167 / 169
魔法学園編
165 忠告 01
しおりを挟むジムニからドレック・ルーヴが面会を求めていると聞いた私は情報ギルドへと向かった。
「リヒト様が魔法学園を作ってくれたおかげで他国の王侯貴族にもカードゲームやボードゲームが売れるようになりました」
ドレック・ルーヴが機嫌よく報告する。
「魔法学園とカードゲームが売れることに関連性があるのですか?」
「エトワール王国以外ではカードゲームもボードゲームも王侯貴族には売れなかったのです。そのため、材質を落とし、デザイン性をなくし、価格を下げて商家の子供など平民でも生活に余裕のある家に売っていました」
なぜ王侯貴族には売れなかったのかと言えば、王侯貴族の屋敷に出入りしている大商人がエトワールを帝国傘下に入ったばかりの小国だとバカにしてドレック・ルーヴの商会を取り合わなかったせいだという。
「しかし、リヒト様が魔法学園を作って、エトワール王国のリヒト様が魔塔主やオーロ皇帝のお気に入りだと知れ渡ると、リヒト様が後ろ盾をしている私の商会にも注目が集まりました! 魔法学園に子女が通っている国の王侯貴族はもちろんのこと、魔法学園に子女が通っていない国の王侯貴族からもお呼びがかかるようになったのです!」
「しかも」とドレック・ルーヴの口角がニィッと上がる。
「私の商会をバカにしていた大商人はお叱りを受けたそうですよ」
最後の話を実に楽しそうにするあたり、ドレック・ルーヴの性格の悪さが窺える。
つまり、それは、ドレック・ルーヴの中の人、飽き人くんの性格が悪いということになるのだが……
前世で仲良くしてくれた数少ないSNS仲間を悪く思うのはなんだか気が引けたが、SNSでは見えなかった彼の素の部分もあるのだろうから、私は王子として彼との接し方には十分に注意することにする。
「それで、商会が繁盛しているというのが本日の報告ですか?」
私の言葉に「それもあるのですが……」と、ドレック・ルーヴは同席しているジムニと魔塔主を見た。
「この二人はすでに私が異世界での前世の記憶があることを知っているので、異世界の話をしても大丈夫です」
そう話を促しても、ドレック・ルーヴはこの場で話してもいいのか迷っているようだった。
「リヒト様の推しのカルロ様の話です」
カルロの話は他の者に知られない方がいいと考えているのだろう。
ゲームのカルロと現在のカルロは置かれている状況も性格も全然違うため、確かに飽き人くんの話で印象が変わってしまうのはカルロにとって良くないかもしれない。
私はしばし考えて、ジムニに席を外してもらうことにした。
「まぁ、商売の話ではなさそうだから俺が席を外すのはいいですけど……そいつに何を言われても魔塔主だけは同席させてください。わかりましたね?」
心配性のジムニに私はわかったと約束をする。
ジムニが退室してから私はドレック・ルーヴ……飽き人君に向き直った。
「それで、カルロの話というのは?」
「リヒト様は、前世で『星鏡のレイラ』の二作目はプレイしていないですよね?」
「二作目が出たのですか?」
「はい。前世でリヒト様が亡くなった後に」
飽き人くんは前世の呼び名を使わないでほしいという私の希望を守ってくれている。
それに、言葉も飽き人くんの時よりも丁寧だ。
体裁を保ってくれているのだろう。
「そうなんですね……」
二作目では、カルロは幸せになれたのだろうか?
そう思った時、ドレック・ルーヴから衝撃的な言葉が告げられた。
「その二作目のラスボスである魔王が、カルロ様なんです」
「……え?」
私はあまりの驚きにドレック・ルーヴを凝視する。
カルロの親戚だとは思えないほど似ていないが、それでもかなり整った部類の顔だろう……まぁ、悪役とは言えど、乙女ゲームにブサイクを登場させるわけにはいかなかったのかもしれない。
「えっと……カルロが魔王というのは、どういうことですか? そもそもラスボスってなんですか?」
『星鏡のレイラ』は女性向け恋愛シュミレーションゲームであって、RPGとかではない。
一作目にはラスボスなんていなかったし、ラスボスなんていう存在を必要としないゲームのはずだ。
「一作目は一番好感度の高かった攻略対象とヒロインが恋人になりますよね」
私は頷いた。
一作目では攻略対象の好感度を上げて、特定の攻略対象のルートに入ってからは好感度を上げることと、選択肢を間違えないことが求められる。
元々ヒロインの婚約者であるリヒトの選択肢は何を選んでもほぼ正解で、どう見てもこれはアウトだろうという選択肢さえ選ばなければ簡単に攻略できて政略的な婚約者以上の存在になれる。
逆に、一番難しいのがカルロで、ルートに入っただけではなかなか攻略できず、無数にある選択肢の中からたった一つしか正解がないのではないかと思うほどに攻略が難しかった。
しかし、どの攻略対象を攻略して恋人になっても、一作目ではタイトルになっている『星鏡のレイラ』という神獣を見つけることはできなかった。
魔塔主とオーロ皇帝の話を信じるなら、星鏡というのは運命を知る異世界から来た者であり、レイラというのは前の星鏡の名前ということなので、実際にはこの世界には神獣はいないのかもしれない。
ドレック・ルーヴに憑依している飽き人くんによると、続編の二作目では、ヒロインは一作目で恋人になった攻略対象との絆を深めながら『星鏡のレイラ』を探すそうだ。
しかし、そこに邪魔が入る。
「その邪魔をしてくるのが魔王のカルロ様と情報ギルドなのです」
328
お気に入りに追加
2,861
あなたにおすすめの小説
【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。
キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成)
エロなし。騎士×妖精
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。
木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。
色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。
ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。
捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。
彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。
少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──?
いいねありがとうございます!励みになります。
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
天使の声と魔女の呪い
狼蝶
BL
長年王家を支えてきたホワイトローズ公爵家の三男、リリー=ホワイトローズは社交界で“氷のプリンセス”と呼ばれており、悪役令息的存在とされていた。それは誰が相手でも口を開かず冷たい視線を向けるだけで、側にはいつも二人の兄が護るように寄り添っていることから付けられた名だった。
ある日、ホワイトローズ家とライバル関係にあるブロッサム家の令嬢、フラウリーゼ=ブロッサムに心寄せる青年、アランがリリーに対し苛立ちながら学園内を歩いていると、偶然リリーが喋る場に遭遇してしまう。
『も、もぉやら・・・・・・』
『っ!!?』
果たして、リリーが隠していた彼の秘密とは――!?
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします。……やっぱり狙われちゃう感じ?
み馬
BL
※ 完結しました。お読みくださった方々、誠にありがとうございました!
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、とある加護を受けた8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 独自設定、造語、下ネタあり。出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
【完結】僕の異世界転生先は卵で生まれて捨てられた竜でした
エウラ
BL
どうしてこうなったのか。
僕は今、卵の中。ここに生まれる前の記憶がある。
なんとなく異世界転生したんだと思うけど、捨てられたっぽい?
孵る前に死んじゃうよ!と思ったら誰かに助けられたみたい。
僕、頑張って大きくなって恩返しするからね!
天然記念物的な竜に転生した僕が、助けて育ててくれたエルフなお兄さんと旅をしながらのんびり過ごす話になる予定。
突発的に書き出したので先は分かりませんが短い予定です。
不定期投稿です。
本編完結で、番外編を更新予定です。不定期です。
【完結】父を探して異世界転生したら男なのに歌姫になってしまったっぽい
おだししょうゆ
BL
超人気芸能人として活躍していた男主人公が、痴情のもつれで、女性に刺され、死んでしまう。
生前の行いから、地獄行き確定と思われたが、閻魔様の気まぐれで、異世界転生することになる。
地獄行き回避の条件は、同じ世界に転生した父親を探し出し、罪を償うことだった。
転生した主人公は、仲間の助けを得ながら、父を探して旅をし、成長していく。
※含まれる要素
異世界転生、男主人公、ファンタジー、ブロマンス、BL的な表現、恋愛
※小説家になろうに重複投稿しています
ハッピーエンドのために妹に代わって惚れ薬を飲んだ悪役兄の101回目
カギカッコ「」
BL
ヤられて不幸になる妹のハッピーエンドのため、リバース転生し続けている兄は我が身を犠牲にする。妹が飲むはずだった惚れ薬を代わりに飲んで。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる