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魔法学園編
148 魔物討伐? 01
しおりを挟むこれまで一属性しか使うことのできなかった生徒たちが地道な練習を重ねて、徐々に二属性を掛け合わせた魔法を使えるようになった冬半ば、教師たちは実技練習として魔物討伐に向かうと言った。
「エトワール王国では危険な魔物はあまり出ません。生徒一人に対して一匹という魔物を見つけるのは難しいので、他の国に行きたいと思いますが、例年冬の魔物に困る国はありますか?」
本日の教師役であるハバルが生徒たちに聞いた。
穏やかな性格のハバルは、他の魔法使いたちよりも教師役に向いているような気がする。
自分勝手に授業を進めることなく、生徒たちの話にも耳を傾けてくれるのだ。
一瞬、え? それ、生徒に聞くの? と思ったが、そこは王子や王女が通っている魔法学園。
彼らが自国のために利益計算をするのは早かった。
魔塔の魔法使いが引率でいるのだから危険な魔物が出ても問題はないし、魔法学園の生徒たちに討伐してもらえれば自国の騎士を派遣したり、冒険者に討伐依頼を出す費用が抑えられる。
主に冬が厳しく魔物の討伐に骨が折れる国々の王子や王女が素早く手を挙げた。
「私のところにはスキウロスが森に多く出ます!」
スキウロスとは前世のエゾリスのような姿で森の木々になる果実や木の実を食す。
人も食べられる果実や木の実も食すため、スキウロスが増えすぎると森に暮らす人々が困るという話は何かの本で読んだ気がするが、手のひらサイズの可愛い魔獣だ。
討伐となると心苦しい。
「今年はイーコスが群れで人里近くまで来ているという報告がありました!」
イーコスというの前世の狼のような姿で、鋭い牙と爪を持ち、群れで生活している。
他の魔獣を狩るために凶暴そうに思えるが、その性格は臆病で人間などには滅多に姿に見せない。
そのイーコスが人里まで来ているということは、彼らの縄張りに何か変化があったということかもしれない。
彼らが困っているのならばその問題を解決してあげれば特に討伐の必要はないのではないだろうか?
「わたくしの国ではアルコーダが出ますわ! 一対一の戦闘はできませんが、集団で戦う訓練を行うことはできます!」
アルコーダは前世の熊のような魔物で、その大きさは後ろ足で立つと小型のものでも三メートルにもなる。
さらに額にはユニコーンのような一本角がついている。
その角は短いものでも50センチ以上はあるという。
見た目は非常に強そうだし、実際強いのだが、その性格は甘えん坊だと魔物図鑑には書いてあった。
武器を持って襲いかかってくる人間には容赦なくその巨大な手で殴るが、武器を持たずかつアルコーダに極端に怯えない者には撫でてもらおうとするらしい。
そんな可愛い性格のため、アルコーダの研究家は皆、アルコーダにメロメロらしい。
が、しかし、そんなアルコーダ研究家の死因第一位はアルコーダだ。
なぜかというと、アルコーダの角がいけない。
子供のアルコーダの場合、甘えたくて駆け寄って来た時にその角に刺されることがある。
大人のアルコーダの場合は高すぎる位置に角があるため刺されることは少ないが、その代わり、甘えたくて頭を擦り寄せようとした時に角で殴られ、よくて骨が折れ、あたりどころが悪いと死ぬ。
「私の王国には暖かい季節には孤島にいるアイトスが冬になると餌を求めて飛んできます!」
アイトスは巨大な魔鳥だ。
アイトスは首も尾もそれほど長くなく、足もがっしりとしている猛禽類といった感じの魔鳥だ。
そんな見た目に反して、実は肉よりも果実の方が好きなのだと魔物図鑑には書いてあった。
しかし、食べ物に困れば魔獣も人間も食べる。
だから、冬には獲物が多く狩りのしやすい大陸に渡ってくるのだろう。
これは国の者にとっては脅威だろうが、猛禽類も好きな私にとってはやはり討伐しにくい魔物だ。
「冬の魔物について聞いておいて申し訳ないのですが、魔獣や魔鳥の討伐は難しいかもしれませんね」
ハバルの言葉に生徒たちは一様に首を傾げた。
私もどうしてだろうと不思議に思う。
「なぜですか?」
ナタリアの質問にハバルはちらりと私を見た。
「魔獣や魔鳥を殺すのはリヒト様が心を痛めますし、リヒト様がおられると魔獣たちの凶暴さが失われるとも魔塔主から聞いています。あまりリヒト様が気にならない形の魔物にしてください」
生徒たちの視線が一斉に私に向けられ、私は慌てて首を横に振った。
「あ、いえ。魔物討伐の大切さは理解していますから、私の感情だけでわがままを言うつもりはありません! 私のことは気にせずに公平に討伐先を検討してください!」
もちろん、彼らを殺さずに済む方法があるのならばそちらを検討してほしいが、国ごとの方針にまで私が口を出すわけにはいかないだろう。
私はそう説明したのだが、海沿いの国の王子が勢いよく手を挙げて発言した。
「私の国には海に魔魚が出ます!」
「採用!」とハバルが即決したが、私はそれを慌てて止めた。
「ちょっと待ってください! 魔魚ということは水中ですよね? 多くの生徒は海に行ったことも海に潜ったこともないと思います。そのような場所で戦うのは無理でしょう」
「確かに」とハバルは少し考え、「それならば」と再び生徒を見回した。
「魔虫はどうでしょう?」
一人の生徒がおずおずと言いにくそうに言った。
確かに、虫型の魔物ならば私も躊躇なく攻撃できそうだ。
しかも、虫型の魔物は大抵が小型の魔獣よりも大きいので、初心者の的としても適しているだろう。
しかし、生徒たちは皆一様に微妙な表情となった。
中には青ざめている者たちもいる。
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