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前編
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「えぇ~!! このくらい見逃してよ!」
今日は金曜日。風紀委員による校門前検査の日だ。
はぁ……風紀委員の仕事も楽じゃない。人に持ち物を見られるいうだけでも反感を買うのは当たり前だ。
(でも……おれは、あの風紀委員長の下で働きたいと思ったから)
この風紀委員会に入ったのは、当時も今も風紀委員長を務めるあの人の、その凛とした姿に憧れたことが理由だ。
「ハ~ヤトちゃん♡ 今日も風紀委員のお仕事頑張ってるね~」
後ろからうざったく肩をかけてくる。声の主はクラスの人気者、カエデだった。
160cm程度しかないおれに対し、カエデは185cmほど。伸し掛かられるとあまりに重苦しい。邪魔だとカエデの腕を振り払い、顔を見る。
こいつ、今日もまた変な色に髪を染めやがって。
「おい、カエデ。お前また髪の色を変えたな? 前も委員長に指摘されたばっかだろ」
おれがそう指摘すると、カエデは面倒くさそうに肩をすくめる。
「あー、あの堅物ね。ほんとヤになっちゃうよ。たかが髪の色で何をそんなにガミガミいうのやら」
「でも今回の担当がハヤトちゃんなのはラッキーだな~。注意されてもキャンキャンとワンちゃんが吠えてる様にしか見えないし♡」
舐め腐った態度で接するカエデに、ハヤトは苛立ちを覚える。
(くそっ、クラスからもこいつを筆頭になぜか可愛い可愛い子犬のようといわれるのが気に食わない……。カエデは……美形で……クラスの女子からもモテてて、ああ、そうさっ、羨ましいよ!)
「ほら、さっさと鞄の中身を出せよ」
「はぁ~い、どーぞ」
そういってカエデは鞄の中身を広げる。教科書に参考書、ルーズリーフまで意外にしっかりと整頓された様子だった。
その中に一つ、透明なケースに入った見慣れないぬいぐるみ?人形?に目を止める。
がさっと取り出してまじまじと見つめた。
その人形は黒髪の短髪、目が丸っこく、なぜかこの学校の制服にそっくりの服を着ていた。
なにかのキャラクターか? ゲームも漫画も流行りは見てるけど見覚えが全くない……
「これなんだよ?」
「かわいいでしょ~。知り合いの伝手を当たって作ってもらった特注品。デフォルメされてるけど結構細部まで作られてるんだ~」
細部まで作られた特注品?ということはやっぱりモチーフがあるんだな。
「あのなぁ、アニメのキャラかなんだか知らねーけど、こういうのも持ってきちゃいけない校則で決まっているだろう。これは没収だ」
「え~。……まぁいいけど。と、するとハヤトちゃんがその人形の『所有者になる』ということでいいんだよね?」
「はぁ?」
これを預かるのは一時的にすぎない。そもそも風紀委員には奪って捨てるような権限などないし、放課後には返す決まりなのだ。
(そもそもこれ特注なんだろ?高そうだし、あんまり触りたくねー)
「所有者って大げさな。これは一時的に『もらって』おく。あと、お前の場合は放課後じゃなくってその髪の色が元に戻ったならな」
「え~ケチ。……でも、まぁいいや。ふふ、これから楽しくなりそうだねハヤトちゃん♡」
楽しくなりそう? なんだあいつ意味が分からないこと言いやがって。
しかし、随分とかわいらしい人形を持っているんだな。意外な趣味だ。ああいうところが女にモテる理由だったりするのかな……
そんなくだらないことを考えながら、次の生徒の所持品を確認していく。
さすがにスマホや財布といった個人情報がありそうなものは預からないが、校則違反のエロ本、漫画、ネックレスやピアスなどの所持品を摘発していった。
そのたびに文句を言われたが慣れたものとこなしていき、授業開始10分前にようやく撤収した。
没収した荷物をまとめた箱を抱え、急いで風紀室に向かう。
さっさとこの荷物片づけないと、授業に間に合わねー
がらりと風紀室の扉を開けると、先に仕事を終えたのか風紀委員長が立っていた。
「ハヤト、やっと終わったか?」
「あっはい! あとはこの荷物を保管庫に入れて鍵をかけるだけです。……もしかして最後でしたか?」
「ああ、他の奴らはもう終えて授業に向かったぞ。ハヤトも間に合うように早くいけよ」
まさか自分が最後だったかと、慌ててロッカーの中に荷物を入れ、鍵をかける。
その際に荷物の中にあったカエデの人形とふと目が合った。それにどことなく既視感を覚えた。
……なんかあの人形、おれに似てなかったか?
じっと観察したわけじゃないがまるで自分と見紛うような——
「おい、もう時間がないぞ。俺はもう行くから風紀室の施錠も頼む。」
「っはい! すみません! やっときます!」
浮かんだ疑問を風紀委員長の声にかき消され、風紀室の施錠をして鍵を教員室に戻し、そのまま慌てて教室へと向かった。
がやがやと騒がしいクラス内に慌てて飛び込む。
席に着くと同時に、数学の教師が「はじめるぞー」と教室に入ってきた。
っあぶねー間に合ったー!!
「ハヤトちゃん、間に合ってよかったね」
後ろの席のハヤトが小さく声をかける。
「授業中だぞ。静かにしてろ」
「つれないなぁ~」
軽口を叩くカエデに教師は気づいたらしく、
「おい、そこ、話す暇があるなら前に出てこの問題に解けよー!」とあててきた。
「は~い」と席を立ち、関数で囲まれた図形の面積を求める問題をすらすらと解いていく。
(ねぇねぇ、やっぱりカエデ君って頭いいよね)
(チャラいけど要領よく何でもこなすところとかサイコー!!)
女子の小声でカエデを賛辞する声が嫌でも耳に入った。
あーあー、そうですね、イケメンで頭も良くてようござんすね
いつも通りクラスで注目を浴びるカエデを、ハヤトは妬ましそうに眺めた。
その後授業もすべて終わり、さきの風紀検査没収品の返却のため再び風紀室へ向かう。
ドアはすでに開いており、なにやら中から焦ったような声が聞こえた。
「どうかしたんですか?」
ハヤトは風紀委員の先輩に声をかける。
「なんかロッカーの鍵が開いてたらしいぞ! 今、中身を確認しているところだ」
没収品として預かっていた荷物の名簿と、ロッカーの中身を照らし合わせる。
数は多くないものの、金目のものを中心に荷物の数点が盗まれていた。
「おい、最後にロッカーを閉めたのは誰だ!! まさか開けたままにしたんじゃないだろうな!?」
「あっ……えっとおれです。でも……確かに閉めました! 間違いないですっ!」
疑惑の視線がおれに集まる。
自分がカギをかけた瞬間を思い出す。
確かに、閉めたはずだ。それなのに、なんで……
言い訳をすることすら許されない空気に、胸が苦しくなる。
————おれが疑われている
視線の重みで息が詰まりそうだ。
その沈黙を破るように、風紀委員長の声が響いた。
「閉めたのは俺が確認した」
「大方、教員室に合ったスペアキーでも使われたんだろう。これは風紀委員会そのものの管理の甘さが招いたことだ。すまなかった」
そういって委員長は頭を下げる。
「いえ、そんな……!」と周囲は困惑するが、
「今回盗まれた没収品について、俺からその生徒と、そして教員にも伝えておく」
その言葉を聞いて、ざわついていた空気が徐々に静まり、各自作業に戻り始めた。
「……すみません。委員長」
委員長は振り返らずに行った。
「お前が鍵を閉めたのは私が目撃している。謝ることでも何でもない」
「でも……」
「いずれ犯人も捕まるさ。安心しろ」
盗まれたリストの中に、金目になりそうなものだけでなく、カエデのあの人形も含まれていた。
——なぜ、犯人はこんなものも盗んだんだ?
+++
盗まれた生徒たちに謝罪をして回るのは骨が折れる仕事だ。委員長がすると言ったが、ハヤトも手を挙げ学校を駆け回った。
精神的にもキツイ仕事だが、それ以上に胸に残るのは、あのカエデの人形のことだ。
特注品っていってたし、きっと大事なものだったんだろうな……
もしかしたら激怒するんじゃないかと不安が募る。
放課後、カエデを見つけて事情を説明すると、彼はあっけらかんとした表情で返事した。
「ああ、盗まれたって?いいよ~別に」
「は?あれ特注品だろ?高かっただろうし、しかも大事なものだったんじゃないのか?」
「まぁね、とっても大切。でも大丈夫。気にしなくていいよ」
その無頓着な言葉に、ハヤトはますます困惑した。
「でも……」
「気にしないでって言ったのに、ハヤトちゃん。そんなに謝るなら今度なんか奢ってよ。それでチャラ、ね♡」
「いや、それで済む問題じゃ……」
「だからさ、いーの。その人形の一番大事なことはもう終わったから」
「……人形の大事なこと?どういう意味だよ?」
「さぁ?なんだろうね」
はぐらかすように笑ったカエデを、ハヤトはそれ以上追及できなかった。
盗難被害に遭った生徒たちへ事情を説明した後の帰り道、ハヤトは委員長と並んで歩いていた。
「本当にすみません、委員長」
「いや、今回は誰かが盗んだ形跡がある。お前のせいではない」
「でも……他の人が、大事にしていたものもあったかもしれません」
「ハヤト、真面目なのはいいことだ。だが、自分の責任でないものまで背負う必要はない。それに風紀委員の責任は委員長である俺がとるべきものだ」
毅然と言い切る委員長の言葉に、ハヤトは何も言い返せなかった。
自分の責任じゃないと分かっていながら、なぜか胸の中にある罪悪感は晴れない。
委員長はふと足を止め、ハヤトの方に軽く手を置いた。
「俺も、お前みたいな真面目な後輩がいて助かっている。だが、それで潰れるなよ」
その言葉に救われた気がした。
委員長と別れ、廊下でカエデと再び顔を合わせた。
「ハヤトちゃん♡ あの堅物に今回の件で叱られたの?可哀想に、慰めてあげよっか?」
「いらないよ。あの人は庇ってくれたし、すごく優しかった。……カッコいいよな、ああいう人に憧れてるんだおれは」
「そう……」
つまらなさそうに目を細めたが、すぐにパッと表情を変えた。
「ま、ハヤトちゃんが元気そうならいいや。今日は雨が降るらしいし、傘持ってないなら早く家に帰りなよ~」
軽口を叩きながら去っていくカエデを、ハヤトはぼんやりと見送った。
本当に人形のこと、何も気にしていないのだろうか。それとも、何かを隠しているのか。
家路につき、ハヤトは委員長の言葉を思い出していた。
——潰れるなよ
その言葉に背中を押されるように、なんとか今日を乗り切れた気がする。委員長が一緒に説明してくれたおかげで、風紀委員の多くが冷静に受け入れてくれた。
ベットに転がり込み、大きく息をつく。
枕元に置いたスマホをみながら、カエデの言葉を思い返す。
——その人形の一番大事なことはもう終わったから
あの言葉が何を意味しているのか、ハヤトには全く理解できなかった。
まぁいいか。明日はせっかくの休みだし今日はゲームの続きでもしよう。
そういってベットから起き上がると突然
「ッつ…………!」
ハヤトの胸のあたりにビリッとした刺激が走った。
な、なにが起こった
バッと手を自分の胸にあてて確認するが当然何もない。けれど確かに何かが触れて、
「んんん…………ああっ……あっ……」
まただ。見えないナニカ…手、なのか?ナニカが乳首の周り、乳輪をくるくるを撫でる。
女じゃないんだからもちろんそんな気にすることでもないのかもしれない。
けど、いきなり刺激を与えられたらいやでも気になる。
くにくにっくにっ……
さすっさすさす……
姿も形も見えないナニカが、おれの胸をまさぐっている。
ハヤトは抵抗することができずベッドの上をのたうち回った。
あ…………んんっ、は……ぁ……んぅん……
最初は痛みにぎゅっとと閉じていた瞳が次第に開かれ、快楽の色が宿っていく。
ん……んっ…………なんっ……なんだよ…………一体ッ……
10分、20分と時間が過ぎていくが見えないナニカからの刺激は一向に止まる気配を見せない。
あぁ…………んん……ぅうんっ……んあ♡
もぅ♡……いぃ……加減……やめろよッ…………
なんとか動きを止められないかと見えないナニカを捕まえるべく、空に手を伸ばすも何もつかめずに空回る。
あんっ……ふぅぅ……イっっ……あっうぅ……ど……どうしたら……
そのまま何も抵抗できず1時間が過ぎようとする頃、突然見えないナニカの動きが止まった。
はぁ、はぁ…………はぁ……ァっ
ようやく終わったことに安堵するも、さきの刺激で下半身に募った熱が苦しい。
ハヤトはズボンの前をそっと緩め、その隙間から少し濡れた下着を一瞥した。
あ~~~~!! もう最悪だっ!
溜まった熱を一人で処理し、パンツを洗っている最中、ハヤトはずっと不安な気持ちで一杯だった。
なにか病気か? でもこんなことで病院何て行けないし……
はぁとため息をつき、気を取り直そうと顔をバチンと両手で叩いた。
明日は休みだし、ゲームでもして気を紛らわそう
そうやって携帯ゲーム機を取り出して最近買った流行りのRPGを始める。
たまたま今日だけだ、そうに違いない。あとの土日は大丈夫。
そうしてゲームに夢中になり、少し夜更かしをしながらもベッドで怠惰な一夜を過ごした。
今日は金曜日。風紀委員による校門前検査の日だ。
はぁ……風紀委員の仕事も楽じゃない。人に持ち物を見られるいうだけでも反感を買うのは当たり前だ。
(でも……おれは、あの風紀委員長の下で働きたいと思ったから)
この風紀委員会に入ったのは、当時も今も風紀委員長を務めるあの人の、その凛とした姿に憧れたことが理由だ。
「ハ~ヤトちゃん♡ 今日も風紀委員のお仕事頑張ってるね~」
後ろからうざったく肩をかけてくる。声の主はクラスの人気者、カエデだった。
160cm程度しかないおれに対し、カエデは185cmほど。伸し掛かられるとあまりに重苦しい。邪魔だとカエデの腕を振り払い、顔を見る。
こいつ、今日もまた変な色に髪を染めやがって。
「おい、カエデ。お前また髪の色を変えたな? 前も委員長に指摘されたばっかだろ」
おれがそう指摘すると、カエデは面倒くさそうに肩をすくめる。
「あー、あの堅物ね。ほんとヤになっちゃうよ。たかが髪の色で何をそんなにガミガミいうのやら」
「でも今回の担当がハヤトちゃんなのはラッキーだな~。注意されてもキャンキャンとワンちゃんが吠えてる様にしか見えないし♡」
舐め腐った態度で接するカエデに、ハヤトは苛立ちを覚える。
(くそっ、クラスからもこいつを筆頭になぜか可愛い可愛い子犬のようといわれるのが気に食わない……。カエデは……美形で……クラスの女子からもモテてて、ああ、そうさっ、羨ましいよ!)
「ほら、さっさと鞄の中身を出せよ」
「はぁ~い、どーぞ」
そういってカエデは鞄の中身を広げる。教科書に参考書、ルーズリーフまで意外にしっかりと整頓された様子だった。
その中に一つ、透明なケースに入った見慣れないぬいぐるみ?人形?に目を止める。
がさっと取り出してまじまじと見つめた。
その人形は黒髪の短髪、目が丸っこく、なぜかこの学校の制服にそっくりの服を着ていた。
なにかのキャラクターか? ゲームも漫画も流行りは見てるけど見覚えが全くない……
「これなんだよ?」
「かわいいでしょ~。知り合いの伝手を当たって作ってもらった特注品。デフォルメされてるけど結構細部まで作られてるんだ~」
細部まで作られた特注品?ということはやっぱりモチーフがあるんだな。
「あのなぁ、アニメのキャラかなんだか知らねーけど、こういうのも持ってきちゃいけない校則で決まっているだろう。これは没収だ」
「え~。……まぁいいけど。と、するとハヤトちゃんがその人形の『所有者になる』ということでいいんだよね?」
「はぁ?」
これを預かるのは一時的にすぎない。そもそも風紀委員には奪って捨てるような権限などないし、放課後には返す決まりなのだ。
(そもそもこれ特注なんだろ?高そうだし、あんまり触りたくねー)
「所有者って大げさな。これは一時的に『もらって』おく。あと、お前の場合は放課後じゃなくってその髪の色が元に戻ったならな」
「え~ケチ。……でも、まぁいいや。ふふ、これから楽しくなりそうだねハヤトちゃん♡」
楽しくなりそう? なんだあいつ意味が分からないこと言いやがって。
しかし、随分とかわいらしい人形を持っているんだな。意外な趣味だ。ああいうところが女にモテる理由だったりするのかな……
そんなくだらないことを考えながら、次の生徒の所持品を確認していく。
さすがにスマホや財布といった個人情報がありそうなものは預からないが、校則違反のエロ本、漫画、ネックレスやピアスなどの所持品を摘発していった。
そのたびに文句を言われたが慣れたものとこなしていき、授業開始10分前にようやく撤収した。
没収した荷物をまとめた箱を抱え、急いで風紀室に向かう。
さっさとこの荷物片づけないと、授業に間に合わねー
がらりと風紀室の扉を開けると、先に仕事を終えたのか風紀委員長が立っていた。
「ハヤト、やっと終わったか?」
「あっはい! あとはこの荷物を保管庫に入れて鍵をかけるだけです。……もしかして最後でしたか?」
「ああ、他の奴らはもう終えて授業に向かったぞ。ハヤトも間に合うように早くいけよ」
まさか自分が最後だったかと、慌ててロッカーの中に荷物を入れ、鍵をかける。
その際に荷物の中にあったカエデの人形とふと目が合った。それにどことなく既視感を覚えた。
……なんかあの人形、おれに似てなかったか?
じっと観察したわけじゃないがまるで自分と見紛うような——
「おい、もう時間がないぞ。俺はもう行くから風紀室の施錠も頼む。」
「っはい! すみません! やっときます!」
浮かんだ疑問を風紀委員長の声にかき消され、風紀室の施錠をして鍵を教員室に戻し、そのまま慌てて教室へと向かった。
がやがやと騒がしいクラス内に慌てて飛び込む。
席に着くと同時に、数学の教師が「はじめるぞー」と教室に入ってきた。
っあぶねー間に合ったー!!
「ハヤトちゃん、間に合ってよかったね」
後ろの席のハヤトが小さく声をかける。
「授業中だぞ。静かにしてろ」
「つれないなぁ~」
軽口を叩くカエデに教師は気づいたらしく、
「おい、そこ、話す暇があるなら前に出てこの問題に解けよー!」とあててきた。
「は~い」と席を立ち、関数で囲まれた図形の面積を求める問題をすらすらと解いていく。
(ねぇねぇ、やっぱりカエデ君って頭いいよね)
(チャラいけど要領よく何でもこなすところとかサイコー!!)
女子の小声でカエデを賛辞する声が嫌でも耳に入った。
あーあー、そうですね、イケメンで頭も良くてようござんすね
いつも通りクラスで注目を浴びるカエデを、ハヤトは妬ましそうに眺めた。
その後授業もすべて終わり、さきの風紀検査没収品の返却のため再び風紀室へ向かう。
ドアはすでに開いており、なにやら中から焦ったような声が聞こえた。
「どうかしたんですか?」
ハヤトは風紀委員の先輩に声をかける。
「なんかロッカーの鍵が開いてたらしいぞ! 今、中身を確認しているところだ」
没収品として預かっていた荷物の名簿と、ロッカーの中身を照らし合わせる。
数は多くないものの、金目のものを中心に荷物の数点が盗まれていた。
「おい、最後にロッカーを閉めたのは誰だ!! まさか開けたままにしたんじゃないだろうな!?」
「あっ……えっとおれです。でも……確かに閉めました! 間違いないですっ!」
疑惑の視線がおれに集まる。
自分がカギをかけた瞬間を思い出す。
確かに、閉めたはずだ。それなのに、なんで……
言い訳をすることすら許されない空気に、胸が苦しくなる。
————おれが疑われている
視線の重みで息が詰まりそうだ。
その沈黙を破るように、風紀委員長の声が響いた。
「閉めたのは俺が確認した」
「大方、教員室に合ったスペアキーでも使われたんだろう。これは風紀委員会そのものの管理の甘さが招いたことだ。すまなかった」
そういって委員長は頭を下げる。
「いえ、そんな……!」と周囲は困惑するが、
「今回盗まれた没収品について、俺からその生徒と、そして教員にも伝えておく」
その言葉を聞いて、ざわついていた空気が徐々に静まり、各自作業に戻り始めた。
「……すみません。委員長」
委員長は振り返らずに行った。
「お前が鍵を閉めたのは私が目撃している。謝ることでも何でもない」
「でも……」
「いずれ犯人も捕まるさ。安心しろ」
盗まれたリストの中に、金目になりそうなものだけでなく、カエデのあの人形も含まれていた。
——なぜ、犯人はこんなものも盗んだんだ?
+++
盗まれた生徒たちに謝罪をして回るのは骨が折れる仕事だ。委員長がすると言ったが、ハヤトも手を挙げ学校を駆け回った。
精神的にもキツイ仕事だが、それ以上に胸に残るのは、あのカエデの人形のことだ。
特注品っていってたし、きっと大事なものだったんだろうな……
もしかしたら激怒するんじゃないかと不安が募る。
放課後、カエデを見つけて事情を説明すると、彼はあっけらかんとした表情で返事した。
「ああ、盗まれたって?いいよ~別に」
「は?あれ特注品だろ?高かっただろうし、しかも大事なものだったんじゃないのか?」
「まぁね、とっても大切。でも大丈夫。気にしなくていいよ」
その無頓着な言葉に、ハヤトはますます困惑した。
「でも……」
「気にしないでって言ったのに、ハヤトちゃん。そんなに謝るなら今度なんか奢ってよ。それでチャラ、ね♡」
「いや、それで済む問題じゃ……」
「だからさ、いーの。その人形の一番大事なことはもう終わったから」
「……人形の大事なこと?どういう意味だよ?」
「さぁ?なんだろうね」
はぐらかすように笑ったカエデを、ハヤトはそれ以上追及できなかった。
盗難被害に遭った生徒たちへ事情を説明した後の帰り道、ハヤトは委員長と並んで歩いていた。
「本当にすみません、委員長」
「いや、今回は誰かが盗んだ形跡がある。お前のせいではない」
「でも……他の人が、大事にしていたものもあったかもしれません」
「ハヤト、真面目なのはいいことだ。だが、自分の責任でないものまで背負う必要はない。それに風紀委員の責任は委員長である俺がとるべきものだ」
毅然と言い切る委員長の言葉に、ハヤトは何も言い返せなかった。
自分の責任じゃないと分かっていながら、なぜか胸の中にある罪悪感は晴れない。
委員長はふと足を止め、ハヤトの方に軽く手を置いた。
「俺も、お前みたいな真面目な後輩がいて助かっている。だが、それで潰れるなよ」
その言葉に救われた気がした。
委員長と別れ、廊下でカエデと再び顔を合わせた。
「ハヤトちゃん♡ あの堅物に今回の件で叱られたの?可哀想に、慰めてあげよっか?」
「いらないよ。あの人は庇ってくれたし、すごく優しかった。……カッコいいよな、ああいう人に憧れてるんだおれは」
「そう……」
つまらなさそうに目を細めたが、すぐにパッと表情を変えた。
「ま、ハヤトちゃんが元気そうならいいや。今日は雨が降るらしいし、傘持ってないなら早く家に帰りなよ~」
軽口を叩きながら去っていくカエデを、ハヤトはぼんやりと見送った。
本当に人形のこと、何も気にしていないのだろうか。それとも、何かを隠しているのか。
家路につき、ハヤトは委員長の言葉を思い出していた。
——潰れるなよ
その言葉に背中を押されるように、なんとか今日を乗り切れた気がする。委員長が一緒に説明してくれたおかげで、風紀委員の多くが冷静に受け入れてくれた。
ベットに転がり込み、大きく息をつく。
枕元に置いたスマホをみながら、カエデの言葉を思い返す。
——その人形の一番大事なことはもう終わったから
あの言葉が何を意味しているのか、ハヤトには全く理解できなかった。
まぁいいか。明日はせっかくの休みだし今日はゲームの続きでもしよう。
そういってベットから起き上がると突然
「ッつ…………!」
ハヤトの胸のあたりにビリッとした刺激が走った。
な、なにが起こった
バッと手を自分の胸にあてて確認するが当然何もない。けれど確かに何かが触れて、
「んんん…………ああっ……あっ……」
まただ。見えないナニカ…手、なのか?ナニカが乳首の周り、乳輪をくるくるを撫でる。
女じゃないんだからもちろんそんな気にすることでもないのかもしれない。
けど、いきなり刺激を与えられたらいやでも気になる。
くにくにっくにっ……
さすっさすさす……
姿も形も見えないナニカが、おれの胸をまさぐっている。
ハヤトは抵抗することができずベッドの上をのたうち回った。
あ…………んんっ、は……ぁ……んぅん……
最初は痛みにぎゅっとと閉じていた瞳が次第に開かれ、快楽の色が宿っていく。
ん……んっ…………なんっ……なんだよ…………一体ッ……
10分、20分と時間が過ぎていくが見えないナニカからの刺激は一向に止まる気配を見せない。
あぁ…………んん……ぅうんっ……んあ♡
もぅ♡……いぃ……加減……やめろよッ…………
なんとか動きを止められないかと見えないナニカを捕まえるべく、空に手を伸ばすも何もつかめずに空回る。
あんっ……ふぅぅ……イっっ……あっうぅ……ど……どうしたら……
そのまま何も抵抗できず1時間が過ぎようとする頃、突然見えないナニカの動きが止まった。
はぁ、はぁ…………はぁ……ァっ
ようやく終わったことに安堵するも、さきの刺激で下半身に募った熱が苦しい。
ハヤトはズボンの前をそっと緩め、その隙間から少し濡れた下着を一瞥した。
あ~~~~!! もう最悪だっ!
溜まった熱を一人で処理し、パンツを洗っている最中、ハヤトはずっと不安な気持ちで一杯だった。
なにか病気か? でもこんなことで病院何て行けないし……
はぁとため息をつき、気を取り直そうと顔をバチンと両手で叩いた。
明日は休みだし、ゲームでもして気を紛らわそう
そうやって携帯ゲーム機を取り出して最近買った流行りのRPGを始める。
たまたま今日だけだ、そうに違いない。あとの土日は大丈夫。
そうしてゲームに夢中になり、少し夜更かしをしながらもベッドで怠惰な一夜を過ごした。
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