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12.二日目

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 二日目。
 ドキドキが止まらない。

「今日は、何を贈ってくれるのかしら……」

 顔が熱い。
 初めて恋を自覚したときのように、心臓がドキドキしている。

「まだ二日目で、しかも何も届いていないのに、その状態ですか。もう許すのですか?」

 いささか呆れたように……というか、多分完全に呆れているのだろうけど、エレーセに言われても、何も言えない。

 昨日のプレゼントに疑問を持ったのか、エレーセに改めて聞かれて、私は十日間のプレゼントのことを話した。無言になって考え込んだエレーセだけど、やがて大きく息を吐いて、言ったのだ。

「なるほど、それであのプレゼントなわけですか。浮気したことは許せませんが……」

 最後の言葉ははっきりと口にされなかったけれど、「さすがです」と口が動いていた。

 私もそう思う。初めて会ったときのプレゼント、そしてつけられた手紙。あれですっかり心がやられてしまった。

 自らの妃へのプレゼント、と考えると、ドレスだとか宝石だとか、そんなものを考えるんじゃないかと思うけど、殿下はきちんと"私"へのプレゼントを贈ってくれた。エレーセが「さすが」というのは、多分そこなんだろうと思う。

 でも、と気合いを入れる。まだ一回目のプレゼントをもらったばかり。まだまだ許してしまうには早すぎる。

「王太子妃殿下、王太子殿下より贈り物が届いております」

 そう言って侍女が部屋に入ってきた。私の思考を読み取ったかのようなタイミングに、心臓が跳ね上がった。

「こちらへ」

 たったその一言を言うだけで、喉に力を込めないと裏返ってしまいそうだった。

 近づいてきた侍女から、それを受け取る。指が震えそうだった。
 今日は花ではない。何かの台紙と、その他にも色々細々としたものがある。それが何に使うものなのか、ピンときた。きてしまった。
 そして、今日も手紙があった。

『エナ、おはよう。
 二日目の贈り物をするよ。見て分かるだろうか。押し花を作るのに必要なセットだ。
 これが君の好きなものなのか、と考えると少し悩んだ。でも、俺が摘んだ花を「押し花にしたんです」と見せてくれたときの、エナの笑顔が浮かんでしまって、これ以外に思い浮かばなかった。
 喜んでくれるだろうか』

「ああもう、やっぱり……」

 昨日の小花からの押し花のセット。私も殿下と同じことを思い浮かべた。
 別に押し花が好きなわけじゃない。可愛い花をもらったのが嬉しかったから、ちょっと面倒だったけど、ちゃんと手元に残しておける押し花にしたのだ。

 だから嬉しいのは、それを殿下が覚えていてくれたこと。

「まったくもう、どうしよう」

 困ったような言い様をしつつも、私は口元を綻ばせた。嬉しいから。私との思い出がちゃんと殿下の中に残っていることが。それを、プレゼントと手紙という形にしてくれることが。
 でも、簡単に許したらつけあがる、という言葉が、私の脳裏によぎる。

「エレーセ、私が喜んでるって、絶対殿下には知らせないようにしてね」

 約束通り、十日間のプレゼントは続けてもらう。その間の私の反応は、殿下には教えない。浮気した罰だから、その間はヤキモキしてもらう。

 でも、明日は何をくれるんだろうか。楽しみでしょうがなかった。
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