魔法使いと皇の剣

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2章 戦乱の序曲

商人の仕事 ジン

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 ミエラたちと別れたジンは、一人馬車を引きながら城門をくぐり、華やかな町へと歩みを進めた。

 城下町は活気に満ちており、商人たちの掛け声や、子供たちの笑い声があちこちから響いていた。色とりどりの屋台が並び、人々は品物を手に取っては値段を交渉し、賑わいは絶えなかった。

 活気に満ちた城下町の中を歩きながら、「光日の安らぎ」の看板を目で追っていた。

 人々の笑い声や商人たちの呼び声が絶え間なく響く中、ジンの周囲には賑やかで華やかな雰囲気が広がっていた。

(一見は平和そうに見えるけど⋯)

 ジンは無意識のうちに刀の柄に手を置きながら周囲を観察していた。

「兄ちゃん、何か探してるのかい?」

 ふと、声がかけられた。振り返ると、小柄で屈強そうな男が立っていた。男は革のエプロンをつけており、どうやら近くの商人のようだった。

「ええ⋯『光日の安らぎ』っていう宿を探してる。」

 ジンが答えると、男は笑顔を浮かべて指をさした。

「そいつなら、この通りを突き当たりまで進んで左手だ。騎士たちもよく利用する評判の宿だぜ。」

 ジンは軽く頷いて礼を言った。

「助かりました⋯ありがとう御座います」

 男はジンのお礼に満足そうにしつつも、ジンの服装と馬車をみて不思議そうに

「兄ちゃんは馬車を引いてるが何処かの小間使いか業者かい?」

 ジンは商人の問いかけに、一瞬言葉を詰まらせたが、すぐに落ち着いた口調で答えた。

「いえ、馬車は旅の最中に頂いたもので、何と言えば良いか旅人です」

 商人はジンの言葉を聞くと、少し眉をひそめながら馬車をじっと見つめた。

「旅人か。にしてはずいぶんとボロボロの服だな⋯巻いている包帯を随分と経っているから血が黒くなってるぞ?」

 その言葉に、ジンは軽く肩をすくめた。

「まぁ確かに⋯目立ちますかね?」


 商人はジンの答えを聞くと、軽く笑みを浮かべて肩をすくめた。

「目立つっちゃ目立つな。まあ、旅の傷は勲章って言うが、お前さんのは少し目を引く。町の中じゃ、そういうのを気にする奴もいるからな。注意しておけよ。」

 ジンはその言葉に頷きながらも、自分の包帯を改めて見下ろした。

(確かに、これは目立つかもしれないな…だが、隠す余裕もなかった。)

「忠告有難う御座います。もし宜しければ衣服を変える場所等もお聞きできますか」

 商人は満足げに頷き、再び笑顔を浮かべた。

「おう、旅人さん!運が良いな。俺のところに来な。この町一番の仕立て屋だ。何かしら役に立つものが作れるかもしれん。」

 ジンは商人の申し出に、なるほどなと考えていた。

(やけに親切だと思ったら⋯商売上手ではあるのかな⋯?金を持っているように見えないと思うが)

 商人ばジンの様子をみて柔らかい口調で答えた。

「ボロボロの服に、行商の馬車。腰には見慣れない剣。出てきた方向からして王宮。」

 商人は笑顔を崩さず、誇らしげに続けた

「俺の感があんたは俺を必要として、見返りも得られると囁いたのさ」

 ジンは商人の言葉に笑いながら頷き、ある事に気がついた。

「あっ⋯」

「ん?どうした兄ちゃん」

 ジンは一瞬硬直し、冷や汗が背中を伝うのを感じた。

(しまった…。金銭を確認していなかった…。それに、そもそもこの国で使える通貨かどうかもわからない。)

 商人はジンの反応に気づき、少し首をかしげた。

「どうした、兄ちゃん?そんな顔して。もしかして、金がないってオチか?」

 その問いかけに、ジンは正直に答えるべきか迷ったが、相手が妙に親しげで悪意がなさそうだと判断し、素直に言葉を口にした。

「正直に言うと、金銭を持っていない可能性があります。そして仮に持っていても、この国で通用するものかどうか分からないんです。」

 商人は一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐに豪快に笑い始めた。

「はははっ!なんだそりゃ、旅人の癖に金も持たずに歩いてるのか!…まあ、王宮から出てきたんだろう?きっと訳ありだろうし、無理もねえな。」

 ジンは肩をすくめ、苦笑いを浮かべた。

「恥ずかしい限りです。もし何か代わりにできることがあれば、そうして支払いに代えたいのですが…。」

 その言葉に商人は少し考えるような素振りを見せた後、興味深そうにジンを見つめた。

「そうだな…あんた腕に自身はあるかい?」

 ジンは商人の問いに一瞬考えた後、淡々とした口調で答えた。

「腕に自信があるか…?旅をしている以上、それなりに戦い慣れているつもりです。」

 商人はその答えを聞いて満足そうに頷いた。

「いい返事だな!実は仕立ての他に武具の販売を新しく始めてな、簡単に言えば町に来る人間や騎士にアピールして欲しいんだ」

 ジンは商人の言葉に少し驚きながらも、興味深そうに聞き入った。

「宣伝ですか⋯?それでよければ⋯ただ腕が必要な理由は何でしょうか?」

「武具ってのはな使う奴次第で見え方が変わるもんだ。有名な騎士や冒険者が通ってるってだけでオンボロな武具も伝説の武具に早変わりさ」

 商人は腕を組みながら、真剣な表情でジンを見つめた。

「あんたにやって貰いたいのは⋯うちの武具を使って街ゆく人間と腕試しさ。その身なりも含めて⋯謎に包まれた剣士って名目でな、上手くやれれば報酬は上乗せするぜ。今のままだと【光日の安らぎ】に向かっても何もできないだろう?」

 ジンは商人の提案を聞きながら、冷静に状況を考えた。

(確かに、金もない状態で【光日の安らぎ】に行っても、何も始まらない。それに、この街での活動資金が必要になるのは間違いない…)

 ジンは少し考え込んだ後、商人に向き直った。

「分かりました。その提案を引き受けましょう。ただし、一つだけ確認させてください。」

「なんだい、兄ちゃん?」

 ジンは商人の目をじっと見据えて問いかけた。

「この武具を使った腕試しで、相手に危害を加えることがないように配慮するつもりですが、それでも相手側にトラブルが起きた場合、あなたが責任を負う用意はありますか?」

 商人はその言葉に一瞬たじろいだが、すぐに笑いを浮かべて答えた。

「さすがだな、旅人。確かにその点は重要だ。まぁそれも踏まえての報酬だ⋯ようするに何かあれば責任はあんたにいく。」

 ジンはその説明を聞いて少し考えていたが

「分かりました。引き受けます。ただし、無用な挑発や演出はなしでお願いします」

 商人は満足げに頷き、笑顔でジンの肩を叩いた。

「いいねえ、頼もしいじゃないか!それじゃあ早速準備しようぜ。まずはうちの店に来てくれ。武具を選ばせてやるよ。」
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