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魔法学園編

172 来訪者 02

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「それでは、夕食まで休んでください。疲れたでしょうから」

 私はメイドに整えておいた客室にイェレナを案内するようにお願いしたのだが、イェレナが「もう少しお時間をいただけませんか?」と言った。

 私はメイドにお茶を淹れ直してもらう。
 お茶が入り、カルロとヘンリック以外の人間を外に出すと王女と向き合う。

「それで、どうされたのですか?」
「イーコスの守り神の件なのですが」

 やはり、その話かと私は頷いた。

「兄がイーコスの守り神に取り憑かれたようになったため、王太子の権利を剥奪され、廃嫡となりました」
「……どういう意味ですか?」

 ナタリアがモラガル王国の王太子の足を凍らせた以降のことは聞いていなかった。

「まだ、うわ言のようにイーコスの守り神を手中に収めるなどと繰り返し……強大な力を持つイーコスの守り神に執着する兄の姿に不安を抱いた貴族たちから廃嫡にするべきだという声が上がり、それに賛同する貴族たちが大半となったため、父も貴族たちの声を無視するわけにいかなくなったのです」
「それはなんというか……申し訳ありま「リヒト様のせいではないです!」」

 カルロが私の謝罪の言葉を遮った。
 イェレナもカルロに賛同するように頷いた。

「カルロ様のおっしゃる通りです。リヒト様のせいではございません」
「しかし……」

 私はイーコスたちを守ろうとは思ったが、王太子を狂人にするつもりはなかったのだ。
 イェレナは言葉を続けた。

「わたくしがお知らせしたかったのは兄のことではなく、騎士団長のことなのです」
「騎士団長?」
「他の騎士たちが噂をしていたのをメイドが聞いて、わたくしに教えてくれたのですが、騎士団長が絵師に頼んで、イーコスの守り神の姿絵を描かせたそうなのです」

 イーコスの守り神の姿絵……なぜ、そんなものを?
 もしかして、モラガル王国の騎士団長も密かにイーコス好きだったのか?
 だから、イーコスの守り神を信仰するつもりなのだろうか?

 イェレナが真剣な眼差しを私に向けてくる。

「もしかすると、イーコスの守り神様はわたくしの兄以外の心も奪ってしまっているのかもしれませんので、お気をつけてくださいまし」

 気をつけようがないような気もしたが、とりあえず、私は頷いておいた。



「明日は他のお友達も来られるのよね? とても楽しみだわ」

 母上は本当に機嫌よく笑い、イェレナの手前威厳を保って静かにしている父上もどことなくウキウキソワソワしているようだった。

「リヒト様のご両親がわたくしたちのわがままを聞き入れてくださって、本当に感謝しております」
「みんな、リヒトの友人なのだから当たり前です」

 そんな会話を私は悠長に聞いていたのだが、翌日、続々と到着する他国の馬車に驚いた。

 それぞれの国の紋章がついた馬車がずらりと並ぶ。
 その紋章の数、12カ国……クラスメイトは30名だが、我が国のように一つの国で複数名通っている国もあり、国で考えるとその数12。

 その馬車から降りた総数24名、私とカルロ、ライオス、そして、転移魔法で到着したナタリアと、ナタリア一緒に来た女子生徒2名を除いた人数だ。

「皆さん、何しているのですか……」
「イェレナ様がエトワール王国に数日間滞在すると聞いたので、抜け駆けを許すことができないと我々も参加したのです」

 抜け駆けとはなんだろうか……

 賑やかなイベントのようなノリが好きではない面々まで来ている。
 彼らに視線を向けると、それぞれ作り笑いを浮かべたり、視線を逸らしたりして建前を述べる。

「私はエトワール王国の農業に興味があったので、この機会を逃すわけにはいかないと」
「僕は魔塔の森に生えるという貴重な薬草や魔物たちを見てみたくて……」
「私はヴェアトブラウに興味がありまして……」

「なるほど」と私は頷いた。

「皆、それぞれに興味があることがあったということですね」

「「「その通りです!!」」」と勢いの良い返事が返ってきた。

 彼らが来ることはすでに両親は許可していたようだし、すでに客間も食事も準備されているだろう。

 私が魔塔主に頼んだらきっと簡単に彼らを国に送り届けてくれるだろうが、それでは彼らを歓迎している両親の気持ちを蔑ろにしていることになるし、客間を用意してくれた使用人たち、食事を作ってくれた料理人たちの働きを無碍にすることになってしまう。

 私は仕方なく、彼らを受け入れることにした。

「あの、リヒト様、論文を書いたのでお読みいただきたいのですが」

 そう声をかけてきたのはクランディアの第三王子だ。
 彼は非常に勤勉で、座学でも実技でも努力を重ねて上位の成績で、私とカルロ、ナタリアに続いて四位の成績だ。

 コミュニケーションは不得意なようで、入学したばかりの頃は教室でも勉強ばかりして他の生徒たちと関わりを持とうとはしなかった。
 ライオスも似たような状態だったため、この二人は友達になれるのではないかと気になって見ていると、彼のノートの美しさに気づいた。

 文字が美しいだけでなく、授業の内容をわかりやすく、要点を押さえてノートに記していた。
 魔法陣も非常に美しく描かれており、私は感動のあまり声をかけてしまったのだ。
 それからというもの、彼は論文などを書き上げると私に見せてくれるようになった。
 そして、褒めて欲しそうに見つめてくるようになり、その姿がまるで従順なわんこのようだったので、しっかりと褒めてあげるようにしている。

「よく頑張りましたね。これは後でじっくりと読ませてもらいますね」

 微笑んでそう伝えれば、その頬を染めて彼は嬉しそうな表情を見せた。
 私は彼の顔を見ながら考える。

 エトワール王国よりも広大な領土を持ち、国力の高い国家の王子を自国に引き入れるにはどうしたらいいのだろうか?

 彼は非常に優秀なため、きっと第一補佐官という役職を与えてもきちんとこなしてくれると思う。





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