転生ヒロインと人魔大戦物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~

田尾風香

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第一章 魔王の誕生と、旅立ちまでのそれぞれ

37.暁斗&泰基

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 ※暁斗※

初めて魔物と対峙して、その命を奪った。
相手は魔物だ。殺さなければ殺される。
でも、肉を切った感触と、血の匂いが辛くて、その場で嘔吐した。


お風呂につかりながら、オレはあの時のことを思い出していた。
あの時、吐いたオレに、アレクたちは驚いていた。
たぶん、予想もしてなかったんだと思う。

アレクたちが心配していたのは、オレと父さんが戦えるかどうか。実戦に怯えてしまわないかどうか、だったから。

でも、オレは、それよりも命を奪うという行為ができるのかどうか。それが不安で怖くて、どうしようもなかった。


父さんを助けてくれたお礼に魔王を倒す。それは心から思った気持ちだ。
魔法とか剣技とか、いかにも異世界っぽいものに、どこか浮かれていたのも確か。

だけど、魔物を相手に実戦をすると言われたときに、それが全部吹き飛んだ。
怖くてしょうがなくて、でも、父さんもたぶん同じで。二人でとにかく話をした。
それで何とか覚悟っぽいものを決めることができたんだと思う。


でも、あの時。
「……頑張ったね、暁斗」
そう言ったリィカ。

その一言で、どこかすごく安心した。
リィカは、オレが吐いた事を驚いてなかった。たぶん、その理由まで気付いてた。

時々リィカから感じる違和感がある。
間違いなくこの世界の人なのに、日本人の価値観も持ち合わせているような、そんな違和感。

それだけじゃない。
リィカといると、どこかホッとする自分がいる。
女子は苦手なのに、なぜかリィカは嫌じゃない。


「……リィカって、何なんだろ」
疑問が口から零れ出た。



 ※泰基※


ガチャっと隣の部屋のドアが開く音がした。
ずいぶん長風呂だったな、と思って、俺は隣に、暁斗の部屋に向かう。

俺たちにはそれぞれ個室を与えられたが、部屋は扉一枚でつながっているから、廊下に出る必要もなく、すぐに行くことができる。


暁斗に長風呂だったな、と声を掛けると、考え事をしていた、と返された。

「……………大丈夫か?」

今日、魔物を倒してきたばかりだ。やはり辛かったのだろうか。
しかし、暁斗は不思議そうに首をかしげると、

「……あ、そっか。違う。魔物のことじゃなくて」
悩むように一瞬口ごもるが、すぐに口を開いた。

「――ねえ、父さん。リィカって何なのかな。今日のこともそうだけど……日本人をすごく理解してる気がする」

その疑問に、チクリ、ととげが刺さったように感じてしまうのは、暁斗にも言っていない罪悪感からなのだろうか。
でも、話すことはどうしてもできないから、これだけを口にした。

「暁斗。お前の大好きな小説にはさ、異世界転移もあれば、異世界転生もあったりしないか?」

「父さんも好きだよね。――って、転生? え、リィカがそうって事?」

「そうであれば、説明ができるだろ、って話だよ」

「そうだけど、えええええええええぇぇぇ? 大体父さん、小説と一緒にするなとか言ってたのに」

「それとこれとは別だ」

本人に確認したわけじゃないんだから、これはただの仮説でしかない。
もしかしたら、俺たちが知らないだけで、単に似たような経験をしたことがあるだけかもしれない。

「んー、そっかあ。でもさ、ホントに前世が日本人だったとかなら、オレたちにはコソッと教えてくれてもいい気もするなぁ」

「……自分には生まれる前の記憶がありますなんて、普通は言わないと思うぞ」

「そうかなぁ?」
それこそ、小説に毒されているだけだろう。
いきなりそんな事を言われたら、俺ならまず正気を疑う。

「ま、何の証拠もない、ただの仮説だよ」
おやすみ、と告げて、俺は自分の部屋に戻る。


ベッドに横になって、目を瞑れば、思い出すのはリィカのことだ。
そう。突然言われれば、正気を疑う。

でも、もし、今言われたなら。
「――信じるだろうな、きっと」
それほどまでに、リィカは凪沙に似ている。

いろんな表情、いろんな仕草。そういったものが、いちいち凪沙を思い起こさせる。
自分の外見に無頓着で、無自覚に男どもを引きつけている所まで、そっくりだ。


だから、暁斗には言えない。
凪沙の死の、一番の被害者だ。
知ればきっと、暁斗はリィカと一緒にはいられなくなる。

だけど、心のどこかに、凪沙を独占したいという気持ちがあることも、否定できなかった。


 ※ ※ ※


ズキン、と心が痛む。
ソファに座っているリィカは、着飾ってとてもきれいだ。
アレクに手の甲に口付けられて、顔を真っ赤にしてあたふたしている。

凪沙も、ああだった。俺に迫られれば、ああやって顔を赤くしていた。


あれはリィカだ、と分かっている。
もし本当に、凪沙の生まれ変わりだとしても、それでも彼女はリィカだ。

――分かってはいても、凪沙の影が見えるたびに、心が痛んだ。

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