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魔法学園編
173 中毒 01(ザハールハイド視点)
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クランディアは帝国の中でも研究者を多く輩出し、知性の国と呼ばれるほどに頭脳明晰な者が多かった。
それは王侯貴族だけでなく、国民も学ぶことが好きで、識字率は99%だ。
そんな国の三番目の王子として生まれた私は幼少期から多くの講師をつけられ、学問に親しんできた。
第一王女である姉は社交と語学の学びを深めつつ、本人の才能もあって薬学の研究者となった。
第一王子の兄は国を継ぐために徹底して帝王学を教えられ、今は父の補佐をしている。
第二王女の姉は第一王女の姉よりも語学に優れた才を発揮して外交面で父王を支えている。
第二王子の兄は数学が好きで、それを国の役に立たせたいと経済学の学びを深めている。
第三王女の姉は旅と魔法が好きで……好きにやっている。
そして、第三王子の私はというと、得意な学問も好きな分野もない秀でたものが一つもない出涸らし王子と呼ばれていた。
そんな私でも両親に褒めてもらいたくて、一生懸命に学問に取り組んできたが、両親の視線が私に向き、その手が私の頭を撫でてくれることはなかった。
それでも、いつかは、もしかすると、そんな期待を胸に学び続けていたら、父王が珍しく私を執務室に呼んだ。
「オーロ皇帝がエトワール王国に魔法学園を作るそうだ。そなた、そこに入学して、エトワール王国とそこに入学してくる王侯貴族から他国の内情を探ってこい」
久しぶりの会話はそんな命令だった。
「魔法学園ならば、姉上の方が……」
学園の入学は12歳からだったが、初年度だけは16歳の年齢までなら入学申請を受け付けるということだった。
それならば、一歳年上の姉上でも入学できると思ったのだが、父は首を横に振った。
「あれは魔法の才はあれど、破天荒すぎて問題を起こす可能性もある。オーロ皇帝の作った学園で問題など起こせば我が国の欠点となりかねん。それに、あれには他国の内情を探るような器用な真似はできんだろう」
それは、つまり、姉上よりも私に期待してくださっているということだろうか?
私は胸が熱くなった。
「ああ。もちろん、首席で入学し、卒業まで成績一位を維持することを期待している」
「はい!」と私は勢いよく返事をした。
私は他国の王侯貴族と何度か会ったことがあるが、彼らが自分よりも知識面で劣っていると何度も感じたことがあるため、その点は全く心配していなかった。
魔法だって、第一王女である姉上と第三王女である姉上二人には劣っているものの、他の兄弟よりは得意だ。
あの二人が別格なだけなのだから、他国の王侯貴族と比べたら私は確実に優れているはずだと思っていた。
しかし、実際には、私は首席で入学することができないだけでなく、次席でさえもなかった。
試験後に知ったことだが、エトワール王国の王子は魔塔主のお気に入りだという。
それならば負けても仕方ないのかもしれないが、その従者にさえも負けたのは納得ができなかった。
しかも、実技だけでなく、座学までその二人に負けている上に、座学に関してはさらに滅亡したティニ公国の者にまで負けていた。
その事実に私は強い衝撃を受けたし、両親と兄弟からは冷たい視線を浴びせられることとなった。
私はそんな彼らの冷たい視線から逃げるように魔法学園へ向かったのだ。
そして、エトワール王国の王子や従者の弱点を探したり、他国の者と交流してその国の内情を知ろうと躍起になった。
何か少しでも成果を上げなければ、両親と兄弟と合わせる顔がなかったからだ。
だが、私は自身の弱点を知ることになった。
幼少期からひたすらに机に向かってきたため、本を読んだり授業を受けることは楽しかったのだが、他者とどのように交流したらいいのかわからなかった。
皆が自然にしている日常会話が私にはできなかったのだ。
自国では王子である私に皆が気を遣って話してくれていたが、魔法学園にいるのは他国の王侯貴族であり、さらに学園のルールで皆が平等であると定められていた。
そのような環境では自ら他者に歩み寄る必要があるにもかかわらず、私はそれが非常に不得手だったのだ。
私が自身の弱点に気づき、どのように他者と接していいのか戸惑っている間にも他の者たちは友達となり、グループとなり、どんどん声がかけづらい状況になり……
気づけば、私は毎日一人で机に向かっていた。
そんな私に声をかけてくれたのがエトワール王国の王子であるリヒト様だった。
「そのノート、よく要点がまとめられているし、魔法陣や図もわかりやすくきれいに書かれていますね。そのまま教科書にできそうです」
私はその時、ひどい劣等感を感じたことを覚えている。
「嫌味ですか?」
思わずそう睨んでしまった私にリヒト様は少し驚いたようだったが、すぐに優しく微笑んで「いいえ」と柔らかな声で私の言葉を否定した。
「私はザハールハイド様の才能に感動しただけです」
「この程度のこと、誰だってできます」
「そうでしょうか? 少なくとも私にはできません」
リヒト様はにこりと微笑み、私の頭をぽんぽんっと撫でた。
「このノートからはあなたの努力が伺えます。もし、お許しいただけるなら、今度じっくり見てみたいです」
そう言って、リヒト様はチャイムの音に合わせて自席についた。
私の頬が熱いことにも、他の生徒たちの頬が染まって憧れの眼差しで見られていることにもきっと気づいてない。
同い年の少年に褒められても嫌味に感じるだけだと思っていたのに、私の頭を撫でてくれたリヒト様の手はやけに大きく感じて、その眼差しは同い年の少年のものだとはとても思えなかった。
リヒト王子は私たちよりもずっと年上の大人のようだった。
私はリヒト様にもっと褒めてもらいたくて、次の休み時間にはリヒト様にノートを見てもらった。
リヒト様はノートを1ページ、1ページ、丁寧にめくり、要点のまとめ方を褒め、文字を褒め、図を褒め、私のこれくらいできて当たり前という思い込みを壊していった。
「本当によく書けていますね。すごいです!」
そんな単純な褒め言葉と優しい眼差しに、私の心は満たされたのだ。
それは王侯貴族だけでなく、国民も学ぶことが好きで、識字率は99%だ。
そんな国の三番目の王子として生まれた私は幼少期から多くの講師をつけられ、学問に親しんできた。
第一王女である姉は社交と語学の学びを深めつつ、本人の才能もあって薬学の研究者となった。
第一王子の兄は国を継ぐために徹底して帝王学を教えられ、今は父の補佐をしている。
第二王女の姉は第一王女の姉よりも語学に優れた才を発揮して外交面で父王を支えている。
第二王子の兄は数学が好きで、それを国の役に立たせたいと経済学の学びを深めている。
第三王女の姉は旅と魔法が好きで……好きにやっている。
そして、第三王子の私はというと、得意な学問も好きな分野もない秀でたものが一つもない出涸らし王子と呼ばれていた。
そんな私でも両親に褒めてもらいたくて、一生懸命に学問に取り組んできたが、両親の視線が私に向き、その手が私の頭を撫でてくれることはなかった。
それでも、いつかは、もしかすると、そんな期待を胸に学び続けていたら、父王が珍しく私を執務室に呼んだ。
「オーロ皇帝がエトワール王国に魔法学園を作るそうだ。そなた、そこに入学して、エトワール王国とそこに入学してくる王侯貴族から他国の内情を探ってこい」
久しぶりの会話はそんな命令だった。
「魔法学園ならば、姉上の方が……」
学園の入学は12歳からだったが、初年度だけは16歳の年齢までなら入学申請を受け付けるということだった。
それならば、一歳年上の姉上でも入学できると思ったのだが、父は首を横に振った。
「あれは魔法の才はあれど、破天荒すぎて問題を起こす可能性もある。オーロ皇帝の作った学園で問題など起こせば我が国の欠点となりかねん。それに、あれには他国の内情を探るような器用な真似はできんだろう」
それは、つまり、姉上よりも私に期待してくださっているということだろうか?
私は胸が熱くなった。
「ああ。もちろん、首席で入学し、卒業まで成績一位を維持することを期待している」
「はい!」と私は勢いよく返事をした。
私は他国の王侯貴族と何度か会ったことがあるが、彼らが自分よりも知識面で劣っていると何度も感じたことがあるため、その点は全く心配していなかった。
魔法だって、第一王女である姉上と第三王女である姉上二人には劣っているものの、他の兄弟よりは得意だ。
あの二人が別格なだけなのだから、他国の王侯貴族と比べたら私は確実に優れているはずだと思っていた。
しかし、実際には、私は首席で入学することができないだけでなく、次席でさえもなかった。
試験後に知ったことだが、エトワール王国の王子は魔塔主のお気に入りだという。
それならば負けても仕方ないのかもしれないが、その従者にさえも負けたのは納得ができなかった。
しかも、実技だけでなく、座学までその二人に負けている上に、座学に関してはさらに滅亡したティニ公国の者にまで負けていた。
その事実に私は強い衝撃を受けたし、両親と兄弟からは冷たい視線を浴びせられることとなった。
私はそんな彼らの冷たい視線から逃げるように魔法学園へ向かったのだ。
そして、エトワール王国の王子や従者の弱点を探したり、他国の者と交流してその国の内情を知ろうと躍起になった。
何か少しでも成果を上げなければ、両親と兄弟と合わせる顔がなかったからだ。
だが、私は自身の弱点を知ることになった。
幼少期からひたすらに机に向かってきたため、本を読んだり授業を受けることは楽しかったのだが、他者とどのように交流したらいいのかわからなかった。
皆が自然にしている日常会話が私にはできなかったのだ。
自国では王子である私に皆が気を遣って話してくれていたが、魔法学園にいるのは他国の王侯貴族であり、さらに学園のルールで皆が平等であると定められていた。
そのような環境では自ら他者に歩み寄る必要があるにもかかわらず、私はそれが非常に不得手だったのだ。
私が自身の弱点に気づき、どのように他者と接していいのか戸惑っている間にも他の者たちは友達となり、グループとなり、どんどん声がかけづらい状況になり……
気づけば、私は毎日一人で机に向かっていた。
そんな私に声をかけてくれたのがエトワール王国の王子であるリヒト様だった。
「そのノート、よく要点がまとめられているし、魔法陣や図もわかりやすくきれいに書かれていますね。そのまま教科書にできそうです」
私はその時、ひどい劣等感を感じたことを覚えている。
「嫌味ですか?」
思わずそう睨んでしまった私にリヒト様は少し驚いたようだったが、すぐに優しく微笑んで「いいえ」と柔らかな声で私の言葉を否定した。
「私はザハールハイド様の才能に感動しただけです」
「この程度のこと、誰だってできます」
「そうでしょうか? 少なくとも私にはできません」
リヒト様はにこりと微笑み、私の頭をぽんぽんっと撫でた。
「このノートからはあなたの努力が伺えます。もし、お許しいただけるなら、今度じっくり見てみたいです」
そう言って、リヒト様はチャイムの音に合わせて自席についた。
私の頬が熱いことにも、他の生徒たちの頬が染まって憧れの眼差しで見られていることにもきっと気づいてない。
同い年の少年に褒められても嫌味に感じるだけだと思っていたのに、私の頭を撫でてくれたリヒト様の手はやけに大きく感じて、その眼差しは同い年の少年のものだとはとても思えなかった。
リヒト王子は私たちよりもずっと年上の大人のようだった。
私はリヒト様にもっと褒めてもらいたくて、次の休み時間にはリヒト様にノートを見てもらった。
リヒト様はノートを1ページ、1ページ、丁寧にめくり、要点のまとめ方を褒め、文字を褒め、図を褒め、私のこれくらいできて当たり前という思い込みを壊していった。
「本当によく書けていますね。すごいです!」
そんな単純な褒め言葉と優しい眼差しに、私の心は満たされたのだ。
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