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魔法学園編
164 戦争勃発!? 03
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そんなことを考えているとドタバタと階段を駆け上がってくる複数の足音が聞こえた。
魔塔主が来たことは魔力探知でわかるはずだが、彼らが待っている魔塔主はもうここにはいない。
引き止める間もなく、おそらく魔塔に戻ってしまったのだ。
私しか残っていないことにがっかりするだろうと思っていると、屋上に上がってきた首長代理や役職持ちのエルフたちは一斉に叫んだ。
「リヒト様~! ようこそお越しくださいました!!!」
「きっとリヒト様ならば来てくださると我々一同お待ちしておりました!」
彼らから歓迎の言葉が次々と投げかけられる。
「あ、あの、魔塔主は早々に戻ってしまったのですが……」
誰一人として魔塔主がいないことを気にしてはいないようだったが、一応、私は報告してみた。
「ローゼンクロイツ様は面倒なことがお嫌いな方なのです!」
「ですから、まさかリヒト様を連れてきてくださるとは思ってもおりませんでした!」
この場に魔塔主がいないのは当然だとエルフたちは思っているようだった。
むしろ、彼らからすれば私を連れてきたことが奇跡のようだと考えていた。
「それはリヒト様がオルニス国のことを気にかけておられたからです! 魔塔主の好意ではありませんよ!」
カルロの言葉にオルニス国のエルフたちはそれはそうだろうと頷いた。
どうやら、エルフたちは自分たちを顧みない魔塔主のことをよくよく理解しているようだ。
それに、魔塔主も彼らのことをよく理解していたのだということがわかる。
城にいた者が全員仕事を投げ出して私を迎えるために屋上に来てしまっている。
どんどん屋上が人で埋めつくされていく様子に私はだんだん呆れてきた。
そして、興奮して「宴だ!」「酒だ!」「ケーキだ!」なんて言い出すエルフたちを落ち着かせるために私は両手をパンパンッと打ち鳴らした。
「まずは状況報告をしてください! 被害者はどれくらいですか?」
水晶の建物の破損具合から被害者は少なくないだろうと思ったが、その結果は予想外のものだった。
「はい!」と手を挙げた文官だと思われるエルフに視線を向けた。
「死傷者数ゼロです!」
「……死者がゼロなのは僥倖ですが、怪我人もですか? 攻撃された当初、酔いつぶれていた者が多数いたと聞きましたが?」
「我々エルフは寝ていても強固な結界を張っていますので!」
「それに、多少の怪我でしたらすぐに治ります!!」
我々人間は魔力で正確に魔法陣を形成できなければ魔法を使うことができない。
しかし、エルフは生まれながらにして皆魔法使いで、魔法陣を理解していなくても生きていくために必要な魔法を使うことができるという。
結界も治癒も本能に備わっている魔法の一つなのだろう。
非常に便利だが、そのために彼らは魔法陣を理解して複雑な魔法を使う術は知らない。
生まれながらに豊富な魔力を持っていながら、その魔力の有効活用方法を学ぼうとはしないのだ。
そのようなエルフたちの中で、魔塔主は非常に変わり者だとも言える。
「街の被害状況はどうですか?」
「損壊した建物は半分ほどですが、全壊のものはありませんので、修復もそれほど時間をかけずに行うことができる予定です」
水晶の建物はやはり非常に硬くて優秀なようだ。
「そうですか、では、皆さんは復興作業に励んでください。復興が終わったらエトワールまで連絡をください」
私はそれだけを言うとヘンリックの手を握り、エトワール王国の勉強部屋へと転移した。
カルロは私の影を通って戻ってくる。
勉強部屋にはすでに第一補佐官の姿はなかったが、魔塔主がソファーに座ってお茶を飲んでいた。
「魔塔主、何をしているのですか?」
「リヒト様が戻ってくるまで待たせてもらうことを告げると、乳母殿がお茶を淹れてくれました」
「人をオルニス国に置き去りにして悠長にお茶ですか?」
「リヒト様も転移できるのだから問題ないではないですか? それより、ご自身の影響力はわかりましたか?」
「私のことまで歓待しようと宴会の準備を始めそうだったのですぐに帰って来ました」
「彼らにとっては今やリヒト様の方が頼れる指導者なのです」
「オルニス王国の指導者になる予定はありません」
「リヒト様、思ったようにいかないのが人生ですよ。頑張ってください」
一体、何を頑張れと言うのだろうか?
そう思っていると数日後にオルニス王国から再び手紙が届いた。
その内容はある程度予想していたものだった。
エラーレ王国が再び攻撃してきたというのだ。
しかし、復興作業中だったオルニス国のエルフたちは、今度は早々に城の広間の魔法陣に魔力を注いで城を空中に浮かせて難を逃れたという。
修復も進んでいるし、他にも報告があるためしばらくしたら訪問しますとの首長代理からの連絡に、私は首長代理が他国に赴くなんて珍しいなと思った。
もしかすると、魔塔主に迎えに来てほしいという連絡があるかもしれないから、魔塔主が来た時にでもそのことを話しておこうと、この時の私は悠長にそう考えていたのだった。
魔塔主が来たことは魔力探知でわかるはずだが、彼らが待っている魔塔主はもうここにはいない。
引き止める間もなく、おそらく魔塔に戻ってしまったのだ。
私しか残っていないことにがっかりするだろうと思っていると、屋上に上がってきた首長代理や役職持ちのエルフたちは一斉に叫んだ。
「リヒト様~! ようこそお越しくださいました!!!」
「きっとリヒト様ならば来てくださると我々一同お待ちしておりました!」
彼らから歓迎の言葉が次々と投げかけられる。
「あ、あの、魔塔主は早々に戻ってしまったのですが……」
誰一人として魔塔主がいないことを気にしてはいないようだったが、一応、私は報告してみた。
「ローゼンクロイツ様は面倒なことがお嫌いな方なのです!」
「ですから、まさかリヒト様を連れてきてくださるとは思ってもおりませんでした!」
この場に魔塔主がいないのは当然だとエルフたちは思っているようだった。
むしろ、彼らからすれば私を連れてきたことが奇跡のようだと考えていた。
「それはリヒト様がオルニス国のことを気にかけておられたからです! 魔塔主の好意ではありませんよ!」
カルロの言葉にオルニス国のエルフたちはそれはそうだろうと頷いた。
どうやら、エルフたちは自分たちを顧みない魔塔主のことをよくよく理解しているようだ。
それに、魔塔主も彼らのことをよく理解していたのだということがわかる。
城にいた者が全員仕事を投げ出して私を迎えるために屋上に来てしまっている。
どんどん屋上が人で埋めつくされていく様子に私はだんだん呆れてきた。
そして、興奮して「宴だ!」「酒だ!」「ケーキだ!」なんて言い出すエルフたちを落ち着かせるために私は両手をパンパンッと打ち鳴らした。
「まずは状況報告をしてください! 被害者はどれくらいですか?」
水晶の建物の破損具合から被害者は少なくないだろうと思ったが、その結果は予想外のものだった。
「はい!」と手を挙げた文官だと思われるエルフに視線を向けた。
「死傷者数ゼロです!」
「……死者がゼロなのは僥倖ですが、怪我人もですか? 攻撃された当初、酔いつぶれていた者が多数いたと聞きましたが?」
「我々エルフは寝ていても強固な結界を張っていますので!」
「それに、多少の怪我でしたらすぐに治ります!!」
我々人間は魔力で正確に魔法陣を形成できなければ魔法を使うことができない。
しかし、エルフは生まれながらにして皆魔法使いで、魔法陣を理解していなくても生きていくために必要な魔法を使うことができるという。
結界も治癒も本能に備わっている魔法の一つなのだろう。
非常に便利だが、そのために彼らは魔法陣を理解して複雑な魔法を使う術は知らない。
生まれながらに豊富な魔力を持っていながら、その魔力の有効活用方法を学ぼうとはしないのだ。
そのようなエルフたちの中で、魔塔主は非常に変わり者だとも言える。
「街の被害状況はどうですか?」
「損壊した建物は半分ほどですが、全壊のものはありませんので、修復もそれほど時間をかけずに行うことができる予定です」
水晶の建物はやはり非常に硬くて優秀なようだ。
「そうですか、では、皆さんは復興作業に励んでください。復興が終わったらエトワールまで連絡をください」
私はそれだけを言うとヘンリックの手を握り、エトワール王国の勉強部屋へと転移した。
カルロは私の影を通って戻ってくる。
勉強部屋にはすでに第一補佐官の姿はなかったが、魔塔主がソファーに座ってお茶を飲んでいた。
「魔塔主、何をしているのですか?」
「リヒト様が戻ってくるまで待たせてもらうことを告げると、乳母殿がお茶を淹れてくれました」
「人をオルニス国に置き去りにして悠長にお茶ですか?」
「リヒト様も転移できるのだから問題ないではないですか? それより、ご自身の影響力はわかりましたか?」
「私のことまで歓待しようと宴会の準備を始めそうだったのですぐに帰って来ました」
「彼らにとっては今やリヒト様の方が頼れる指導者なのです」
「オルニス王国の指導者になる予定はありません」
「リヒト様、思ったようにいかないのが人生ですよ。頑張ってください」
一体、何を頑張れと言うのだろうか?
そう思っていると数日後にオルニス王国から再び手紙が届いた。
その内容はある程度予想していたものだった。
エラーレ王国が再び攻撃してきたというのだ。
しかし、復興作業中だったオルニス国のエルフたちは、今度は早々に城の広間の魔法陣に魔力を注いで城を空中に浮かせて難を逃れたという。
修復も進んでいるし、他にも報告があるためしばらくしたら訪問しますとの首長代理からの連絡に、私は首長代理が他国に赴くなんて珍しいなと思った。
もしかすると、魔塔主に迎えに来てほしいという連絡があるかもしれないから、魔塔主が来た時にでもそのことを話しておこうと、この時の私は悠長にそう考えていたのだった。
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