛んだが、

「ごめん、一回だけ。泰基、一回だけ《回復ヒール》やってみて」
そう言って、泰基の左手を掴んできた。――と、アレクから思い切り睨まれた。

(なんでこんなあからさまで、リィカは気付かないかな)
凪沙もその辺鈍かったな、と思いながら、泰基は《回復ヒール》を発動させた。


泰基の、リィカに対する思いは複雑だ。
とにかく、凪沙に似ている。それは間違いない。

でも、平気で解体をやっていたり、料理が上手なところ(凪沙は下手だった)を見ていると、やはり凪沙とは違う。

自分が追っているのは、凪沙の面影でしかない。
リィカ個人に対して、特別な感情は抱いていない。だから、アレクがリィカに向ける感情も、別に気にならない。

それでも、凪沙によく似た表情を、仕草を見せられると、どうしても心が揺らいでしまうのを、止めることができなかった。


※ ※ ※


「もう少し行くと、村があるって話だったよね。今日はベッドで休めるかなぁ」
体を上に伸ばしながら、暁斗が嬉しそうに言った。

「そうだな。これだけ野宿続きだと、やはりきついよな」
アレクもそれに続く。

途中で出会った商人からの情報だった。
一緒に野営をしたときに、食材を分けてもらったのを引き換えに、夜間の見張りを引き受けた。その時に聞いた話だ。

そんなに大きな村ではないが、国境に一番近い村と言うことで寄っていく人も多いことから、宿もあるらしい。
久しぶりにゆっくりできるかと、楽しみにしていた。



村の近くまで来て、異変に気付いた。
――建物や門が壊れている。

警戒しながら中に入ると、バルが剣を抜いた。
体当たりしてきたキャトルを受け止め、弾き飛ばす。態勢を崩したところで、前足二本を切り飛ばす。

「――ちっ! もしかして村にいた動物が、魔物化しちまったのか」
見れば、他にも魔物の姿が見られた。

「みんな! 倒すぞ!」
アレクが声をかけて、動き出そうとしたところで、

「あーらら、またお客さんだよぉ? ポール」

「今度は六人……って、ヒューゥ! 女の子、めっちゃ可愛いじゃん。オレっち、もらっていいだろ、パール?」

「えー、ホンキ? 男五人に囲まれた女なんて、どれだけビッチなの、って感じじゃーん」
突然、目の前に男女の二人組が現れた。


旅に出る前、リィカはどうしても一つ調べておきたいことがあった。
それが、魔族の外見だ。
どういった姿をしているのか。

でも、分かったのは、細く尖った長い耳を持ち、髪も肌も白い色をした化け物。
それだけだ。

そして、目の前に現れた二人は。
細く尖った長い耳、髪も肌も白い。――でも、それ以外は人と変わらない。


「――まさか、魔族!!?」


そう叫んだのは誰だったのか。
たどり着いた村で出会ったのは、まだここにいるはずのない、魔族だった。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~

名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

知らない異世界を生き抜く方法

明日葉
ファンタジー
異世界転生、とか、異世界召喚、とか。そんなジャンルの小説や漫画は好きで読んでいたけれど。よく元ネタになるようなゲームはやったことがない。 なんの情報もない異世界で、当然自分の立ち位置もわからなければ立ち回りもわからない。 そんな状況で生き抜く方法は?

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

誰も要らないなら僕が貰いますが、よろしいでしょうか?

伊東 丘多
ファンタジー
ジャストキルでしか、手に入らないレアな石を取るために冒険します 小さな少年が、独自の方法でスキルアップをして強くなっていく。 そして、田舎の町から王都へ向かいます 登場人物の名前と色 グラン デディーリエ(義母の名字) 8才 若草色の髪 ブルーグリーンの目 アルフ 実父 アダマス 母 エンジュ ミライト 13才 グランの義理姉 桃色の髪 ブルーの瞳 ユーディア ミライト 17才 グランの義理姉 濃い赤紫の髪 ブルーの瞳 コンティ ミライト 7才 グランの義理の弟 フォンシル コンドーラル ベージュ 11才皇太子 ピーター サイマルト 近衛兵 皇太子付き アダマゼイン 魔王 目が透明 ガーゼル 魔王の側近 女の子 ジャスパー フロー  食堂宿の人 宝石の名前関係をもじってます。 色とかもあわせて。

辺境地で冷笑され蔑まれ続けた少女は、実は土地の守護者たる聖女でした。~彼女に冷遇を向けた街人たちは、彼女が追放された後破滅を辿る~

銀灰
ファンタジー
陸の孤島、辺境の地にて、人々から魔女と噂される、薄汚れた少女があった。 少女レイラに対する冷遇の様は酷く、街中などを歩けば陰口ばかりではなく、石を投げられることさえあった。理由無き冷遇である。 ボロ小屋に住み、いつも変らぬ質素な生活を営み続けるレイラだったが、ある日彼女は、住処であるそのボロ小屋までも、開発という名目の理不尽で奪われることになる。 陸の孤島――レイラがどこにも行けぬことを知っていた街人たちは彼女にただ冷笑を向けたが、レイラはその後、誰にも知られずその地を去ることになる。 その結果――?

処理中です...