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第一章 魔王の誕生と、旅立ちまでのそれぞれ
8.公爵令嬢 レーナニア③
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アーク様の食事は、緊急の課題です。
色々試したのですが、王宮の料理人が作った食事は、どうしてもアーク様は召し上がることができませんでした。
一度は、わたくしが目の前で毒味をしてみた事もあるのですが、駄目でした。
現状、アーク様が召し上がれるのはわたくしが持って行ったマンダリンのみ。
しかし、それもいつまでも取れるわけではありません。
よって、今まで行われていた王妃教育がかなり減らされて、その分、料理の練習に当てられるようになりました。
正直言いまして、王妃教育の方が楽です。そう侍女たちに言ったら、変な目で見られましたが。
自分でも悲しくなるくらいの不器用ぶりを発揮しつつも、初めてきちんと料理の形になった時は、本当に嬉しかったです。
早速アーク様に召し上がって頂いたら、驚いたように「おいしい」と言われました。
嬉しいのですが、何で驚くんですか、と言ったら、視線を逸らされました。
ちなみに、わたくしの料理、家族には不評です。
父は何とも言えない顔をして、兄のクラウスに至っては「お前、こんなものをアークに食わせてるのか」と言われました。
アーク様はおいしいと言って下さると反論すると、「あいつ、舌大丈夫か」と本気で心配を始めました。
二つ上の兄は、アーク様の側近候補でもあって、普段の言動に遠慮がありません。
父はよくお小言を言っていますが、アーク様ご自身が気にされないので、おそらく直ることはないでしょう。
※ ※ ※
さて、毒殺未遂事件ですが、毒味役の背後にいた人物も捕まり、事件は解決いたしました。
ただし、大きなしこりが残ってしまいました。
アーク様より一週間だけ後に生まれた、弟殿下であるアレクシス殿下。
病弱なアーク様と違って、健康そのものであるアレクシス殿下ですが、今回の事件は、そのアレクシス殿下を王太子の地位に就けるために、起こされた事件でした。
ご兄弟の仲は良すぎるくらいに良くて、アレクシス殿下ご自身は、王太子の地位など望んでいません。
しかし、貴族の中には、病弱なアーク様を不安視する者もいて、実際の所、アーク様の立場は安定しておりません。
だからこそ、ヴィート公爵家の令嬢であり、国王陛下の側近の娘でもあるわたくしと婚約を結ぶことで、アーク様の立場を確率させようとしたのです。
しかし、それを良しとせず、健康なアレクシス殿下を王太子と望む一派、戦争急進派と呼ばれる貴族たち。その貴族の一部が、今回の事件を起こしたのです。
この事件で、一番被害を受けたのは、あるいはアレクシス殿下だったのかもしれません。
アーク様とアレクシス殿下が、本当に仲が良く、お互いがお互いを必要とし合っていたのは、見ればすぐに分かります。
だというのに、真相発覚以降、アレクシス殿下がアーク様に会いに来ることがなく、会いに行っても城内に姿が見当たらないそうです。
この状況にアーク様は腹を立てています。
何もアレクは悪くないだろう、とよくつぶやいています。
だからこそ早く自分が元気にならないと、と頑張っていて、わたくしにも「協力を頼む」とよく仰るのですが、何というか複雑です。
わたくしを大切に思って下さっているのは伝わるのですが、それでもアレクシス殿下の方が上だと言われているようです。
そんな事をつい家族の前でぼやいてしまったら、兄に「頑張れ」と言われました。
「あの兄弟は、今まで距離が近すぎた。少しくらい離れた方がいいんだよ。せっかくアークに、アレク以外にも大切だと思える相手ができたんだ。もっと頑張って、アレク以上に惚れさせろ」
……何をどう頑張ればいいのでしょう、と思う傍ら、父は、複雑そうな顔をしながらも、頷いていました。
「距離が近すぎるというのは同感だ。アレクシス殿下が城から抜け出しているのを陛下が黙認しているのは、アレクシス殿下にも王太子殿下以外に誰か大切な人を作って欲しいと、思っているからだ」
その父の言葉に頷きつつも、やっぱりアレクシス殿下は、城を抜け出しているのか、と知った瞬間でした。
※ ※ ※
その会話をした夜、ゲームの事を思い出しました。
思い出したのは、アレクシス殿下のルートです。
ゲームの中のアレクシス殿下は、いつもアーク様に気を遣ってばかりの方でした。
自分の存在が、決して兄に害を与えることのないように、常に自分の言動に気をつけていました。
何においても、自分よりも兄優先のアレクシス殿下がヒロインと出会ったのは、剣の素振りをしているとき。
ヒロインに、「キレイでびっくりした」と言われて驚くアレクシス殿下が、ヒロインに興味を持ちます。
そして、ヒロインの過去を知って、それでも笑うヒロインを見て、アレクシス殿下も苦しみながらも、過去と向き合い、自分自身と向き合っていきます。
そして、アレクシス殿下は初めて、兄以外に大切だと思える人を、見つけることができたのです。
ここまで思い出して、確定だと思いました。
――何か事件が起きない限りは、ゲームの記憶は戻らないのだと。
そうであれば、もうゲームの記憶を気にしても、どうしようもありません。
わたくしはわたくしのできることをするのだと、改めて決めました。
色々試したのですが、王宮の料理人が作った食事は、どうしてもアーク様は召し上がることができませんでした。
一度は、わたくしが目の前で毒味をしてみた事もあるのですが、駄目でした。
現状、アーク様が召し上がれるのはわたくしが持って行ったマンダリンのみ。
しかし、それもいつまでも取れるわけではありません。
よって、今まで行われていた王妃教育がかなり減らされて、その分、料理の練習に当てられるようになりました。
正直言いまして、王妃教育の方が楽です。そう侍女たちに言ったら、変な目で見られましたが。
自分でも悲しくなるくらいの不器用ぶりを発揮しつつも、初めてきちんと料理の形になった時は、本当に嬉しかったです。
早速アーク様に召し上がって頂いたら、驚いたように「おいしい」と言われました。
嬉しいのですが、何で驚くんですか、と言ったら、視線を逸らされました。
ちなみに、わたくしの料理、家族には不評です。
父は何とも言えない顔をして、兄のクラウスに至っては「お前、こんなものをアークに食わせてるのか」と言われました。
アーク様はおいしいと言って下さると反論すると、「あいつ、舌大丈夫か」と本気で心配を始めました。
二つ上の兄は、アーク様の側近候補でもあって、普段の言動に遠慮がありません。
父はよくお小言を言っていますが、アーク様ご自身が気にされないので、おそらく直ることはないでしょう。
※ ※ ※
さて、毒殺未遂事件ですが、毒味役の背後にいた人物も捕まり、事件は解決いたしました。
ただし、大きなしこりが残ってしまいました。
アーク様より一週間だけ後に生まれた、弟殿下であるアレクシス殿下。
病弱なアーク様と違って、健康そのものであるアレクシス殿下ですが、今回の事件は、そのアレクシス殿下を王太子の地位に就けるために、起こされた事件でした。
ご兄弟の仲は良すぎるくらいに良くて、アレクシス殿下ご自身は、王太子の地位など望んでいません。
しかし、貴族の中には、病弱なアーク様を不安視する者もいて、実際の所、アーク様の立場は安定しておりません。
だからこそ、ヴィート公爵家の令嬢であり、国王陛下の側近の娘でもあるわたくしと婚約を結ぶことで、アーク様の立場を確率させようとしたのです。
しかし、それを良しとせず、健康なアレクシス殿下を王太子と望む一派、戦争急進派と呼ばれる貴族たち。その貴族の一部が、今回の事件を起こしたのです。
この事件で、一番被害を受けたのは、あるいはアレクシス殿下だったのかもしれません。
アーク様とアレクシス殿下が、本当に仲が良く、お互いがお互いを必要とし合っていたのは、見ればすぐに分かります。
だというのに、真相発覚以降、アレクシス殿下がアーク様に会いに来ることがなく、会いに行っても城内に姿が見当たらないそうです。
この状況にアーク様は腹を立てています。
何もアレクは悪くないだろう、とよくつぶやいています。
だからこそ早く自分が元気にならないと、と頑張っていて、わたくしにも「協力を頼む」とよく仰るのですが、何というか複雑です。
わたくしを大切に思って下さっているのは伝わるのですが、それでもアレクシス殿下の方が上だと言われているようです。
そんな事をつい家族の前でぼやいてしまったら、兄に「頑張れ」と言われました。
「あの兄弟は、今まで距離が近すぎた。少しくらい離れた方がいいんだよ。せっかくアークに、アレク以外にも大切だと思える相手ができたんだ。もっと頑張って、アレク以上に惚れさせろ」
……何をどう頑張ればいいのでしょう、と思う傍ら、父は、複雑そうな顔をしながらも、頷いていました。
「距離が近すぎるというのは同感だ。アレクシス殿下が城から抜け出しているのを陛下が黙認しているのは、アレクシス殿下にも王太子殿下以外に誰か大切な人を作って欲しいと、思っているからだ」
その父の言葉に頷きつつも、やっぱりアレクシス殿下は、城を抜け出しているのか、と知った瞬間でした。
※ ※ ※
その会話をした夜、ゲームの事を思い出しました。
思い出したのは、アレクシス殿下のルートです。
ゲームの中のアレクシス殿下は、いつもアーク様に気を遣ってばかりの方でした。
自分の存在が、決して兄に害を与えることのないように、常に自分の言動に気をつけていました。
何においても、自分よりも兄優先のアレクシス殿下がヒロインと出会ったのは、剣の素振りをしているとき。
ヒロインに、「キレイでびっくりした」と言われて驚くアレクシス殿下が、ヒロインに興味を持ちます。
そして、ヒロインの過去を知って、それでも笑うヒロインを見て、アレクシス殿下も苦しみながらも、過去と向き合い、自分自身と向き合っていきます。
そして、アレクシス殿下は初めて、兄以外に大切だと思える人を、見つけることができたのです。
ここまで思い出して、確定だと思いました。
――何か事件が起きない限りは、ゲームの記憶は戻らないのだと。
そうであれば、もうゲームの記憶を気にしても、どうしようもありません。
わたくしはわたくしのできることをするのだと、改めて決めました。
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