魔法使いと皇の剣

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2章 戦乱の序曲

宣伝と人探し ジン

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 ジンが案内された商人の店は、外観からは普通の仕立て屋に見えたが、店内に入ると奥にはしっかりとした武具が並べられていた。剣や盾、軽装鎧など、初心者から熟練者まで幅広く使えるものが揃っている。

 商人は棚から軽い手甲と胸当てを取り出し、ジンに渡した。

「これを使ってみな。お前さんの動きを妨げない程度に軽いが、防御力はそこそこある。見た目も悪くないだろ?」

 ジンは装備を手に取り、確かめるように動かしてみた。

「確かに軽い…動きやすさも悪くないですね。」

「だろ?そいつで見せ前で呼び込みと告知をするから挑戦者たちと少し腕試ししてくれ。今の時期、志願兵を目指す奴等が多くこの国に現れるからな、どうだ、簡単だろ?」

 ジンは再び頷き、装備を身に付けると、腰の刀を軽く叩いた。

「分かりました。それでは、早速向かいましょう。」


 ジンは商人に案内され、店の前に用意された広場のような空間に立った。そこは既に簡易的な擂り台のようなものが設置されており、見るからに試合やデモンストレーションが行える場所だった。周囲には通りを行き交う人々や、商人たちが集まり始めていた。

 商人は満足そうに周囲を見渡しながら、ジンに軽く肩を叩いた。

「よし、ここが舞台だ。お前さんがここで腕を見せれば、この町に来た志願兵や冒険者が興味を持つ。それが俺たちの商品を売るきっかけになるってわけだ。」

 ジンは無言で軽く頷き、視線を周囲に巡らせた。町の賑わいは相変わらずで、彼の目にとってもどこか懐かしい温もりを感じる景色だった。


(平和そうにみえるけど、やはりベイルガルドとの戦いに備えて兵を集めようとしてるのか…。)

「おーい、皆聞いてくれ!」

 商人は突如大声を上げ、人々の注目を集めた。彼は軽快に話を続ける。

「今日ここに立っているのは、この町を訪れた旅の剣士だ!この剣士が俺たちの武具を使って、皆にその実力を披露してくれる!腕試しをしたい奴、挑戦してみないか?」

 商人の呼びかけに、通りを行き交う人々の目がジンに集まった。その中には若い冒険者風の男たちや、見るからに鍛えられた兵士のような者たちもいた。

 一人の若者が歩み出て、軽く手を挙げた。

「俺が挑戦してもいいか?騎士への志願前に腕を試したいと思ってたところなんだ。」

 商人は満足そうに笑いながら頷いた。

「もちろんだ!ただし、これは腕試しだからな。本気を出してもらって構わないが、相手を傷つけることのないように頼むぞ。」

 若者は真剣な表情で頷き、手にした剣を構えた。一方のジンは、軽く手甲を調整しながら静かに相手を見据えた。

「宜しくお願いします⋯」

 ジンが軽く腰を落とし、構えを取ると、周囲に緊張が走った。若者は気合いを入れるように声を上げ、一気に踏み込んだ。

 彼の剣がジンを狙って振り下ろされる。しかし、ジンはそれをあっさりといなすように身をかわし、相手の剣筋を見切った上で軽く一撃を加える。若者はその勢いに体勢を崩し、あわてて距離を取る。

 周囲から歓声が上がり、観客たちは次第に集まってきた。


「いいぞー!どっちも頑張れー!」

「ただの旅人じゃないぞ!」

 商人はその様子を満足げに眺めながら、小さく笑みを浮かべた。

(何だか久々だな⋯こういうのも)

 ジンは観客の声を耳にしながらも、目の前の相手に集中していた。若者は再び攻撃を仕掛けるが、ジンの動きはまるで風のように軽やかで、隙を与えない。

 やがて、若者は息を切らし、剣を下ろした。

「参ったよ…全然歯が立たないなんてな…。あんた、どこでそんな剣術を学んだんだ?」

 ジンは若者に近づき、軽く肩に手を置いた。

「いいえ、俺も勉強になりました。剣の腕は独学で生きる為に身につけました。」

 その言葉に若者は驚いた表情を見せたが、すぐに笑顔で頷いた。

「生きる為か⋯有難う。志願前に腕を試せて良かったよ」

 観客から再び歓声が上がり、挑戦を志願する者たちが次々と手を挙げた。ジンは一息つきながらも、その目には静かな闘志が宿っていた。

(この町での時間が、少しでも意味のあるものになるようにしよう…。)


 ジンは続々と現れる挑戦者たちと対峙し、そのたびに冷静かつ的確な剣さばきを披露した。

 商人の店の前はいつしか大勢の観客で賑わい、彼らはジンの技術に感嘆の声を上げていた。

 挑戦者の中には志願兵を目指す若者だけでなく、ベテランの冒険者や町の衛兵も混じっており、それぞれがジンの腕を確かめようと熱心に挑んできた。

「くそっ、これでもくらえ!」

 ある挑戦者が剣を大きく振り上げて迫る。

 しかしジンはその動きを見切り、軽く身をかわすと同時に相手の剣を手甲で押し返した。挑戦者はバランスを崩し、その隙を突かれて仮の試合場の外に出されてしまった。

「また負けた!お前、本当にただの旅人か?」

 挑戦者は悔しそうに叫ぶが、その表情には不思議と満足感が浮かんでいた。

 ジンは微かに微笑み、挑戦者を労うように声をかけた。

「一度勢いをつけすぎると、体勢を崩しやすいかもしれませんね。」

 そのアドバイスに挑戦者は驚きながらも感謝の言葉を述べた。

「ありがとう…次はもっと冷静にやってみるよ。」

 ジンの腕試しは次第に町全体で評判となり、商人の店の前にはさらに多くの人々が集まり始めた。

 挑戦者たちは一様に真剣な表情で彼に向かっていったが、ジンの冷静な技術と鋭い洞察力に翻弄され、誰一人として勝利を掴むことができなかった。


「はっはっは!見ろ、あの人だかり!これほどの賑わいがあったのは久しぶりだ!」

 商人は興奮した様子で周囲を見回しながら、店内に戻って忙しそうに商品を運び出していた。剣や盾、鎧などの武具が飛ぶように売れ、店の前には購入を待つ列までできていた。

 戦いが一段落した頃、一人の男がジンに声をかけてきた

「お前、良い腕をしてるな⋯ここでの宣伝商売より良い仕事あるが、聞くか?」

 ジンはその言葉を聞いてわずかに眉をひそめ男をよく見た。

 男は無造作に伸びた黒髪と荒れた髭が目立つ、中年の風貌をしていた。

 見た目は町の一般人と変わらないが、その鋭い眼差しと整然とした動作には、ただ者ではない気配が漂っている。

 粗末な衣服に隠された体つきは引き締まっており、隠した短剣と同時に近くに立つだけでわずかに感じる血の匂いが、彼の過去に影を落としているようだった。


「良い仕事…ですか?内容によりますが、あなたは何者でしょうか?」

 男はわずかに笑みを浮かべ、気負わずに答えた。

「ただの通りすがりの者だよ。名前はロスティン。お前さんみたいな腕を持った旅人がどんな背景を持っているかは知らないが、その力を生かせる仕事はある。」

 ロスティンの言葉には穏やかな口調とは裏腹に、どこか鋭い緊張感が漂っていた。ジンは彼の言葉に耳を傾けながらも、全身の神経を研ぎ澄ませていた。

「具体的には、どんな仕事でしょうか?」


「簡単なことだ。ただの人探し。それ以上の案件は仕事っぷりを確認したらだ」

 その言葉に、ジンは眉をひそめた。
 詳細は不明だが、危険を伴う仕事であることは容易に想像できた。

「報酬はどうなりますか?」

 ロスティンはにやりと笑い、答えた。

「報酬は十分に払うつもりだ。金か、必要な情報か。お前さんが欲しいもの次第でな。ただし、決めるなら今でなくていい⋯俺に会いたくなったら、夜にここに来い。ちょうどこのあたりの店が閉まる頃にな」

 ジンはロスティンの提案にしばらく沈黙を保ち、考え込んだ。この町で得られる情報や資金は、今後の旅路にとって重要になる。しかし、闇雲に危険に足を踏み入れるわけにもいかない。

 ロスティンはジンの返事も待たず人混みへと消えていき
 去った後、商人がジンの元へ駆け寄ってきた。

「おいおい、あの男と何を話してたんだ?変な奴だったぞ」

 商人の言葉に、ジンは静かに答えた。

「何か人を探しているみたいでしたね⋯それより今日の手伝いで衣類や宿代は得られそうですか?」

 商人はジンの言葉を聞くと、わずかに顔を曇らせながらも、すぐに笑みを浮かべた。

「おう、もちろんだとも!お前さんのおかげで今日は儲けさせてもらった。これが約束の礼だ。」

 そう言って、商人はジンに小さな革袋を手渡した。中にはこの国で使える硬貨がしっかりと詰まっている。

「これだけあれば、宿代も新しい服も十分賄えるだろう。何ならこの店でお前さんに合う服を仕立てることもできるぞ。」

 ジンは礼を言いながら、革袋を受け取った。

「助かります。あなたのおかげで少しはこの町での足場が作れそうです。」

 商人は満足げに頷き、店の方を指差した。

「さて、そっちの男の話は気になるが、俺は商売が忙しい。お前さんも変な連中に深入りするんじゃないぞ?宿は『光日の安らぎ』だったか?評判もいいからな早く行かないと埋まっちまう」

 ジンは再び軽く頷き、商人に別れを告げると、先ほどのロスティンの言葉を思い返しながら歩き始めた。


 街の喧騒の中、ジンは次の行動を考えていた。
 夕方まで時間がある。宿に向かい一息つくか、それとも再び街を巡って情報を集めるか。

(どちらにせよ、用心するに越したことはないな。)

 ジンは街の風景を見渡しながら、まずは宿に向かうことを決め、歩を進めた。
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