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第一章 魔王の誕生と、旅立ちまでのそれぞれ
8.リィカ⑧ー魔物との戦い
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「《狂乱の風》!」
魔法を唱えた。
風の上級魔法だ。
わたしは、魔法は自信があっても、近接戦は自信がない。
まずは、魔物との距離をおくことが、最優先だった。
狂ったように吹き荒れる風が、魔物を切り刻み、あるいは遠くに吹き飛ばす。
それを確認して、さらに魔法を唱えた。
「《濁流》!」
水の上級魔法。
荒れ狂う濁流が、魔物をさらに奥に押し流す。
ふう、と息をつく。
魔物との距離が、開いた。
「《氷の剣林》!」
これも、水の上級魔法だ。
尖った氷の柱が連なったものが出現した。
これは、下から魔物を刺すこともできるけれど、わたしは、魔物が一度に押し寄せてこないように、壁としての役割を期待して、使った。
上級魔法は、広範囲に効果のある魔法だ。
けれど、その分魔力も消耗する。
魔物の数が膨大である以上、魔力の消耗は可能な限り避けたかった。
今、《氷の剣林》を越えて、わたしに向かってきているのは、空を飛ぶ魔物。そして、跳躍力のある魔物。
「《風の千本矢》!」
風の中級魔法。広範囲に効果のある魔法だ。
魔物を倒した。
広範囲に効果のあるとはいっても、上級魔法と比べると、その範囲は狭い。
その狭い範囲の中級魔法でも、《氷の剣林》を頼りにすれば戦えると、そう思ったのだ。
――それは、途中までは上手くいっていた。
それが崩れたのは、頼りの《氷の剣林》が、魔物によって、その一部が崩されてからだ。
崩されたところからさらに壊れていき、だんだん壁の役目を果たさなくなった。
そうなる前に、気付いてどうにかできれば良かったのかもしれないけど、次から次に襲いかかってくる魔物の対応に精一杯だったのだ。
※ ※ ※
わたしは、クレールム村で大量の魔物を目の前にして、恐怖から魔力を暴走させた。
その恐怖がまだ残っていたのだと知ったのは、学園に入学して数ヶ月が経った頃だ。
クラスメイトたちに誘われて行った、王都郊外の森での魔物退治。
魔物は定期的に倒していかないとすぐに数が増えるから、魔物退治は推奨されているらしい。
お金ももらえるし、魔法の練習にもなるし、と誘われて、一緒に行ったんだけど、そこで魔物を目の当たりにしたわたしは、動けなくなった。
足がすくんだ。手が震えた。
自分が、魔物に食われる様が頭に浮かんだ。
もしかしたら、ここで魔力暴走、なんて最悪の事態が起こった可能性もあったのかもしれないけど、そうなる前にクラスメイトたちが魔物を倒しきってくれた。
あるいは、この時点で、魔力の制御ができるようになっていたからかもしれない。
迷惑かけてごめんなさい、と謝った。
もう誘われることはないと思ったのに、また誘われた。
クラスのリーダーの男の子だ。
「せっかくの魔法がもったいないよ」
そう言って、わたしの手を引っ張った。
何度も何度も誘ってくれた。
その男の子が、魔物の攻撃を受けてしまいそうになったとき、わたしは咄嗟に魔法を放った。
放った魔法一撃で、魔物を倒した。
「やっぱりリィカ、すごいよ」
その子がそう言ってくれて、他のクラスメイトたちも口々に褒めてくれた。
それからだ。
魔物への恐怖が薄れて、戦えるようになったのは。
だから今、戦えているのは、クラスメイトたちのおかげだ。
※ ※ ※
一人で戦うのは初めてだ。
不安で、怖くて。
でも、後ろに人がいる。
咄嗟だったとはいえ、わたしが《防御》で守った人だ。
一人だけど、一人じゃない。
その人を、見捨てるなんてできない。
「《地割れ》!」
押し寄せる魔物に、土の中級魔法を使う。
これも範囲魔法だ。
割れた地面に、魔物達が吸い込まれていくのを横目で見る。
さらに、魔法を発動させる。
――ドォン!
「きゃあっ!」
いや、させようとしたところで、何かがぶつかる音と悲鳴がほとんど同時に聞こえた。
見れば、《防御》に、魔物が体当たりしている。
すぐさま《火球》を放つ。幸いにも一撃で倒せた。
あまりランクの高くない魔物ばかりなのが、本当に幸運だ。
おかげで、初級魔法でも一撃で倒せる。
できるだけ《防御》に攻撃されたくはなかった。
もし壊されたら、また同じように《防御》を張れる自信はない。
「きゃぁっ!!」
しかし、またもドォンと音を立てて、《防御》に魔物が体当たりされた。
《火球》を放ち、倒す。
「…………………!」
しかし、その隙に、わたしの方に魔物が襲ってきたことに気付けなかった。
襲ってきたのは、魔物のランクでは一番下のEランクである、大山猫。
だけれども、その爪の攻撃は、制服を切り裂いて、わたしに怪我を負わせるには、十分すぎた。
「《狂乱の風》!」
魔力の温存などと言っていられず、再び風の上級魔法を唱える。
けれど、先ほどより威力が弱い。
魔法を使うときは、呼吸を整えること。
荒れた呼吸で魔法を使えば、威力が落ちる。
ダスティン先生に教えられたことを思い出すけど、この魔物に囲まれた状況で、呼吸を整えるのは不可能だった。
威力の落ちた上級魔法を、耐える魔物もいた。Eランクの一つ上、Dランクの胡狼。
耐えきったと思ったら、一直線に襲いかかってきた。
動きが、早い。
「――いっ……」
躱せず右腕を噛まれた。痛みで声が漏れた。
「もういいです!」
後ろの《防御》の中から、叫び声が聞こえた。
「わたくしのことなんか、放置していいですから! お願いですから、逃げて下さい!」
今にも泣きそうな声に、ほんの少し笑みが浮かぶ。
勢いよく飛び込んできたくせに、やられてばかりで心配かけてしまった事が、申し訳なかった。
でも、心配してもらえるのは、嬉しくて。
もう一度、気合いを入れ直す。
痛みがなんだ。
負けるわけには、いかない。
「《灼熱の業火》!」
火の上級魔法。
その場に長く残り続ける炎だ。
魔物が怯んだ。
それを確認し、さらに唱えた。
「《爆発の轟火》!」
これも火の上級魔法。
凄まじい爆発を引き起こす魔法。
爆発の音が凄まじいから、あまり使いたくないんだけど、それでも威力は抜群だ。
《灼熱の業火》の火によって、その爆発はさらに大きくなった。
「よし」
二度の上級魔法の連発で、周辺にいた魔物は、軒並み倒した。
ほんの僅か、空いた時間で、何回か呼吸を繰り返す。
完全には程遠いけれど、多少は呼吸が落ち着く。
「《砂嵐》!」
「《風の千本矢》!」
「《紅炎》!」
立て続けに魔法を唱える。
どれも中級魔法の、範囲魔法。
さらに魔物を倒す。
けれど、素早い魔物は捉え切れなかった。
「うしろっ!」
響いた悲鳴に、振り向けば、そこにいたのはDランクの狼。
その口を大きく開け、鋭い牙が見えた。
「……………………っ……!」
先ほど胡狼に噛まれた右腕の傷に、重なるようにして噛まれた。
「《火炎光線》!」
火の中級魔法を唱え、狼を倒す。
右腕から走る痛みを、歯を食いしばって耐える。
「《水流瀑布》!」
再び、上級魔法を発動させた。
滝のようになだれ落ちる水が、魔物を倒し、押し流す。
右腕が痛い。
ちゃんと、回復魔法を使えるようになっておけば良かったと思う。
後になって悔やむから後悔なんだと、益にもならないことが頭をよぎる。
「危ないっ!」
再び悲鳴が響く。
ドスンドスンと派手な音を立てて、凄まじい勢いで、魔物が突進してきていた。
その頭に、尖った一本角が見える。
Cランクの魔物、犀だ。
躱さなきゃ。
そう思うのに、体が重い。動かない。
――だめだ、かわせない……!
スローモーションのように見える、犀の突進。
その一本角に自分が貫かれる光景が、見えた気がした。
「【隼一閃】!」
聞こえた声に、ハッとする。
犀が、一刀両断にされていた。
同時に、誰かに腰をグイッと引き寄せられる。
「…………え?」
「【百舌衝鳴閃】!」
何が起こったのか、漏らした疑問と重なるように、わたしを引き寄せたらしい誰かは、さらに魔物に攻撃していた。
これは、剣技と呼ばれるものだ。
クラスメイトたちが使っているのを見た事があるし、言っている技名も同じだけど、本当に同じなのかと思うくらいに、威力が段違いだ。
「アレク!」
さらに別の声がした。
走って近づいてきている二人の男性。
かつて、一度ずつ遭遇した方たち。わたしが、すぐ逃げ出してしまった方たち。
ユーリッヒ様とバルムート様だ。
「ユーリ! 結界を!」
あれ、じゃあ、今わたしの横から叫んだのは……と思って顔を見れば、いたのは第二王子殿下だった。
「『光よ。我らと彼の者らを隔てる障壁を築け』! ――《結界》!」
ユーリッヒ様が詠唱し、周囲に光の結界ができる。
魔物が体当たりしているのが見えたけど、結界はビクともしない。
「たす、かった、の……?」
呆然とつぶやいて、つぶやいた事で、その事実を悟る。
力が抜けた。足が崩れる。
「おい、大丈夫か!?」
地面に倒れ込む前に、腰に回されたままだった手が、わたしを支えてくれたのだった。
魔法を唱えた。
風の上級魔法だ。
わたしは、魔法は自信があっても、近接戦は自信がない。
まずは、魔物との距離をおくことが、最優先だった。
狂ったように吹き荒れる風が、魔物を切り刻み、あるいは遠くに吹き飛ばす。
それを確認して、さらに魔法を唱えた。
「《濁流》!」
水の上級魔法。
荒れ狂う濁流が、魔物をさらに奥に押し流す。
ふう、と息をつく。
魔物との距離が、開いた。
「《氷の剣林》!」
これも、水の上級魔法だ。
尖った氷の柱が連なったものが出現した。
これは、下から魔物を刺すこともできるけれど、わたしは、魔物が一度に押し寄せてこないように、壁としての役割を期待して、使った。
上級魔法は、広範囲に効果のある魔法だ。
けれど、その分魔力も消耗する。
魔物の数が膨大である以上、魔力の消耗は可能な限り避けたかった。
今、《氷の剣林》を越えて、わたしに向かってきているのは、空を飛ぶ魔物。そして、跳躍力のある魔物。
「《風の千本矢》!」
風の中級魔法。広範囲に効果のある魔法だ。
魔物を倒した。
広範囲に効果のあるとはいっても、上級魔法と比べると、その範囲は狭い。
その狭い範囲の中級魔法でも、《氷の剣林》を頼りにすれば戦えると、そう思ったのだ。
――それは、途中までは上手くいっていた。
それが崩れたのは、頼りの《氷の剣林》が、魔物によって、その一部が崩されてからだ。
崩されたところからさらに壊れていき、だんだん壁の役目を果たさなくなった。
そうなる前に、気付いてどうにかできれば良かったのかもしれないけど、次から次に襲いかかってくる魔物の対応に精一杯だったのだ。
※ ※ ※
わたしは、クレールム村で大量の魔物を目の前にして、恐怖から魔力を暴走させた。
その恐怖がまだ残っていたのだと知ったのは、学園に入学して数ヶ月が経った頃だ。
クラスメイトたちに誘われて行った、王都郊外の森での魔物退治。
魔物は定期的に倒していかないとすぐに数が増えるから、魔物退治は推奨されているらしい。
お金ももらえるし、魔法の練習にもなるし、と誘われて、一緒に行ったんだけど、そこで魔物を目の当たりにしたわたしは、動けなくなった。
足がすくんだ。手が震えた。
自分が、魔物に食われる様が頭に浮かんだ。
もしかしたら、ここで魔力暴走、なんて最悪の事態が起こった可能性もあったのかもしれないけど、そうなる前にクラスメイトたちが魔物を倒しきってくれた。
あるいは、この時点で、魔力の制御ができるようになっていたからかもしれない。
迷惑かけてごめんなさい、と謝った。
もう誘われることはないと思ったのに、また誘われた。
クラスのリーダーの男の子だ。
「せっかくの魔法がもったいないよ」
そう言って、わたしの手を引っ張った。
何度も何度も誘ってくれた。
その男の子が、魔物の攻撃を受けてしまいそうになったとき、わたしは咄嗟に魔法を放った。
放った魔法一撃で、魔物を倒した。
「やっぱりリィカ、すごいよ」
その子がそう言ってくれて、他のクラスメイトたちも口々に褒めてくれた。
それからだ。
魔物への恐怖が薄れて、戦えるようになったのは。
だから今、戦えているのは、クラスメイトたちのおかげだ。
※ ※ ※
一人で戦うのは初めてだ。
不安で、怖くて。
でも、後ろに人がいる。
咄嗟だったとはいえ、わたしが《防御》で守った人だ。
一人だけど、一人じゃない。
その人を、見捨てるなんてできない。
「《地割れ》!」
押し寄せる魔物に、土の中級魔法を使う。
これも範囲魔法だ。
割れた地面に、魔物達が吸い込まれていくのを横目で見る。
さらに、魔法を発動させる。
――ドォン!
「きゃあっ!」
いや、させようとしたところで、何かがぶつかる音と悲鳴がほとんど同時に聞こえた。
見れば、《防御》に、魔物が体当たりしている。
すぐさま《火球》を放つ。幸いにも一撃で倒せた。
あまりランクの高くない魔物ばかりなのが、本当に幸運だ。
おかげで、初級魔法でも一撃で倒せる。
できるだけ《防御》に攻撃されたくはなかった。
もし壊されたら、また同じように《防御》を張れる自信はない。
「きゃぁっ!!」
しかし、またもドォンと音を立てて、《防御》に魔物が体当たりされた。
《火球》を放ち、倒す。
「…………………!」
しかし、その隙に、わたしの方に魔物が襲ってきたことに気付けなかった。
襲ってきたのは、魔物のランクでは一番下のEランクである、大山猫。
だけれども、その爪の攻撃は、制服を切り裂いて、わたしに怪我を負わせるには、十分すぎた。
「《狂乱の風》!」
魔力の温存などと言っていられず、再び風の上級魔法を唱える。
けれど、先ほどより威力が弱い。
魔法を使うときは、呼吸を整えること。
荒れた呼吸で魔法を使えば、威力が落ちる。
ダスティン先生に教えられたことを思い出すけど、この魔物に囲まれた状況で、呼吸を整えるのは不可能だった。
威力の落ちた上級魔法を、耐える魔物もいた。Eランクの一つ上、Dランクの胡狼。
耐えきったと思ったら、一直線に襲いかかってきた。
動きが、早い。
「――いっ……」
躱せず右腕を噛まれた。痛みで声が漏れた。
「もういいです!」
後ろの《防御》の中から、叫び声が聞こえた。
「わたくしのことなんか、放置していいですから! お願いですから、逃げて下さい!」
今にも泣きそうな声に、ほんの少し笑みが浮かぶ。
勢いよく飛び込んできたくせに、やられてばかりで心配かけてしまった事が、申し訳なかった。
でも、心配してもらえるのは、嬉しくて。
もう一度、気合いを入れ直す。
痛みがなんだ。
負けるわけには、いかない。
「《灼熱の業火》!」
火の上級魔法。
その場に長く残り続ける炎だ。
魔物が怯んだ。
それを確認し、さらに唱えた。
「《爆発の轟火》!」
これも火の上級魔法。
凄まじい爆発を引き起こす魔法。
爆発の音が凄まじいから、あまり使いたくないんだけど、それでも威力は抜群だ。
《灼熱の業火》の火によって、その爆発はさらに大きくなった。
「よし」
二度の上級魔法の連発で、周辺にいた魔物は、軒並み倒した。
ほんの僅か、空いた時間で、何回か呼吸を繰り返す。
完全には程遠いけれど、多少は呼吸が落ち着く。
「《砂嵐》!」
「《風の千本矢》!」
「《紅炎》!」
立て続けに魔法を唱える。
どれも中級魔法の、範囲魔法。
さらに魔物を倒す。
けれど、素早い魔物は捉え切れなかった。
「うしろっ!」
響いた悲鳴に、振り向けば、そこにいたのはDランクの狼。
その口を大きく開け、鋭い牙が見えた。
「……………………っ……!」
先ほど胡狼に噛まれた右腕の傷に、重なるようにして噛まれた。
「《火炎光線》!」
火の中級魔法を唱え、狼を倒す。
右腕から走る痛みを、歯を食いしばって耐える。
「《水流瀑布》!」
再び、上級魔法を発動させた。
滝のようになだれ落ちる水が、魔物を倒し、押し流す。
右腕が痛い。
ちゃんと、回復魔法を使えるようになっておけば良かったと思う。
後になって悔やむから後悔なんだと、益にもならないことが頭をよぎる。
「危ないっ!」
再び悲鳴が響く。
ドスンドスンと派手な音を立てて、凄まじい勢いで、魔物が突進してきていた。
その頭に、尖った一本角が見える。
Cランクの魔物、犀だ。
躱さなきゃ。
そう思うのに、体が重い。動かない。
――だめだ、かわせない……!
スローモーションのように見える、犀の突進。
その一本角に自分が貫かれる光景が、見えた気がした。
「【隼一閃】!」
聞こえた声に、ハッとする。
犀が、一刀両断にされていた。
同時に、誰かに腰をグイッと引き寄せられる。
「…………え?」
「【百舌衝鳴閃】!」
何が起こったのか、漏らした疑問と重なるように、わたしを引き寄せたらしい誰かは、さらに魔物に攻撃していた。
これは、剣技と呼ばれるものだ。
クラスメイトたちが使っているのを見た事があるし、言っている技名も同じだけど、本当に同じなのかと思うくらいに、威力が段違いだ。
「アレク!」
さらに別の声がした。
走って近づいてきている二人の男性。
かつて、一度ずつ遭遇した方たち。わたしが、すぐ逃げ出してしまった方たち。
ユーリッヒ様とバルムート様だ。
「ユーリ! 結界を!」
あれ、じゃあ、今わたしの横から叫んだのは……と思って顔を見れば、いたのは第二王子殿下だった。
「『光よ。我らと彼の者らを隔てる障壁を築け』! ――《結界》!」
ユーリッヒ様が詠唱し、周囲に光の結界ができる。
魔物が体当たりしているのが見えたけど、結界はビクともしない。
「たす、かった、の……?」
呆然とつぶやいて、つぶやいた事で、その事実を悟る。
力が抜けた。足が崩れる。
「おい、大丈夫か!?」
地面に倒れ込む前に、腰に回されたままだった手が、わたしを支えてくれたのだった。
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