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魔法学園編

179 罪深き公爵 03

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「これから王都に戻りますよ! 魔塔主が転移させてくれるので大丈夫だと思いますが、万が一転移できないということがあると困るので、皆さん規律よく並んで、隣の人をきちんと確認してください! 王城についたらまた確認してもらいますからね!」

 私の言葉に魔塔主が小首を傾げた。

「私が彼らを転移させるのですか? リヒト様が行えば良いと思うのですが?」
「私はまだこのような大人数を転移させる実力はありません!」

「私は」と牢の中へ視線を向けた。

「失敗しても問題なさそうな人たちを連れていきます」

「なるほど」と魔塔主も頷いた。

「騎士団長、私は彼らを城の地下室へと連れていきますから、騎士団長たちは魔塔主と一緒に騎士の訓練場へと転移してください。転移後には漏れている者がいないかお互いにしっかり確認してください」
「わかりました。公爵の屋敷に残っている者たちへの対処はどういたしましょうか?」
「地下牢には公爵の私兵も捕らえられているようですが、ここにいない者はどうしているのですか?」
「メイドたちや騎士ではない使用人たちは広間に集めて見張りを立てていますし、公爵夫人や妾、その子供は公爵夫人の部屋に集めてこちらも見張りを立てています」
「では、公爵たちを王城の地下牢へ入れた後に王宮近衛騎士団ではない一般の王宮騎士団数名と文官数名を父上から借りてこちらに戻ってきましょう」

 騎士団長との話を終えて、私は床に転がったまま寝ているラズリへ視線を向ける。

「魔塔主、ラズリさんを起こすことはできないのですか?」

「そうですね」と魔塔主はすこしだけ考える素振りを見せた。

「この屋敷が半壊するくらいの衝撃を与えれば起きるかもしれません」

 私はラズリを起こすことは諦めた。



 魔塔主に他の王宮近衛騎士団たちの転移を任せて、牢の中のグレデン公爵と子息に意識を集中して彼らに触れることなく、王城の地下牢へと転移した。
 念の為、グレデン卿の手は握ったままだ。

 グレデン公爵と子息は牢屋の中へ。
 そして、私とグレデン卿は牢の外側への転移だ。

 グレデン公爵や子息の体の一部が欠損するということはなく転移に成功したものの、私は自分が計算ミスをしていたことがわかった。
 計算を失敗したということではなく、考慮すべきことを考慮していなかったというミスだ。

 地下牢にはそれほど多くはないが囚人がいる。
 頭脳犯もいれば、荒くれ者もいる。
 相性が良すぎて仲間になりそうな者を一緒に牢に入れるわけにはいかないし、相性が悪くて揉め事ばかり起こしそうな者たちを一緒に牢に入れるわけにもいかないだろう。

 そして、そうした者たちと貴族を一緒に入れるのもまずい。
 政治犯など、自分たちは屋敷にいて、実行犯は他者に任せる者たちばかりだ。
 貴族、平民、犯罪者の地位としてのヒエラルキーなんてわかりきっているが、そのヒエラルキーが通用するのは一般的な社会においてだ。
 地下牢でそれが通用するはずがない。

 それにも関わらず、私は公爵たちの転移先を地下牢の檻の中と考えていただけで、空いている檻とかそういうことを考えていなかった……

「なんだお前?」

 牢の中にいた屈強な男は突然現れたいい身なりをした腹の出た男と、同じくいい身なりをしたひょろひょろの男を見て、その眼光を鋭くした。
 自分の牢の中に入ってきた男二人を邪魔だと思ったのか、とりあえず殴って、部屋の隅へとやった。

 痛みで目が覚めたらしいグレデン公爵と子息は、目の前の屈強な男に青ざめている。

 グレデン公爵たちが壁に打ち付けられる音で「喧嘩か!?」と見張りの騎士がどこからともなく走ってきた。
 そして、私の姿に驚き、固まった。

「お、王子がなぜこのようなところに!?」
「謀反を起こした公爵を連れてきた」

 そうすぐに返答を返したのはグレデン卿だ。

「私たちはすぐに戻らねばならない。見張りを頼む」

 グレデン卿の言葉に私は慌てる。

「グレデン卿、公爵たちを空いている牢に入れなければいけないですよね? どこに入れたらいいのか教えてもらえれば、そちらに転移させます」

 そう申し出たが、グレデン卿は「別段必要ないでしょう」と言った。

「しかし、殴られすぎて証言ができないと困るのですが……」

 私の言葉にグレデン卿はしばし自分の父親と兄を見つめ、それから見張りの兵士に空いている牢を確認した。
 私はその牢にグレデン公爵と子息を転移させた。

 見張りの兵士にグレデン卿は指示があるまで水も食事も不要だと伝えた。
 私は特にそれを否定することもせずに報告と文官を借りるために父王の執務室へと向かった。

 父王の執務室に転移すると、ソファーにはランツがいた。
 ランツは突然現れた私の姿に驚いたようだったけれど、彼が何かを言う前に私は彼に鋭い視線を向けた。

「ランツ様、後でお話があります」

 ランツの姿勢が自然と正され、「はい!」と勢いのいい返事が返ってきた。
 その姿は王子というよりも騎士だった。
 武力に長けたベルヴォーク王国の王子だからだろうか?

 私はランツの向かいのソファーに座っていた父上と母上に報告をする。
 グレデン公爵とその跡取りである長男を捕らえて地下牢に入れたこと、公爵の屋敷に使用人たちを残しているため王宮騎士団を連れて戻る旨を説明した。

「公爵の屋敷内の資料なども確認するため、文官を貸していただけますか?」

 父王はすぐに許可を出してくれたため、私は騎士団長を迎えに行くために訓練場へと転移した。




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