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魔法学園編

142 魔法学園入学 02

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 私は学園創設に関わったということもあり、生徒代表が必要だろうということもあり、やらねばならないさまざまな事務仕事をする名目もあって初代生徒会長となることが決まっているため、他の生徒とは違い、理事長の魔塔主、学園長の皇太子や創設者のオーロ皇帝と同じ並びにいたわけだが、そこにわざわざ近づいてきた少年がいた。

 この恐れ知らずな感じはおそらく貴族ではなく、どこぞの王子なのだろう。
 しかし、おそらくルシエンテ帝国傘下の国の中でもそれほど国土も経済力も大きくない国だろう。
 なぜなら、どう見ても教育が不十分だからだ。

 私はエトワール王国を代表する王子として、笑顔を作った。
 
「確かに、私がリヒトですが、お話しでしたら入学式の後にしてください。この場には魔塔主もオーロ皇帝もおりますので」
「この領土は本来、我が国に返還されるべき領土だ。それを奪って自分たちの国土のように振る舞っている恥知らずなエトワール王国の王子らしい貧相な見た目だな」

 どうやら、彼には耳がないようだ。
 ちなみに、目もないのかもしれない。
 でなければ、オーロ皇帝と魔塔主がいるこの場でこのような愚行が行えるはずがない。

「ティニ公国は私のひいひいおじい様の弟が授かった国だ」

 なかなかに古い話が出てきた。
 その話からすると、この少年は元ティニ公国のエトワール王国とは反対側の隣国のヴィア王国の王子だろう。
 つまり、元ティニ公国がエトワール王国の領土となった今となってはエトワール王国の隣国の王子ということだ。

 歴史の授業では、そのひいひいおじい様という人とティニ公国の初代は喧嘩別れたしたと習ったはずだ。
 しかし、公国が国ではなくなったのならその領土は返せということを彼は訴えているようだが、それを公国の領土をエトワール王国に管理させると決定したオーロ皇帝の前で言うということは、皇帝に、ひいては帝国に不満があるという表明だろうか?

「ティニ公爵が国を治める資格を失ったのであれば、当然、この領土は親戚である我らヴィア王国に戻されるべきで……」

 次の瞬間、少年の姿がかき消えた。

 私の隣の席を見ると、魔塔主がものすごくいい笑顔をしているし、オーロ皇帝は額に青筋を立てている。
 おそらく、オーロ皇帝はそれほど怒ってはいないだろう。
 講堂にいる入学予定者とその保護者である王族や貴族たちに見せるための姿だ。

「理事長の権限で今の生徒は退学とします……いえ、まだ入学式も終えていませんでしたから、退学というよりは入学許可取り下げというところでしょうか?」
「非常に不快だった。先ほどの馬鹿の国には罰金を課す」

 魔塔主もオーロ皇帝も容赦ない。
 しかし、これで他の国の王族も上級貴族も容易には馬鹿な行動はできなくなっただろう。

 と、思っていたのだが、どうやらその考えは甘かったようで、普段は外界の者と接触しない魔塔の魔法使いたちの忍耐はそれほど強くなく……
 というか、忍耐力がほぼなく、60名ほどの入学者はその後もどんどん減り、あっという間に半分近くまで減ってしまった。



 魔塔の魔法使いたちは王族の要望でそれなりの金額で家庭教師を引き受けることがあるため、まさかこれほどまでに忍耐力がないとは思わなかった。

 確かに、生徒のことを気に入らなければすぐに魔法使いは家庭教師の仕事など放り出して魔塔に引き篭もるという噂もあったが、そのようなことは王族の恥であるため、そのような事実は王宮からは漏れないようになっていたのだろう。

 何より、私自身は魔塔の魔法使いにそのような扱いを一度も受けなかったために、魔塔の魔法使いたちの忍耐力のなさを知らなかったのだ。

 生徒がどんどん減っていく中で、この学園が本当に今後も運営することができるのか不安になってきた。
 教師の手配を魔塔の魔法使い以外にも考える必要があるかもしれない。
 魔塔に入っていない優秀な魔法使いだってきっと広い世の中にはいるはずだ……
 魔塔は魔法使いの憧れの場所だが、きっと魔塔に興味のない優秀な魔法使いだって……
 いるよね?



 両親は私に婚約者がいなかった場合、他国の者から婚約を迫られることを心配していたわけだが、それは案外当たっていたのかもしれない。
 私は自分にそのような声がかかるとは思ってなかったため、カルロとの婚約を大々的に発表はしていない。
 しかし、カルロから贈られた婚約指輪はつけて、婚約者がいることは指輪でわかるようにしていたのだが、それでも数名の生徒から婚約者について尋ねられた。
 そうした生徒たちは婚約者がいると答えても、エトワール王国内の貴族との婚約であれば、王子王女である自分たちがその座を奪えると考えているようだった。
 そうした者の対応に私が困っていると、大抵はカルロが出てきて、自分が婚約者だと言って闇魔法で相手を脅すため、カルロが婚約者であることはあっという間に生徒たちの間に知れ渡った。

 私以上に苦労していたのはナタリアだ。
 ナタリアはその見た目の愛らしさとオーロ皇帝の孫娘という立場もあって非常にモテていた。
 帝国法が同性婚を認めていることから、男性だけでなく、女性からも大人気だ。

「リヒト様!」

 複数の生徒に囲まれているナタリアを見ていると向こうもこちらに気づいて駆け寄ってきた。

 普段ドレスを着ている彼女たちにもあまり抵抗を持たれずに着てもらえるように、制服はロングスカートの長さだ。
 ゲームでは膝丈のスカートだったが、この世界の王族や貴族の令嬢が着るには過激すぎる。
 下着のようだと恥ずかしがる者もいるだろうし、平民のような服装だと怒る者もいるだろう。

 そもそもこの世界では平民であっても短いスカートを履いているのは幼い子供たちだけだ。
 10歳を過ぎているのに短いスカートを履いているのは服を選ぶことのできない貧民街の子供たちくらいのものだろうか。
 しかし、ゲーツたちが下町の貧民街を改善してくれてからは、エトワール王国では貧しい子供たちでも年齢に合った服装をしている。

 足首だけが見えているようなロングスカートの制服でナタリアは駆け寄って来た。
 ドレス姿よりも随分と動きやすいようで、女生徒たちはドレスを着ている時よりも随分と活発に動いている。
 それは服装のためだけでなく、魔法学園には厳しい親や家臣の目がないことも原因かもしれない。

「リヒト様、お昼をご一緒してもよろしいですか?」

 入学して五日目、魔法学園創設に関わった者として何かと忙しいと断っているが、あまりにも断りすぎるのも申し訳ない気がしてきた。




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