転生ヒロインと人魔大戦物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~

田尾風香

文字の大きさ
上 下
34 / 637
第一章 魔王の誕生と、旅立ちまでのそれぞれ

28.リィカ⑧

しおりを挟む
魔王討伐の旅へ同行する旨を伝えた次の日。
わたしはユーリッヒ様の訪問を受けていた。

無詠唱を教えて欲しい、と言われたけれど、わたしは自分の体験談を話すしかできない。
そう言ったら、それでいいからと言われたので、引き受けた。


「イメージ?」
「はい。実際に誰かが魔法を使っているのを見た事はなかったので」
そう言って説明を始めた。


クレールム村で魔法を使う人はいなかった。だから、魔法そのものは知らなかった。

ただ、料理をする時に、よく《ファイア》の込められた魔石を使っていた。
その時に出る火を、自分の指先から出ているようにイメージをしたら、自然に口から詠唱が零れて、魔法が発動した。

それがわたしが最初に使った魔法だ。最初から無詠唱を使えていたわけではない。


「指先から火が出るイメージ……、魔法が成功した状態をイメージするって事ですよね? ……とりあえず、やってみます」

そう言ってユーリッヒ様は目を瞑った。
何の魔法をイメージしてるんだろう? 生活魔法なら、数分くらいでできると思うけど。
そう思っていたら、三分後くらいに、ふと詠唱を始めた。

「『光よ。我が手に点れ』――《ライト》」
光魔法の、生活魔法だ。

ユーリッヒ様は生み出された光を凝視していた。
「――いつもより、輝きが強い。魔法を使った時も、何か違う感じが……」

「もう一度やってみて下さい。あと、できれば、詠唱している時に、魔力の動きを感じてみてほしいです」

「……魔力の動き……」
つぶやいて、もう一度目を瞑った。

この世界の魔法は、とにかく詠唱さえすれば使えてしまうので、魔力がどう動いているかを意識している人はいない。

でも、無詠唱っていうのは、詠唱によって動く魔力を自分で動かすことで、できるようになる。だから、魔力が動くのを感じられなければ、無詠唱はまず無理なんだけど……。

「『光よ。我が手に点れ』――《ライト》」
さっきよりも早く、詠唱した。そして、さらに輝きも増している。

ユーリッヒ様は、しばし凝視した後、何か聞きたいように、わたしの方を向いた。
「魔力は感じられましたか?」
しかし、先手を打って質問する。

「……詠唱の始まりと同時に、動く何かを感じました」
すごいなぁ。一発で魔力を感じたんだ。

正直一番不安だったのがここだ。これまで意識したことすらなかっただろうから、魔力の動きという事そのものを理解してもらえるかが分からなかった。
しかし、あっさりクリアした。

「そうしたら、今度はイメージしないで、普通に使ってもらっていいですか? 魔力の動きは感じて下さい」

「……『光よ。我が手に点れ』――《ライト》」
何か言いたそうだったけれど、結局は素直に魔法を唱えてくれた。

「……あれ、いつも通りですね」
そう。最初イメージして作った光よりも、輝きが落ちている。

「魔力の動きは、いかがでしたか?」

「……そんなにはっきり分かった訳ではないですけど、イメージして魔法を使った時は、こう身体の奥から動く感じがしましたね。でも、今は表層部分だけだったような……」

「はい。そうなんです」

無詠唱ではないけれど、威力が上がることも必要な要素だ。
「なんで、って言われるとわたしもよく分かっていないんですけど。しっかりイメージしてから発動させると、魔法の威力が上がるんです」


何せ、無詠唱なんて使っている人はいない。
初めて魔法を使った時に零れた詠唱を、普通に唱えてみたら、確かに使えたけど、明らかに弱かった。

魔力暴走が原因なのかどうかは知らないけど、わたしは自然に魔力を感じることができていた。

だから、ただ詠唱しただけの時は表層部分の魔力しか動かないのに対して、イメージしてから唱えた時は、身体の奥から動くのを感じ取ることができた。

そして、何回もやっていると、イメージ開始から魔法発動までの時間が段々短くなっていったので、とにかく回数をこなしたのだ。

そして、そのタイムラグがほぼなくなった時、口から零れ出る詠唱を心の中で唱えてみたら、できてしまった。
もう一度やってみようとしたとき、自分で魔力を動かせることに気付いた。


ということを、ユーリッヒ様に説明したら、しばらく呆然としたように見えたけど、やがて理解したような顔を見せた。

「……なるほど。実際に自分で経験した後に説明されれば、理解はできますね。常識から完全に外れていますけど」
そもそも常識を知らずに魔法を使ったんだから、外れてもしょうがないと思う。

「そうしますと、基本的にイメージして魔法を使って、の繰り返しですか?」

「はい。ただ、一度魔力を自分で動かせるようになると、他の魔法でもできるようになりますよ。生活魔法が一番簡単ですから、とにかく《ライト》を使っていくことをお勧めします」

あともう一つ付け加える。
「最初からあまりやり過ぎない方がいいですよ。普段使っていない魔力を使うからなのか、すごく疲れるんです」

これもわたしの体験談だ。
まだまだ魔力は残っていて、いくらでも魔法が使えるのは分かるのに、疲労が半端なかった。

ただ、ユーリッヒ様の顔が興奮しているから、果たしてこの忠告がどのくらい役に立つかは不明だ。

「初級魔法は、魔法名すら唱えずに使ってましたよね? あれは?」

「やっぱり、心の中だけで唱えるようにした結果、意思だけで発動できるようになりました。ただ、中級魔法以上は、上手くできなくて……」

やろうとしたら、制御が上手くいかなかった。
魔法を暴走させてしまいそうになったので、今のところは様子を見ている。

「なるほど、ありがとうございます。まさか、こんな短時間できっかけをつかめるとは思っていませんでした」

「い、いえ。わたしの方こそ。――というか、ユーリッヒ様が魔力の動きを一発で感じ取って下さったからです。あれが、一番難しいかなと思っていたので」

そもそも魔力が動くって何だ、どういうことだ、みたいなことを聞かれると思っていたくらいだ。

「……実は魔力の動き、ということを考えるきっかけがありまして」
「きっかけ、ですか?」
「ええ。――リィカ、申し訳ないんですけど、午後から王宮に来て頂けませんか?」
「……はい?」

まさかの申し出だった。


※ ※ ※


「そうなんですか。暁斗が、魔法を使えない……」
「ええ。お願いできませんか?」
話は分かったけれど、違う気がする。

「でも、魔力が動く事への拒否反応なんですよね。わたしが教えられる事って、ユーリッヒ様にお教えしたことと変わりません。魔力の動きが大きくなるから、逆効果になる気もするんですけど」

「ええ。僕も教えてもらって、そう思いました。ただ、現状対策が見つからないんです。本当に逆効果なのかも分かりませんし、やってみてもらえませんか?」

ユーリッヒ様も、暁斗のことが分かってから、色々調べてみたらしいが、実例が少なすぎてよく分からないらしい。
そして、魔力の動きに関心を持ったのも、この拒否反応を起こす人は、魔力の動きが乱れる、という話があったかららしい。

「……分かりました。どれだけ力になれるかは分かりませんけど、やれるだけやってみます」
ああ、でも。また暁斗に会うんだな、と思った。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?

甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。 友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。 マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に…… そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり…… 武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語

妹が聖女の再来と呼ばれているようです

田尾風香
ファンタジー
ダンジョンのある辺境の地で回復術士として働いていたけど、父に呼び戻されてモンテリーノ学校に入学した。そこには、私の婚約者であるファルター殿下と、腹違いの妹であるピーアがいたんだけど。 「マレン・メクレンブルク! 貴様とは婚約破棄する!」  どうやらファルター殿下は、"低能"と呼ばれている私じゃなく、"聖女の再来"とまで呼ばれるくらいに成績の良い妹と婚約したいらしい。 それは別に構わない。国王陛下の裁定で無事に婚約破棄が成った直後、私に婚約を申し込んできたのは、辺境の地で一緒だったハインリヒ様だった。 戸惑う日々を送る私を余所に、事件が起こる。――学校に、ダンジョンが出現したのだった。 更新は不定期です。

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

知らない異世界を生き抜く方法

明日葉
ファンタジー
異世界転生、とか、異世界召喚、とか。そんなジャンルの小説や漫画は好きで読んでいたけれど。よく元ネタになるようなゲームはやったことがない。 なんの情報もない異世界で、当然自分の立ち位置もわからなければ立ち回りもわからない。 そんな状況で生き抜く方法は?

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

処理中です...