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魔法学園編
151 魔物討伐? 04
しおりを挟む「ヴァイヴェスだ!」
強そうな名前だし、実際に魔物図鑑では凶暴な性格だと書いてあった魔獣だ。
しかし、私にはその魔獣の姿がどうにも前世の動物園で見たたぬきに見えて仕方ない。
わらわらとスキウロスが逃げる中、ヴァイヴェスは威嚇しながらも襲ってくるわけでもなく、逃げるわけでもない。
どうしたのだろうかと見ているとヴァイヴェスの足元、腹の下がモゾりと動いた。
炎魔法で魔獣に攻撃しようとした生徒を静止して、ヴァイヴェスの下でモゾモゾ動くのを見ているとひょこりと大人のヴァイヴェスと同じ顔だが警戒心ゼロの邪気のない顔が出てきた。
どうやら、子供を自分の体で隠して守っていたらしい。
状況がわかった私が片膝をつき、精霊に願うように光魔法の灯りを一つ作って風魔法で魔獣の前まで光を運ぶと、その光に気づいた魔獣が私を見る。
そして、剥き出しにしていた牙を引込め、純朴な眼差しを向けてくる。
その眼差しはまさにたぬき。
「襲ったりしないから、ゆっくりと次の巣を探しな」
そうたぬきの親子に教えたけれど、親だぬきはゆっくりと私に近づいてきた。
何とはなしに手を出すと、たぬきの手が私の手のひらに置かれた。
これは一体、どういうことだろうと思っていると、5匹の子だぬきは1匹ずつ地面についた片膝から足に登りつき、思わず伸ばした私の手にしがみつき、強制的に抱っこさせられた。
毛並みは見た目の通りもふもふだった。
私は親だぬきの要求をなんとなく察した。
私は子だぬき5匹を抱き上げて立ち上がると、「皆、すまないが……」と前置きして、協力を頼んだ。
「この子たちが安全に過ごせる巣穴を探してほしい!」
そうして、私は王子王女にたぬき親子のための巣穴探しをお願いした。
生徒たちは手分けしていくつかの穴を探してくれたが、親だぬきが合格を出したのは一箇所だけだった。
大抵は中に入ったりしてじっくりと見回し、匂いの確認などもしながら判定していたが、時間をかけて穴を探すことを面倒くさがった生徒たちが作った穴は一目見ただけでそっぽを向いていた。
たぬきはなかなかに厳しい巣の鑑定眼を持っているようだった。
魔獣の名前はヴァイヴェスなのだが、私が何度かうっかりと「たぬき」と言ってしまったがために私がヴァイヴェスにペットのように呼称をつけたと皆に思われてしまったようだった。
会ったばかりの、今後会うこともないであろう魔獣に名前をつけるような人間だと思われてしまったが、前世のことを気軽に話すわけにもいかないため否定はできなかった。
次はイーコスの群れが出るというモラガル王国に向かおうという話になっていたのだが、いざ出発の日になると提案したモラガル王国の王女であるイェレナがなんだか晴れない表情で申し訳なさそうに討伐は不要だと言った。
「お父様に確認したところ、自国で対処できるため不要だとのことです。わたくしの勝手な判断で提案してしまい、申し訳ございません」
その王女の様子に何かおかしいとは思ったものの、王が来るなと言ったのなら大勢で押しかけるわけにもいかないため、その日はアルコーダに会いに行くことにした。
実のところアルコーダがいるというイーコラート王国の王女であるカナクも、「魔獣へのリヒト様の対応を見ていると、魔獣とも共存できるのならば特に討伐する必要はないような気がしましたわ」と討伐は不要と言っていたのだが、私がアルコーダに会ってみたいとお願いし、魔塔主も大きな魔獣を見ておくという経験もいい経験になるだろうと言ってくれたのだ。
だから、本日はアルコーダの討伐ではなく、アルコーダに恐怖心を与えずに、かつ、角を避けながらうまいこと触る体験学習である。
雪深い山奥で見つけた一匹のアルコーダは我々の姿に怯むこともなく興味深げに近寄って来てくれた。
アルコーダに会う前に私は生徒たちにアルコーダの大きさや特徴について語り、角や爪などには注意が必要だが過度に怖がる必要はなく、むしろこちら警戒するとアルコーダも警戒し、攻撃性を高めてしまうことを説明した。
アルコーダの大きさに恐怖心を覚える者にはできるだけ遠くで見てもらうことにした。
我々に近づいてきてくれたアルコーダは品定めでもするように我々を見回して、私と目が合うと標的を定めたように寄って来た。
前世でもよく散歩中の犬と目が合って私が動物好きだと見抜いた犬たちは私に寄って来ていたが、アルコーダも動物好きを見抜く目を持っているようだった。
私に近づくと、撫でてくれというように頭を下げてきた。
その様子がとても愛らしくて、私は頬が緩むのを感じた。
そっとアルコーダを撫でてみると、もこもこだった。
前世でクマを触ったことはないが、おそらく剛毛なのではないかと想像していた。
しかし、アルコーダはまさにテディベア。
ぬいぐるみのもこもこ感だ。
「大人しいし、触り心地も抜群ですよ」
そう笑って生徒たちに声をかけると、彼ら彼女らはその頬を赤らめた。
それほどアルコーダが魅力的に見えたのだろう。
大いに納得だ。
そんな生徒たちの中、なぜか一人だけ膨れっ面のカルロ。
他の生徒たちがアルコーダを撫で始めたので、私はアルコーダから離れてカルロの顔を覗き込んだ。
「カルロ? どうしたんだ?」
「リヒト様は僕よりも魔獣の方が可愛いのですか?」
まさか、カルロは魔獣たちに嫉妬しているのだろうか?
なんだかその姿がおかしくて、可愛くて、私はカルロの頭を撫でた。
「カルロの可愛さと魔獣の可愛さは別物だろう? どちらの方がなんて比較する必要はないと思うよ」
「でも、リヒト様は最近、僕に触ることは避けるのに、魔獣のことは撫でるじゃないですか……」
「それは……」
カルロの気持ちに、同じ気持ちを返してあげることができないことが申し訳ないから……
「僕だってカルロ様に撫でてほしいのに」
そう言って、カルロは私のことを抱きしめた。
最近、カルロは私の背を追い越してしまった。
それに、体格もなぜか私よりもしっかりとしているから、私の体はすっぽりとカルロの腕の中に収まる。
私は剣術の鍛錬を続けているが、カルロはそうした体を動かすようなことはしていないはずなのだが、どういうわけかその胸板は思ったよりも厚くしっかりしているような気がした。
それが不思議で私はカルロの胸元をぺたぺたと触る。
どうしてこんなにも胸板がしっかりしているのか聞こうとした私に声をかける者があった。
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