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魔法学園編
186 ダンジョン制作 05
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結局、その日の実験はそれ以上行うことができなかった。
私たちは城に戻り、王子たちを部屋に戻した後も不機嫌なままのカルロに私は改めて謝らなければいけないと思った。
「ヘンリック、カルロに話があるので、二人きりにしてくれないだろうか?」
ダンジョン制作の実験の間は私の部屋で留守番をしてくれていたヘンリックにそうお願いをしたが、ヘンリックは難色を示した。
「リヒト様と婚約をしてからというもの、カルロは隙あらばリヒト様にキスをしたり、お体に触れようとするから目を離してはいけないとヴィント侯爵より言われております」
確かに、そのために私の部屋には再び寝ずの番がつくようになった。
だが、今はまずはカルロに謝り、あのように他者に闇魔法で作り出した剣を向けてしまうほど傷ついた心を慰めなければいけないだろう。
「ヘンリック。私の行動がカルロを傷つけてしまったので謝りたいのだ」
ヘンリックはため息をついた。
「何かあればすぐに呼んでください。扉の前におりますから」
部屋からヘンリックが出たのを確認し、私はカルロを振り返ろうとした。
しかし、それよりも早くカルロに後ろから抱きしめられた。
「カルロ……」
「リヒト様はひどいです……婚約者は僕なのに、他の者に魔力をあげようとするなんて……」
「魔力のことは、本当に忘れていたんだ。でも、忘れていいことではなかった。本当にごめん」
「……僕に、魔力をください」
「え?」
カルロに肩を掴まれて、体を反転させられる。
「リヒト様のことだから、また誰かに魔力を与えようとするかもしれない」
信用されていないな……いや、それも仕方のないことをしてしまったのだが。
「せめて、最初は僕にください」
カルロが今度は正面から私を抱きしめてきたから、私は私よりも背が高くてしっかりとした体躯になってしまったカルロの背に腕を回して抱きしめ返す。
そして、ゆっくりと魔力を流した。
カルロが安心できるように、カルロを包み込むようなイメージで、自分の魔力をカルロに与える。
「……リヒト様」
しばらくすると、カルロが私の名前を呼び、寂しげな声で言った。
「政略結婚が必要になっても、僕を捨てないでください」
カルロを私の方から手放すことなんて絶対にないし、政略結婚なんて考えもしなかったけれど、私が他の王子に魔力を与えるということは夫婦になる気持ちがあることを示すことになったのかもしれない。
しかも、今回魔力を与えようとしたランツは武力を誇る王国の第一王子だ。
政治的なことだけを考えれば、味方にしておいて悪いことはない。
私は自分の考えの至らなさを心から反省した。
「要するに、リヒト様は彼に光属性の魔力を感じてもらって、彼の中の光属性を刺激したかったということですね?」
翌日の実験の前に、私はランツにも謝った。
そして、なぜ、あのようなことをしてしまったのかと説明した私の話を魔塔主がまとめる。
「それなら、これでいいでしょう」
魔塔主は光魔法で光の玉を作り出した。
「君、これに触れてみてください」
指名されたランツが光の玉に触れる。
「この魔力と似た魔力を自分の中に探してください」
ランツは火属性が得意で、次に風属性がすこし使える。
しかし、火属性の魔法を使う時のランツから、私は光属性の気配を感じていたのだ。
だから、もしかすると、本人が気づいていないだけで、光属性にも適性があるのではないかと思ったのだ。
しばらくすると、目を瞑って集中していたランツが光の玉から手を離して、自分の胸に手を当てた。
ランツはしばし自分の中の感覚を探っているようだった。
そして、「実は」と口を開いた。
「火魔法を使う時に、火属性の魔力と一緒に出てくる別の魔力があるような感じがしていたのです。ただ、すごく微量だったので、使うことができない属性だと思っていたのですが……今は、風属性の魔力よりも、こちらの魔力の方が強く感じます」
魔塔主の指導によって、ランツは短時間で自分の中の光属性の魔力を引き出せるようになった。
ザハールハイドの闇属性の魔力と、ランツの光属性の魔力、そして他の生徒たちが持つそれぞれの魔力が混ぜ合わさり、ザハールハイドとランツが参加しなかった前々日の実験よりも大きくてしっかりとしたダンジョンを作ることができた。
「まぁ、ここまでできればひとまずは成功で、これ以上の実験は必要ないでしょう」
出来上がった氷のダンジョンを見上げて、魔塔主が言った。
ラズリははしゃいだ様子で私の手を掴むとぶんぶんと上下に振る。
「リヒト君のおかげでものすごく研究が進んだよ! 僕はこれから論文を書くね」
「そうですか。お疲れ様でした」
「でも」とラズリは私を見下ろした。
「実験に付き合わせておいてなんだけど、リヒト君はこれをどうするの? ここだとおそらくダンジョンがあったところで魔物はドラゴンの魔力で寄ってこないと思うよ?」
「魔物が棲みつかなければ冒険者は来ませんから、経済効果は期待できませんね」
私は魔塔主とラズリに考えが甘いと微笑んだ。
「魔物を棲みつかせる予定ならば、ヴェアトブラウの側には最初から作りませんでしたよ」
「では、これはどうするのですか?」
「観光名所にします」
二人とも意味がわからないという様子で首を傾げた。
「ヴェアトブラウの花畑も美しいですが、子供たちや一部の人々には退屈でしょう。ヴェアトブラウを見たいご夫人も子供や旦那さんが退屈だと感じるようであれば見に行きたいとは言い出しにくいかもしれませんし、家族で何度も来ようとはならないでしょう」
「だから、ヴェアトブラウでは物足りない子供や大人向けに安全なダンジョンですか……」
「はい。冒険者には荒くれ者も多いですから、エトワール王国に来る者は療養目的の者たちだけで充分です」
これからダンジョンにいる魔物に挑もうと興奮しているような者たちは必要ない。
「名所が増えたことですし、管理の仕方を考えないといけないですね」
私は出来上がったばかりの美しい氷のダンジョンを見上げて微笑んだ。
私たちは城に戻り、王子たちを部屋に戻した後も不機嫌なままのカルロに私は改めて謝らなければいけないと思った。
「ヘンリック、カルロに話があるので、二人きりにしてくれないだろうか?」
ダンジョン制作の実験の間は私の部屋で留守番をしてくれていたヘンリックにそうお願いをしたが、ヘンリックは難色を示した。
「リヒト様と婚約をしてからというもの、カルロは隙あらばリヒト様にキスをしたり、お体に触れようとするから目を離してはいけないとヴィント侯爵より言われております」
確かに、そのために私の部屋には再び寝ずの番がつくようになった。
だが、今はまずはカルロに謝り、あのように他者に闇魔法で作り出した剣を向けてしまうほど傷ついた心を慰めなければいけないだろう。
「ヘンリック。私の行動がカルロを傷つけてしまったので謝りたいのだ」
ヘンリックはため息をついた。
「何かあればすぐに呼んでください。扉の前におりますから」
部屋からヘンリックが出たのを確認し、私はカルロを振り返ろうとした。
しかし、それよりも早くカルロに後ろから抱きしめられた。
「カルロ……」
「リヒト様はひどいです……婚約者は僕なのに、他の者に魔力をあげようとするなんて……」
「魔力のことは、本当に忘れていたんだ。でも、忘れていいことではなかった。本当にごめん」
「……僕に、魔力をください」
「え?」
カルロに肩を掴まれて、体を反転させられる。
「リヒト様のことだから、また誰かに魔力を与えようとするかもしれない」
信用されていないな……いや、それも仕方のないことをしてしまったのだが。
「せめて、最初は僕にください」
カルロが今度は正面から私を抱きしめてきたから、私は私よりも背が高くてしっかりとした体躯になってしまったカルロの背に腕を回して抱きしめ返す。
そして、ゆっくりと魔力を流した。
カルロが安心できるように、カルロを包み込むようなイメージで、自分の魔力をカルロに与える。
「……リヒト様」
しばらくすると、カルロが私の名前を呼び、寂しげな声で言った。
「政略結婚が必要になっても、僕を捨てないでください」
カルロを私の方から手放すことなんて絶対にないし、政略結婚なんて考えもしなかったけれど、私が他の王子に魔力を与えるということは夫婦になる気持ちがあることを示すことになったのかもしれない。
しかも、今回魔力を与えようとしたランツは武力を誇る王国の第一王子だ。
政治的なことだけを考えれば、味方にしておいて悪いことはない。
私は自分の考えの至らなさを心から反省した。
「要するに、リヒト様は彼に光属性の魔力を感じてもらって、彼の中の光属性を刺激したかったということですね?」
翌日の実験の前に、私はランツにも謝った。
そして、なぜ、あのようなことをしてしまったのかと説明した私の話を魔塔主がまとめる。
「それなら、これでいいでしょう」
魔塔主は光魔法で光の玉を作り出した。
「君、これに触れてみてください」
指名されたランツが光の玉に触れる。
「この魔力と似た魔力を自分の中に探してください」
ランツは火属性が得意で、次に風属性がすこし使える。
しかし、火属性の魔法を使う時のランツから、私は光属性の気配を感じていたのだ。
だから、もしかすると、本人が気づいていないだけで、光属性にも適性があるのではないかと思ったのだ。
しばらくすると、目を瞑って集中していたランツが光の玉から手を離して、自分の胸に手を当てた。
ランツはしばし自分の中の感覚を探っているようだった。
そして、「実は」と口を開いた。
「火魔法を使う時に、火属性の魔力と一緒に出てくる別の魔力があるような感じがしていたのです。ただ、すごく微量だったので、使うことができない属性だと思っていたのですが……今は、風属性の魔力よりも、こちらの魔力の方が強く感じます」
魔塔主の指導によって、ランツは短時間で自分の中の光属性の魔力を引き出せるようになった。
ザハールハイドの闇属性の魔力と、ランツの光属性の魔力、そして他の生徒たちが持つそれぞれの魔力が混ぜ合わさり、ザハールハイドとランツが参加しなかった前々日の実験よりも大きくてしっかりとしたダンジョンを作ることができた。
「まぁ、ここまでできればひとまずは成功で、これ以上の実験は必要ないでしょう」
出来上がった氷のダンジョンを見上げて、魔塔主が言った。
ラズリははしゃいだ様子で私の手を掴むとぶんぶんと上下に振る。
「リヒト君のおかげでものすごく研究が進んだよ! 僕はこれから論文を書くね」
「そうですか。お疲れ様でした」
「でも」とラズリは私を見下ろした。
「実験に付き合わせておいてなんだけど、リヒト君はこれをどうするの? ここだとおそらくダンジョンがあったところで魔物はドラゴンの魔力で寄ってこないと思うよ?」
「魔物が棲みつかなければ冒険者は来ませんから、経済効果は期待できませんね」
私は魔塔主とラズリに考えが甘いと微笑んだ。
「魔物を棲みつかせる予定ならば、ヴェアトブラウの側には最初から作りませんでしたよ」
「では、これはどうするのですか?」
「観光名所にします」
二人とも意味がわからないという様子で首を傾げた。
「ヴェアトブラウの花畑も美しいですが、子供たちや一部の人々には退屈でしょう。ヴェアトブラウを見たいご夫人も子供や旦那さんが退屈だと感じるようであれば見に行きたいとは言い出しにくいかもしれませんし、家族で何度も来ようとはならないでしょう」
「だから、ヴェアトブラウでは物足りない子供や大人向けに安全なダンジョンですか……」
「はい。冒険者には荒くれ者も多いですから、エトワール王国に来る者は療養目的の者たちだけで充分です」
これからダンジョンにいる魔物に挑もうと興奮しているような者たちは必要ない。
「名所が増えたことですし、管理の仕方を考えないといけないですね」
私は出来上がったばかりの美しい氷のダンジョンを見上げて微笑んだ。
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