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魔法学園編
155 魔物討伐? 08
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二人を見送ってからカルロへ視線を向けると、どういうわけか非常に不服そうだ。
「カルロ? どうしたの?」
「リヒト様はいつからお一人で食事が摂れるようになったのですか?」
私はもともと一人で食事を摂ることができたが、どういうことだろう?
「以前は話しながら食べることはできなかったではないですか?」
カルロが何を言いたいのかがやっとわかった。
確かに、数年前までは話に集中してしまうと食事の手が止まってしまうため、カルロが食べさせてくれていた。
ルミーネとルフと話している間中、隣から視線を感じると思ったら、私に食べさせるタイミングを見計らってくれていたのか。
「話しながらでも一人で食べられるようにならないと、会食の席などで困るからね。カルロが第一補佐官について頑張っている間に、私も克服したんだ」
非常に不満そうにカルロの眉間に皺が寄った。
どうやら、カルロにとっては私の成長は望ましいものではなかったようだ。
私たちは座学や実技の訓練の合間にアイトスと人間が共存するための話し合いを続け、準備を進めた。
魔物の研究をしている教師たちが興味を持ち、彼らの授業の際にはアイトスと共存するためのアイデアに繋がりそうな話をしてくれたり、我々が自由に使える時間を作ってくれたりもした。
その間にテル王国のルミーネとルフは王や大臣を説得し、テル王国で温室を建設して温室での栽培を試してくれることになった。
「我が国で温室での栽培が成功すれば、孤島全体を温室にするまでの間、我が国で取れた果物をアイトスの食料として提供し、セールア王国を支援することができます」
ひとまずはテル王国での成果を期待しながら、セールア王国の国民にはアイトスへの警戒を高めてもらい、対アイトス用としてこれまでよりも広い範囲に魔物避けの結界を張ったり、村の者は冬の間は近くの町に移住してもらうことになった。
セールア王国は冬の間の移住に対して支援金を出すことにしたそうだ。
「セールア王国の国王や貴族たちがよくこの話を受け入れてくれましたね」
魔物を保護するような提案など、一蹴される可能性もあった。
たとえアイトスが一羽だけしか残っておらず、孤島のアイトスを殺してしまったらアイトスが全滅してしまう可能性があったとしても、それは魔物を脅威に感じる者たちにとっては関係のないことだ。
「それは」とセールア王国の王子であるノアが説明してくれた。
「複数の国の王子王女が通う魔法学園で話し合われた結果を頭ごなしに拒否することなど、オーロ皇帝以外にはできませんよ」
言われてみればそうかもしれない。
王子王女たちの背後にはそれぞれの国の王がいるわけだから、魔法学園で話し合われて提案されたことを試しもせずに拒否することは、複数国に喧嘩を売っているに等しいだろう。
そうなると、帝国があるから武力的な争いは起きないとしても、国交や交易などで不利益となる可能性がある。
ここまでの魔物討伐……全く討伐はしていないが、現地調査などのために生徒たちは様々な魔法を使い、それなりに訓練にはなっている……の活動を通して、私は魔獣の保護活動をするのもいいかもしれないと思ってきた。
単純に魔獣を討伐対象とするのではなく、魔獣を研究し、共存したり、保護することも視野に入れるのだ。
「やめておいた方がいいですね」
魔塔主に私の考えを話してみたところ、あっさりと却下された。
「魔物の研究は私たち魔塔や、他の変わり者の集まりである研究機関がやることで、一国の王子が関わることではありません」
「どうしてですか?」
「これまで平民は魔物を恐れてきました。それは、リヒト様のようにそれぞれの魔物に対する知識があり、対応する方法を知らないからですが、識字率も低く、本が高価な上に、魔物図鑑などという特殊な本を読む者は学者など限られた者です。そんな状況で、一国の王子や王が魔物を保護すると言い出したら国民はどう思いますか?」
「……不安に感じたり、場合によっては怒る者もいるでしょう」
「そうですね。魔物の研究や保護などリヒト様がすることではありませんよ。私たちに任せてください」
魔塔主の言葉は全面的に正しく、私は何も言えなかった。
考えが浅はかであったことを反省していると、魔塔主がにこりとわざとらしく微笑んだ。
「リヒト様が王子をやめて、魔塔に入るというのならば話は別ですが」
「それは、私に弟や妹ができてからの話になりますね」
「……つまり、媚薬を作ればいいということですか?」
誰もそんなことは言っていない。
ひとまずはアイトスの対応策が決まった頃、狼のような魔獣のイーコスの群れが人里近くまで来ていると話していたモラガル王国のイェレナから話があった。
「リヒト様の魔獣への接し方を見て、わたくしはイーコスを助けたいと思うようになりました。どうか、皆様、お力を貸してくださいませ」
イェレナに詳しく話を聞くと、彼女が父親であるモラガル王に我々魔法学園の生徒がイーコスの調査に行くと伝えると、王はそのような必要はないと言ったそうだ。
イーコスが本来の縄張りから外れて行動している理由を国王はすでに知っており、その理由はイェレナの兄である王太子が毛皮欲しさにイーコスの狩りに出ているのだという。
そのことを知っているモラガル王は、イェレナの提案を不要だと一蹴したのだ。
前世から動物好きの私にとっては乱獲など万死に値するが、今はその感情を隠してイェレナの話を大人しく聞く。
イェレナは兄の行動を恥じるように俯いた。
「イーコスが人里近くに姿を現したことを建前に、兄は騎士を連れてさらにイーコスを追い立てているそうです。早く兄を止めなければ、本当にイーコスに被害が出てしまいます」
私はイェレナの言葉に違和感を覚えた。
「それならば、今すぐにモラガル王国に向かいましょう!」
生徒たちの中からそのような声がいくつも上がったが、私がその声を制する前に、ナタリアが落ち着いた声で言った。
「それはなりません」
生徒たちの視線がナタリアに集中した。
「カルロ? どうしたの?」
「リヒト様はいつからお一人で食事が摂れるようになったのですか?」
私はもともと一人で食事を摂ることができたが、どういうことだろう?
「以前は話しながら食べることはできなかったではないですか?」
カルロが何を言いたいのかがやっとわかった。
確かに、数年前までは話に集中してしまうと食事の手が止まってしまうため、カルロが食べさせてくれていた。
ルミーネとルフと話している間中、隣から視線を感じると思ったら、私に食べさせるタイミングを見計らってくれていたのか。
「話しながらでも一人で食べられるようにならないと、会食の席などで困るからね。カルロが第一補佐官について頑張っている間に、私も克服したんだ」
非常に不満そうにカルロの眉間に皺が寄った。
どうやら、カルロにとっては私の成長は望ましいものではなかったようだ。
私たちは座学や実技の訓練の合間にアイトスと人間が共存するための話し合いを続け、準備を進めた。
魔物の研究をしている教師たちが興味を持ち、彼らの授業の際にはアイトスと共存するためのアイデアに繋がりそうな話をしてくれたり、我々が自由に使える時間を作ってくれたりもした。
その間にテル王国のルミーネとルフは王や大臣を説得し、テル王国で温室を建設して温室での栽培を試してくれることになった。
「我が国で温室での栽培が成功すれば、孤島全体を温室にするまでの間、我が国で取れた果物をアイトスの食料として提供し、セールア王国を支援することができます」
ひとまずはテル王国での成果を期待しながら、セールア王国の国民にはアイトスへの警戒を高めてもらい、対アイトス用としてこれまでよりも広い範囲に魔物避けの結界を張ったり、村の者は冬の間は近くの町に移住してもらうことになった。
セールア王国は冬の間の移住に対して支援金を出すことにしたそうだ。
「セールア王国の国王や貴族たちがよくこの話を受け入れてくれましたね」
魔物を保護するような提案など、一蹴される可能性もあった。
たとえアイトスが一羽だけしか残っておらず、孤島のアイトスを殺してしまったらアイトスが全滅してしまう可能性があったとしても、それは魔物を脅威に感じる者たちにとっては関係のないことだ。
「それは」とセールア王国の王子であるノアが説明してくれた。
「複数の国の王子王女が通う魔法学園で話し合われた結果を頭ごなしに拒否することなど、オーロ皇帝以外にはできませんよ」
言われてみればそうかもしれない。
王子王女たちの背後にはそれぞれの国の王がいるわけだから、魔法学園で話し合われて提案されたことを試しもせずに拒否することは、複数国に喧嘩を売っているに等しいだろう。
そうなると、帝国があるから武力的な争いは起きないとしても、国交や交易などで不利益となる可能性がある。
ここまでの魔物討伐……全く討伐はしていないが、現地調査などのために生徒たちは様々な魔法を使い、それなりに訓練にはなっている……の活動を通して、私は魔獣の保護活動をするのもいいかもしれないと思ってきた。
単純に魔獣を討伐対象とするのではなく、魔獣を研究し、共存したり、保護することも視野に入れるのだ。
「やめておいた方がいいですね」
魔塔主に私の考えを話してみたところ、あっさりと却下された。
「魔物の研究は私たち魔塔や、他の変わり者の集まりである研究機関がやることで、一国の王子が関わることではありません」
「どうしてですか?」
「これまで平民は魔物を恐れてきました。それは、リヒト様のようにそれぞれの魔物に対する知識があり、対応する方法を知らないからですが、識字率も低く、本が高価な上に、魔物図鑑などという特殊な本を読む者は学者など限られた者です。そんな状況で、一国の王子や王が魔物を保護すると言い出したら国民はどう思いますか?」
「……不安に感じたり、場合によっては怒る者もいるでしょう」
「そうですね。魔物の研究や保護などリヒト様がすることではありませんよ。私たちに任せてください」
魔塔主の言葉は全面的に正しく、私は何も言えなかった。
考えが浅はかであったことを反省していると、魔塔主がにこりとわざとらしく微笑んだ。
「リヒト様が王子をやめて、魔塔に入るというのならば話は別ですが」
「それは、私に弟や妹ができてからの話になりますね」
「……つまり、媚薬を作ればいいということですか?」
誰もそんなことは言っていない。
ひとまずはアイトスの対応策が決まった頃、狼のような魔獣のイーコスの群れが人里近くまで来ていると話していたモラガル王国のイェレナから話があった。
「リヒト様の魔獣への接し方を見て、わたくしはイーコスを助けたいと思うようになりました。どうか、皆様、お力を貸してくださいませ」
イェレナに詳しく話を聞くと、彼女が父親であるモラガル王に我々魔法学園の生徒がイーコスの調査に行くと伝えると、王はそのような必要はないと言ったそうだ。
イーコスが本来の縄張りから外れて行動している理由を国王はすでに知っており、その理由はイェレナの兄である王太子が毛皮欲しさにイーコスの狩りに出ているのだという。
そのことを知っているモラガル王は、イェレナの提案を不要だと一蹴したのだ。
前世から動物好きの私にとっては乱獲など万死に値するが、今はその感情を隠してイェレナの話を大人しく聞く。
イェレナは兄の行動を恥じるように俯いた。
「イーコスが人里近くに姿を現したことを建前に、兄は騎士を連れてさらにイーコスを追い立てているそうです。早く兄を止めなければ、本当にイーコスに被害が出てしまいます」
私はイェレナの言葉に違和感を覚えた。
「それならば、今すぐにモラガル王国に向かいましょう!」
生徒たちの中からそのような声がいくつも上がったが、私がその声を制する前に、ナタリアが落ち着いた声で言った。
「それはなりません」
生徒たちの視線がナタリアに集中した。
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