190 / 199
魔法学園編
188 欲望 02 (第四補佐官視点)
しおりを挟む私はその日から私なりに真面目に仕事に取り組んだ。
これまでのようにサボっていて、万が一にも左遷なんてされたら王子が王になった際にお側でお仕えすることができないのは嫌だった。
私は絶対に王子の側近として仕事をするのだ。
そう密かに決意していたのに、リヒト様には護衛騎士がつき、従者がつきと側近が増えていって、いつか優秀な文官が側近になって、私がお側につくのなんて無理なのでは? と不安が募っていった。
護衛騎士はわかるけれど、従者ってなんだよ?
急に出てきた子供が私よりも早くリヒト様のお側に侍るようになったことは結構ショックだった。
それから数年後、どうやらリヒト様の従者のカルロがリヒト様の不興を買ったらしい。
毎日、リヒト様は他国にお出かけになられているのに、カルロがそれにはついていかずに乳母であるヴィント侯爵から仕事を教えてもらっていた。
それがしばらく続いたかと思うと、次に第一補佐官が王の執務室にカルロを連れてきて文官の仕事を教え始めた。
リヒト様の従者ともなると文官になるための試験など必要なく、すでに出世コースにのっているようなものだった。
第一補佐官は文官のトップにいる方だ。
そのような方に直接指導してもらえるなど、非常に恵まれた立場だったが、カルロはリヒト様以外にはにこりともしない子供だった。
私も愛想のいい方ではなく、性格が捻じ曲がっているのも自覚しているため、カルロにとやかく言える立場ではないが、今回の失敗があってもこうして大人たちがサポートして将来はリヒト様のお側に仕えることが約束されているカルロのことが羨ましくて、私は思わず余計なことを言った。
「あの大人なリヒト様を怒らせるとは、お子ちゃまなカルロ様はよほどのことをされたのでしょうね」
その時、王と宰相が会議に出席していて執務室にはいなかったのが不幸中の幸いだろう。
まぁ、お二人がいなかったために抑止力がなかったというのもあるが。
第一補佐官をはじめとした他の補佐官は私を凝視した。
そして、カルロは、その顔を真っ青にしていた。
普段見ていたカルロは気の強そうな眼差しをしていたから、すぐに言い返してきたり、お得意の魔法で何かしてくるかと思ったが、そんなことはなかった。
ただ、カルロは顔を真っ青にし、そして、乾いた唇を引き結んだ。
その顔だけで、カルロがリヒト様の不興を買ってしまったことにショックを受けていることがわかった。
もちろん、カルロがリヒト様の不興をわざと買ったとは思っていない。
しかし、そんなに顔を真っ青にするということは、その年齢にしては利発なカルロでも不興を買うと想像できなかった出来事が起こったのだろうか?
ある程度想像できた結果ならば、不興を買う覚悟の上で行ったことだろうから、このような表情はしないはずだ。
第一補佐官は早々にカルロを従者の部屋に帰し、私を叱った。
私は、第一補佐官の叱り方が苦手だった。
それは私の両親のように声を荒らげる無様なものではなく、静かに落ち着いた声音で逃れられない正論を説くようだった。
第一補佐官のお叱りでわかったことは、カルロはリヒト様を守るために自身を犠牲にしようとしてリヒト様の不興を買ったということだった。
やはり、カルロはお子様だったのだ。
そして、リヒト様は私が考えていた以上にずっとカルロのことを大切に思っているようだ。
……羨ましい。
おそらく、これから多くの子供たちがカルロのことを羨むだろう。
けれど、私は、その子供たちのことも羨ましい。
リヒト様と同じ年代に生まれたということは、それだけでリヒト様の側近になれるチャンスがあるのだ。
リヒト様と一緒にいる時のカルロは肌艶も良く、唇もよく手入れされてぷるぷるのツヤツヤだった。
それが、リヒト様と離れている間に肌艶は悪くなり、唇はあっという間にガサガサだ。
それだけリヒト様のご不興を買ったことがショックだったのだろうが、リヒト様の同情を買おうとするようなそんな姿がまた私を苛立たせた。
「自身の体を気遣うのも貴族の嗜みでは? 特に、王子の従者ともあろう者が、唇の手入れひとつもまともにできないなんて」
私の言葉にカルロは私を睨んだ。
私はその鋭い目つきを鼻で笑った。
「まぁ、お子ちゃまなカルロ様にはリヒト様の従者など分不相応だったということですよね?」
その後も私はカルロを揶揄った。
「リヒト様ほどお美しければ婚約の申し込みも殺到するでしょうね」
そんな言葉にはカルロは露骨に緊張の色をその顔に浮かべた。
「いくらリヒト様がカルロを大切にしていても、この国のために幼い頃から動かれているリヒト様ならばきっと、エトワール王国のためになる政略結婚を選ばれることでしょう」
カルロはリヒト様が好きだ。
それが友愛や敬愛だけではないことは、誰の目から見ても明らかだ。
……リヒト様だけはお気づきではないようだが。
私の言葉に憤るカルロの表情に私は満足を覚える。
これまで私がカルロに抱いていた感情がそこに見えたからだ。
カルロを揶揄することで、私はリヒト様のお側にお仕えできる者たちへの嫉妬心を慰めた。
揶揄いすぎて、カルロの触手でぐるぐる巻きにされて意識を失ったこともあった。
人は長時間同じ姿勢でいると具合が悪くなるものらしい。
436
お気に入りに追加
2,909
あなたにおすすめの小説
巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく
藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。
目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり……
巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。
【感想のお返事について】
感想をくださりありがとうございます。
執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。
大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。
お決まりの悪役令息は物語から消えることにします?
麻山おもと
BL
愛読していたblファンタジーものの漫画に転生した主人公は、最推しの悪役令息に転生する。今までとは打って変わって、誰にも興味を示さない主人公に周りが関心を向け始め、執着していく話を書くつもりです。
普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている
迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。
読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)
魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。
ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。
それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。
それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。
勘弁してほしい。
僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。
悪役王子の取り巻きに転生したようですが、破滅は嫌なので全力で足掻いていたら、王子は思いのほか優秀だったようです
魚谷
BL
ジェレミーは自分が転生者であることを思い出す。
ここは、BLマンガ『誓いは星の如くきらめく』の中。
そしてジェレミーは物語の主人公カップルに手を出そうとして破滅する、悪役王子の取り巻き。
このままいけば、王子ともども断罪の未来が待っている。
前世の知識を活かし、破滅確定の未来を回避するため、奮闘する。
※微BL(手を握ったりするくらいで、キス描写はありません)
魔法学園の悪役令息ー替え玉を務めさせていただきます
オカメ颯記
BL
田舎の王国出身のランドルフ・コンラートは、小さいころに自分を養子に出した実家に呼び戻される。行方不明になった兄弟の身代わりとなって、魔道学園に通ってほしいというのだ。
魔法なんて全く使えない抗議したものの、丸め込まれたランドルフはデリン大公家の公子ローレンスとして学園に復学することになる。無口でおとなしいという触れ込みの兄弟は、学園では悪役令息としてわがままにふるまっていた。顔も名前も知らない知人たちに囲まれて、因縁をつけられたり、王族を殴り倒したり。同室の相棒には偽物であることをすぐに看破されてしまうし、どうやって学園生活をおくればいいのか。混乱の中で、何の情報もないまま、王子たちの勢力争いに巻き込まれていく。
悪役令息に転生したけど…俺…嫌われすぎ?
「ARIA」
BL
階段から落ちた衝撃であっけなく死んでしまった主人公はとある乙女ゲームの悪役令息に転生したが...主人公は乙女ゲームの家族から甘やかされて育ったというのを無視して存在を抹消されていた。
王道じゃないですけど王道です(何言ってんだ?)どちらかと言うとファンタジー寄り
更新頻度=適当
転生して悪役になったので、愛されたくないと願っていたら愛された話
あぎ
BL
転生した男子、三上ゆうきは、親に愛されたことがない子だった
親は妹のゆうかばかり愛してた。
理由はゆうかの病気にあった。
出来損ないのゆうきと、笑顔の絶えない可愛いゆうき。どちらを愛するかなんて分かりきっていた
そんな中、親のとある発言を聞いてしまい、目の前が真っ暗に。
もう愛なんて知らない、愛されたくない
そう願って、目を覚ますと_
異世界で悪役令息に転生していた
1章完結
2章完結(サブタイかえました)
3章連載
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる