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魔法学園編
162 戦争勃発!? 01
しおりを挟むその知らせは唐突にもたらされた。
エラーレ王国がオルニス国に空中攻撃が可能な魔導具を向かわせた。
エラーレ王国とオルニス国の戦争勃発である。
帝国は帝国傘下の国同士の戦争を禁じている。
それにもかかわらずエラーレ王国はオルニス国を攻撃する準備を進めていたし、それを実行したのだ。
現在は崖の上に都市国家を構えているオルニス国だが、本来は空中都市と呼ばれるように空中に浮かぶ都市国家だったから、すぐに空中へと浮かんでの応戦となるだろうと思いきや、オルニスはしばらく防御に徹していたという。
それを好機と捉えたエラーレ王国の軍を率いていた王はオルニス国に軍を進めようとしたが、軍が丘に上がったあたりでオルニスが動き出し、宙へと浮いたそうだ。
「今の話からするとエラーレ王国の魔導具がオルニス国を攻撃するのに有効だったと言うことですよね? 結界はどうしたのですか? それに、なぜすぐに浮き上がらなかったのか……」
「申し訳ございません。詳しい事情はまだわからないのです」
報告をしてくれた第一補佐官が申し訳なさそうにするのに私は首を横に振った。
交易はあるものの、オルニス国のような遠く離れた国の情報を得るには時間がかかるし、今回はオルニス国からの手紙で状況が分かったに過ぎない。
彼らが書かなかった事柄については知る由はないだろう。
「詳しいことは私から説明しましょう」
相変わらず魔塔主は唐突に空中に現れて言った。
「オルニス国の状況を見てきたのですか?」
「ええ。それはもうひどい惨状でしたよ」
エラーレ王国の攻撃はそれほどひどいものだったのだろうか?
もちろん、エラーレ王国が手加減するとは思っていないが、オルニス国の国民は皆魔法使いなため、魔塔の魔法使いたちほど力はなくても、強力な結界などでエラーレ王国の魔導具の攻撃くらいは容易に弾けるものだと思っていた。
「皆、だらしなくも床に倒れ伏していました」
倒れ伏していたということは大怪我を負った者や亡くなった者もいたと言うことだろうか?
「魔塔主、皆が魔塔主ほどの力を持っているわけではないのです。戦争の被害者に対してだらしないなどとあんまりです」
「戦争の被害者? ……ああ、違います。魔導具の攻撃で怪我をした者はおりません」
「では、なぜ?」
「お酒です」
「……お酒、ですか?」
「砂糖や香辛料、小麦などをエトワール王国経由で輸入するようになった結果、料理のレパートリーが増えて以前よりもお酒が進むようになり、ほとんどの国民が酔い潰れていたのです」
そして、そんなタイミングにエラーレ王国が攻めて来たのだという。
「つまり、彼らは酔い潰れていて、対応が遅れたということですか?」
「そういうことです」
私は呆れて言葉を無くした。
まさか、砂糖や香辛料などで防衛能力が低下するなど、誰が想像できただろう?
広大な森を挟んでいるとはいえど、隣国が自国を狙っていることを知っていながら防御力を低下させるのはダメだろう。
「もうオルニス国に砂糖や香辛料などを輸出するのはやめたほうがよさそうですね」
「それよりは慣れてもらった方がいいのではないでしょうか?」
第一補佐官の言葉はもっともだが、私は額を押さえた。
「まさか、エラーレ王国に攻撃を許すほどに油断するとは……」
「我々が輸出することをやめたとしても、きっと他のところから輸入しますよ」
「確かに、それはそうですね……それならば、少しは状況がわかる立ち位置にいた方がいいのでしょうか?」
「リヒト様がオルニス国を気遣うのであればそうですね」
真っ当なことを言う第一補佐官とは違い魔塔主は面倒臭そうに言った。
「私はあのようなだらしのない者たちは放っておいてもいいと思いますが」
魔塔主曰く、エルフは怠惰で快楽に弱いのだという。
これまで外の者と交流しなかったのは怠惰だからであり、酒に溺れるのは快楽に弱いからだ。
「魔塔主も怠惰で快楽に弱いのですか?」
面倒なことは私や他の魔法使いに押し付けている部分もあるが、研究熱心で怠惰という印象はない。
私の疑問に、「魔塔主も?」と第一補佐官が首を傾げた。
しまった。魔塔主が実はエルフでオルニス国の首長だということは秘密にしていたのだった。
「オルニスの首長代理が本来の首長は魔塔主だとおっしゃっていましたが、やはり、魔塔主はエルフだということですか?」
私が話さないように気をつけていたことを、首長代理はすでにバラしていたようだ。
そして、魔塔主もあっさりと頷いた。
「リヒト様が一生懸命隠してくれていたので言いませんでしたが」
「秘密だったのではないのですか!?」
私の言葉に魔塔主は頷いた。
「公表はしていませんし、別に大きな声で言うつもりはないですが、知られたくない秘密というほどのことでもありません」
なんだ。そうだったのか……
「魔塔主がエルフなのであれば、魔塔主は好奇心という快楽に弱いということではないでしょうか?」
第一補佐官の言葉に私はなるほどと頷いたが、魔塔主は気に入らなかったようで、第一補佐官ににこりと嘘臭く微笑んだ。
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