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はぴねこ

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魔法学園編

166 忠告 02

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 ジムニを退室させたがったのは情報ギルドも関わっていたからだったようだ。

「だから、気をつけた方がいいということですか?」

 私がそう聞けば、飽き人くんは首を縦に振った。

「はい。リヒト様が守り育てたため、カルロ様の状況はゲームとは違うというのはわかっています。それでも、カルロ様は魔王です。子供の頃から魔王としての意識があったのならおそらくドレック・ルーヴに襲われたりはしなかったでしょうから、ゲームの続編である魔法学園の高学年の頃に魔王として覚醒するのだと思います」

 私はそうだろうか? と疑問を持ったが、それをここで論じたところで意味はないだろう。
 だから私はとりあえず頷いた。

「わかりました。忠告として心に留めておきます」

 ドレック・ルーヴが帰った後、魔塔主が神妙な表情をしていた。
「どうしましたか?」と聞けば、その眼差しをこちらに向けた。

「リヒト様、確か、あの者とは魔導具のようなもので文章でのやり取りをしており、お互いの本来の姿は知らないと言っていましたよね?」
「はい」
「では、どうして、あなたが死んだ時期を知っているのでしょうか?」
「あ……」

 私はドレック・ルーヴが去った扉をじっと見つめた。

「リヒト様」

 ずいっと魔塔主の顔が近づき、私は思わずすこし体を後ろに逃した。

「前世の知り合いは貴重な存在だとは思いますが、油断しませんように」

 私が頷くと、「それから」と魔塔主は言葉を続けた。

「従者君は魔王にはなりませんよ」

 そう断言する魔塔主に、そうかと私は納得する。
 魔塔主は長い年月を生きてきたのだ。
 その長い人生の中で魔王に会っていても不思議ではない。

「それは、これまでの経験からですか?」

 私の問いかけに魔塔主は笑った。

「そうです。魔王とは精神体で物体的な実体を持ちません」
「精霊のような存在ということですね」

 変質し、劣化してしまった魔素の修復のためにダンジョンを作る精霊には触れることのできる体はない。
 魔王もまた、そうした物体としての肉体を持たない存在だという。

「そうですね。でも、精霊とは違い自我はありますし、波長のあった魔法使いに憑依して肉体を持つことができるのです」
「魔王という名前からして、波長が合う者も限られそうですね」
「はい。欲深い者であったり、執着深い者だったり、恨みを持っている者だったり……負の感情が強い者です」
「それなら、今のカルロは心配なさそうですね」

 今のカルロはゲームでのカルロとは全く違う運命を歩いているし、万が一、あの美しさに惹かれた者が無体を働こうとしても、おそらくカルロの方が強いだろう。

「まぁ、リヒト様次第とも言えますけどね」
「私の存在など関係なく、カルロはいい子ですよ」

「本当にそう思っていますか?」という魔塔主に私は微笑んだ。

「私はそう信じています」

 ドレック・ルーヴが帰ったことがわかったようで、ジムニが部屋に戻ってきた。

 ジムニに施設の子供たちの様子や街の様子を尋ねると、テオが他の子供たちや街の人たちに積極的に魔法を教えてくれていると言う。

「テオにはお給料をあげてください」
「俺もそれは提案したけど、本人がリヒト様への恩返しだからと受け取らないんです」
「私への恩返しならば受け取るようにと伝えてください。カルロが言う通りにテオは宮廷魔導士になれるかもしれませんし、その時に給与はいらないとか言えませんよ? 今からお金の使い方もきちんと覚えてもらわないと」

 ジムニはテオに時間給で計算して適切な給与を払うことを約束してくれたが、私のお小遣いからテオへの給与を出すことは断られてしまった。
 今や貧民街は貧民街ではなく、そこを管理している情報ギルドには潤沢な資金があるそうだ。
 テオがやっていることはこの街のためなので、情報ギルドの資金から給与を出してくれると言っていた。



 思いがけない前世のゲームでのカルロの未来を聞いて、なんだか疲れた私は城の自室へと戻った。
 すると、ちょうどカルロがベッドメイキングをしているところだった。

「カルロ、そういったことはメイドに任せてもいいのに……」

 私の生活面の補助はメイドの仕事だ。
 子供の頃には私と一緒に勉強をし、第一補佐官の元でも学んだカルロはこれからは実務的な面での補助を頼む予定だし、これまでも実際に手伝ってくれている。

「本当はリヒト様に関わることならば全て行いたいのですが、短い時間がそれを許してはくれないので、せめてお休みになられるところの準備だけでもと思ってやっていることです」

 飽き人くんはカルロはラスボスの魔王になるのだと言っていたが、この可愛いカルロがそんなふうになるとは到底思えない。

「ちなみに、私ができない時にはヴィント侯爵がベッドメイクをしていますよ」

 きれいにベッドを整えながらカルロは笑った。




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